大学生のチームワークに対する期待と態度を測定するための尺度開発論文をレビューします。

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Stobbe, B., Lau, J., Justus, B., & Minosky, S. (2023). Development and Preliminary Validation of the Teamwork Expectations and Attitudes Measure (TEAM). Kwantlen Psychology Student Journal, 18-36.

大学生が教室内のチームでどの程度効果的に協働できているかに対する認識(態度)を測定するための尺度開発論文です。
まずは、既存尺度の先行研究レビューから始まります。

既存尺度
チームワークを測る尺度は以下のような様々なものがある。
(一般的なチームワークに対する態度を測る尺度)
・Beliefs about Groups Scale (Karau & Elsaid, 2009)
・Collective Orientation Scale (Driskell et al., 2010)

(特定のチームメンバーの能力を図る尺度)
・Teamwork knowledge, Skill, Ability Test(Stevens & Campion, 1994, 1999)
・Teamwork Competency Test(Aguado et al., 2014)

(チーム内の役割認識を測る尺度)
・Team Role Self-Perception Inventory(Belbin, 1981)

(チームの機能性・有効性を測る尺度)
・Group Attitude Scale (GAS; Evans & Jarvis, 1986)
・Teamwork Scale (French et al., 2016)

(既存尺度の問題点とギャップ)
・医療や職場向けが多く(例;TeamSTEPPS Teamwork Attitude Questionnaire; Baker et al., 2010)、教育現場向けの短く信頼できる尺度が不足
・項目数が多い(例:Hartsough & Davis, 1986; Loughry et al., 2007; O'Neil et al., 2018)
・妥当性や信頼性が批判されている(例:O'Neil et al., 2012; Rusticus & Justus, 2019; White et al., 2005)

目的
・上記の既存尺度の問題点を解決すべく、学生が自身のチームが機能している程度を評価する新たな尺度(Teamwork Expectations and Attitudes Measure (TEAM))の開発と検証を行う
・教室内の学部生チームを対象に、チームが目標達成のために協力して機能している程度を評価するために設計
・チーム機能に関する学生の認識は、チームメンバー、チームリーダー、教員、またはクラスベースのチームのパフォーマンスを分析する研究者にとって有用である可能性がある。本研究では、カナダの西部にある大規模な大学で学部生を対象に2つのパイロットテストを実施し、TEAMで開発された項目の質を評価し、尺度を最終版に精緻化した。その後、TEAMの信頼性と妥当性をさらに検証するための予備的な検証研究を実施した。

尺度開発
・尺度開発にあたって、2回のパイロット研究を実施
・演繹的推論(理論から)と機能的推論(実証データ)からの両方を用いて、TEAM尺度の基礎となる75項目の初期質問項目を作成
 ・演繹的推論:Johnsonら(1991)の協同学習に必要な5要素をもとに項目を構成
 ・機能的推論:Rusticus & justus(2019)の「成功するチームの特徴(例:信頼やグループダイナミクス)」を反映

【グループがチームとして機能するために必要な5要素】(Johnson et al., 1991)
①positive interdependence:チームメイトは目標を達成するために互いに依存し合う
②face-to-face promotive interaction:すべてのチームメイトが、自分の分担分をこなす責任を負う
③individual accountability and personal responsibility:個人で行う仕事もあるが、チームメイトが建設的なフィードバックやサポートを与え合いながら、チームとして仕事を完了させるようなグループでの相互作用がある
④frequent use of interpersonal and small group social skills:チームメイトは、信頼構築、リーダーシップ、意思決定、コミュニケーション、コンフリクト解決といったスキルを開発し、応用するために、協力し合って仕事をする機会がある
⑤frequent, regular group processing of current functioning:チームが協力し合ってグループ目標を設定し、より効果的に機能するように進捗状況を監視し、適応させる
・上記と同様の要素は、Rusticus and Justus(2019)が実施した質的研究でも確認されている
 ・成功するチームとは、良好なコミュニケーション、信頼、目標と動機の一致、前向きなグループダイナミクス、公平な仕事量配分を持つチームであることがわかっている

1回目
・75項目のアンケートを233人に実施
・統計分析と因子分析で37項目に絞った

2回目
・37項目のアンケートを192人に実施
・因子分析により34項目に
・その後、相関・冗長性分析を実施し、最終的に14項目(1因子構造)に確定
・5段階評価(1=強くそう思わない~5=強くそう思わない)
・信頼性(α=.94)を確認

妥当性検証(Validation Study)
・2回目で作成したTEAMと以下の尺度を組わせて226名の参加者に実施
Group Attitudes Scale (グループ態度尺度)(GAS; Evans & Jarvis, 1986)
 ・20項目からなる尺度で、5段階(1 = 強く反対~5 = 強く賛成)で評価
 ・集団内での自分の行動というよりも、集団の力学に関連した感情や情動を測定するもの
 ・得点が高いほど集団に対して好意的であることを示す
 ・α=0.92
Instructional Preferences Scale(指導嗜好尺度)(IPS;Baetenら, 2016)
 ・40項目からなる尺度で、5段階(1 = 全くそう思わない ~ 5 = 非常にそう思う)で評価
 ・この尺度は、以下の4つの下位尺度で構成されている
 ①知識構築(Knowledge Construction:KC;13項目;α = .85)
 ・情報を選択・解釈・応用することで学習教材と積極的に関わることを好む傾向を測定
 ・得点が高いほど、そうした関わりを強く好むことを示す
 ②教師主導(Teacher Direction)
 ・得点が高いほど、教材の選択・解釈・応用において教員の支援を受けることを好む傾向を示す
 ③協同学習(Cooperative Learning:CL;10項目;α = .89)
 ・教材を学ぶ際に他の学生と協力して学習することを好む傾向を測定
 ・得点が高いほど、協同学習を好む傾向が強いことを示す。
 ④受動的学習(Passive Learning:PL;6項目;α = .74)
 ・3時間の講義のような伝統的な教員主導型の学習スタイルを好む傾向を測定
 ・得点が高いほど、受動的な学習スタイルを好む傾向が強いことを示す
Team Satisfaction Scale(チーム満足度尺度)(TSS; Rusticus & Justus, 2019)
 ・6項目からなる尺度で、5段階(1=非常に不満~5=非常に満足)で評価
 ・得点が高いほど、チームに対する全体的な満足度が高いことを示す
 ・α=0.91
Marlowe-Crowne social desirability scale (社会的望ましさ尺度)(MCSDS; Reynolds, 1982)
 ・33項目からなる尺度で、5段階(1 = 強くそう思わない、5 = 強くそう思わない)で評価
 ・得点が高いほど、社会的に望ましい反応をする傾向が強いことを示す
 ・α=0.78

仮説
・収束的妥当性(Convergent Validity):TEAMとGroup Attiitudes Scale(GAS1)は高い正の相関
・基準関連妥当性(Criterion-Related Validity)
 ・チーム満足度とは高い正の相関
 ・指導嗜好尺度
  ・協同学習:中程度の正の相関
  ・知識構築:小さな正の相関
  ・教師主導の学習:相関なし
  ・受動的学習:小さな負の相関
・判別的妥当性(Discriminant Validity):TEAMは以下と有意な相関を示さない
 ・教師主導の指導嗜好
 ・社会的望ましさ

結果
・確認的因子分析(CFA)を実施
 ・WLSMV推定量を用い、モデル適合度はCFI=.95、TLI=.94、SRMR=.05など、5つの指標のうち3つが良好な適合を示した
 ・尺度の信頼性(α)も.93と高かった
・妥当性を評価するための相関分析を実施
 ・収束的妥当性:TEAMはGAS(チーム態度尺度)と強い正の相関(仮説通り〇)
・基準関連妥当性:
 ・TSS(チーム満足度尺度)とも強い正の相関(仮説通り〇)
 ・IPS(指導嗜好尺度)
  ・協同学習(CL)とは中程度の正の相関(仮説通り〇)
  ・知識構築(KC)とは小さな正の相関(仮説通り〇)
  ・教師主導(TD)とは小さな正の相関(仮説(相関無し)に反する✖)
  ・受動的学習(PL)とは小さな正の相関(仮説(小さな負の相関)に反する✖)
・判別的妥当性: 社会的望ましさ尺度とは相関なし(仮説通り〇)

これらの結果を総合すると、TEAMが効果的なチームワークに対する態度の尺度として使用されることの裏付けとなる

その他のFindings
・最低評価項目:チーム内の仕事量の配分など
・最高評価項目:チームメンバー間の尊敬と感謝、共通の目標に向かって努力する能力を反映している

TEAMの活用意義
・学生自身・教員・研究者にとって、チーム機能の評価・課題の可視化に有用
・プロジェクト中間時に活用すれば、ソーシャルローフィング(社会的手抜き)「集団で作業するときに個人の努力や貢献が低下する現象」(Karau & Williams, 1993)
 ・ソーシャルローフィングは、チームメンバー間に不公平な仕事量の印象を与え、プロジェクト、コース、またはチームベースのプロジェクト全般に対する不満につながる可能性がある(Aggarwal & O-Brien, 2008; Williams et al., 2019)
・チーム内の問題を特定し対処することができれば、より前向きな学習環境、グループワークの経験、より良い学習成果を促進することができる(Williams et al., 2006)
・教育現場におけるチーム学習の改善や職業能力育成にも貢献

限界と今後の課題
・サンプルが単一大学の心理学系学生に限定されており、一般化には注意
・自己報告形式のため、実際の行動と一致しない可能性
・本研究は予備的検証であり、今後さらなる妥当性・信頼性検証が必要

結論
TEAMは、大学教育におけるチームワーク態度の測定に適した、信頼性・妥当性のある短縮尺度であり、教育・研究の両面で実用性が高いことが示された

ここまで。
大学の授業において、アクティブラーニング、とりわけグループワークを多用することが多い自分にとってこの尺度は非常に使えるなと思える内容でした。特に、比較的長い期間実施するPBLなどの授業の途中段階で当尺度を用いてグループの状況を把握することで、適切な介入ができれば、その後のグループワークをより効果的に実施できるようになると思いました。
項目も14項目と使い勝手も良さそうなので、是非活用してみようと思います。

table2

以下、メモ
・他者と協働することに否定的な考えを持ち、チームワークに参加したがらない学生もいる(Burdett & Hastie, 2009; Chiriac, 2014; Rusticus & Justus, 2019)
・否定的なグループ体験などを通じて、学生がグループワークに対して否定的な態度をとるようになると、将来のグループワークに関する認識に影響を与える傾向がある(Williams et al., 2019)
・グループワークに対して肯定的な態度を保持することは、全体的な学習の向上につながる(Williams et al., 2006)。

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