プロジェクト型学習(PBL)がチームワークスキルの向上においてどの程度有効かを定量的に分析したナイジェリアの論文のレビューです。
論文はこちら(被引用数:3件 (2025年4月23日時点))
Bakare, S. F., Ojulukunrin, R. W., Jagun, Z. T., Adedeji, O. O., & Olugbenga, A. (2021). The mediating impact of assessment process in the relationship between project-based learning and teamwork skills’ development. Journal of Management Info, 1(2), 1–15.
PBLの教育戦略がチームワークスキルの持続可能な発展に与える影響を定量的に分析するため、以下の3つの構成要素に基づく質問紙を用いて測定が行われています。
①プロジェクトベースの活動(PBL:Project-based Leanring)
②学習の評価プロセス(APL:Assessment Process of Learning)
③チームワークスキル(TWS:Teamwork Skills Development)
内容をざっとまとめます。
Abstract(要旨)
・背景:チームワークスキルは職業的成功に不可欠であり、PBLはその育成手段として有望とされている
・目的:PBLの有効性を評価し、その効果に対して評価プロセスが媒介するかどうかを検討する
・方法:ナイジェリアのTVE(Technical and Vocational Education)の学生205名を対象に質問紙を配布し、SEMを用いて分析(年齢は記載はありませんでしたが、おそらく中等教育卒業後の学校)
・結果:PBLはチームワークスキルに直接的な効果を持たないが、評価プロセスは有意な影響を与える
・結論:チームワークスキルの育成にはPBLよりも「評価プロセスの設計」が重要である
1. Introduction
・職場で効果的に機能することが期待される卒業生には、汎用スキル、特にチームワークスキルが求められている。これにより、専門的能力や職務関連知識を最大限に活用できるとされる。
(チームワーク)
・PurumassarとGovendar(2013)は、チームワークスキルおよびその他の汎用スキルが今日の労働世界においてますます不可欠なものとなっている
・チームワークとは、異なる背景を持つ個人と協働しようとする姿勢である(Griffin & Annulis, 2013;Kadam et al., 2020)
・Robles(2012)も他者との協力能力の重要性を支持
・Buntat(2004)は、チームワークを共同でタスクを遂行する能力と定義し、チームワークは、雇用可能性を高め、職場での生産性を促進するために必要であると述べている
・Strom et al.(2013)は職場で求められるチームワークを不可欠なスキルとみなしている
(PBL)
・PBLは、チームワークなどの汎用スキルを学生に教える上で有効なアプローチである(Huang, 2010)
・Awonranti et al.(2015)、Putri, Artini, & Nitiasih(2017)もその効果を支持
・ナイジェリアの文脈では、TVE分野におけるPBLの効果検証が未発達であり、本研究がそのギャップを埋めることを目的としている
1.1 理論的枠組み
・人的資本理論(Human Capital Theory)を理論的枠組みとしている
2. ヒューマン・キャピタル理論
・多くの学者は、人間が知識やスキルを内在化する能力を持つという見解に同意(Becker, 2009)
・Mincer(1989)による人的資本理論は、職業訓練が人的資本投資とそれに伴う賃金構造において、現実的なギャップを埋める可能性を強調
・Becker(1964)は、教育や訓練が個人の生産性を高め、それが職場でのパフォーマンスの向上につながると主張
・教育は、職務遂行と関連したスキルや能力を提供し、高等教育を受けた者は労働市場でより成功する可能性が高まる
・Marginson(2015)は、教育を促進する政策が目標達成の要素を備えているとし、教育への投資と労働市場での利益との間に正の相関があると述べている
・Robinson and Garton(2008)も、教育と生産的な労働力の育成が人的投資であるとし、教育と訓練は経済社会的発展に向けた準備のための戦略的手段であると強調
・技術・職業教育によるチームワークスキルの持続的な発展は、雇用能力と生産性の両方を向上させるため、PBLを通じて育まれるすべてのチームワークスキルは、仕事の獲得、適応、キャリア開発を目的とした制度的訓練において極めて重要であり、本研究において関連性があると考えられる
2.1 研究の目的
・プロジェクト型学習(PBL)における評価プロセスが、学生のチームワークスキルの持続的発展に与える影響を測定すること
・これまでに、PBLが学習実践やスキル開発を促進する価値については多くの研究が報告されている(Fernández-Sá et al., 2013;Musa et al., 2012;Nation, 2008;Yasin & Rahman, 2011)が、特に技術および職業教育分野において、PBLがチームワークの発展に与える影響を測定する研究は不十分または限定的であると指摘されている
2.2 仮説
1. PBLとチームワークスキルの間には有意な関係がある(H1)
2. PBLと学習における評価プロセスの間には有意な関係がある(H2)
3. 評価プロセスとチームワークスキルの間には有意な関係がある(H3)
3. 方法
・地域・対象:ナイジェリア南西部6州の技術・職業教育学生
・サンプリング:目的抽出法(purposive sampling)、247部配布(232部回収)、205部分析対象
・使用尺度:PBL実施度、評価プロセス(APL)、チームワークスキル(TWS)
・信頼性分析:Cronbachのα=0.86であり、十分な信頼性を示した
・データは、SPSS v22およびSEM-AMOS v22を用いて分析
4. データ分析
・データ分析には、IBM SPSS 22と、構造方程式モデリング(SEM)ソフトであるAMOS(v22)を使用
・仮説検証と構造モデル分析の実施により、因果関係と媒介効果が検討された(Awang, 2015)。
4.1 信頼性分析
・PBL(α=0.93)、TWS(α=0.88)、APL(α=0.76)で信頼性基準を満たす(>0.60)
4.2 測定モデル
・モデル適合度(CFI=0.975, RMSEA=0.041)などから測定モデルは良好
・構成信頼性(CR)と平均分散抽出(AVE)も適切
4.3 因子負荷量、合成信頼性(CR)、および平均分散抽出量(AVE)
・Hair, Ringle, および Sarstedt(2011)によれば、信頼性検定(Cronbachのα)および探索的因子分析(EFA)によってデータをスクリーニングした後、すべての反映指標の因子負荷量は0.6を超えている
・また、すべての反映概念の合成信頼性(CR)値は0.6を上回っており、個々の構成概念に対するAVEの値も0.5を超えていることがFigure 1に示されている

4.3 因子負荷量(Factor Loadings) / 合成信頼性(CR)/ 平均分散抽出量(AVE)
・すべての因子負荷量は0.6以上、CRは0.6以上、AVEは0.5以上と基準をクリア
4.4 構造モデル
・媒介変数の効果に関する仮説検証を進めるにあたり、構造方程式モデリング(SEM)を採用
・モデル全体の適合度は良好(Chi-square=196.179, p=.004, RMSEA=.040)
・Awang(2015)およびPallant(2011)によれば、媒介分析の状況におけるSEMの使用には利点がある
・利点の一つは、SEMが解釈と推定を容易にすること
・SEMは複雑な媒介仮説を一つの分析で検証できる点でも優れている
・Figure 3のパス図は、本研究で用いられた変数間の因果関係を示す


・同様に、表4では回帰の標準化係数およびモデル内のすべてのパスに対する有意性が示されている

5. 結果と考察
・仮説1:不支持(p=0.124) PBLはチームワークスキルに直接影響を与えない
・仮説2:不支持(p=0.256) PBLは評価プロセスにも直接影響しない
・仮説3: 支持(p=0.021) 評価プロセスがチームワークスキルに有意な影響
・評価プロセスが唯一の有意な影響因子であり、PBLは単体では効果が限定的。
・教育現場での「学習評価の質」が、チームワークスキルの育成において鍵である
・本研究の知見は、PBLの実施が学生に自己主導的な探究学習を促すと主張したBell(2010)の立場を支持するものである
5.1 Conclusion(結論)
・雇用者は、雇用可能性スキル(employability skills)を有し、それを実際に発揮できる卒業生を常に求めており、そのようなスキルは、組織全体の包括的かつ先進的なパフォーマンスを促進する、前向きな職場環境の創出に寄与する
・研究の結果、PBLは学生の学習を有意に促進し、容易にする効果があることが示唆された
・講師や指導者は、PBLアプローチを活用して学生のチームワークスキルの向上を図るとともに、評価プロセスを重要な要素として扱うことが推奨される
・特定のプロジェクトに対して協働して取り組むことで、学生のチームワークスキルが向上する
・PBLが学生のチームワークスキルを育成・維持するための有効な手段であることを示している
・将来の職場で専門性を最大限発揮するために、PBLは学生のチームワークスキルの育成と維持を支援する実効的な方法と考えられる
5.2 限界
・対象がTVE学生に限定されており、他分野への一般化に制限あり
・量的手法のみであり、今後は質的手法を組み合わせた研究が望まれる
・学生自身の認知や意識への理解も今後の課題
ここまで。
何よりもまず研究モデルが大変参考になりました。
一方、質問紙調査についてはもっと詳細に知りたかったです。既存のものではなくオリジナルで作成したもののようですが、取得したタイミングや何件法かなどの記載はありませんでした。
分析結果については、仮説が不支持であったように、PBLがチームワークスキルにも評価プロセスにも直接影響を与えないというのは超意外な結果でした。
一方、当論文の1番のポイントであろう、PBLは評価プロセスが媒介(mediation)して、間接的にチームワークを高めるということはしっかり覚えておきたいと思います。PBLを通してチームワークを育むためには、内省などの評価プロセスが鍵になるということですので、この辺りの気づきは実践に活かしていきたいと思いました。
論文はこちら(被引用数:3件 (2025年4月23日時点))
Bakare, S. F., Ojulukunrin, R. W., Jagun, Z. T., Adedeji, O. O., & Olugbenga, A. (2021). The mediating impact of assessment process in the relationship between project-based learning and teamwork skills’ development. Journal of Management Info, 1(2), 1–15.
PBLの教育戦略がチームワークスキルの持続可能な発展に与える影響を定量的に分析するため、以下の3つの構成要素に基づく質問紙を用いて測定が行われています。
①プロジェクトベースの活動(PBL:Project-based Leanring)
②学習の評価プロセス(APL:Assessment Process of Learning)
③チームワークスキル(TWS:Teamwork Skills Development)
内容をざっとまとめます。
Abstract(要旨)
・背景:チームワークスキルは職業的成功に不可欠であり、PBLはその育成手段として有望とされている
・目的:PBLの有効性を評価し、その効果に対して評価プロセスが媒介するかどうかを検討する
・方法:ナイジェリアのTVE(Technical and Vocational Education)の学生205名を対象に質問紙を配布し、SEMを用いて分析(年齢は記載はありませんでしたが、おそらく中等教育卒業後の学校)
・結果:PBLはチームワークスキルに直接的な効果を持たないが、評価プロセスは有意な影響を与える
・結論:チームワークスキルの育成にはPBLよりも「評価プロセスの設計」が重要である
1. Introduction
・職場で効果的に機能することが期待される卒業生には、汎用スキル、特にチームワークスキルが求められている。これにより、専門的能力や職務関連知識を最大限に活用できるとされる。
(チームワーク)
・PurumassarとGovendar(2013)は、チームワークスキルおよびその他の汎用スキルが今日の労働世界においてますます不可欠なものとなっている
・チームワークとは、異なる背景を持つ個人と協働しようとする姿勢である(Griffin & Annulis, 2013;Kadam et al., 2020)
・Robles(2012)も他者との協力能力の重要性を支持
・Buntat(2004)は、チームワークを共同でタスクを遂行する能力と定義し、チームワークは、雇用可能性を高め、職場での生産性を促進するために必要であると述べている
・Strom et al.(2013)は職場で求められるチームワークを不可欠なスキルとみなしている
(PBL)
・PBLは、チームワークなどの汎用スキルを学生に教える上で有効なアプローチである(Huang, 2010)
・Awonranti et al.(2015)、Putri, Artini, & Nitiasih(2017)もその効果を支持
・ナイジェリアの文脈では、TVE分野におけるPBLの効果検証が未発達であり、本研究がそのギャップを埋めることを目的としている
1.1 理論的枠組み
・人的資本理論(Human Capital Theory)を理論的枠組みとしている
2. ヒューマン・キャピタル理論
・多くの学者は、人間が知識やスキルを内在化する能力を持つという見解に同意(Becker, 2009)
・Mincer(1989)による人的資本理論は、職業訓練が人的資本投資とそれに伴う賃金構造において、現実的なギャップを埋める可能性を強調
・Becker(1964)は、教育や訓練が個人の生産性を高め、それが職場でのパフォーマンスの向上につながると主張
・教育は、職務遂行と関連したスキルや能力を提供し、高等教育を受けた者は労働市場でより成功する可能性が高まる
・Marginson(2015)は、教育を促進する政策が目標達成の要素を備えているとし、教育への投資と労働市場での利益との間に正の相関があると述べている
・Robinson and Garton(2008)も、教育と生産的な労働力の育成が人的投資であるとし、教育と訓練は経済社会的発展に向けた準備のための戦略的手段であると強調
・技術・職業教育によるチームワークスキルの持続的な発展は、雇用能力と生産性の両方を向上させるため、PBLを通じて育まれるすべてのチームワークスキルは、仕事の獲得、適応、キャリア開発を目的とした制度的訓練において極めて重要であり、本研究において関連性があると考えられる
2.1 研究の目的
・プロジェクト型学習(PBL)における評価プロセスが、学生のチームワークスキルの持続的発展に与える影響を測定すること
・これまでに、PBLが学習実践やスキル開発を促進する価値については多くの研究が報告されている(Fernández-Sá et al., 2013;Musa et al., 2012;Nation, 2008;Yasin & Rahman, 2011)が、特に技術および職業教育分野において、PBLがチームワークの発展に与える影響を測定する研究は不十分または限定的であると指摘されている
2.2 仮説
1. PBLとチームワークスキルの間には有意な関係がある(H1)
2. PBLと学習における評価プロセスの間には有意な関係がある(H2)
3. 評価プロセスとチームワークスキルの間には有意な関係がある(H3)
3. 方法
・地域・対象:ナイジェリア南西部6州の技術・職業教育学生
・サンプリング:目的抽出法(purposive sampling)、247部配布(232部回収)、205部分析対象
・使用尺度:PBL実施度、評価プロセス(APL)、チームワークスキル(TWS)
・信頼性分析:Cronbachのα=0.86であり、十分な信頼性を示した
・データは、SPSS v22およびSEM-AMOS v22を用いて分析
4. データ分析
・データ分析には、IBM SPSS 22と、構造方程式モデリング(SEM)ソフトであるAMOS(v22)を使用
・仮説検証と構造モデル分析の実施により、因果関係と媒介効果が検討された(Awang, 2015)。
4.1 信頼性分析
・PBL(α=0.93)、TWS(α=0.88)、APL(α=0.76)で信頼性基準を満たす(>0.60)
4.2 測定モデル
・モデル適合度(CFI=0.975, RMSEA=0.041)などから測定モデルは良好
・構成信頼性(CR)と平均分散抽出(AVE)も適切
4.3 因子負荷量、合成信頼性(CR)、および平均分散抽出量(AVE)
・Hair, Ringle, および Sarstedt(2011)によれば、信頼性検定(Cronbachのα)および探索的因子分析(EFA)によってデータをスクリーニングした後、すべての反映指標の因子負荷量は0.6を超えている
・また、すべての反映概念の合成信頼性(CR)値は0.6を上回っており、個々の構成概念に対するAVEの値も0.5を超えていることがFigure 1に示されている

4.3 因子負荷量(Factor Loadings) / 合成信頼性(CR)/ 平均分散抽出量(AVE)
・すべての因子負荷量は0.6以上、CRは0.6以上、AVEは0.5以上と基準をクリア
4.4 構造モデル
・媒介変数の効果に関する仮説検証を進めるにあたり、構造方程式モデリング(SEM)を採用
・モデル全体の適合度は良好(Chi-square=196.179, p=.004, RMSEA=.040)
・Awang(2015)およびPallant(2011)によれば、媒介分析の状況におけるSEMの使用には利点がある
・利点の一つは、SEMが解釈と推定を容易にすること
・SEMは複雑な媒介仮説を一つの分析で検証できる点でも優れている
・Figure 3のパス図は、本研究で用いられた変数間の因果関係を示す


・同様に、表4では回帰の標準化係数およびモデル内のすべてのパスに対する有意性が示されている

5. 結果と考察
・仮説1:不支持(p=0.124) PBLはチームワークスキルに直接影響を与えない
・仮説2:不支持(p=0.256) PBLは評価プロセスにも直接影響しない
・仮説3: 支持(p=0.021) 評価プロセスがチームワークスキルに有意な影響
・評価プロセスが唯一の有意な影響因子であり、PBLは単体では効果が限定的。
・教育現場での「学習評価の質」が、チームワークスキルの育成において鍵である
・本研究の知見は、PBLの実施が学生に自己主導的な探究学習を促すと主張したBell(2010)の立場を支持するものである
5.1 Conclusion(結論)
・雇用者は、雇用可能性スキル(employability skills)を有し、それを実際に発揮できる卒業生を常に求めており、そのようなスキルは、組織全体の包括的かつ先進的なパフォーマンスを促進する、前向きな職場環境の創出に寄与する
・研究の結果、PBLは学生の学習を有意に促進し、容易にする効果があることが示唆された
・講師や指導者は、PBLアプローチを活用して学生のチームワークスキルの向上を図るとともに、評価プロセスを重要な要素として扱うことが推奨される
・特定のプロジェクトに対して協働して取り組むことで、学生のチームワークスキルが向上する
・PBLが学生のチームワークスキルを育成・維持するための有効な手段であることを示している
・将来の職場で専門性を最大限発揮するために、PBLは学生のチームワークスキルの育成と維持を支援する実効的な方法と考えられる
5.2 限界
・対象がTVE学生に限定されており、他分野への一般化に制限あり
・量的手法のみであり、今後は質的手法を組み合わせた研究が望まれる
・学生自身の認知や意識への理解も今後の課題
ここまで。
何よりもまず研究モデルが大変参考になりました。
一方、質問紙調査についてはもっと詳細に知りたかったです。既存のものではなくオリジナルで作成したもののようですが、取得したタイミングや何件法かなどの記載はありませんでした。
分析結果については、仮説が不支持であったように、PBLがチームワークスキルにも評価プロセスにも直接影響を与えないというのは超意外な結果でした。
一方、当論文の1番のポイントであろう、PBLは評価プロセスが媒介(mediation)して、間接的にチームワークを高めるということはしっかり覚えておきたいと思います。PBLを通してチームワークを育むためには、内省などの評価プロセスが鍵になるということですので、この辺りの気づきは実践に活かしていきたいと思いました。
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