プロジェクト型学習(PBL)が生徒のエンゲージメント(行動・認知・情動)に与える影響について調査した論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:18,058件 (2025年3月10日時点))
Johnson, C. S., & Delawsky, S. (2013). Project-based learning and student engagement. Academic research international, 4(4), 560.

当論文では、PBLとPBLではない授業の2つのパターンで、生徒の行動的、認知的、情緒的エンゲージメントに与える影響を比較しています。
このエンゲージメントの3つのタイプは、ちょうど先日読んだ論文で示されていました。
著者は、ほとんどの研究がPBLへの行動的エンゲージメントを比較しているのに対し、本研究では、以下のように認知面および情動面でのエンゲージメントに対するPBLの影響も分析していることがユニークな点であると述べています。
・行動的エンゲージメント:参加する、課題に取り組む等
・認知的エンゲージメント:学習に対する思考や自己管理にも参加する等
・情緒的エンゲージメント:学習内容に個人的な興味や楽しみを見出す等

研究方法
・PBLと従来の指導法の単元で行動・認知・情動的エンゲージメントを比較
・チェックリスト、アンケート、出席記録、テスト結果で評価

対象者
・ブリティッシュコロンビア州北部の11年生の化学のクラスの生徒

RQ 1:PBLが生徒の行動的エンゲージメントにどのような影響を与えるか?
・行動的エンゲージメントとは、課題に集中する、他の生徒が課題に集中できるようにする、授業に出席するなどの行動などを指す
・アンケート、サーベイ、出席記録が使用された
 ・アンケート結果:PBLの授業では、非PBLの授業ほどには、生徒の行動的エンゲージメントは見られなかった
 ・Student Engagement Surveyの結果から、生徒は両方の学習ユニットで行動的にエンゲージメントしていたことが推測された
  ・非PBLのユニットの終了時には、中央値2のスコアが得られ、生徒はほぼ常に学習に熱心に取り組んでいたことが示された。これは、生徒が単元の終了間際で、単元テストを控えていたことが原因である可能性がある。
 ・出欠席記録:PBLでは、欠席がともに増加(総欠席数は3%増加)
  →生徒たちは、新学期の最初の2か月後から学校に興味を失い始めたのかもしれない。従来、学期の半ばには生徒の出席率とモチベーションが低下する時期があったが、PBLのユニットが実施されたのはその時期であった

RQ2:PBLが生徒の認知的エンゲージメントにどのような影響を与えるか?
・アンケート結果:PBLでは、生徒はそれほど多くを学んだと感じていないことが示された
 ・生徒たちは仲間と協力して情報を調査する自由を経験したため、学習というよりも社交的な活動だと感じたのかもしれない
・サーベイの結果、非PBLとPBLとの間で、認知的エンゲージメントに違いは見られなかった
・単元テストの結果:PBLの方が非PBLよりも高い得点が得られた(PBLの平均得点は12%上昇)

RQ3:PBLが生徒の情緒的なエンゲージメントにどのような影響を与えるか?
全体的には、両方の評価基準から、生徒はPBLユニットと非PBLユニットの両方で情動的にエンゲージメントしていることが示された。
PBLの使用が生徒の情動的なエンゲージメントに与える影響については、結論は出ていない。

・アンケート:生徒は両ユニットにおいて、一貫して授業や学習環境を楽しんでいることが分かった
 ・しかし、PBLで実施された作業はそれほど楽しんでおらず、学習体験を繰り返したいという意欲もあまり見られなかった
(考えられる学習体験満足度低下の理由)
 ・新しい学習環境で与えられた課題をどのようにこなせばよいのかが不明瞭なため、教授法の変化に多少のストレスを感じていることが原因である可能性がある
 ・課題を「正しく」こなせていないのではないかという不安から、リスクを冒したり創造性を発揮したりすることを恐れる生徒もいた
 ・学んだことを発表する形式を選択する際に与えられた自由に対して、多少の不快感も見られた
 ・一部の生徒は教師の影響力を強め、生徒の選択肢を減らす必要があると感じた
 ・生徒は探究を進める中で、フラストレーションを感じることもあり、プロジェクトに必要な情報を探し出すのに苦労することもあった
・サーベイ:両方において、生徒はほぼ常に情動的にエンゲージメントしていると感じていた
 ・PBLユニットの途中では、情動的エンゲージメントの度合いが中央値で減少した

ここまで。
PBLによる3つのタイプのエンゲージメントへの影響を端的にまとめると以下のようになります。
・行動的エンゲージメント:PBLにより若干減少した
・認知的エンゲージメント:PBLにより大幅に改善された
・情動的エンゲージメント:使用した教授法に関わらず高い水準を維持した(一部、PBLの体験を楽しんでいない者もいた)

行動的エンゲージメントがPBLによって減少したという結果はかなり意外な結果でした。
むしろ、参加を促すのがPBLの特徴・メリットだと思っていたからです。
この点の理由について、筆者は以下のような考察をしています。
・時期的な問題①:テスト直前の時期では、生徒は従来型教育のスタイルに熱心に取り組む
・時期的な問題②:従来、学期の半ばには生徒の出席率とモチベーションが低下する(PBLはこの時期に実施した)

また、情動的エンゲージメントに対しても、一部体験を楽しんでいない者がいた/学習体験を繰り返したいという意欲もあまり見られなかった、というのも注目すべき点だと思いました。この点について、は以下のように考察されています。
・PBLの課題をどうこなせばよいのかが不明瞭で、教授法の変化に多少のストレスを感じている可能性
・リスクを冒したり創造性を発揮したりすることを恐れる生徒もいた
・一部の生徒は教師の影響力を強め、生徒の選択肢を減らす必要があると感じた
・プロジェクトに必要な情報を探し出すのに苦労し、フラストレーションを抱える生徒もいた
これらについては、プロジェクトの難易度や設計の問題なのではないかと感じました。
PBLは、生徒のレベルに合わせて、難易度や構造化の度合いなどはうまく調整していく必要があります。
特に、生徒がPBLのような学習法に慣れていない場合は、難易度が易し目で、ある程度構造化したプロジェクトの方が適していると思います。その辺りに乖離があったのかもしれません。(論文からはこの辺りは分かりませんでした)
あくまで予想ですが、上記のような点がうまく噛み合ったPBLであれば、おそらく3つのエンゲージメントは全て向上するのではないかと思いました。この点について、もう少し掘り下げて考察してみたいです。
調査について、アンケートの内容や結果などのデータが掲載されておらず内容を確認することができませんでした(この点は少し残念でした)


以下、メモ
・PBLの背景にある考え方は、生徒が情熱を傾けられるものを探求し、「意義のある学習体験をもたらすプロジェクトを創造する」ことを奨励することで、生徒を学習に引き込むというものである(Wurdinger et al., 2007, p. 151)
・生徒たちがPBLを活用して情熱を探究する場合、教師の役割はエンターテイナーではなく、ファシリテーターとなる(Cook, 2009)
・学校における学習意欲の低い生徒の増加は、教育システムの再構築の必要性を示している(DiLullo, et al., 2011; Harris, 2010; Harris, 2011; Hug et al., 2005; Huizenga et al., 2009).
・教育システムは、産業革命の時代ではなく、21世紀の時代を反映して進化する必要がある(Trilling & Fadel, 2009)
PBLは、3つのエンゲージメントすべてを向上させることが示唆されている教授法の1つである(Zyngier, 2007)
・生徒の積極的なエンゲージメントが高校の修了と生徒の自己効力感に相関関係があることに同意している(Harris, 2010; Thijs & Verkuyten, 2009)
・「魅力的な教授法には、生徒とのつながり、生徒による作業の所有、生徒の経験への対応、そして生徒が違いを生み出せるという信念を生徒に与えること」が含まれるべきである(Zyngier, 2007)
 →PBLは、これらの要素をすべて包含している
PBLとは、「生徒が段階的な本物の課題に共同で取り組み、最終的なプロジェクトを開発する、生徒中心の学習アプローチ」(Mills, 2009, p. 607)
・「PBL型の指導は、生徒の態度や意欲を向上させることが示されている」(Ravitz, 2010, p. 294)

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