昨日に引き続き、以下の書籍の第4章(教室における社会情動的スキル育成)についてレビューします。

書籍はこちら(被引用数:3,315件 (2025年2月12日時点)) Elias, M., Zins, J. E., & Weissberg, R. P. (1997). Promoting social and emotional learning: Guidelines for educators. Ascd.

第1章:社会情動的学習の必要性(The Need for Social and Emotional Learning)
第2章:現在の実践の振り返り(Reflecting on Your Current Practices)
第3章:社会情動の教育をどのように学校に適合するか?(How Does Social and Emotional Education Fit in Schools?)
第4章:教室における社会情動的スキル育成(Developing Social adn Emotional Skills in Calssrooms)
第5章:社会情動学習のコンテクスト構築(Creating the Context for Social and Emotional Learning)
第6章:社会情動教育の導入と持続(Introducing and Sustaining Social and Emotional Education)
第7章:社会性と情動の学習の成果の評価(Evaluating the Success of Social and Emotional Learning)
第8章:前進:強み、優先事項、次のステップの評価(Moving Forward: Assessing Strengths, Priorities, and Next Steps)

第4章では、社会性と情動の学習(SEL)を教室で効果的に促進するための方法、教師の役割、適応の必要性、そして教師自身の研修やサポートについてまとめられています。

まず、SELを促進する教室環境の構築のポイントとして以下が説明されていました。
・生徒が安全で、思いやりのある環境の中で学べるようにすることが重要
・生徒を積極的なパートナーとして巻き込み、思いやり、責任感、信頼を育む
教室のルールや規範を生徒とともに決定することで、ルールへの理解と責任感を高める

いくつか印象的だった事例をメモします。
まず、4年生の担任教師のクラスの行動規範の作成のケース。ワークショップのグラウンドルール作りに近いかと思います。
・授業の最初の週に多大な労力を費やして、生徒たちが互いに打ち解け、教室での日常的な共通事項に取り組めるようにした
・教室での行動規範の検討(例:「パートナーと協力して、教室で他者や自分自身、環境に対して敬意を示すことができることをリストアップ」)し、この基準がすべての授業のルーティンの基本であると指摘
・整列や人の話を聞くといった様々なルーティンを達成する方法を提案するように求めた
・生徒たちが様々な方法を話し合う中で、人の気持ちを尊重する方法、公平な方法、全員が自分の仕事をこなせる方法について話し合った
・生徒たちが方法を決めたら、有志がそれを実演し、クラス全体がフィードバックを提供
・最後に、クラス全体でそのルーティンをスムーズに実行できるようになるまで練習した
これらの活動を行うためには授業に費やす時間を削る必要がありますが、1ヶ月後には諸問題について管理する時間がぐんと減るため、授業だけを実施していたクラスよりも学業に専念する時間が増えたそうなのです。社会情動的スキルが学業成績にも影響するということの一つの側面を見た気がしました。

続いて、生徒が授業や規則の意思決定に参加するという事例。
「生徒が授業の決定や責任に参加することは、教室環境に影響を与えることの満足感と責任感を体験する素晴らしい機会となる」(Glasser 1969)
「生徒が教育者と同様に、グループの決定や規則の策定に何らかの形で関与していれば、それらに従って行動する可能性が最も高くなるという利点もある」(Lewin, Lippitt, and White 1939)。
とあるように、生徒が学校の意思決定に参画していくことも重要なようです。
例として、「クラス憲法」や「権利と責任に関する法案」を作成する事例が紹介されていました。
・教師はまず、教室の目標、教師と生徒の義務、考えられる問題について生徒たちに話し合わせ、ブレインストーミングを行わせる
・生徒から「悪口を言わない」、「陰口を言わない」、「誰かが話しているときに笑わない」など)が出てくると、教師は発言する順番が来るまでは、敬意を持って話を聞く」など、一般的な肯定的な表現で言い直すのを手伝う
・生徒がとりとめのない混乱した提案をしたときには、 教師はその生徒の文法的な間違いを無視し、簡潔に言い換えることで発言者の意図を明確にする
・発言した生徒は貢献できたことに満足し、発言を控えていた生徒たちも、発言し始める
・教師はブレーンストーミングに必要な批判をしないアプローチを実践し、愚かな反応を抑制し、生徒たちが悪いアイデアを評価し修正する練習ができるようにしている
・最終的に、クラスでは一連の教室のルールや合意事項を決定する
・全員がルールのリストに署名して終了することが多い

安全で思いやりのある教室のコミュニティ作り
・教師や仲間、学校に対する情緒的なつながりは、学業の成功に欠かせない要素である(Hawkins, Catalano, et al. 1992; Solomon et al. 1992)
・生徒たちが相互に支え合う人間関係を築き、維持する能力を育むことであり、これは社会性、情動、身体、学業における問題の発生を防ぐ緩衝材としての役割を果たす(Parker and Asher 1993, Rutter 1990)
・このようにして、教室はより大きなコミュニティの縮図となり、生徒たちは思いやりや支援を引き出す社会性を試し、伸ばす機会を得ることになる。
・教師が、SELカリキュラムの要素を説明するために、自身の私生活の一部を共有すると、そのつながりが深まり、生徒の授業への興味をかき立てる
・友人や家族との健全な関係について話し、実演することで、逆境に打ち勝つことのできるつながりの力を生徒たちに伝える
・生徒たちに自分が健康な家族の一員であるかのような感覚を抱かせる
アクティブラーニングでもこのような取り組みは必須だと思っていましたが、SELにおいてもやはり重要なようです。

クラス会議、共有サークル、協議会
・クラス会議や共有サークルをコミュニティ意識を育むための手段として活用(Elias and Tobias 1996, Lewis et al. 1996)し、生徒一人ひとりが遮られることなく発言できる機会を構造的に提供する
・生徒は、その週がどんな週だったか、授業で取り上げられているトピックについてどう思うか、クラスや学校、市民イベントについてどう感じているかなどを述べるよう求められることがある。他の生徒が自分についてよりよく理解できるように、自分自身について何かを共有するように求められることもよくある。回答を望まない生徒は「パス」され、後で参加することができる。このような活動は、生徒が学習の準備をするのに役立つ、1日の始まりに嬉しい緩衝材となる。この活動は、一般教育および特別支援教育の両方の場面で、毎朝と午後の始まりに活用されている。
・トーキング・スティックや、クッシュボール、スピーカー・パワーの別のアイテムを使って発言者を指名し、順番に発言するよう生徒に促す
・順番に発言することで、挑発的な発言に対する衝動的な反応を抑える遅延効果が組み込まれ、発言しやすくなる
・この形式が提供する安全性と表現の機会は、尊重、共感、共有された経験の認識を育むことに貢献し、教室におけるコミュニティ意識を強化する

続いて、SELで一般的に用いられるさまざまな方法が紹介されていました。
グループディスカッション:SELプログラムにおける主要な指導方法
(問題解決に焦点を当てたディスカッション)
 ①問題に関与するすべての参加者の視点に立つ
 ②解決策を考える
 ③考えられる結果や障害について話し合う
 ④実行可能な解決策のロールプレイを行う
リハーサルと練習(ロールプレイ):知識と自信を育み、スキルを実際に活用するよう促す 
 ・ほとんどの生徒は、仮想の状況でしばらく練習した後、実際に直面している状況でのリハーサルや練習に移行することができる(Elias and Clabby 1992)
自己認識と自己調整:感情の理解とコントロールを強化する
 ・自己モニタリングの実演「やるべきことがたくさんあって時間がないので、私はイライラしている。落ち着いて考えよう。さて、どうしようか。やるべきことをすべて黒板に書き出し、その中から今日本当にやるべきことを決めよう。?」 教師が、通常は心の中で考えていることを口に出し、それを問題解決の手順と関連付けることで、問題解決プロセスの「隠れた」認知要素を生徒にも見えるようにする
自己内省と目標設定:計画し、練習を重ね、目標のあらゆる側面について考え抜くことを学ぶ
 ・生徒は進歩を評価し、さらなる努力や目標の調整が必要な時期を知り、目標を達成時にはそれを祝う
協同学習:他者との協力を通じて、社会的スキルを向上させる
芸術的表現:生徒が感情を理解し、安全かつ適切な方法でそれを表現する方法を学ぶのに役立つ
遊び:遊びを取り入れることで学習への強い意欲が生まれる
協同学習と小グループ学習:チームワーク重視の職場環境において特に重要な社会性スキル(SEL)の育成に役立つ

このようみ見てみると、アクティブラーニングの手法と重なる部分が多いですね。

続いて、教育者の役割と支援体制について。ここでは、「モデリング」「キュイーングとコーチング」「足場となる対話」が紹介されていました。
モデリング:模範を示すこと(最も強力なテクニック)である
 ・教師のユーモアは、生徒が新しいスキルを試す意欲に影響を与えるモデリングの要素のひとつ
 ・教師が間違いを犯しても楽しんでいて、リラックスしている様子を見ると、間違いは学習過程において不可欠な一部であるという考えが強化され、生徒の不安が軽減される
キューイング(Cueing)とコーチング: 生徒が適切な行動をとれるよう、日常生活の中で指導する
 ・ポスター、標識、掲示板などの目に見える形での注意喚起など
足場となる対話(Scaffolding dialogue):生徒自身が考え、気づきを得るように導く対話法
 ・生徒の発言を尊重しながら、適切な質問を投げかけ、感情の言語化や他者視点での気づき等を促す


【教員向けSEL研修プログラムに含めるべき3要素】
思いやり
・教師は、思いやり(生徒一人一人の本質的な価値に対する敬意と感謝)を、2つの基本的な方法で示す
①生徒の感情やジレンマに共感すること
②明確な境界線を設けることで生徒を守ること
・教師の思いやりには、「正解」以外の声に耳を傾けることも含まれる
・教師が様々な感情や考え方を容認する手本を示すと、生徒はより多くのことを共有するようになる

オープンであること
・教師がそれぞれがふさわしいと感じる方法で、生徒に対してよりオープンになることを支援すべき
・生徒達は教師自身の「学習ストーリー」喜んで聞き、そこから学ぶ
・教師は、言葉だけでなく、生徒の話をどう聞くかによっても、自分の心を開いていることを示す
・教師のオープンな姿勢は、生徒が感情と行動を区別することを学びやすい寛容な環境づくりに貢献する
・このような環境で否定的な感情を認められるようになると、生徒は破壊的な行動に走らないよう、感情をうまくコントロールできるようになる

対応力
・生徒のニーズを認識し、そのニーズに即座に対応(教えるべき瞬間)する能力も必要
・グループや個人の変化するニーズに敏感に対応し、自分の失敗を共有したりそこから学ぶことにますます抵抗がなくなり、柔軟に方向転換できるようになる
・自発性、柔軟性、対応力を高めるには、教師自身がユーモア、遊び心、創造性を表現できるような学習体験が役立つ
・教室で学ぶ生徒たちと同様に、教師も快適に感じているときには最もよく学び、遊んでいるときには最も創造的になり、「真剣な」学習に笑いが挟まると最も熱心に取り組むものである
・優れたスタッフ育成プログラムでは、教師に様々なSELの体験させる

【SELの指導が直面する可能性のある困難】
1. 思いやりのある学習コミュニティの構築を目指す教育者は、「言行一致」の姿勢で臨む必要があり、そのためには他者との関わり方や教室の構成方法を変える必要が生じる可能性がある
2. SELの持つ力を引き出す性質により、当初は「教室のルール」が変化する中で、生徒たちが混乱を招くような行動に出る可能性もある
3. 生徒のSELスキルと教師の努力の潜在的な成長は、学年、学校、学区の同僚が共通の努力に参加しない限り妨げられる

その他、教員がSELを学び実践するためには、学校全体での取り組みが重要となることや長期的な視点で考えることなども書かれていました。
・教師がその取り組みを継続できるかどうかは、学校や支援コミュニティの取り組みに個人の努力が組み込まれているかどうかに大きく左右されるため、教師同士のフィードバックや学校全体での取り組みが成功の鍵となる
・SELは学習の基盤として不可欠であり、教師の指導方法や学校全体の取り組みによってその効果が左右される
・教師が継続的に研修を受け、適切なサポートを受けることで、SELを効果的に教え、生徒の学習と社会的スキルの発達を促進できる
・SELは短期間で効果が現れるものではなく、長期的な取り組みが必要
・生徒の行動変容には時間がかかるが、継続的な学習環境の整備により、徐々に効果が表れる

【第4章のガイドライン】
5:SELプログラムでは、思いやり、責任感、信頼、学習への取り組みが育まれるような教室の雰囲気作りにおいて、生徒を積極的なパートナーとして関与させる。
6:学業およびSELの目標は、発達段階に適した包括的かつ理論に基づく枠組みによって統一される
7:SELの指導では、さまざまな教授法を用いて、複数の知能領域を積極的に促進する
8:認知、感情、行動の統合には反復練習が不可欠である
9:教育者は、学校生活のあらゆる場面でプロンプトやcuingのテクニックを活用することで、授業やその他の正式な指導から日常生活へのSELの転移を強化することができる
10:SELと従来の学問の統合は、両分野の学習を大幅に強化する
11:特別なニーズを持つ児童生徒には、SELカリキュラムを適応させる必要があるかもしれない
12:SELカリキュラムとその他のサービス間の調整により、効果的で統合されたサービス提供システムが構築される
13:スタッフ開発の機会は、社会情動的スキルを教えるために不可欠な理論的知識を教師に提供する 
14:スタッフの能力開発では、体験学習の模範と実践が提供される
15:スタッフ育成活動は、同僚、管理者、その他の人々からのフィードバックによって、目に見える形で定期的に支援されている
16:SELプログラムは、教師と管理者が長期的な視点を持つことで、最も効果を発揮する


ここまで。
第4章は、社会性と情動の学習(SEL)を教室で効果的に促進するための方法、教師の役割、適応の必要性、そして教師自身の研修やサポートについてのまとめでした。
読めば読むほど、アクティブラーニング、特に自分の研究領域であるPBLとも重なる部分を多く感じました。具体的には、
・SELを導入し、実践していくためにはまず教員自身がSELについて学びを深める必要があること
・効果的なSEL環境を作るためには、組織的な学校全体での取り組みが必要なこと
などです。
また、教師がモデルとなって社会情動的スキルを活用する場面を見せたり、そのスキルをもとに様々な指導したりするためには、教師自身が社会情動的スキルについて学び、高めることも必要だと感じました。
当たり前かもですが、社会情動的スキルが低い教員は効果的なSELは実践でないですよね。
自戒も込めてしっかり学んでいかなければいけないなと思いました。

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