昨日に引き続き、以下の書籍の第5章(教室における社会情動的スキル育成)についてレビューします。

書籍はこちら(被引用数:3,315件 (2025年2月12日時点)) Elias, M., Zins, J. E., & Weissberg, R. P. (1997). Promoting social and emotional learning: Guidelines for educators. Ascd.

【目次】
第1章:社会情動的学習の必要性(The Need for Social and Emotional Learning)
第2章:現在の実践の振り返り(Reflecting on Your Current Practices)
第3章:社会情動の教育をどのように学校に適合するか?(How Does Social and Emotional Education Fit in Schools?)
第4章:教室における社会情動的スキル育成(Developing Social adn Emotional Skills in Calssrooms)
第5章:社会情動学習のコンテクスト構築(Creating the Context for Social and Emotional Learning)
第6章:社会情動教育の導入と持続(Introducing and Sustaining Social and Emotional Education)
第7章:社会性と情動の学習の成果の評価(Evaluating the Success of Social and Emotional Learning)
第8章:前進:強み、優先事項、次のステップの評価(Moving Forward: Assessing Strengths, Priorities, and Next Steps)

第5章は、「社会情動学習のコンテクスト構築」というテーマで、協力的な教室と学校環境の構築、生徒のエンパワーメント、SEL活動の調整と統合、学区の目標との整合性、家庭と学校の連携、地域社会の関与と支援などについてまとめられていました。
各トピックずつ以下にまとめます。

協力的な教室と学校環境の構築
・思いやりと協力的な環境がSELの学習を促進する
・生徒が学校や教室の雰囲気をどのように経験し、受け止めているかは、彼らの心理社会的および学問的発達、そして学校への適応や成績に大きく関係していることが示されている(Garmezy 1989, Haynes et al. 1996)
・学校の雰囲気は生徒の心理社会的発達や学業成績に影響を与える
・例:「尊敬と信頼」キャンペーン(学校の至る所に、教師と生徒がお互いを尊敬し信頼し合う場であること、そして、毎日の挨拶、傾聴、お互いの懸念事項への対応といった積極的な表現が当たり前のことであることを掲示)が生徒・教師間の関係改善に寄与

【生徒が創造的かつ革新的な考え方を持ち、最大限の潜在能力を発揮できる学習体験例】
・協調、協力、建設的なグループによる問題解決活動
・公平性、公正性、および人種、文化、民族、社会階級、宗教、性別、能力、その他の要因における多様性の尊重
・支援的で前向きな学習体験
・大人と生徒の間の強い結びつき、および学校の使命と目標への献身

生徒のエンパワーメント
・生徒がSELプログラムの設計や実施に関与することで、学習効果が向上する
・例:ブロンクスの学校では「Mysteries Questions」を活用し、生徒のニーズや興味に合わせたカリキュラムの改善に生徒を参加させている(Kessler et al. 1990)

【生徒をSELプログラムの設計や計画に参加させる方法】
1. フォーカスグループディスカッションを行い、生徒の問題や懸念事項を特定し、特定の活動案に対する反応を把握し、生徒の意見をプログラムの設計に組み込む
2. アンケートを実施し、生徒が問題をどう認識しているか、どのようなニーズがあるか、プログラムの活動に対してどのような反応を示す可能性が高いかを確認する
3. 生徒の意見を参考に、プログラムの設計、開発、実施の指針とする
4. 生徒と個別に話し合い、生徒の興味、課題、希望について聞き、その情報をSEL活動の選択に役立てる
5. 生徒を、教職員、保護者、地域住民からなるSEL計画チームに参加させる
・これにより対立的な関係を協力関係に変えることができる
・SELの計画と実施において、生徒の意見や考えを尊重する(生徒を管理するのではなく)ことで、教師やスタッフは生徒に力を与える感覚を与え、プログラムの成功の可能性を高めることができる

SEL活動の調整と統合
・SELは通常のカリキュラムや学校生活に組み込むことで、効果が高まり、持続しやすい
・問題解決能力や批判的思考を学ぶ活動が他の学習と統合されることで、学業成績にも良い影響を与える
・SELプログラムの成功を妨げる主な障害は、通常のカリキュラムの一部ではなく、追加的なものである場合に、他の学習分野よりも重要視されず、重点が置かれないことがある(日本の探究学習も正にこの問題に直面していますね)
・SELプログラムの計画段階では、目標を明確に定義し、実行可能なものにすることが重要である。介入の結果が教室や学校に影響を与えることを求める目標を含めることで、そのような成果を生み出す要素をプログラムに含めることが求められる(第6・7章参照)
・例:ニュージャージー州ピスカタウェイでは、社会問題解決プログラムの結果、生徒が選んだ作業グループの民族的多様性が測定可能な形で増加するという目標が設定された
【SELプログラムを学校に導入する2つの方法】
※一方が他方を補強するため、両方のアプローチを組み合わせることが最も効果的だと思われる
①カリキュラム全体に統合する方法
・主に通常の授業時間内に教えられる
②特定のプログラム活動として提示する方法
・学校の授業時間内の特別時間帯、または授業の前後に行われる
・放課後のプログラムや校外学習では、SELスキルの習得と強化の機会を提供し、教室や校庭では適さない方法(冒険学習の演習など)を試すことができる
・このような環境では、生徒は異なるグループの仲間や年齢の異なる仲間とSELスキルを練習する機会を得ることができ、SELの応用における経験と自信を広げることができる
・保護者と生徒が一緒に参加する夜間のプログラムも、SEL指導を強化する効果的な方法

・プログラム導入のプロセスにおけるすべての段階(特定、検討、計画、目標設定、オリエンテーション、実施、評価など)は、教職員、生徒、保護者、および地域社会の代表者が協力して行うべき
・このプロセスは、学校の計画・運営チーム(学校改善チーム)の代表委員会または小委員会を結成し、スタッフ、生徒、保護者、地域社会の代表者という4つの構成グループすべてを代表する形で、導入プロセスの各段階の調整と指導を担当させることで、最も効果的に達成できる

社会性教育プログラムを学校の一般的な学習目標にうまく調整、統合した事例
・小学校、中学校、高校では、高度な思考力と問題解決能力がカリキュラム全体に織り込まれている
・生徒たちは、自分の思考をモニタリングする方法、そして数学、科学、言語芸術などのさまざまな教科分野における学術的な問題解決における選択の仕方を学ぶ
・生徒たちは学んだスキルを応用し、学術的な問題や社会的な問題の解決に応用する方法を学ぶ
・この学習の応用は、さまざまなタイプの協調学習を含む、社会問題解決グループ活動を通じて補強される
・教師は、より高度な思考力や批判的思考力を教えるためのトレーニングを受け、生徒がこれらのスキルを社会的な状況に応用する手助けをする
・生徒には、学校内外の社会的な状況において批判的思考力や問題解決能力を活用する課題が与えられる
・生徒は、問題解決に取り組んだ状況についてメモをとり、直面した社会的なジレンマの解決に用いた批判的思考力や問題解決能力について説明する
・そして、その経験についてクラスで報告し、教師や仲間からフィードバックを受ける

・SELプログラムに費やされる時間は、実際には教科学習を強化し向上させるものであり、教科学習への注意や集中力を損なうものとして認識されるべきではない
・学業への集中は、SELの重要性を損なうものではなく、むしろ包含し、強化し、正当化するもの
・この相互関係と相乗効果がどの程度達成されるかは、SELプログラムがどの程度適切に構想され、調整され、学業活動と統合されているかによって大きく左右される

学区の目標との整合性
・SELプログラムは、学区の目標と一致するほど成功しやすく、中央官庁の支援を受けやすい
・教職員は、州や連邦政府による新しい取り組みやSELプログラムの地域の政策ガイドラインも調査すべき
・学区の方針や資源と連携し、プログラムを継続的に実施することが重要
・SELプログラムが学区の優先事項に沿うようにすればするほど、予算やプログラムの削減、教職員の配置換えや離職が起こった場合にも、そのプログラムが継続される可能性が高くなる
【SELの整合性の達成プロセス】
①生徒の学業および心理社会的発達に関する地区の目標を検討し、それら目標と矛盾・対立しないプログラムを選択
②地区の目標に一致または補足するプログラム目標を策定
③SELプログラムを実施するにあたり、中央事務局が提供する研修リソースを活用し、スタッフおよび生徒の能力開発の機会を設ける

家庭と学校の連携
・家庭と学校が協力し合う場合、プログラムはより多くの肯定的な成果を生み出し、その成果はより長期間持続する傾向があるという強いエビデンスがある(Haynes and Comer 1996, Walberg 1984)
・学校、家庭、地域社会の基準が明確で一貫性があれば、生徒はより肯定的な基準を受け入れやすくなる(Gottfredson, Gottfredson, and Hybl 1993; Hawkins, Catalano, et al. 1992)
・保護者や後見人は、子供にとって最善であると認識する取り組みには、熱心に積極的に参加しようとする傾向がある
・保護者に対して、SELプログラムの目標や構成要素、実施方法について情報を提供すべきである
・保護者を支援的な役割に巻き込むこと、また、保護者が一部のSEL活動の計画や実施に積極的に参加することは、家庭での期待と学校での要求との間に生じるギャップを埋めるのに役立つことが多い(Meadows 1993)
【SELにおける保護者の役割の具体例】
・教職員や生徒とともに、SELプログラムの特定、選択、開発を支援する計画・管理チームの一員として活動する
・保護者と生徒が特定のプロジェクトに協力し合うよう促すプログラムに積極的に参加する
・特定の SEL カリキュラムの要素や活動について、教師や他の保護者と共に指導者または共同指導者として活動する
・資金調達活動やその他の物的貢献という形で、SEL 活動を可能にするための後方支援や物的支援を提供する
・個々の生徒または生徒グループの指導者となる
・地域社会のグループや機関との SEL 連絡係として、学校や生徒の利益を代弁し、ニュースレターの作成やSEL関連イベントのスポンサーとなることで、SEL 活動に対する地域社会の支援を得る
・例:Second Step:カリキュラムに関する持ち帰り用のビデオテープがあり、家庭で共有できる
 ・カリキュラム・ナイトに参加しない可能性のある家庭とのコミュニケーション手段として、この方法に熱意を持って取り組んでいる(Ramsey & Beland, 1996)
・例:ライフスキル・イブニング:保護者は、子供たちが参加しているのと同じSELの方法を体験する機会が与えられる
・保護者が SEL プログラムの内容を理解していない場合に生じる保護者の反対意見を減らすこともできる
・例:保護者参加型の「ライフスキル・イブニング」や家庭向けビデオ教材の活用が効果的

地域社会の関与と支援
・地域社会の支援により、SELプログラムの成功率が向上
・コミュニティの関与と支援が、SELプログラムの最大限の成功に不可欠であることは広く認められている
・学校開発プログラムと「Comer Process」の根本的な前提は、学校が地域社会の他の部分と何らかの組織的なつながりを持たなければならないというもので、理想的にはPTA、より広範な地域社会からの代表者を含む学校改善チーム、教育委員会の代表者、規範的および突発的な社会的・情緒的問題の両方に対処するメンタルヘルスチーム、地域全体の運営委員会のメンバーなどが含まれる
・その他の手段としては、学校のニュースレターや新聞、郵送による通知、メディアでの公共サービス広告、会議や公聴会での公の証言、地域社会のメンバーの訪問を受け入れることなどがある
【地域社会が学校のSELプログラムを支援する方法】
・地域機関、企業、団体は、生徒が地域社会を基盤としたプロジェクトに参加する機会を提供し、その中で生徒が他者への奉仕を通じて市民としての責任感や利他的な態度を学び、育むことができるようにする
・団体は、SELプログラムのスポンサーや支援者として、資金やその他の物的資源を提供する
・地域団体は、特別講演や講義を行うゲストスピーカーを提供したり、メンターがSELプロジェクトで生徒やスタッフと協力したりできるようにする
・地域社会の個人が、SEL活動の実施を支援したり補完したりするために時間をボランティアとして提供できる
・例:「平和構築者プログラム」では、地元メディアと連携して生徒の貢献を評価

まとめ
・SELの成功には、学校の環境、生徒の関与、カリキュラムとの統合、学区の支援、家庭との連携、地域社会の関与が不可欠
・生徒が学ぶ環境が整い、適切に支援されることで、SELのスキルは生徒の人生のあらゆる場面で活用されるようになる

【第5章のガイドライン】
17:思いやりがあり、協力的で、挑戦的な教室と学校環境は、効果的なSELの指導と学習に最も適している
18:生徒は、自分たちが設計、計画、実施に携わるSELプログラムから、より多くの恩恵を受ける
19:通常のカリキュラムや教室・学校生活に調整・統合されたSELプログラムや活動は、生徒に望ましい効果をもたらす可能性が最も高く、また持続する可能性も最も高い
20:地区目標と最も明確に整合し、地区行政の支援を受けているSELプログラムは、成功する可能性が最も高い
21:SELプログラムを実施するにあたり、家庭と学校が緊密に連携すればするほど、生徒はより多くを学び、SELプログラムの効果は最も永続的かつ広範囲に及ぶ
22:SELプログラムへの地域社会の適切な関与と支援は、その効果を高める

ここまで。
第5章は、「社会情動学習のコンテクスト構築」というテーマで、協力的な教室と学校環境の構築、生徒のエンパワーメント、SEL活動の調整と統合、学区の目標との整合性、家庭と学校の連携、地域社会の関与と支援などについてまとめられていました。
特に、SELプログラムの作り方について多くの学びをいただきました。
・教員だけ作るのでなく、生徒自身や保護者、地域住民等も巻き込むことが効果的であること
・保護者にSELプログラムを体験してもらうことで理解が深まること

また、国や地域の教育目標と整合させることや、科目と連動させる点などについては、小中高の探究学習と全く同じだと思いました。探究学習も科目学習を優先することで後回しになってしまうことが課題としてよく耳にしますが、SELも同様ですね。効果的なSELを行うことで、学業成績も伸びていくということが示されているので、急がば回れで、まずは子ども達の社会情動的スキルの育成をしっかりと行うことが、長期的に見て様々な点でメリットがありそうです。そして、「社会性教育プログラムを学校の一般的な学習目標にうまく調整、統合した事例」として紹介されていた内容(自分の思考をモニタリングする方法、さまざまな教科分野における学術的な問題解決における選択の仕方を学び、学校内外の社会的な問題の解決に応用し、解決策について説明し、教師や仲間からフィードバックを受ける)という内容は、非常に探究学習やPBLに近しいものがあると思いました。

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