大学生の社会情動的能力をキャンパス環境でどのように向上させるかについて考察した論文をレビューします。
論文はこちら(被引用数:まだなし (2025年4月24日時点))
Zhang, M. (2023). PBL's analysis on embedding social and emotional learning in college classrooms. Advances in Educational Technology and Psychology, 7(14)
社会情動的能力(Social and Emotional competence)を育むSEL(Social and Emotional Learning)を大学教室教育に統合する理論的基盤を探究した論文。特にPBLに焦点を当て、SELを効果的に組み込むための教育方法を見出すことを目的とした内容となっています。
以下に全体をまとめます。
Abstract
・教室環境は、社会・情動的教育を効果的に実施するための重要な場である
・大学生の社会情動的能力は、カリキュラム学習にSELを組み込むことで向上させることができる
・その中でも、特別な社会・情動コースを設けることや、教科教育に社会情動的能力を統合することは、効果的な組み込み方法である
・学習の相互作用と協同学習を融合するプロジェクト型学習(PBL)は、教室に社会性と情動を埋め込む能力を高める効果的な手段である
・PBLの全過程においては、学生と自己、学生と他者、学生と集団との三重の関係性が構築され、それは社会・情動的な5つの能力・スキルと高度に統合され得る
・PBLの過程(プロジェクトの選定、進行、完了、評価)の各段階で、より詳細な設計が必要
・本研究の結論は、大学生の社会情動的能力をキャンパス環境でどのように向上させるかについて、有益な示唆を提供している
1. はじめに
・若者が主体的な市民性(active citizenship)を獲得するには、学問的知識だけでは不十分であり、責任ある意思決定、情動のマネジメント、協働、葛藤解決、レジリエンス、環境変化への適応など、より幅広い能力が求められる。これらは、現代の社会的現実や課題に冷静に対応するために必要である(Sala et al., 2020)
・今日、教育は学生の社会情動的能力の育成をますます重視している
・大学生の社会情動的能力の成長とは、社会・情動的知識の蓄積、スキルの向上、自他および集団との関係性における態度の変化という経験を通じて形成されるものである
・社会情動的能力とは、大学生が社会的状況に即時かつ適切に反応する能力として示される
・このような経験の広がりと能力形成は、学習、経験、思考が特定の学習および生活環境と長期的な実践の中で統合されることによって形成され、これにより、学生は感情を特定・マネジメントし、他者を思いやり、責任ある意思決定を下すことができるようになる
・現実の社会的発達は、学生が社会・情動の枯渇と、複雑な社会環境や生存・発展における複数の選択肢のもとで能力を欠く様子を示している。個性の追求、自己価値の最大化、激しい競争環境は、学生が他者や社会への無関心を生み、自分自身の苦闘に集中し社会から孤立する、あるいは利己的になり、他者を嘲笑・軽蔑したり、善悪の基準を見失うことにつながっている
・こうした状況の中で学生の「社会情動的能力」を育てるには、SELに注目する必要がある
・SELとは、学生の感情を発達させる活動であり、感情的経験を通して社会に参加する準備を促すための方法と過程である
・カリキュラムの知識には社会性があり、学生は知識学習を通じて社会的理性の感覚を得る認知的・知識的基盤を構築できる。これは、社会情動的能力を学校教育に統合するための最も効果的な方法の一つである(Cefai et al., 2018)
・教室でのSELは、学生が自己を理解し、自己を高め、社会や世界との意味のあるつながりを構築することを促す
2. 文献レビュー
社会的情動的能力の定義には、3つの代表的な見解がある。
①CASEL
・CASELは、社会情動的能力を最初に研究し、社会情動的能力モデルを構築した
・ゴールマンの情動知能理論に基づき、社会情動的能力を5つの能力に分類
1.自己認識
2. 自己管理
3. 社会的認識
4. 対人スキル
5. 責任ある意思決定
②OECD
・OECDは性格心理学の有名な「ビッグファイブ性格モデル」から教訓を引き出し、社会情動的能力を「個人の成功と社会的機能に関わる能力、属性、特徴の部分集合」と定義
・以下の6つの能力に具体的に分けている:
1. 課題遂行
2. 情動マネジメント
3. オープンな思考
4. 他者との協働
5. 協力
6. 複合的スキル
③中国的アプローチ
・中国教育部教師業務部門とユニセフが共同で組織したSELプロジェクトを代表として、DuとMao(2018)は「関係的存在(relational existence)」という社会構成主義および中国の集団主義文化の理論を組み合わせた
・社会情動的能力を「自己、他者、および集団との関係を認識し管理する能力」と定義
・以下のように分類している【3】
1. 自己認識
2. 自己管理
3. 他者認識
4. 他者管理
5. 集団認識
6. 集団管理
(社会動的能力の効果・重要性)
・社会情動的能力の発達は、学生の自己調整能力の向上、対人関係の改善、問題行動の減少、向社会的行動の増加、学業成績の向上を著しく促進する(Durak et al., 2011; Taylor et al., 2017)【4, 5】
・社会情動的能力が個人の成功に与える影響は、認知的要因をも上回ることがある(Yuan et al., 2021)
(社会情動的能力の評価・尺度)
・Marzano(2015)は、学習目標の明確化、学習目標の進捗、学習目標の達成に必要なステップに基づいた、社会情動的能力の形成的評価基準を開発【7】
・Siarova et al.(2017)は、形成的評価が、学生の個人的能力、社会的能力、実際の文脈での学習能力を観察・評価する機会を提供し、それが学生の深い学びを支援し、社会的相互作用への積極的な参加を促進すると指摘【8】
・Lan et al.(2021)とShao et al.(2021)は、社会・情動的教育評価の枠組み、原理、ツール、指標、道筋を提示し、学習者の社会情動的能力の形成的評価を包括的に実施【9, 10】
・Yuan et al.(2021)、Liu et al.(2021)、Tang et al.(2021)は、学習者の社会情動的能力を評価する指標やツールを開発・研究【6, 11, 12】
・Chen et al.(2023)は、中国の大学生に適した社会情動的能力尺度を開発した【13】
(社会情動的能力の発達に影響を与える要因)
・Bronfenbrennerの道徳生態系理論によると、個人は自らの環境に組み込まれており、個人とその環境は相互に影響し合い、個人の発達はその環境によって影響される。社会情動的能力は、個人、家庭、学校、その他のシステムの相互作用の中で育成され、その中でも教室環境は社会・情動的教育を実施するための重要な場である
(教育・カリキュラムの役割)
・カリキュラムの関連内容を補強・強化することは、学生の「社会情動的能力向上(Cefai et al., 2018)【2】」の主要な推進因子の1つ
・社会・情動的教育は、「個人能力、社会能力、学習能力」を生涯学習の重要な鍵と見なし、これはEUのカリキュラム改革における重要なトピック
・学生の社会的情動の欠如やキャンパス危機の問題を解決するため、各国の教育界はSELプロジェクトを打ち出し、学生の社会情動的能力の発達を促進
(教師教育・教室実践の視点)
・情動教育プログラムの効果的な実施が、教師教育において学生の専門的アイデンティティや職業倫理を促進し、理解に基づく思考を発達させる(Cui and Yang, 2022)【14】
・Guo and Wang(2022)は、教室での教育が、学生がSELを展開する上で重要な役割を果たし、社会的責任を確立し、社会的リテラシーを発展させることを助けると信じており、教室におけるSELの内容は、社会的理性、社会的道徳性、社会的美的感性、社会的責任の4つの側面を含むと述べている【15】
(家庭環境と学校の代替的役割)
・Yao and Chen(2022)は、異なる家庭教育パターンが大学生の社会情動的能力に与える影響を論じ、学校が家庭教育の不足を補うための代替的影響を持ちうることを指摘【16】
(心理・認知的要因の影響)
・Tang and Huang(2023)は、SSESデータに基づき、帰属意識が初等・中等教育における社会情動的能力育成において重要な役割を果たすと指摘【17】
・Huang et al.(2023)は、青少年を対象とした研究に基づき、目標志向的思考が社会情動的能力と正の相関を持ち、日常的にSELを教室に浸透させることが有効な介入手段であると述べている【18】
3. SELの教室への埋め込みとPBL
・疑いなく、学校は学生の社会情動的能力を育成する主要な場の一つ
・多くの研究が、SELを教室での教育に埋め込むことが、学生の社会情動的能力の向上に対して有意な正の影響をもたらすことを示している
3.1 埋め込み理論(Embedding Theory)
・「埋め込み性(embeddedness)」という語は、Karl Plnaが『The Great Transformation』における経済現象の説明で最初に用いた
・のちにGrannovetterらの学者たちがその分析的視点を公共マネジメントや関連する諸分野へと徐々に拡張
・大学の教室は、知識伝達の接点であると同時に、教員と学生、あるいは学生同士の間の情動的ネットワークの集積地でもある
・教室での教育は、厳格なルールや規制だけでなく、柔軟な情動の入力、伝達、支援も必要とする
・本論文では、グラノヴェター教授による「社会的関係への行動の埋め込み」に関する古典的思考を手がかりに、「社会・情動的協働の埋め込み」という全く新しい分析的枠組みを提示する
・「埋め込み理論」の拡張性、情動ネットワークの深層構造、そして情動ネットワーク内における教室学習者個人の協働的論理を結びつける
・「社会・情動的協働の埋め込み」とは、埋め込み理論、情動ネットワーク、協働の概念に基づいており(図1)、教室教育の中に情動を埋め込み、学生の情動的要求に対応し、次のようなことを意味する:
・学生の社会的および情動的アイデンティティの強化
・教室内での情動的リソースの動員
・教室外の情動的支援の内面化
・ポジティブな感情と情動的なつながりの強化
・大学の教室と社会との境界の緩和
・教室内の内的関係と秩序の再構築
・教室という情動的共同体ネットワークの構築
・組織全体の協働と効果的なガバナンスの実現

3.2 カリキュラムにおける社会情動的能力の埋め込み
・社会的感情や経験を豊かにし、社会的理解や社会概念を確立し、社会的配慮と社会的責任を形成することは、SELの主要な方法
・学生の社会的感情を育成し、社会的達成を発展させるために、教室教育は学生と社会との間に意味のあるつながりを確立し、学生の社会経験を豊かにし、教室での学習において学生の社会的理解の発展に注意を払い、社会的関心を強化し、教科の実践学習において社会的感情を高め昇華させ、SELの意味理解を個人の精神的成長に結びつける必要がある
3.2.1 特別な社会情動的能力コースの設置
・特別なコースを通じて、学生の身体的・精神的発達の法則に従った、社会情動的能力のスパイラル型学習コースを開発すべき
・コース内の情動的経験の手がかりを意識的に探し出し、教科内容に浸透する情動的要素を認識し、認知と情動の相互作用を重視し、社会的状況に対する知覚と洞察を促し、情動の認識、表現、調整の能力を高める必要
・学生がSELスキルを全人的に習得し活用することを支援するため、多くの国の学校では社会情動的教育を実施する特別なコースが設けられている
・体系的なカリキュラムは、明確な教育目標、より明示的なスキルの要件、そしてより体系的かつ制御可能な教育によって特徴づけられる
・アメリカの「Lion Friends Exploring the Road」というコースは、広く影響を持ち、チーム協働、グループディスカッション、相互教育、グループリフレクション、問題解決などの一連の教育手法を取り入れている
・教師がこのコースでディスカッションテーマを提示する際、まず学生に独立して考えることを促し、次にグループ内で討論させ、最後に各グループの代表が全体の前で経験を共有
3.2.2 カリキュラム指導への社会情動的能力の統合
・あらゆる効果的な教育は知覚されにくく、社会情動的教育も例外ではない
・社会情動的教育は、教科指導に効果的に統合されるべきであり、それを教科教育の隠された一部とし、情動、態度、価値観を強調する必要
・例:経済学の授業では、市場理論は観察と経済的現象への接触を通して理解されるべき
・アメリカ州の共通コアカリキュラム基準では、「数学的モデリング基準」は、生徒が数学的問題を解く中で、個人またはグループのニーズを理解することを求めており、「社会的意識(social consciousness)」の習得が必要
・複雑な文章基準(Complex Text Standard)では、生徒は他人の見方を受け入れるための「社会的意識」を習得すべきであると指摘
・学習目標の策定、教室での聞き取りスキルの強化、自律的な自己管理などは、教科教育における社会情動的能力の育成に役立つ手段
3.3 PBL(Project-Based Learning)
3.3.1 学習の相互作用と協同学習(Learning Interactive and Cooperative Learning)
・教員と学生間の学習上の相互作用は、学生が知識を獲得するための重要なキャンパスチャネル
・教員は学生に対して学問的および専門的支援を提供し、学生の「精神空間(mental space)」の構築と維持を促し、「獲得のスパイラル効果(gain spiral effect)」を通じて心理的資源を蓄積させる
→これは、学生が社会情動的能力を獲得・向上させるための心理的基盤
・Pascarellaの報告によれば、教員と学生の教室内での相互作用は、学生の学業成績、帰属意識、キャリア設計、自己認識、社会的相互作用スキルに対して肯定的な影響を持つ
・協同学習(Cooperative Learning)は、学生の社会情動的能力の発達を効果的に促進する教育実践であると指摘(Ma et al., 2022)
・協同的認識(cooperative awareness)は5つの社会情動的能力の発達を促進し、その中でも協同的能力(cooperative ability)が最も大きな影響を与える【19】
→効果的なカリキュラムシステムを整備し、適切な教育方法を選択することで、学生の協同的認識を高め、社会情動的能力を発展させるための機会をより多く提供することができる
・PBLは、学習の相互作用と協同学習の典型的な学習形態
3.3.1 PBLスキルと社会情緒的能力の相乗効果(Project-based Learning Skills Synergized with Social and Emotional Competence)
・PBLは常に、中核となる知識とスキルに基づいた学習を提唱してきた
→学生は授業内で教科の中核的内容と知識を学びながら、同時に主要なスキルも学ぶべきということ
・同時に、PBLの過程においては、支え合うピア関係、帰属感、文化的応答と寛容、参加、協力、挑戦、高い期待といった情動的な支援を得ることができる
(PBLの学習過程で構築される3つの社会情動的関係)
①学生と自分自身の関係
・PBLは、学生が自己認識、自己肯定感、自己尊重といった肯定的な資質を育むことを可能にする
・自分自身の感情、興味、価値観、強み、弱みの認識に基づき、学生は感情をタイムリーに調整する力を育み、ストレスに適応し、前向きに反応し、レジリエントかつ積極的(enterprising)になる
②学生と他者の関係
・PBLは、他者への共感を必要とし、他者の態度、感情、興味、行動を理解する能力を育成する
・他者の意識・認知に基づき、違いを尊重し、衝突を効果的に解決し、友好的な対人関係を確立・維持する
③学生と集団の関係
・PBLは、学生の集団的価値観および行動規範に対する意識を高め、集団的帰属感と名誉感を強調し、個人と集団の関係を正しく理解させる
・個人は、集団との関係性において、自らの権利と責任を明確にし、集団規範に従い、協調性、協力の意志、責任を取る勇気を身につけることができる。
・CASELの専門家たちは、社会情動的能力とPBLスキルは自然に高度に統合されていると考えており、高品質な設計と教育実践は、社会情動的能力を自然に高品質なプロジェクトに組み込むべきであると提言
・Mike Kaechele教授は、社会情動的能力とPBLスキルの対応関係を明らかにした(表1)
・PBLの訓練目標は、学生の総合的人格育成と基礎的リテラシーの成長を指向し、学生のメタ認知と共感に焦点を当てている

3.3.3 PBLの要点
①学生が自分のプロジェクトを選ぶこと
・PBLは学生の自己認識を刺激する良い方法
・教師は、学生に発言と選択の権利を与え、学生が自分のプロジェクトのトピックを選ぶ機会を提供すべき
・自分のプロジェクトを選ぶことは、学生が自らの個人的および社会的アイデンティティを統合するための出発点だからである
・学生に、PBLのプロセス全体を体験させ、教師は学生がプロジェクト内での役割を決定するのを導くべき
・プロジェクト設計への参加の過程において、学生は他者の偏見や意見を認識し、同時に感情、価値観、思考を結びつけることができる
②教師は学生にプロジェクトを修正させるべきである
・プロジェクトの継続的な修正は、本質的に学生に対して、最終結果が決まる前のリスクの低い環境で練習と修正を可能にする
・プロジェクト目標を繰り返し修正する過程は、「失敗することは学習過程の一部である」という概念を学生が内面化し、「失敗から学ぶ方法」を習得することを助けることができる
・教師は学生が間違いを犯すことを許容すると、学生の探究意欲と動機づけを刺激する
・PBLの深化に伴って、学生は自身の学習プロセスを繰り返し、学習に対する成長志向の考え方を獲得し、自己効力感の向上を経験する
③学習過程における「所有感(オーナーシップ)」を学生に与える
PBLの過程において、学生はすべての段階に関わるべきである。 この「所有感」は以下を含む:
・学生は質問する権利を持つ
・情報源にアクセスして本物の調査を行う権利を持つ
・データを分析し、結論を導く権利を持つ
・ブレインストーミングと構想時に自分のアイデアを生成する権利を持つ
・作業を修正する権利を持つ
・デザインの意図を明確にし、聴衆に伝える手段を見つける権利を持つ
④学習プロジェクトを管理するうえでの学生の自律性
・プロジェクトマネジメントは、達成すべき目標に基づいて目標設定から始まる
・学生は、プロジェクトの目標、方向性、現在の進捗状態を知る必要がある
・教師は各部分を視覚化して、抽象的思考と具体的行動の間に橋を架けることができる
⑤プロジェクト完了段階における学生の自己省察
・学生はグループ評価メカニズムを通じて、学習過程に関して自己省察を行う
・学習ポートフォリオを確立し、チームメンバーと共に学習の成長を振り返り、学習成果を示し、学習目標に対する新たな方向性を設定
・このプロセスで、自身の現在の知識と能力を決定し、将来におけるステップと方策を明確にして、メタ認知能力を向上させることができる
・最終的には、より深い思考とより良い学習成果をもたらし、自己認識も促進
⑥包括的かつ個別化された教育評価
・学習は全体レベルと個人レベルの両方で実施されなければならない
・プロジェクトチームの全体評価は、学生の集団的名誉感(collective honor)を向上させるが、個別評価はよりパーソナライズされた基準を必要とする
・PBLの過程における社会情動的教育の評価では、学生が個人として経験していることの必要性に注意を払うべきであり、学生を「パーソナリティ・パッケージ」に押し込んだり、社会的画一性のリスクに帰結させてはならない
4. 結論
・社会情動的能力は、個人が経済および社会の発展や変化に適応するために必要な能力
・大学の教室は、学生の専門的知識の源であるだけでなく、学生の社会情動的能力を育成するための重要な場所でもある
・大学の教室においては、学生が成長と発達の複雑な状況に直面することに備え、積極的に、学生の社会情動的資質の育成に注意を払い、自己の情動制御能力を発達させ、個人や自己、他者、集団との前向きな情動的経験において、健全なパーソナリティと性格の特徴を形成し、学生の資質全体の向上と人間性の完全な発達を実現することを目指すべき
・特別なコースを提供し、教科の内容に有機的に組み込むことによって、教室教育においてSELを埋め込むことができる
・その中でも、PBLは、学習上の相互作用と協同学習を統合し、教室における社会情動的要因を埋め込む能力を向上させる効果的な方法である
・PBLの全過程においては、学生と自己、他者、集団との三重の関係性が構築され、これは社会情動的能力やスキルと高度に統合されうる
ここまで。
自身の興味関心のど真ん中の領域だったため、かなり参考になるものがありました。
PBLは社会情動的スキルを高める良い方法である可能性が高いとは思っていたたところですが、その仮説を後押ししてくれましたように感じます。
また、社会情動的能力とPBLスキルの対応関係を明らかにしたTable 1は非常に大きな収穫でした。どの文献からの引用かの記載はありませんでしたが、Mike Kaechele教授というお名前から調べていると、それっぽい書籍を見つけたので即ポチしました。
大学教育でのPBLを通した社会情動的スキルの育成にもう少しツッコんで調べてみようと思います。
論文はこちら(被引用数:まだなし (2025年4月24日時点))
Zhang, M. (2023). PBL's analysis on embedding social and emotional learning in college classrooms. Advances in Educational Technology and Psychology, 7(14)
社会情動的能力(Social and Emotional competence)を育むSEL(Social and Emotional Learning)を大学教室教育に統合する理論的基盤を探究した論文。特にPBLに焦点を当て、SELを効果的に組み込むための教育方法を見出すことを目的とした内容となっています。
以下に全体をまとめます。
Abstract
・教室環境は、社会・情動的教育を効果的に実施するための重要な場である
・大学生の社会情動的能力は、カリキュラム学習にSELを組み込むことで向上させることができる
・その中でも、特別な社会・情動コースを設けることや、教科教育に社会情動的能力を統合することは、効果的な組み込み方法である
・学習の相互作用と協同学習を融合するプロジェクト型学習(PBL)は、教室に社会性と情動を埋め込む能力を高める効果的な手段である
・PBLの全過程においては、学生と自己、学生と他者、学生と集団との三重の関係性が構築され、それは社会・情動的な5つの能力・スキルと高度に統合され得る
・PBLの過程(プロジェクトの選定、進行、完了、評価)の各段階で、より詳細な設計が必要
・本研究の結論は、大学生の社会情動的能力をキャンパス環境でどのように向上させるかについて、有益な示唆を提供している
1. はじめに
・若者が主体的な市民性(active citizenship)を獲得するには、学問的知識だけでは不十分であり、責任ある意思決定、情動のマネジメント、協働、葛藤解決、レジリエンス、環境変化への適応など、より幅広い能力が求められる。これらは、現代の社会的現実や課題に冷静に対応するために必要である(Sala et al., 2020)
・今日、教育は学生の社会情動的能力の育成をますます重視している
・大学生の社会情動的能力の成長とは、社会・情動的知識の蓄積、スキルの向上、自他および集団との関係性における態度の変化という経験を通じて形成されるものである
・社会情動的能力とは、大学生が社会的状況に即時かつ適切に反応する能力として示される
・このような経験の広がりと能力形成は、学習、経験、思考が特定の学習および生活環境と長期的な実践の中で統合されることによって形成され、これにより、学生は感情を特定・マネジメントし、他者を思いやり、責任ある意思決定を下すことができるようになる
・現実の社会的発達は、学生が社会・情動の枯渇と、複雑な社会環境や生存・発展における複数の選択肢のもとで能力を欠く様子を示している。個性の追求、自己価値の最大化、激しい競争環境は、学生が他者や社会への無関心を生み、自分自身の苦闘に集中し社会から孤立する、あるいは利己的になり、他者を嘲笑・軽蔑したり、善悪の基準を見失うことにつながっている
・こうした状況の中で学生の「社会情動的能力」を育てるには、SELに注目する必要がある
・SELとは、学生の感情を発達させる活動であり、感情的経験を通して社会に参加する準備を促すための方法と過程である
・カリキュラムの知識には社会性があり、学生は知識学習を通じて社会的理性の感覚を得る認知的・知識的基盤を構築できる。これは、社会情動的能力を学校教育に統合するための最も効果的な方法の一つである(Cefai et al., 2018)
・教室でのSELは、学生が自己を理解し、自己を高め、社会や世界との意味のあるつながりを構築することを促す
2. 文献レビュー
社会的情動的能力の定義には、3つの代表的な見解がある。
①CASEL
・CASELは、社会情動的能力を最初に研究し、社会情動的能力モデルを構築した
・ゴールマンの情動知能理論に基づき、社会情動的能力を5つの能力に分類
1.自己認識
2. 自己管理
3. 社会的認識
4. 対人スキル
5. 責任ある意思決定
②OECD
・OECDは性格心理学の有名な「ビッグファイブ性格モデル」から教訓を引き出し、社会情動的能力を「個人の成功と社会的機能に関わる能力、属性、特徴の部分集合」と定義
・以下の6つの能力に具体的に分けている:
1. 課題遂行
2. 情動マネジメント
3. オープンな思考
4. 他者との協働
5. 協力
6. 複合的スキル
③中国的アプローチ
・中国教育部教師業務部門とユニセフが共同で組織したSELプロジェクトを代表として、DuとMao(2018)は「関係的存在(relational existence)」という社会構成主義および中国の集団主義文化の理論を組み合わせた
・社会情動的能力を「自己、他者、および集団との関係を認識し管理する能力」と定義
・以下のように分類している【3】
1. 自己認識
2. 自己管理
3. 他者認識
4. 他者管理
5. 集団認識
6. 集団管理
(社会動的能力の効果・重要性)
・社会情動的能力の発達は、学生の自己調整能力の向上、対人関係の改善、問題行動の減少、向社会的行動の増加、学業成績の向上を著しく促進する(Durak et al., 2011; Taylor et al., 2017)【4, 5】
・社会情動的能力が個人の成功に与える影響は、認知的要因をも上回ることがある(Yuan et al., 2021)
(社会情動的能力の評価・尺度)
・Marzano(2015)は、学習目標の明確化、学習目標の進捗、学習目標の達成に必要なステップに基づいた、社会情動的能力の形成的評価基準を開発【7】
・Siarova et al.(2017)は、形成的評価が、学生の個人的能力、社会的能力、実際の文脈での学習能力を観察・評価する機会を提供し、それが学生の深い学びを支援し、社会的相互作用への積極的な参加を促進すると指摘【8】
・Lan et al.(2021)とShao et al.(2021)は、社会・情動的教育評価の枠組み、原理、ツール、指標、道筋を提示し、学習者の社会情動的能力の形成的評価を包括的に実施【9, 10】
・Yuan et al.(2021)、Liu et al.(2021)、Tang et al.(2021)は、学習者の社会情動的能力を評価する指標やツールを開発・研究【6, 11, 12】
・Chen et al.(2023)は、中国の大学生に適した社会情動的能力尺度を開発した【13】
(社会情動的能力の発達に影響を与える要因)
・Bronfenbrennerの道徳生態系理論によると、個人は自らの環境に組み込まれており、個人とその環境は相互に影響し合い、個人の発達はその環境によって影響される。社会情動的能力は、個人、家庭、学校、その他のシステムの相互作用の中で育成され、その中でも教室環境は社会・情動的教育を実施するための重要な場である
(教育・カリキュラムの役割)
・カリキュラムの関連内容を補強・強化することは、学生の「社会情動的能力向上(Cefai et al., 2018)【2】」の主要な推進因子の1つ
・社会・情動的教育は、「個人能力、社会能力、学習能力」を生涯学習の重要な鍵と見なし、これはEUのカリキュラム改革における重要なトピック
・学生の社会的情動の欠如やキャンパス危機の問題を解決するため、各国の教育界はSELプロジェクトを打ち出し、学生の社会情動的能力の発達を促進
(教師教育・教室実践の視点)
・情動教育プログラムの効果的な実施が、教師教育において学生の専門的アイデンティティや職業倫理を促進し、理解に基づく思考を発達させる(Cui and Yang, 2022)【14】
・Guo and Wang(2022)は、教室での教育が、学生がSELを展開する上で重要な役割を果たし、社会的責任を確立し、社会的リテラシーを発展させることを助けると信じており、教室におけるSELの内容は、社会的理性、社会的道徳性、社会的美的感性、社会的責任の4つの側面を含むと述べている【15】
(家庭環境と学校の代替的役割)
・Yao and Chen(2022)は、異なる家庭教育パターンが大学生の社会情動的能力に与える影響を論じ、学校が家庭教育の不足を補うための代替的影響を持ちうることを指摘【16】
(心理・認知的要因の影響)
・Tang and Huang(2023)は、SSESデータに基づき、帰属意識が初等・中等教育における社会情動的能力育成において重要な役割を果たすと指摘【17】
・Huang et al.(2023)は、青少年を対象とした研究に基づき、目標志向的思考が社会情動的能力と正の相関を持ち、日常的にSELを教室に浸透させることが有効な介入手段であると述べている【18】
3. SELの教室への埋め込みとPBL
・疑いなく、学校は学生の社会情動的能力を育成する主要な場の一つ
・多くの研究が、SELを教室での教育に埋め込むことが、学生の社会情動的能力の向上に対して有意な正の影響をもたらすことを示している
3.1 埋め込み理論(Embedding Theory)
・「埋め込み性(embeddedness)」という語は、Karl Plnaが『The Great Transformation』における経済現象の説明で最初に用いた
・のちにGrannovetterらの学者たちがその分析的視点を公共マネジメントや関連する諸分野へと徐々に拡張
・大学の教室は、知識伝達の接点であると同時に、教員と学生、あるいは学生同士の間の情動的ネットワークの集積地でもある
・教室での教育は、厳格なルールや規制だけでなく、柔軟な情動の入力、伝達、支援も必要とする
・本論文では、グラノヴェター教授による「社会的関係への行動の埋め込み」に関する古典的思考を手がかりに、「社会・情動的協働の埋め込み」という全く新しい分析的枠組みを提示する
・「埋め込み理論」の拡張性、情動ネットワークの深層構造、そして情動ネットワーク内における教室学習者個人の協働的論理を結びつける
・「社会・情動的協働の埋め込み」とは、埋め込み理論、情動ネットワーク、協働の概念に基づいており(図1)、教室教育の中に情動を埋め込み、学生の情動的要求に対応し、次のようなことを意味する:
・学生の社会的および情動的アイデンティティの強化
・教室内での情動的リソースの動員
・教室外の情動的支援の内面化
・ポジティブな感情と情動的なつながりの強化
・大学の教室と社会との境界の緩和
・教室内の内的関係と秩序の再構築
・教室という情動的共同体ネットワークの構築
・組織全体の協働と効果的なガバナンスの実現

3.2 カリキュラムにおける社会情動的能力の埋め込み
・社会的感情や経験を豊かにし、社会的理解や社会概念を確立し、社会的配慮と社会的責任を形成することは、SELの主要な方法
・学生の社会的感情を育成し、社会的達成を発展させるために、教室教育は学生と社会との間に意味のあるつながりを確立し、学生の社会経験を豊かにし、教室での学習において学生の社会的理解の発展に注意を払い、社会的関心を強化し、教科の実践学習において社会的感情を高め昇華させ、SELの意味理解を個人の精神的成長に結びつける必要がある
3.2.1 特別な社会情動的能力コースの設置
・特別なコースを通じて、学生の身体的・精神的発達の法則に従った、社会情動的能力のスパイラル型学習コースを開発すべき
・コース内の情動的経験の手がかりを意識的に探し出し、教科内容に浸透する情動的要素を認識し、認知と情動の相互作用を重視し、社会的状況に対する知覚と洞察を促し、情動の認識、表現、調整の能力を高める必要
・学生がSELスキルを全人的に習得し活用することを支援するため、多くの国の学校では社会情動的教育を実施する特別なコースが設けられている
・体系的なカリキュラムは、明確な教育目標、より明示的なスキルの要件、そしてより体系的かつ制御可能な教育によって特徴づけられる
・アメリカの「Lion Friends Exploring the Road」というコースは、広く影響を持ち、チーム協働、グループディスカッション、相互教育、グループリフレクション、問題解決などの一連の教育手法を取り入れている
・教師がこのコースでディスカッションテーマを提示する際、まず学生に独立して考えることを促し、次にグループ内で討論させ、最後に各グループの代表が全体の前で経験を共有
3.2.2 カリキュラム指導への社会情動的能力の統合
・あらゆる効果的な教育は知覚されにくく、社会情動的教育も例外ではない
・社会情動的教育は、教科指導に効果的に統合されるべきであり、それを教科教育の隠された一部とし、情動、態度、価値観を強調する必要
・例:経済学の授業では、市場理論は観察と経済的現象への接触を通して理解されるべき
・アメリカ州の共通コアカリキュラム基準では、「数学的モデリング基準」は、生徒が数学的問題を解く中で、個人またはグループのニーズを理解することを求めており、「社会的意識(social consciousness)」の習得が必要
・複雑な文章基準(Complex Text Standard)では、生徒は他人の見方を受け入れるための「社会的意識」を習得すべきであると指摘
・学習目標の策定、教室での聞き取りスキルの強化、自律的な自己管理などは、教科教育における社会情動的能力の育成に役立つ手段
3.3 PBL(Project-Based Learning)
3.3.1 学習の相互作用と協同学習(Learning Interactive and Cooperative Learning)
・教員と学生間の学習上の相互作用は、学生が知識を獲得するための重要なキャンパスチャネル
・教員は学生に対して学問的および専門的支援を提供し、学生の「精神空間(mental space)」の構築と維持を促し、「獲得のスパイラル効果(gain spiral effect)」を通じて心理的資源を蓄積させる
→これは、学生が社会情動的能力を獲得・向上させるための心理的基盤
・Pascarellaの報告によれば、教員と学生の教室内での相互作用は、学生の学業成績、帰属意識、キャリア設計、自己認識、社会的相互作用スキルに対して肯定的な影響を持つ
・協同学習(Cooperative Learning)は、学生の社会情動的能力の発達を効果的に促進する教育実践であると指摘(Ma et al., 2022)
・協同的認識(cooperative awareness)は5つの社会情動的能力の発達を促進し、その中でも協同的能力(cooperative ability)が最も大きな影響を与える【19】
→効果的なカリキュラムシステムを整備し、適切な教育方法を選択することで、学生の協同的認識を高め、社会情動的能力を発展させるための機会をより多く提供することができる
・PBLは、学習の相互作用と協同学習の典型的な学習形態
3.3.1 PBLスキルと社会情緒的能力の相乗効果(Project-based Learning Skills Synergized with Social and Emotional Competence)
・PBLは常に、中核となる知識とスキルに基づいた学習を提唱してきた
→学生は授業内で教科の中核的内容と知識を学びながら、同時に主要なスキルも学ぶべきということ
・同時に、PBLの過程においては、支え合うピア関係、帰属感、文化的応答と寛容、参加、協力、挑戦、高い期待といった情動的な支援を得ることができる
(PBLの学習過程で構築される3つの社会情動的関係)
①学生と自分自身の関係
・PBLは、学生が自己認識、自己肯定感、自己尊重といった肯定的な資質を育むことを可能にする
・自分自身の感情、興味、価値観、強み、弱みの認識に基づき、学生は感情をタイムリーに調整する力を育み、ストレスに適応し、前向きに反応し、レジリエントかつ積極的(enterprising)になる
②学生と他者の関係
・PBLは、他者への共感を必要とし、他者の態度、感情、興味、行動を理解する能力を育成する
・他者の意識・認知に基づき、違いを尊重し、衝突を効果的に解決し、友好的な対人関係を確立・維持する
③学生と集団の関係
・PBLは、学生の集団的価値観および行動規範に対する意識を高め、集団的帰属感と名誉感を強調し、個人と集団の関係を正しく理解させる
・個人は、集団との関係性において、自らの権利と責任を明確にし、集団規範に従い、協調性、協力の意志、責任を取る勇気を身につけることができる。
・CASELの専門家たちは、社会情動的能力とPBLスキルは自然に高度に統合されていると考えており、高品質な設計と教育実践は、社会情動的能力を自然に高品質なプロジェクトに組み込むべきであると提言
・Mike Kaechele教授は、社会情動的能力とPBLスキルの対応関係を明らかにした(表1)
・PBLの訓練目標は、学生の総合的人格育成と基礎的リテラシーの成長を指向し、学生のメタ認知と共感に焦点を当てている

3.3.3 PBLの要点
①学生が自分のプロジェクトを選ぶこと
・PBLは学生の自己認識を刺激する良い方法
・教師は、学生に発言と選択の権利を与え、学生が自分のプロジェクトのトピックを選ぶ機会を提供すべき
・自分のプロジェクトを選ぶことは、学生が自らの個人的および社会的アイデンティティを統合するための出発点だからである
・学生に、PBLのプロセス全体を体験させ、教師は学生がプロジェクト内での役割を決定するのを導くべき
・プロジェクト設計への参加の過程において、学生は他者の偏見や意見を認識し、同時に感情、価値観、思考を結びつけることができる
②教師は学生にプロジェクトを修正させるべきである
・プロジェクトの継続的な修正は、本質的に学生に対して、最終結果が決まる前のリスクの低い環境で練習と修正を可能にする
・プロジェクト目標を繰り返し修正する過程は、「失敗することは学習過程の一部である」という概念を学生が内面化し、「失敗から学ぶ方法」を習得することを助けることができる
・教師は学生が間違いを犯すことを許容すると、学生の探究意欲と動機づけを刺激する
・PBLの深化に伴って、学生は自身の学習プロセスを繰り返し、学習に対する成長志向の考え方を獲得し、自己効力感の向上を経験する
③学習過程における「所有感(オーナーシップ)」を学生に与える
PBLの過程において、学生はすべての段階に関わるべきである。 この「所有感」は以下を含む:
・学生は質問する権利を持つ
・情報源にアクセスして本物の調査を行う権利を持つ
・データを分析し、結論を導く権利を持つ
・ブレインストーミングと構想時に自分のアイデアを生成する権利を持つ
・作業を修正する権利を持つ
・デザインの意図を明確にし、聴衆に伝える手段を見つける権利を持つ
④学習プロジェクトを管理するうえでの学生の自律性
・プロジェクトマネジメントは、達成すべき目標に基づいて目標設定から始まる
・学生は、プロジェクトの目標、方向性、現在の進捗状態を知る必要がある
・教師は各部分を視覚化して、抽象的思考と具体的行動の間に橋を架けることができる
⑤プロジェクト完了段階における学生の自己省察
・学生はグループ評価メカニズムを通じて、学習過程に関して自己省察を行う
・学習ポートフォリオを確立し、チームメンバーと共に学習の成長を振り返り、学習成果を示し、学習目標に対する新たな方向性を設定
・このプロセスで、自身の現在の知識と能力を決定し、将来におけるステップと方策を明確にして、メタ認知能力を向上させることができる
・最終的には、より深い思考とより良い学習成果をもたらし、自己認識も促進
⑥包括的かつ個別化された教育評価
・学習は全体レベルと個人レベルの両方で実施されなければならない
・プロジェクトチームの全体評価は、学生の集団的名誉感(collective honor)を向上させるが、個別評価はよりパーソナライズされた基準を必要とする
・PBLの過程における社会情動的教育の評価では、学生が個人として経験していることの必要性に注意を払うべきであり、学生を「パーソナリティ・パッケージ」に押し込んだり、社会的画一性のリスクに帰結させてはならない
4. 結論
・社会情動的能力は、個人が経済および社会の発展や変化に適応するために必要な能力
・大学の教室は、学生の専門的知識の源であるだけでなく、学生の社会情動的能力を育成するための重要な場所でもある
・大学の教室においては、学生が成長と発達の複雑な状況に直面することに備え、積極的に、学生の社会情動的資質の育成に注意を払い、自己の情動制御能力を発達させ、個人や自己、他者、集団との前向きな情動的経験において、健全なパーソナリティと性格の特徴を形成し、学生の資質全体の向上と人間性の完全な発達を実現することを目指すべき
・特別なコースを提供し、教科の内容に有機的に組み込むことによって、教室教育においてSELを埋め込むことができる
・その中でも、PBLは、学習上の相互作用と協同学習を統合し、教室における社会情動的要因を埋め込む能力を向上させる効果的な方法である
・PBLの全過程においては、学生と自己、他者、集団との三重の関係性が構築され、これは社会情動的能力やスキルと高度に統合されうる
ここまで。
自身の興味関心のど真ん中の領域だったため、かなり参考になるものがありました。
PBLは社会情動的スキルを高める良い方法である可能性が高いとは思っていたたところですが、その仮説を後押ししてくれましたように感じます。
また、社会情動的能力とPBLスキルの対応関係を明らかにしたTable 1は非常に大きな収穫でした。どの文献からの引用かの記載はありませんでしたが、Mike Kaechele教授というお名前から調べていると、それっぽい書籍を見つけたので即ポチしました。
大学教育でのPBLを通した社会情動的スキルの育成にもう少しツッコんで調べてみようと思います。
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