情動調整、自己効力感、学業成績の関係性と、自己効力感の媒介効果について分析した論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:96件 (2025年3月24日時点))
Usán Supervía, P., & Quílez Robres, A. (2021). Emotional regulation and academic performance in the academic context: The mediating role of self-efficacy in secondary education students. International journal of environmental research and public health, 18(11), 5715.

ポイントをざっくりまとめます。
【対象者】
スペインの12歳から18歳の中等教育課程の生徒2,204名

【仮説】
(a)自己効力感は情動調整と学業成績に関連している
(b)適応行動には、自己効力感の高さ、情動調整、学業成績を特徴とする行動パターンがある
(c)自己効力感は情動調整と学業成績の関係において媒介的役割を果たす

【使用尺度】
①情動調整:Emotion Regulation Questionnaire(ERQ)を用いて測定
 ・青年がどのように感情を調整しているかに関して、2つの次元、認知的再評価と感情抑制に関して、同意の度合いまたは同意しない度合いを表す
 ・「強くそう思わない」(1)から「強くそう思う」(5)までの5段階のリッカート尺度
②自己効力感:Academic Self-Efficacy Scale (ASES)を用いて測定
 ・学業における自己効力感を測定する10項目で構成
 ・「強くそう思わない」(1)から「強くそう思う」(5)までの5段階のリッカート尺度
③生徒の学業成績:1学期の成績表の平均評定値を0〜10点の尺度で測定

【データ分析】
①記述統計:性別・年齢・学年・学校種別・留年経験などの基本情報を整理し、サンプルの社会人口統計的プロフィールを作成
②相関分析:情動調整・自己効力感・学業成績の間の関連をSPSS v26.0を用いて検討
③K平均クラスター分析:標準化されたスコアに基づき、学生を3つのグループに分類し、変数間の類似性から統計的に意味のあるグループ分けを実施
④媒介分析:SPSSのMACROとブートストラップ(10,000回)を用い、感情調整が自己効力感を介して学業成績に影響するかを検証

【結果】
・情動調整は自己効力感および学業成績と相関
・学業成績は自己効力感と相関
table3

情動調整、自己効力感、学業成績の有意なグループにおけるクラスター分析
・サンプルを統計的に有意な3つのグループに分けるためにK平均クラスター分析を実施
 ・グループ1:情動調整と自己効力感のスコアが低く、学業成績が悪い
 ・グループ2:3つの変数すべてにおいて平均に近いスコア
 ・グループ3:3つの変数すべてにおいて平均を大きく上回るスコア
table4

情動調整と学業成績の関係における自己効力感の媒介効果
・自己効力感が情動調整と学業成績の関係において媒介的な役割を果たしていることが示唆された
 ・情動調整→自己効力感の媒介効果は0.35 *** (情動調整が高いほど自己効力感も高まる)
 ・自己効力感→の学業成績の媒介効果は0.33 *** (自己効力感が高いほど学業成績が良くなる)
 ・情動調整→学業成績(直接効果)は0.05, p < 0.10で有意ではない
 →自己効力感との組み合わせにより(0.20, p < 0.001)(直接効果+間接効果)の結果が得られた
fig1

以上のことから、3つの仮説に対しての結論をまとめます。
(a)自己効力感は情動調整と学業成績に関連している◯
→相関分析の結果、自己効力感は情動調整及び学業成績の両方と有意な正の相関

(b)適応行動には、自己効力感の高さ、情動調整、学業成績を特徴とする行動パターンがある◯
→K平均クラスター分析から3グループに分類され、うちひとつは、高い情動調整力・自己効力感・学業成績という適応的特徴を示した

(c)自己効力感は情動調整と学業成績の関係において媒介的役割を果たす◯
→自己効力感は情動調整と学業成績の間の媒介変数として統計的に有意であった

ここまで。
当論文のメインディッシュ的な部分ではありますが、自己効力感が情動調整と学業成績の間を媒介するというのが1番の気づきでした。つまり、情動調整スキルが高いだけでは必ずしも学業成績の向上に繋がるとは限らないものの、そこに自己効力感が伴うことで、学業成績の向上へと繋がる可能性が高まる、ということです。
このことから、情動調整スキルだけに着目するのではなく、自己効力感を高めることについても考えた上で授業を設計する必要があるなと感じました。
ちなみに、本論文で紹介されていましたが、自己効力感には以下のような媒介・調整等の効果があるようです。
【自己効力感の他の概念への影響】
・自己効力感は、学業成績と内発的学習動機の関係を媒介する(Alhadabi and Karpinski, 2020)
・自己効力感は、学習スキルと学業成績の関係を媒介する(Avalos et al., 2018)
・自己効力感は、情動調整とマインドフルネス技法との関係を媒介する(Luberto et al., 2014)
・自己効力感は、情動知能と学業成績との関係を調整する(Udavar et al., 2020)
・自己効力感は、学業成果に対する期待-価値信念に影響を与える(Alipio, 2020)

色々な面で自己効力感はポイントになりそうですね。

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