昨日に引き続き、以下の書籍の第6章(社会情動教育の導入と持続)についてレビューします。

書籍はこちら(被引用数:3,315件 (2025年2月12日時点)) Elias, M., Zins, J. E., & Weissberg, R. P. (1997). Promoting social and emotional learning: Guidelines for educators. Ascd.

【目次】
第1章:社会情動的学習の必要性(The Need for Social and Emotional Learning)
第2章:現在の実践の振り返り(Reflecting on Your Current Practices)
第3章:社会情動の教育をどのように学校に適合するか?(How Does Social and Emotional Education Fit in Schools?)
第4章:教室における社会情動的スキル育成(Developing Social adn Emotional Skills in Calssrooms)
第5章:社会情動学習のコンテクスト構築(Creating the Context for Social and Emotional Learning)
第6章:社会情動教育の導入と持続(Introducing and Sustaining Social and Emotional Education)
第7章:社会性と情動の学習の成果の評価(Evaluating the Success of Social and Emotional Learning)
第8章:前進:強み、優先事項、次のステップの評価(Moving Forward: Assessing Strengths, Priorities, and Next Steps)

第6章では、SELプログラムの選定、導入、拡大、持続的な実施、障害の克服に関する具体的な指針についてまとめられています。
各トピックずつまとめます。

パイロット・プログラムの選択と開始
・地域のニーズ、目標、既存の取り組み、教材の質、発達段階への適合性、多様性の尊重を考慮する
・多くのSELプログラムはテストされておらず、効果や持続性が不明確(課題)
・プログラム選定の際に、現在の教育環境との整合性、学習理論、発達段階、教材の質、多様性への配慮を確認する
・最も効果的なのは、現在の教室や学校の規則や規律システムである

【推奨するパイロット・プログラムの要素】
・活動から得られるもの、子どもたちにもたらすことのできる利益に焦点を当てる
・自分が何をしたいのかを明確にし、自分や同僚にとって意味のある指標を使用し、具体的で妥当かつ測定可能な目標を定める・準備を整える・予測可能である:生徒は、SEL活動の時間が定期的に予定され、守られていると、最も安心する・統合的で、SELの取り組みを少なくとも1つの基礎的な学術科目を含む他の科目分野と関連付ける
・強化する準備をしておく:特定の活動や授業が、拡大・強化される方法を計画する

【教師の専門能力の開発】
・プログラムを実施するための準備と継続的なサポートは、質の高い指導を受け、継続的なスタッフ育成(例:コーチング、監督、指導、共同作業、計画)に従事する、十分な準備を整えた指導者によって提供されるのが最善である
・特に重要なのは、子どもたちが自分の気持ちを表現できる安全な環境を提供するという分野の専門能力の開発である

プログラムの拡大
・プログラムの拡大は、変化の基礎となる理論やモデルに基づく明確な計画、実施、管理、評価の手法に導かれ、十分かつ継続的な管理支援が利用できる場合に容易になる
・保護者や教員補助員から教育長やその他の管理者、地域住民に至るまで、関係者全員の期待と責任を明確にすることが重要
・Calhoun(1993)は、教師、校長、または地区の管理者が、SELの取り組みを計画、監視、継続的に改善するために活用できるアクションリサーチモデルの優れた概要を提供している(Elias and Clabby 1992, Kelly 1987, Kusche and Greenberg 1994)。

【プログラム定着の条件】・プログラムを一貫して頻繁に実施し、努力を調整するために十分な時間を割くこと・適切な教材が利用可能であること・組織的な支援が提供されること・プログラムの指導は、学校年度のすべてまたは大部分をカバーしていなければならない・指導に中断することなく、複数年にわたって実施しなければならない
・教室や学校はコミュニティでり、個人が排除されるとコミュニティは衰退する
・コミュニティのすべてのメンバーを関与させる方法が見つかれば、誰もが恩恵を受け、EQが劇的に上昇する・一般的に、あるイノベーションが導入されると、すべての関係者がそれを理解し、適応し、所有するまでに18ヶ月から3年(イノベーションの複雑さによる)を要することが広く認識されている(Hord, Rutherford, Huling-Austin, and Hall 1987)・長期的な取り組みを促進するためには、プログラムのコーディネーター、社会性育成のファシリテーター、またはSEL育成委員会を指定することが有効
・効果的なSELのアプローチでは、学校内外でポートフォリオ、展示会、フェア、グループ発表、印刷物や電子メディアを活用し、より幅広いコミュニティの参加を促し、関与と献身を奨励する
 ・さまざまなアプローチを活用することで、SELプログラムは、学校や教室という公式な場を超えてプログラムの対象を広げ、他の人々を巻き込むことができる・プログラムが長期間にわたって実施される場合、状況の変化に応じて適応させる・SELの取り組みを徐々に拡大し、その取り組みについて他の人々に知らせるための計画を立てる
  ・まず同一学年の間で共有と話し合いを行い、次に隣接する学年、他の学校、そして最終的に学区レベルで共有と話し合いを行う
 ・同時に、保護者や地域社会との並行した話し合いも行い、SELの性質について理解を促す重要

障害の予測と克服【3種の障害と対策】
1. 最も起こりやすい懸念事項
・「これは人格教育と何ら変わりない。なぜこんなことをする必要があるのか?
・「重要な学業に時間を割く余裕がなくなるのでは?」 
・「学校がこのようなことをする必要はない。」 
・「自尊心、薬物防止、喫煙防止など、すでに多くのプログラムがある。これ以上何も必要ない。」
・「SELはブロック・スケジューリングとどのように関連しているのか?」
・「適切な教材が必要だが、高価すぎる。削減するか、共有しなければならない。」
・「私はやりたくない。これは学校心理士、カウンセラー、またはセラピストの仕事だ。」
・「テストの点数を上げるための活動に時間を割くことになる。」
(対策)
・率直かつ賢明に対処することが鍵
・SELは明らかに学業を補完するものと伝える
・荒波を乗り越えて生き残った人々の活動を参考にする

2.当初は難しく感じられたり、最も懸念されていた問題でも、実際にはほとんど発生せず、発生した場合でも最小限の困難で対処できる障害
・「これは、子供に新しい時代の価値観を植え付ける方法だ。」
・「価値観の教育は家庭で行うべきである。」
・「自尊心を育むことに時間を割くべきではない。」
・「これは家族のプライバシーを侵害する。」
・「攻撃的、無慈悲、その他問題行動を示す生徒が増えているため、これはうまくいかない。」
・「理解できない子供もいる。その場合、私たちはどうすればよいのか?」 
・「家庭での学習をサポートする親のフォローアップが欠けているので、うまくいかない。」
・「教室やグループディスカッションで、生徒が個人的なデリケートな問題や家庭の問題を持ち出してきたら、どうすればいいのか?」
(対策)
・SELは、共有された価値観を基盤として機能し、子どもの社会情動的スキルを向上させ、健全な発育を確保し、生徒が家族や地域社会の一員として、また、学校を含む職場での活動的な市民、生産的な構成員として生活するための準備を整えるという目標に、目に見える形で焦点を当てるべき
・理論的・経験的な基盤を持たない、構成が不適切で実施が不十分なプログラムが実施され、失敗するたびに、SELは支持を失うので、準備が重要

3. 克服するのが最も困難で、継続的な取り組みが必要な問題
・非現実的な期待:生徒のスキル向上に要する時間、SELの制度化、特効薬や予防接種的アプローチの存在、生徒、スタッフ、地域社会、そしてそれゆえSELの取り組みにおける継続的な変化への適応の必要性など
・教職員と管理職の両方における離職率の高さ、特に初期のキックオフ以降、研修が必要な全員に継続的に研修を行う方法についての懸念
・外部からの支援が打ち切られたり、政治的な風向きが変わったりした場合に、プログラムが継続されないのではないかという懸念・現在の必須カリキュラムは授業時間数を上回っている
・現在のスタッフ育成モデルの問題、実施者への継続的なサポートの提供方法、予防とSELの分野における教育者の研修不足・プログラムについて性急に結論を下し、手抜きをし、文書化しない
(対策)
・最善の解決策は、他の実施者とネットワークを構築し、相互に問題を解決すること

【第6章のガイドライン】
23:具体的なSELプログラムを選択する際、教育者は、特定された地域のニーズ、目標、関心、義務、スタッフのスキル、既存の取り組み、指導手順の性質、教材の質、プログラムの発達段階への適切さ、多様性の尊重を考慮しなければならない24:SELの活動やプログラムは、パイロット・プログラムとして導入するのが最適である
25 :専門能力の開発と監督は、すべてのレベルにおいて重要である
26:計画プロセスと、自らの環境でプログラムが成功裏に拡大する方法についての見解を明確にする
27:幅広い生活スキルや問題予防の分野に対応するSELプログラムやアプローチは、最も大きな影響を与える傾向がある
28:プログラムを強化し、発展させるために、必要な時間と支援を確保する
29:特別支援教育を受けている生徒を計画的に参加させることは、まとまりのあるプログラム環境を作り上げ、生徒が日常生活で遭遇する状況において学んだスキルの応用を可能にするのに役立つ
30:長期的な取り組みを促進するためには、プログラムのコーディネーター、社会性育成のファシリテーター、または社会性と情動の育成委員会を指定することが有効である。委員会は通常、プログラムの目標を効果的に達成するために必要なさまざまな活動が実施されていることを確認する責任を負う。また、学校内外におけるSEL関連の取り組みを監視する。
31:長期的なSELプログラムは、非常に目立ち、認知されている。これらのプログラムは「堂々と」実施され、「こっそりと」行われたり、非公式に「拝借」した時間を使って実施されたりすることはない。これらのプログラムは、学校や学区の目標に反するものではなく、むしろそれらの目標に不可欠なものである。
32:効果的なSELのアプローチでは、学校内外でポートフォリオ、展示会、フェア、グループ発表、印刷物や電子メディアを活用し、より幅広いコミュニティの参加を促し、関与と献身を奨励する。さまざまなアプローチを活用することで、SELプログラムは、学校や教室という公式な場を超えてプログラムの対象を広げ、他の人々を巻き込むことができる。
33 :プログラムが長期間にわたって実施される場合、状況の変化に応じて適応させる必要性がより高まる。実施状況は常に監視し、プログラムの成果は定期的に評価しなければならない。
34:SELプログラムの立ち上げを妨げたり、実施を妨げたりする障害を克服するには、粘り強さと献身的な取り組みが不可欠である。問題解決には、教育者が生徒に教えようとしているスキルの模範を示すことが含まれるため、問題解決のプロセスはSELの取り組みの有効性に大きく貢献する。 

ここまで。
第6章は、SELの導入~拡大、そして、起こり得る障害とその対策等についての内容でした。
個人的な学びポイントを以下にメモします。
・SELの実践は、計画的に選定し、パイロット導入から始め、徐々に拡大・定着させることが重要
・教師の専門能力(コーチング等)の開発が重要であり、その中でも子どもたちが安心して発言できる場づくりの能力が重要であること
・コミュニティ全体を巻き込み、多様性に配慮した包括的なプログラムを構築する
・コミュニティの全メンバーを関与させれば、誰もが恩恵を受け、EQが劇的に上昇する
SELが直面する課題は、小中高の探究学習におけるそれとよく似ていると思いました。
結局のところ、教員自身が学びスキルアップしながら、重要性を語り続け、校外の教員ネットワークを作り情報交換しながら進めていくしかないのかなと思いました。
重要性を伝える上では、学習効果の可視化も重要になると思います。「多くのSELプログラムはテストされておらず、効果や持続性が不明確」という課題もあるようなので、社会情動的スキルそのものや、それが学業にも影響することをエビデンスとして可視化できればより広まりやすくなるのだろうなと思いました。

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