学校におけるエンゲージメントについて定義、測定方法、先行要因などについて幅広くまとめられた論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:18,058件 (2025年3月10日時点))
Fredricks, J. A., Blumenfeld, P. C., & Paris, A. H. (2004). School engagement: Potential of the concept, state of the evidence. Review of educational research, 74(1), 59-109.

スクールエンゲージメントは、学業への意欲低下や学業達成度の低下を防ぐ重要な概念として注目されています。そんなスクール・エンゲージメントに関する論文で、おそらく最も引用されているものの一つと思われるのがこちらの論文。被引用数はなんと1.8万件です。
本論文では、以下のような構成でまとめられています。
・エンゲージメントとは何か
・エンゲージメントの測定
・エンゲージメントのアウトカム
・エンゲージメントの先行要因
・結論と将来性
ひとつずつ見ていきます。

エンゲージメントとは何か

エンゲージメントは多面的な概念であり、行動・情動・認知の3つのタイプがあるとされています。
行動的エンゲージメント
・行動的エンゲージメントは、一般的に3つの方法で定義されている①規則に従うことや教室の規範を守ることなどの好ましい行動、および欠席や問題を起こすなどの妨害的な行動がないこと(Finn, 1993; Finn, Pannozzo, & Voelkl, 1995; Finn & Rock, 1997)
②努力、持続性、集中、注意力、質問、クラス討論への貢献など、学習や学業上の課題へのエンゲージメントに関わる行動(Birch & Ladd, 1997; Finn et al., 1995; Skinner & Belmont, 1993)
③運動競技や学校運営などの学校関連活動への参加(Finn, 1993; Finn et al., 1995)
・一般的に、これらの定義では、学業や学業以外の学校活動への参加など、さまざまな行動のタイプを区別していない
・例外:Finn(1989)の行動的エンゲージメントの定義:参加を4つのレベルに分け、教師の指示に従うことから課外活動や生徒会への参加など生徒の自主性を必要とする活動までを網羅
・一部の研究では、協調的な参加や教室での規則の順守と、自主的な参加や自己主導の学術的行動を区別(Birch & Ladd, 1997; Buhs & Ladd, 2001)

情動的エンゲージメント
・情動的エンゲージメントとは、教室における生徒の情動的な反応を指し、興味、退屈、幸福、悲しみ、不安などが含まれる(Connell & Wellborn, 1991; Skinner & Belmont, 1993)

(測定方法)
・測定方法は、学校や教師に対する情動的な反応を評価する(Lee & Smith, 1995; Stipek, 2002)や、学校への帰属意識 として捉える(Finn, 1989; Voelkl, 1997)などがある
・Finnは帰属意識を「所属感(学校にとって重要な存在であるという感覚)」と「価値(学校関連の成果における成功の評価)」と定義

(動機付け研究との重複)
・興味や価値 という情動的エンゲージメントの要素は、動機付け研究で使われる概念と重複している
・『Engaging Schools』(2004)では、動機付けとエンゲージメントを同義語として扱っている
・エンゲージメントの研究では、動機づけ研究ほど詳しい定義がされておらず、異なる要素の区別も曖昧
・動機づけ研究では、「状況的関心」と「個人的関心」を区別している(Krapp, Hidi, & Renninger, 1992)
・状況的関心:新奇性などの影響を受ける一時的なもの。
・個人的関心:継続的なテーマ選択や困難な課題への意欲。

(測定の課題)
・エンゲージメント研究では、動機付け研究ほど詳しい定義がなく、異なる要素の区別が曖昧
・感情的な反応の源が不明確 で、生徒のポジティブな感情が学習・教師・友人のどれに向けられているのか分からない
・価値の4つの要素(Eccles et al., 1983)
①興味(活動の楽しさ)
②達成価値(良い成績を収めることの重要性)
③効用価値(将来の目標にとっての意義)
④コスト(課題に取り組む際の負担)

(フローとの関係)
・フロー(完全な没入状態) は、ポジティブな感情と高いエンゲージメントの質的な違いを明確に区別 している(Csikszentmihalyi, 1988)。
・フローの概念は、高い情動的エンゲージメントや学習への投資を示す新たな視点を提供する

認知的エンゲージメント
(認知的エンゲージメントの概要)
・定義①:学習への心理的な投資、要件以上のことを達成したいという意欲、挑戦を好む傾向に焦点を当てている(Connell & Wellborn, 1991; Newmann et al., 1992; Wehlage et al., 1989)
・定義②:学習に対する内面的な心理的資質や投資を強調する一般的なエンゲージメントの定義を概説しており、行動的エンゲージメント以上のものを意味している
 ・例①:Newmannらは学術的な作業へのエンゲージメントを「学生が学術的な作業を通じて促進しようとする知識、スキル、技術の習得、理解、習得に向けた心理的な投資と努力」と定義(p. 12)
 ・例②:Wehlageらはエンゲージメントを「学校で明示的に教えられた知識とスキルを理解し習得するために必要な心理的な投資」と定義(p. 17)

(動機付け研究との関連)
・認知的エンゲージメントの概念は、学習動機(Brophy, 1987)や学習目標(Ames, 1992)と類似
・学習目標を持つ生徒は、理解や課題達成に集中し、困難に挑戦する傾向がある
・内発的に動機づけられた生徒は、粘り強く学習に取り組む

(戦略的・自己調整学習との関係)
・認知的エンゲージメントは、学習戦略や自己調整と関連
・メタ認知戦略(計画・監視・評価) を活用し、リハーサル・要約・精緻化などの戦略を用いる(Pintrich & De Groot, 1990)
・彼らは、リハーサル、要約、精緻化などの学習戦略を用いて、教材を記憶し、整理し、理解する(Corno & Mandinach, 1983; Weinstein & Mayer, 1986)
・努力を継続したり、気を散らすものを抑制したりすることで、課題へのエンゲージメントを管理し、制御し、認知的エンゲージメントを持続させる(Corno, 1993; Pintrich & De Groot, 1990)

(深い学習と表面的な学習の違い)
・深い学習戦略:精神的努力を多く払い、アイデアを関連付け、より深く理解(Weinstein & Mayer, 1986)
・表面的な学習戦略:短期的な記憶や課題の達成に留まる

(測定の課題)
・認知的エンゲージメントの定義は、心理的投資と戦略的学習の2つの異なる視点から引用
・学習戦略を用いることと、学習意欲があることは必ずしも一致しない
・学習意欲があっても、戦略の使い方を知らない場合もある

(今後の展望)
・自己調整学習の研究と動機付け研究を統合することで、認知的エンゲージメントの概念はより有益なものになる
・学習成果の向上には、認知的エンゲージメントの質的な側面をより詳しく分析する必要がある

エンゲージメントとは何か?のまとめ
(エンゲージメントの包括的な定義)
・行動的エンゲージメント:課題の遂行や規則の遵守を含む
・情動的エンゲージメント:興味・価値観・動機付けを含む
・認知的エンゲージメント:動機付け・努力・学習戦略の使用を含む

(主な課題)
・他の研究と概念が重複 しており、新規性が乏しい
・定義が曖昧で一般化されすぎている ため、異なるタイプのエンゲージメントの区別が不明確
・努力の概念が混在し、行動的エンゲージメント(規則遵守のための努力)と認知的エンゲージメント(理解・習得のための努力)の違いが整理されていない
・3つのエンゲージメントすべてを含む研究が少なく、一部の要素しか考慮されていない

エンゲージメントの測定

行動的エンゲージメントの測定
(測定方法)
・教師評価と自己申告アンケートが主な手法
・行動的エンゲージメントには 「作業へのエンゲージメント」「参加」「行動の継続性」 などが含まれるが、すべての行動タイプを網羅した研究は少ない
・観察法も用いられ、生徒の授業中の関与度を「無関心」から「積極的に関与」まで評価

(主要な指標)
・肯定的行動(例:宿題の完了、規則遵守)
・不適切な行動(例:欠席・遅刻、授業中のトラブル)
・学習への努力・持続性(例:困難な課題へのエンゲージメント)
・積極的な参加(例:授業中の発言、質問)
・学校レベルの参加(例:課外活動や意思決定への関与)

(代表的な尺度)
・Rochester School Assessmentパッケージ:「学校の勉強に熱心に取り組む」「授業中、他のことを考えている」などの質問項目を含む
・教師評価(例:「生徒は授業のディスカッションに積極的か」「引っ込み思案か」)
・観察研究(例:Stipek(2002)は、生徒の注意深さや課題への姿勢を評価)

(測定の課題)
・行動・持続性・参加を1つの尺度で評価することの問題(例:規則は守るが学習意欲が低い生徒、課題はやり遂げるがルールを守らない生徒の区別が曖昧)

(観察による評価の限界)
・外見上、課題に取り組んでいるように見えても、実際には考えていないケースがある
・逆に、課題から逸れているように見えても、深い思考をしている可能性がある
・エンゲージメントの概念の重複と一貫性の欠如:行動的・感情的・認知的エンゲージメントが統合されがちで、それぞれの独自の影響を分析する研究が不足

情動的エンゲージメントの測定
(測定方法)
・自己申告調査が主流 で、学校や学習、人間関係に関する感情を評価
・Rochester School Assessmentパッケージ では、「嬉しい」「興味がある」「悲しい」「退屈」「イライラする」などのポジティブ・ネガティブな感情を測定
・幼い子ども向けの調査 では、教師や学校に対する全体的な感情を報告させる手法もある

(主要な指標)
・学校への帰属意識(Finn & Voelkl):例)「この学校の教師とはうまくやっている」「数学は将来役に立つ」
・学習や学校生活への満足度(Steinbergら):例)「長時間の作業は続けにくい」「たくさん学んでいるので学校に満足している」

(測定の課題)
・行動的エンゲージメントとの区別が不明確
・しばしば単一の尺度として扱われ、各エンゲージメントの違いや影響を分析しにくい
・感情の対象が特定されていない:例)ある生徒は学校全体の雰囲気に満足し、別の生徒は授業そのものに満足しているが、区別されていない
・関心や価値との違いが曖昧:情動的エンゲージメントの測定は、より一般化された概念として扱われがち
・授業や環境による影響の違い:例)授業の内容や状況によって感情の強さや質が変化する

(情動の安定性の検討)
・経験抽出法(Experience Sampling Method, ESM):情動的エンゲージメントが 一時的なものか、持続的なものかを分析する手法

認知的エンゲージメントの測定

(測定方法の限界)
・認知的エンゲージメント は、学習への心理的な投資として概念化されるが、測定方法は限られている
・Connell & Wellborn(1991) は、柔軟な問題解決や努力、独立した学習スタイル、失敗への対処方法を評価する項目を提案したが、これを用いた公表研究は少ない
・目標理論 では、学習や課題に専念するか、成績や見た目の良さを重視するかを測定し、学習意欲の違いを分析

(測定の主なアプローチ)
・Nystrand & Gamoran(1991)は、実質的エンゲージメントと手続き的エンゲージメントを区別
 ・実質的エンゲージメント:学習内容の深い理解に関与(例:本物の質問の頻度)
 ・手続き的エンゲージメント:課題をこなすことが目的(例:指示に従って課題を終わらせる
・認知的エンゲージメントや自己調整あるいはその両方について記述する研究者たちは、これらの用語を互換的に使用しながら生徒の学習方略し用に関するいくつかの評価基準を開発
・そのひとつは自己報告式アンケートで以下を含む(Pintrich & De Groot, 1990; Zimmerman & Martinez-Pons, 1988)
 ・メタ認知(目標設定、計画、モニタリング、修正)
 ・努力・意志力の管理(集中力維持、効果的な作業遂行)
 ・認知的戦略の使用(情報整理、学習の深さ)
・深層レベルと表層レベルの戦略の使い分けを区別(Meece, Blumenfeld, & Hoyle, 1988; Miller, Greene, Montalvo, Ravindran, & Nichols, 1996)
 ・深層レベル:情報の関連付け、理解のモニタリング(例:「分からない部分を再確認した」)
 ・表層レベル:単純な暗記や努力回避(例:「難しい部分は飛ばした」)

(観察研究と課題)
・観察による測定は限定的だが、一部の研究では、数学・読解・科学の授業での生徒の認知的エンゲージメントを分析(例:Helme & Clarke(2001) は数学の授業での自己モニタリングや意見交換を調査)

(測定の難しさ)
・認知的エンゲージメントの観察は困難
 ・表面的には同じ行動でも、学習への関与の深さを見極めるのが難しい(例:生徒が「作業を早く終わらせること」を目的にしているのか、「深い理解を目指している」のかを区別するのは困難)
・学校環境の影響:教室の課題が単純な暗記や練習に偏ると、深い学習戦略を測定するのが難しくなる
・低年齢児童の測定の難しさ
 ・幼い子どもはメタ認知的知識が未発達で、自己申告による測定が困難(Schneider & Pressley, 1997)
 ・認知戦略の使用を評価する質問が、発達段階に適していない場合がある

(エンゲージメント測定についてのまとめ)
エンゲージメント測定における共通の課題
1. エンゲージメントの統合的尺度と独立尺度の問題
・一部の研究では、行動・感情・認知のエンゲージメントを独立した尺度で測定するが、他の研究では1つの統合的尺度として扱っている(例:Connell, Halpern-Felsher, Clifford, Crichlow, & Usinger, 1995; Marks, 2000; Lee & Smith, 1995)
・統合的尺度では、エンゲージメントの各タイプの違いを詳細に分析できないという問題がある

2. 概念の曖昧さ
・類似した項目が複数のエンゲージメントの指標として使用され、概念の区別が不明確
 例:「粘り強さ」や「ハードワーク」は、行動的エンゲージメントと認知的エンゲージメントの両方に含まれる
・エンゲージメントの対象(学校全体か、学業か)が明確に区別されていない尺度が多い

3. 分野ごとの測定不足
・多くの尺度は特定の科目や学習内容に焦点を当てておらず、エンゲージメントの一般的な傾向しか捉えられない
・最近では、算数(Helme & Clarke, 2001)、科学(Blumenfeld & Meece, 1988; Lee & Anderson, 1993)、読解(Alvermann, 1999; Guthrie & Wigfield, 2000)における感情的・認知的エンゲージメントを観察法や談話分析で測定する試みが進んでいる

4. タスクや状況との関連性の欠如
・測定方法は個人の一般的なエンゲージメント傾向を示すが、特定の学習状況や課題への適応を評価できていない

5. 質的な違いを捉えにくい
・現在の測定方法では、エンゲージメントの深さ(投資やコミットメントの度合い)を十分に評価できない

6. 測定のトレードオフ
・すべての要素を詳細に測定することは現実的ではなく、目的に応じて簡素化した尺度を使用するか、詳細な分析を行うかの選択が必要

エンゲージメントのアウトカム

・エンゲージメントは、学業成績の向上や学校への定着にポジティブな影響を与える・成績との関連:行動的エンゲージメントが最も成績との関連が強く、認知的エンゲージメントは深い学習と関連する・退学率の低減:行動的・情動的エンゲージメントが低いと、ドロップアウトのリスクが高まる

(行動的エンゲージメントと学業成績)
・学習へのエンゲージメントは成績(標準テストや評定)と正の相関(Connell, Spencer, & Aber, 1994; Marks, 2000; Skinner, Wellborn, & Connell, 1990; Connell & Wellborn, 1991)
・規律の問題は学業成績の低下と関連(Finn et al., 1995; Finn & Rock, 1997)
・低学年の行動的エンゲージメントは、長期的な学力や高校中退リスクに影響を及ぼす(Alexander, Entwisle, & Dauber, 1993; Alexander, Entwisle, & Horsey, 1997)

(研究による相関の違い)
・研究対象(リスクのある生徒 vs. 才能ある生徒)や成績評価の方法(教師評価・標準テスト)によって相関の強さが異なる
・教師の評価には努力が反映されやすいため、相関が過大評価される可能性
・基礎的スキルのテストでは行動的エンゲージメントの影響が大きいが、深い理解を求めるテストでは影響が低い可能性

(情動的エンゲージメントと成績)
・情動的エンゲージメントと成績に関する研究はさらに少ない
・Connell et al(1994)やSkinner et al.,(1990)は、成績と情動的エンゲージメントおよび行動的エンゲージメントの複合指標との間に相関関係があることが示されているが、異なる種類のエンゲージメントを組み合わせているため、学業成績に対する情動的エンゲージメントの独自な貢献度を検証することはできない・学校への帰属意識や価値観が成績と関連する可能性があるが、人種や個人差が影響(Voelkl, 1997)

(認知的エンゲージメントと成績)
・学習戦略(メタ認知・注意管理・知識の関連付け)の使用は、学業達成と強い関連(Boekarts et al., 2000; Zimmerman, 1990)
・教室での実質的なエンゲージメント(認知的エンゲージメントに類似)が、生徒の深い理解と総合的な理解力を測るために開発された達成度テストのスコアと正の相関関係にある(Nystrand & Gamoran, 1991)

(研究の課題)
・多くの研究が横断的であり、因果関係を特定できない
・測定の問題により、各エンゲージメントの独自の影響を分離して分析するのが困難
・行動的エンゲージメントは基礎的なスキルの評価と強く関連し、認知的エンゲージメントは深い理解を測るテストとより関連する

(エンゲージメントのアウトカムのまとめ)
・研究は、行動的エンゲージメント(参加、作業行動、行動など)がさまざまなサンプルや年齢層において学業達成と強い関連を持ち、認知的エンゲージメント(特に学習戦略の使用)が学習の成功に重要であることを示している・一方で、情動的エンゲージメントの影響は十分に検証されておらず、測定の課題も残る。今後の研究では、各エンゲージメントの独自の影響を明確にすることが求められる
・測定上の問題により、各タイプのエンゲージメントが成績に与える独自の貢献度を切り離して分析することが不可能
・学習へのエンゲージメントと成績の相関関係は、成績の評価方法によって異なる

ドロップアウト
(行動的エンゲージメントとドロップアウト)
・Ekstrom, Goertz, Pollack, Rock(1986)は、最終的にドロップアウトする生徒は宿題をあまりせず、学校での努力も少なく、学校活動への参加も少なく、学校での規律上の問題が多いことを示した
・行動へのエンゲージメントの低さと、授業をさぼる、不登校、停学、留年との相関関係が示されている(Connell et al., 1994; Connell et al., 1995)
・課外活動への参加は、退学の可能性を低くする傾向と関連しており、学業不振の生徒や低所得層の少女など、特定の集団にとっては特に重要である可能性がある(Ekstrom et al., 1986; Mahoney & Cairns, 1997; McNeal, 1995)
・学校教育の初期段階における行動的エンゲージメントは、退学プロセスにおける重要な媒介要因である(Rumberger, 1987)

(早期のエンゲージメントが長期的に影響)
・1年生時の行動的エンゲージメントは、高校中退のリスクに関連(Alexander et al., 1997)
・ドロップアウトした生徒は、他の生徒よりも欠席が多く、問題行動を起こしやすく、早期に学校で落ちこぼれる傾向が強い(Barrington & Hendricks, 1989; Cairns, Cairns, & Neckerman, 1989)

(情動的エンゲージメントとドロップアウト)
・疎外感や社会的孤立感は退学の要因となる(Finn, 1989; Newmann, 1981)
・学校や教師との感情的なつながりを認識することは、リスクのある子供たちが学校にとどまるための保護要因となり得る(Fine, 1991; Mehan, Villanueva, Hubbard, Lintz, Okamato, & Adams, 1996; Wehlage et al., 1989)
・社会的な困難を抱え、学校に対して否定的な態度を持つ生徒は、退学する可能性が高い(Cairns & Cairns, 1994; Ekstrom et al., 1986; Wehlage & Rutter, 1986)
・学校へのエンゲージメントが退学の意思決定とどのように関連しているのか、またその理由を説明するために、いくつかの概念モデルが開発されてきたが、今日まで、これらのモデルの妥当性を検証する実証的研究はほとんど行われていない

(理論モデルとドロップアウトのプロセス)
・Finn(1989)の「参加・同一視モデル」: ・低学年でのエンゲージメント欠如が、長期的に情動的な引きこもりや学校への帰属意識の低下に繋がる
 ・参加の欠如(すなわち、行動へのエンゲージメントの欠如)は学校での不成功につながり、それがさらに情緒的な引きこもりや学校への帰属意識の欠如に繋がる
 ・帰属意識の欠如は学校関連の活動への不参加につながり、その結果、学業の成功はさらに遠のく
 ・これが学業不振を引き起こし、結果としてドロップアウトに繋がる
 ・参加と帰属意識は相互に影響し合う
・ドロップアウトのプロセスは、エンゲージメントと学校への帰属意識の両方が相互に影響し合うことによって生じる(Newmann et al., 1992; Wehlage et al., 1989)
・ドロップアウトは、個人の社会的関係、学校への帰属意識、学校の価値と正当性に対する信念によって形作られると想定している

(ドロップアウトのまとめ)
・行動的離脱がドロップアウトの前兆である
・感情的離脱とドロップアウトの相関関係を示す実証的エビデンスは少ないが、民俗学研究では、教師や仲間との感情的なつながりがドロップアウト率の低下に繋がる可能性を示している
・認知的な離脱とドロップアウトに関する研究は見つからなかった
・今後は、学校環境が生徒のエンゲージメントに与える影響を明らかにし、退学防止の介入策を検討することが求められる

エンゲージメントの先行要因

・家族、地域社会、文化、教育環境は、エンゲージメントに影響を与える(Connell & Wellborn, 1991; Mehan et al., 1996; Ogbu, 2003)が、本稿では教育環境に焦点を当てる
 ・学校レベルの要因、教室環境、個々のニーズの関係について考察する
・本稿の目的:関連文献を網羅的にレビューすることではなく、学習意欲の今後の研究において、これらの環境の側面が注目に値するかどうかを判断すること

学校レベルの要因

「疎外感を軽減し、学校へのエンゲージメント、参加、統合を促進する学校の特徴」(Newmann, 1981, p. 546)
 ・自主的な選択
 ・明確かつ一貫した目標
 ・小規模
 ・生徒による学校の方針や運営への参加
 ・教職員と生徒が協力して取り組む機会
 ・成果を生み出す学業など

(小規模校はエンゲージメントを促進する)
・小規模校の方が、生徒が参加し、社会的な関係を築く機会は、これらの原則の多くを裏付けるエビデンスがある(Barker and Gump, 1964)
・小規模校の生徒は課外活動や社会活動により多く参加している(Finn & Voelkl, 1993)
・小規模校は、学校のメンバーシップの構築を重視し、本物の仕事に重点を置いたカリキュラムなど、問題を抱える生徒の積極的な参加を促す条件を備えている可能性が高い(Wehlage and Smith, 1992)

(学校再編とエンゲージメント)
・共同体的な学校構造(水平的意思決定・責任の共有)はエンゲージメント向上に寄与(Lee & Smith, 1993, 1995)は、全米教育追跡調査(National Educational Longitudinal Study)を用いて、共同体的な組織の要素を多く持つ学校の生徒は、より高いエンゲージメントを示し、時間の経過とともにそのエンゲージメントがさらに高まることを発見した。

・学校規則における公平性と柔軟性は、エンゲージメントの低下のリスクを低減する(Finn & Voelkl, 1993; Miller, Leinhardt, & Zigmond, 1988; Natriello, 1984)
・規則の実施に公平性がないと感じている生徒ほど、行動面で不参加になりやすい(Natriello, 1984)
・生徒の行動規範に対する責任を学校が明確にしている学校では、退学率が低い(Bryk & Thum, 1989; McDill, Natriello, & Pallas, 1986)

(エンゲージメント向上を目的とした学校改革)
・First Things Firstモデル(Institute for Research and Reform in Education, 2003):行動面(出席率、継続性、問題行動など)と情動面(学校への帰属意識、教師からの支援など)の両方において、好ましい効果
・School Development Program(Comer, 1980):学校コミュニティ全体を動員して生徒の総合的な成長を支援
 ・このモデルを都市部の学校で評価したところ、情動的エンゲージメントの側面である学校に対する肯定的な感情や態度が増加し、行動的エンゲージメントの側面である不登校や規律上の問題が減少(Cook, Habib, Phillips, Settersten, Shagle, & Degirmencioglu, 1999)

(学校レベルの要因のまとめ)
・学校レベルの要因が行動的なエンゲージメントと関連していることを示唆
・学校レベルの要因と情緒的および認知的エンゲージメントとの関連性については、エビデンスが少ない
・学校レベルの要因が、多様な集団や年齢層における3つのエンゲージメントのタイプに与える影響を系統的に調査する必要がある

エンゲージメントは学校改革と成果を結びつける媒介要因である可能性がある。これらの介入研究にエンゲージメントの測定を含めることで、エンゲージメントが環境の変化にどの程度対応しているかについての洞察が得られ、行動、感情、認知のエンゲージメントに最も大きな影響を与える特定の学校や教室の変化を指摘することができる

教室環境の影響

教師のサポート
・教師のサポートは、行動、感情、認知の面での積極的なエンゲージメントに影響を与える
・教師のサポートは、学業面または対人面のいずれかである可能性があるが、大半の研究ではこの区別はなされておらず、両者に関する項目を1つの尺度に統合している研究も多くある(Wenztel, 1997)
・就学初期の教師との関係の質が協力的な参加や自己主導性などと関連(Birch & Ladd, 1997; Valeski & Stipek, 2001)

(行動的エンゲージメントへの影響)
・子どもの初期の行動的エンゲージメントは、教師との関係にも影響を与える(Ladde et al., 1999)
・学業的に有能で、責任感があり、学校規則に従う生徒を、破壊的で攻撃的な生徒よりも重視する(Kedar-Voivodas, 1983)
・教師のエンゲージメントが生徒の積極的な参加と正の相関関係にあり、生徒の積極的な参加が教師のエンゲージメントをさらに促す(Skinner and Belmont, 1993)
・生徒は、教師との間に肯定的な関係やサポート関係がないと感じると、学校を中退する可能性が高くなる(Farrell, 1990; Fine, 1991; Wehlage et al., 1989)

(認知的エンゲージメントへの影響)
・教師が難易度の高い課題を与え、理解を促す授業では、認知的エンゲージメントと学習およびメタ認知戦略の使用が増加(Blumenfeld & Meece, 1988; Blumenfeld, Puro, & Mergendoller, 1992)
・教師が尊敬と社会的支援に満ちた環境を作り出し、生徒に理解を迫り、自主性を支援したところ、生徒は学習に対してより戦略的になり、行動面での積極性と情動も高まった(Stipek, 2002; Turner, Meyer, Cox, Logan,DiCintio,& Thomas,1998)

(研究の課題)
・社会的支援または学業的支援がエンゲージメントに与える影響が生徒の年齢や背景によって異なるかどうかを判断するには、さらなる研究が必要
・ほとんどの研究は縦断的ではなく横断的であるため、長期的な影響が未解明

仲間の影響
・小・中の子どもたちは、学習へのエンゲージメントの程度が同程度の仲間グループで集い、このグループ化が元々の差異がさらに強まる(Kindermann, 1993; Kindermann, McCollam, & Gibson, 1996)
・学習への高いエンゲージメントを示す仲間グループに属する小学生は、学年全体を通じて行動へのエンゲージメントの度合いを高める(Kindermann, 1993)

(仲間からの受容と拒絶とエンゲージメント)
・仲間からの受容は、学校への満足感と関連し、行動的・情動的エンゲージメントを高める(Berdt & Keefe, 1995; Ladd, 1990; Wentzel, 1994)
・小学校時代に拒絶された子供たちは、行動的エンゲージメントの要素である問題行動や授業への参加度の低さ、情緒的エンゲージメントの要素である学校への関心の低さのリスクが高くなる(Buhs & Ladd, 2001; DeRosier, Kupersmidt, & Patterson, 1994)
・学校の規則に従わない、あるいは学校が嫌いな子供は、仲間が自分をサポートしてくれると認識する可能性が低い(Ladd et al., 1999; Ladd & Coleman, 1997)
・幼少期および思春期の両方において仲間から拒絶されると、学校を中退する可能性が高くなる(French & Conrad, 2001; Parker & Asher, 1987)。
(マイノリティと仲間の影響)
・Ogbuの文化生態学モデルによると、一部のマイノリティの生徒は「良い成績=白人らしい」とみなし、仲間から拒絶されることを恐れている傾向がある(Ogbu, 1987, 2003)
・人種や階級が教育機会を制限していると認識している生徒であっても、差別に対処するための主体性や戦略を育む社会的支援を受けている生徒は、学校に積極的に関わり続ける可能性が高い(Conchas, 2001; Deyhle, 1995; Mehan et al., 1996; O'Connor, 1997; Stanton-Salazar, 2001)
(認知的エンゲージメントと仲間)
・ クラスメンバーが積極的にアイデアを議論し、見解を討論し、お互いの作品を批評し合うことで、認知的エンゲージメントは高まる(Guthrie & Wigfield, 2000; Meloth & Deering, 1994; Newmann, 1992)
・仲間からの受容や仲間からの拒絶は、行動的エンゲージメント(参加、品行、仕事へのエンゲージメントなど)や情緒的エンゲージメント(関心、学校への満足感など)の成果を予測する要因となる
(研究の課題)
・認知的エンゲージメントに対する仲間の影響を調査すべき
・仲間がエンゲージメントに与える影響に発達や集団による違いがあるかどうかについても検討すべき

教室の構造
・Connell らは、生徒が教室の構造をどう認識しているか、またその認識が生徒の行動面での積極的なエンゲージメントにどう関連しているかを調査(Connell, 1990; Connell & Wellborn, 1991; Skinner & Belmont, 1993)
・構造とは、学業および社会的な行動に対する教師の期待の明確さ、およびその期待に応えられない場合の結果を指す(Connell, 1990)
・明確な期待を持ち、一貫した対応をする教師のクラスでは、生徒の行動へのエンゲージメントがより積極的になる(Connell & Wellborn, 1991; Skinner & Belmont, 1993)
・生徒の作業規範に対する認識が、行動、情動、認知の面でのエンゲージメントと正の相関関係(Fredricks, Blumenfeld, Friedel, and Paris, 2002)
・教室の構造に関する研究は、規則、明確性、作業の方向性、生徒の態度との相関関係を示した以前の教室の環境に関する研究を繰り返すものである(Moos, 1979; Fraser, 1991)
・管理の行き届いた教室では教師が規範を定め、効率的な手順を採用することで、課題に費やす時間が増え、規律上の問題が減るという、行動的エンゲージメントの指標となる結果が示されている(Brophy & Evertson, 1976; Doyle, 1986)

(研究の課題)
・構造とエンゲージメントに関する研究はまだ少ないが、エンゲージメントに対する文脈の影響に関する今後の研究では、教室の構造を検討すべき

自律性サポート
・生徒に選択肢を与え、意思決定に関与させ、外的コントロール(成績・褒賞・懲罰)がない特徴を持つ自律性をサポートする教室では、学習エンゲージメントが向上する(Connell, 1990)
・統制された環境では興味、挑戦への意欲、持続性といったエンゲージメントのすべての側面が低下する(Deci & Ryan, 1987; Grolnick & Ryan, 1987; Ryan & Grolnick, 1986)
・教師がより多くの選択肢を提供した小学生は、より戦略的に取り組み、困難に直面しても粘り強く学習を続けることが明らかになった(認知的エンゲージメントの2つの側面を示している)(Turner, 1995; Perry, 1998)
・一方、中学校の教室では教師の管理と規律が重視され、生徒が意思決定を行う機会が少なく、自律性支援の影響は想定通りには確認されていない(Midgley & Feldlaufer, 1987; Moos, 1979)

(研究の課題)
・実際の教室環境における選択の結果、意思決定の機会、行動、感情、認知のエンゲージメントに対する報酬体系について、さらに研究を行う必要がある
・エンゲージメントを促進するための自律支援と教室の構造の最適な組み合わせは何か、まだ解明されていない

課題の特徴
・行動的エンゲージメントと学業成績は正の相関関係(Connell et al., 1994; Marks, 2000; Skinner et al., 1990)
・しかし、多くの課題は記憶や手順の反復に重点を置いており、深い学習戦略を促進しない

「エンゲージメントを高める課題の特徴」(Newmann, 1991; Newmann et al., 1992)
以下の条件が揃った教室でエンゲージメントが高まる
(a) 課題が本物であること
(b) 生徒が自身の構想、実行、評価の責任を担う機会があること
(c) 共同作業の機会があること
(d) 多様な才能が認められること
(e) 楽しみの機会があること

・興味深いテキスト、現実世界でのやりとり、自主性の支援、戦略指導、共同作業の機会、教師のエンゲージメントがある教室では、読書へのエンゲージメントが向上する(Guthrie & Wigfield, 2000)
・Marks(2000):小中高校の生徒を対象に、本格的な指導と社会的支援が学習エンゲージメントを強く予測すると発見
・Fredricks ら(2002):低所得層の生徒を対象に、課題の難易度認識が各タイプのエンゲージメントと関連している
・Helme & Clarke(2001)とBlumenfeld & Meece(1988):算数や科学の課題において、個人的な意味を持つ新しい課題を仲間と取り組むと認知的エンゲージメントが高まる
(研究の課題)
・文脈とエンゲージメントに関する研究の多くは、学業の成果を測定する指標を含んでいない(Blumenfeld et al., in print; Fredricks et al., 2002; Marks, 2000)
・本物でやりがいのある課題は、行動、感情、認知の面でより高いエンゲージメントと関連していることが示されており、社会的側面と学業的側面を同時に調査した場合に特に当てはまる
・知見の多くが中学・高校に基づいており、年齢、社会経済的地位、人種を問わず、課題の特性がエンゲージメントに与える影響について、さらに詳しく知る必要がある
・子どもの能力レベルなどの個人差が、課題の特性とエンゲージメントの関係にどのような影響を与えるのかについても、今後さらに調査する必要がある
・「エンゲージメントはコンテクストと達成の媒介役である」という前提の検証不足
・エンゲージメントを結果としてではなく、コンテクストとエンゲージメントの関係が達成などの他の興味深い結果に繋がるかどうかを検証するのではなく、結果として検証している
・特定の教室要因や学校要因が3つのタイプのエンゲージメントに同時にどのような影響を与えるかを検証した研究がほとんどなく、環境が各タイプのエンゲージメントに同様に影響を与えるかどうかは不明
・コンテクスト要因の相互作用が不明:文脈の側面を個別に検討する傾向があり、文脈の変数群がどのように相互に作用してエンゲージメントに影響を与えるかを考慮していない
・現在の研究結果からは、これらの教室要因がエンゲージメントに影響を与える際に、相加的に作用するのか、相乗的に作用するのか、ある文脈要因が他の要因の不在を補うのかどうかは明らかではない

個人のニーズ

・個人のニーズが文脈的要因とエンゲージメントの関係を媒介すると想定
・Connellのself-system model(Connell, 1990; Connell & Wellborn, 1991)は、個人のニーズとエンゲージメントに関する最も一般的な理論
 ・人間には関連性、自律性、有能性という基本的心理的ニーズがあり、学生が教室環境がこれらのニーズを満たしていると認識する程度によって、学生が学校にどれだけ熱心に取り組むか、あるいは熱心に取り組まないかが決まる
 ・しかし、文脈、ニーズ、エンゲージメントの測定値を同一の研究に含める学者はほとんどいない
 ・代わりにほとんどの研究は個人のニーズとエンゲージメントの直接的な関連性を単純に調査している

関連性の必要性
(関連性のニーズが満たされると、生徒はより積極的に授業に参加する)
・教師や仲間が思いやりと協力的な環境を作り出す教室で起こりやすいだろう。人間関係の感情的な質として捉えられる関連性をより強く感じている小学生は、教師の評価によると、より積極的に授業に参加していることが分かった(Connell & Wellborn, 1991)。
・教師、両親、同級生との関連性を認識することが、情動的エンゲージメントに独特な貢献をしている(Furrer and Skinner, 2003)
・感情的・行動的エンゲージメントを総合的に測定した結果、教師との関係に安心感を抱いている中学生ほど、高いエンゲージメント度を示している(Ryan, Stiller, Lynch, 1994)

(学校への帰属意識)
・帰属とは、他者から受け入れられ、尊重され、仲間として認められ、励まされているという個人の感覚と定義される(Baumeister & Leary, 1995)
・帰属意識はエンゲージメントと関連し、最終的にはドロップアウトの決定に繋がる(Osterman, 2000)
・思春期における学校への帰属意識と努力、行動的エンゲージメントの一側面との間に肯定的な関連性がある(Goodenow, 1993; Goodenow & Grady, 1993)
・生徒のコミュニティに対する認識とポジティブな感情および内発的動機づけとの間に肯定的な関連性がある(Battistich et al., 1997; Solomon, Battistich, Watson, Schaps, & Lewis, 2000)


(媒介効果の検証不足)
・これらの研究はすべて、関連性への欲求、または類似した欲求とエンゲージメントとの間に直接的な関連があることを示しており、関連性への欲求がコンテクストとエンゲージメントの関係を媒介するかどうかの検証はできていない
・Roeser, Midgley, Urdan(1996)のみ媒介関係を示唆:教師と生徒の関係が良好であるという認識が学校に関連する肯定的な感情を予測し、この関係は学校への帰属意識を通じて媒介される

自律性の必要性
・人は、他者によって行動が管理されているのではなく、個人的な理由で物事をしたいという欲求、すなわち自律の必要性を持っている(Ryan & Connell, 1989)
・自律の必要性は、学生が選択肢を持ち、共同で意思決定を行い、外部からの管理から相対的に自由である状況において最も満たされると考えられており、個人の自律のニーズが満たされると、より積極的に取り組むようになると考えられている(Connell & Wellborn, 1991)
・学校の課題に対して、興味や楽しみのためなど、より自律的な(内的な)内発的動機は、行動的エンゲージメント(参加や作業へのエンゲージメントなど)や情動的エンゲージメント(興味や幸福など)と正の関連(Connell & Wellborn; Patrick et al., 1993)
・自律性スタイルとポジティブな感情との間に肯定的な関連性あり(Ryan & Connell, 1996)

(研究の課題)
・自律性支援がエンゲージメントを媒介するのかの検証は行われていない

能力に対するニーズ
・能力には、コントロール、戦略、能力に関する信念が関わっている(Connell & Wellborn, 1991; Skinner et al., 1990)
・個人の能力に対するニーズが満たされると、成功を決定できる(コントロール信念)、うまくやるために必要なことを理解できる(戦略信念)、成功できる(能力信念)と信じるようになる
・生徒が教室を最適な構造として経験し、望ましい成果を効果的に達成する方法について十分な情報を得ている場合、生徒の有能さへの欲求は満たされる(Connell & Wellborn; Skinner & Belmont, 1993)

(能力とエンゲージメントの関係)
・認識された能力と統制信念は、小学校および中学校の時期における行動および情動的エンゲージメントと関連(Connell et al., 1994; Rudolph et al., 2001; Skinner et al., 1990)。
・統制感が高いと、エンゲージメント(行動と感情の複合尺度)の低下を防ぐ(Skinner, Zimmer-Gembeck, Connell, 1998)

(期待信念や自己概念とエンゲージメントの関係)
・期待信念(Eccles et al.,1983)や能力に関する自己概念(Harter,1983)も認知的エンゲージメントと関連
 ・中学と高校の両方において、期待値の測定は生徒の認知的およびメタ認知的戦略の利用を予測(Pintrich & De Groot, 1990; Pintrich & Garcia, 1991; Zimmerman & Martinez-Ponz, 1992)
 ・ValeskiとStipek(2001)は、1年生の生徒の学業能力に対する認識が、教師の学習へのエンゲージメントの評価と有意に関連していることを発見

(研究上の課題)
・一般的に、研究ではニーズとエンゲージメントの直接的な関連性が検証されている
・ニーズが文脈的要因とエンゲージメントの間にどの程度介在しているかについては、ほとんど検証されていない
・最も研究が進んでいないのは、ニーズと認知的エンゲージメントの関係
・研究対象は小学生が中心で、マイノリティの子供や年長性とへの適用は未検証
・ニーズに基づくエンゲージメントの理論的枠組みは、個人と文脈の相互作用を調査する有望な方法だが(Connell, 1990; Connell & Wellborn, 1991)、媒介効果の実証研究が驚くほど少ない

結論と今後の方向性

・エンゲージメントは多面的であり、学生の行動、情動、思考の前兆や結果に関する研究分野を結びつける可能性を秘めている
・エンゲージメントは「好き」や「参加」から始まるかもしれないが、それは「コミットメント」や「投資」に繋がる可能性があり、それゆえ学生の無関心を減らし、学習を向上させる鍵となるかもしれない
・各タイプのエンゲージメントは、実用的な目的のために通常は別々に研究される概念を統合する可能性がある
・エンゲージメントは可変的であり、個人と環境の両方の機能であると推定され、個人の特性や一般的な傾向よりも容易に変化させることができる
・エンゲージメントは、学校や教室レベルにおける社会的および学術的な環境におけるさまざまな先行要因から生じる可能性があり、幅広い介入を可能にする

多面的概念としてのエンゲージメント
・これまでの研究では、行動、情動、認知の3要素を包括するエンゲージメントの可能性が十分に活用されてこなかった(大半の研究は、1つのタイプのエンゲージメントと1つの興味ある結果、例えば行動的エンゲージメントと達成の相関関係といったものを検証)

(文脈的要因の影響が不明)
・3つのタイプに同時に影響を与える複数の教室における先行要因の影響を調査しておらず、どの文脈的要因または要因の組み合わせが各タイプに最も影響を与えるのかはわかっていない
・文脈的要因間の整合性がエンゲージメントにどのような影響を与えるのか、異なるタイプのエンゲージメントがどのように相互作用するのかもわかっていない(Guthrie & Wigfield, 2000)

(エンゲージメントの最適水準に関する疑問)
・エンゲージメントを常に高めることが望ましいのか、特定の成果を達成するには特定の要素が一定量あれば十分であるのか等の閾値に関する疑問
・この問題を解決するためには、非線形関係のテストが必要

(分析手法の限界)
・ほとんどの研究では、関連する次元間の線形関係を前提とし、モデル内の他のすべての要因を考慮する変数中心の手法が用いられている
・しかし、パターン中心の分析手法は、行動、情動、認知のエンゲージメントのさまざまな構成を調査するために使用でき、エンゲージメントのさまざまな構成や構成要素間の相乗効果の望ましさに関する重要な疑問の答えを導くのに役立つだろう(Blumenfeld et al., in print; Connell & Wellborn, 1991; Patrick et al., 1993)

定義と測定の明確化
(3タイプのエンゲージメントの統合)
・エンゲージメントの統合的な定義することで、より大きな概念に統合することが可能
・しかし、3つのタイプのエンゲージメントの定義はそれぞれ異なり、構成要素にはかなりの重複がある
・各タイプのエンゲージメントに統合される概念の定義と測定は、単一の概念に焦点を当てた研究よりも精度が低くなる

(測定手法の問題)
・多くの研究では、単一の尺度や異なる尺度の平均値を組み合わせるという手法が用いられている
・この手法では、一般的なエンゲージメントのレベルを測定することは可能だが、文脈的要因、成果、および各タイプのエンゲージメントの関連性を解明するには不十分(Skinner & Belmont, 1993; Patrick et al., 1993)
・教室と学校レベルのエンゲージメントを統合すると、違いが見えにくくなる(Stipek, 2002)

(概念の明確さと実用性のジレンマ)
・概念の明確性と実用性との間に緊張関係がある
・より理論的な理解を深めることを目的とする場合、それぞれの概念を詳細に検討することが必要だが、必要な調査質問の数が多くなることや、学校での調査実施に時間的な制約があることから、現実的ではないかもしれない

(理論的混乱の問題)
・現在、エンゲージメントは理論上、混乱している
・時には他の概念と重複し、時には同じ概念に対して異なる用語を単に置き換えているにすぎず、時には他の文献から得た概念を正確ではなく非常に一般的な方法で取り入れているにすぎない
・包括的な概念の利点が、その概念が内包する個々の概念の特異性の欠如という欠点を上回るかどうかを考慮する必要がある
・私たちの懸念は、エンゲージメントが幅広い研究を統合する包括的な概念として実質的な利益をもたらす一方で、すべての人にとっての万能薬であるがゆえに、問題を抱えているということである

発達上の問題と縦断モデル
・エンゲージメントについては、小中高の各年代で研究が進められてきたが、先行要因の研究は3つの年代に均等に広がっているわけではない
・今後の研究では、学習や学校教育の価値に深くのめり込むにつれて、学習へのエンゲージメントが文脈に依存しなくなるかどうかを明らかにする必要がある
・エンゲージメントに関する研究のほとんどは横断的研究であるが、行動、感情、認知のエンゲージメントがどのように発達し、それらが相乗効果を持つかどうかを明らかにするには、縦断的研究が必要
・今後の調査における重要な問い
1. どのタイプのエンゲージメントが低学年の間に多く見られるか?
2. 3つのタイプのエンゲージメントは、どのようにして時とともに進化し変化していくのか?
3. 年齢層によって、コンテクストのどの側面がより重要となるのか?

・Finn(1989)の参加者同一化モデルは、参加(行動的エンゲージメント)が同一化(情緒的エンゲージメント)を高め、それが参加を増加させるという仮説

個人の柔軟性とコンテクストの相互作用
・縦断的研究が限定的で、コンテクストの変化に対するエンゲージメントの反応性については疑問が残る
・調査では、教室、学校、学問、社会関係に関する問いが組み合わされることが多く、エンゲージメントの原因、エンゲージメントとコンテクストの関係、条件が変化した場合のエンゲージメントの変化を特定することは困難
今後、注目すべき重要な分野の一つ:学校や教室での介入が、行動、情緒、認知面での学習へのエンゲージメントに与える影響
・学習達成度を向上させることを目的とした学校改革は広く実施されているが、学習へのエンゲージメントを明確に改善することを目的としたものではなく、学習へのエンゲージメントに影響を与える背景的要因を暗黙のうちに標的としていることが多い(Borman et al., 2003)
このような介入研究に学習へのエンゲージメントの測定を含めることで、学習へのエンゲージメントが背景的要因と学習達成度に関連する成果との媒介要因としてどの程度機能しているかについての洞察が得られる
・エンゲージメントは個人と環境の相互作用にあると想定しているが、現在の研究では、このような相互作用がどのようにエンゲージメントを生み出すのかについて、十分な情報が得られていない
・同じ教室にいる子どもたちが、同じ先行要因に対して異なる反応を示す理由も明らかになっていない
・今後の研究では、異なる個性を持つ生徒のサンプルを対象に、自己システムモデル(Connell & Wellborn, 1991)のような個人-環境モデルを使用ことにより、異なるタイプの生徒の学習への参加を促す上で、教室の環境のどの側面が最も顕著であり、したがって最も重要である可能性が高いかが明らかになるだろう
・学校や教室の要因が、さまざまな民族や人種グループ、社会階級の子供たちの行動、情動、認知のエンゲージメントにどのような影響を与えるかという調査も必要

複数の方法の使用
・学習へのエンゲージメントを研究する際に使用される方法の種類が限られている
・多くの研究では、生徒と教師を対象としたアンケート調査を行っており、学習へのエンゲージメントに影響を与える状況要因を列挙することはできるが、それらがどのようにして、またなぜそうなるのかを理解するためには、教室の状況に関する詳細な記述が必要
・生徒の学習へのエンゲージメントの現象学を理解するための質的アプローチを用いた研究が必要
・質的調査法は、生徒がきわめて複雑で時に矛盾する学校環境の中で、教育の意味や目的をどのように構築していくのかというプロセスを明らかにすることができる(Locke-Davidson, 1996)
・アイデンティティの形成、学校の環境、そして学校へのエンゲージメントの間の複雑な相互作用を調査する質的研究は、一部の生徒が学校でうまくやっている理由と、そうでない生徒がいる理由を理解する上で極めて重要(Conchas, 2001; Locke-Davidson; Mehan et al., 1996)
・家庭や地域社会が学校へのエンゲージメントに与える影響を調査する長期にわたる民俗学的研究は、労働者階級や移民の生徒のアイデンティティ形成や学校へのエンゲージメントにおける多様性を説明する上で非常に有益(MacLeod, 1995; C. Suárez-Orozco & M. M. Suárez-Orozco, 2001を参照)
・定義、測定、設計は、エンゲージメントの多面的な概念化が提供できるものを十分に活用していない
・3つのエンゲージメントのタイプ間の相違、および各タイプ内の概念間の相違を明確にする必要
・個々のエンゲージメントのタイプが、先行要因の結果として、あるいは成果への影響として、組み合わさった研究はない
・パターン中心の分析手法ではなく、変数中心の分析手法が用いられており、相互作用や相乗効果に関する情報はほとんどない
・縦断研究や介入研究がほとんどなく、エンゲージメントの形成や可塑性についてほとんど明らかにされていない
・今後の研究では、個人と環境の相互作用を研究することの難しさに取り組む必要がある
・教育環境が提供する機会に個人がどのように反応するか、また、その違いが学校での成功にどのような影響を与えるかについて、年齢、個人、人種、文化による違いについて、より詳しく知る必要がある
→多様な方法、観察、民俗学的研究が、このエンゲージメントに貢献するだろう


ここまで。
約50ページと分量も多く読み切るのにも時間がかかりましたが、スクールエンゲージメントについて広く深く学ぶことができた良き論文でした。スクールエンゲージメントについてするならこれが土台になると言っても過言ではなさそうです。
スクールエンゲージメントには「行動」「情動」「認知」の3つのタイプがあり、それぞれのアウトカムや測定方法、課題について概観することができました。3つのタイプを測定し、それが成績や特定のスキルといったアウトカムとどのように関連しているのかを考察してみるのも面白そうだと思いました。
学業成績を高めるためにも、ドロップアウトを防ぐためにもエンゲージメントは重要な鍵となります。
「何を教えるか」「どのように教えるか」という点だけでなく、「いかにして生徒や学生のエンゲージメントを高めるか」という観点でもっと考察してみる必要がありそうです。自分も学生のエンゲージメント向上に繋がる取り組みをどんどんやっていきたいと思いました。

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