スポーツ参加がテスト不安を軽減する仕組みを、社会情動的スキルの媒介・調整という視点から体系的に明らかにした論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:まだなし (2025年4月26日時点))
Wang, K., & Qian, J. (2024). The mediating and moderating role of social–emotional skills in the relationship between sports participation and test anxiety. Behavioral Sciences, 14(6), 512.

ポイントを掻い摘んでまとめます。

Abstract
・目的:スポーツ参加、テスト不安、社会情動的スキルの間の複雑な関係を探ること
・方法:OECDの社会情動的スキルに関する調査(SSES)を通じて収集(10ヵ所、61,010人)
・結果:社会情動的スキルは、スポーツ参加とテスト不安の関係を媒介し、調整することが示された。しかし、低・中レベルの社会的情緒的スキルのみが、スポーツ参加とテスト不安の負の相関を有意に弱めた。
・結論:社会情動的スキルは、スポーツ参加とテスト不安の関係において「なぜスポーツ参加がテスト不安を緩和するのかを解明する」だけでなく、「この緩和の程度を緩和する調節因子としても機能する」という二重の機能を果たす。

1. はじめに
(テスト不安の現状と影響)
・テストに関連する過度の不安は、感情的、身体的、認知的な有害な症状を引き起こし [3] 、全体的な幸福に悪影響を及ぼす可能性がある [4,5] 。

(テスト不安への介入としてのスポーツ参加)
・この課題に対処するため、一部の教育者は、テスト不安を軽減するための心理学的介入法を開発[9]
さらに、世界保健機関(WHO) [10] が提唱しているように、非侵害的で簡単に利用できる方法としてのスポーツ参加は、テスト不安 [13,14] を含む不安な感情 [11,12] の管理や対処を支援することによって不安を効果的に緩和し、幸福感を高める [15,16] 
・メタ分析では、少なくとも20分間の有酸素運動とスポーツを週に2~3回、最低4週間行うことが、テスト不安を有意に軽減するために必要であることが明らかにされた [13] 

(スポーツがテスト不安に与える効果のメカニズム)
・スポーツによる効果は、生物学的要因(神経伝達物質や神経栄養因子 [17-19] の合成や放出が促進)に関連されるといった生物学的要因に関連している可能性がある
・スポーツに参加することで、個人が不安の認知を再解釈し、不安を乗り越えられない重荷ではなく、乗り越えられる困難として、より肯定的な視点から見ることができるようになる
・定期的なスポーツはレジリエンスと対処能力を強化し、自信と不安に対処する能力を高める
・競技スポーツに従事している人は、競技中の様々な生理的・感情的変化だけでなく、強い覚醒によって特徴づけられる重大な不安にしばしば遭遇する [23,24]
・スポーツ共同体への参加は、個人が不安に対処する上で重要な役割を果たす社会的支援の重要な機会を提供する
・不安に直面すると、問題を共有したり支援を求めたりするなど、不安に対処するためにより積極的な手段をとる青年もいる [25,26] 
・特にチームスポーツに参加することは、楽しいだけでなく不安を和らげる活動としても役立つ社会的機会を提供する [27]

(社会情動的スキル:Social-Emotional Skills)
・これらの潜在的な影響因子には、社会情動的スキルとも呼ばれる様々な非認知的能力が関与している
・社会情動的スキルとは、自分の思考、感情、行動を調整できる能力のこと[28]
・経済協力開発機構(OECD)は、「ビッグ・ファイブ」と呼ばれる性格特性に基づき、これらのスキルに関する包括的な枠組みを開発した[28]
・課題遂行能力、感情調整能力、協調性、オープンマインド、他者との関わりを含む5つの領域と、さらに2つの指標が追加され、合計17のスキルを持つ多面的な構造となっている[29,30]

(社会情動的スキルとテスト不安・スポーツ参加との関係)
・社会情動的スキルは、テストに対する不安など、個人が人生の課題を効果的に乗り越えるために不可欠
・不安を軽減することを目的とした2つのSELプログラム
 ①ストレスや不安を管理するために利用可能なリソースを特定する能力が向上し、数学の不安も減少(Stocker and Gallagher, 2019)
さらに、試験不安を含む生徒の行動変化に対するSEL介入の有効性を評価した混合法の研究がある。定性的には、
 ②生徒がストレスの多いテスト状況をより効果的に処理するための新しいSEL戦略を開発(McLeod and Boys, 2021)
・社会情動的スキルは可鍛性で [30]、体育やスポーツへの参加は社会情動的スキルを発達させる重要な手段 [33]
・Fun FRIENDSプログラム:4~6歳の就学前児童263人がプログラム群と対照群に無作為に割り付け
 ・12ヵ月後、介入群では対照群と比べて社会情動的スキルに有意な改善がみられた
・社会情動的スキルを高めることを目的としたヨガ介入においても、同様の結果[35]
・社会情動的スキルは、スポーツ参加とテスト不安の間の重要な媒介因子となりうる

(先行研究のまとめ)
・先行研究では、スポーツ関連 [37] またはテスト不安関連 [38] の文脈において、直接的または間接的に特定の社会情動的スキル、またはその説明的役割に言及
・しかし、これらの問題を理解するための体系的かつ包括的な枠組みを利用した研究は限られている
・これまでの研究では、スポーツ参加、テスト不安、社会情動的スキルの間の動的な関連性は明確にされていない

(研究の目的と仮説、モデル)
・上記の既存研究のギャップを解決するために、これらの間の複雑な関係を探求し、理論的な発展と実践的な応用のための基礎を築くことを目的とする
・仮説1. 社会情動的スキルは、スポーツ参加とテスト不安の関係を媒介する
・仮説2. 社会情動的スキルは、スポーツ参加とテスト不安の関係を緩和する
・Figure1:この複雑性を示すために媒介モデルと媒介モデル
fig1


2. 方法
2.1. 参加者

・OECDのデータベース[29]から取得した61,010人の参加者データ
・2つの年齢層:・高年齢層(15歳、N = 29,798)、・低年齢層(10歳、N = 31,187)
・性別:29,863人の男性、30,635人の女性
・社会経済的地位:平均値(標準偏差)=0.226(0.986)、範囲:−3.75から3.75の間
・10の地域:コロンビアのボゴタ(N = 6771)、韓国の大邱(N = 6334)、フィンランドのヘルシンキ(N = 5482)、アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン(N = 6434)、トルコのイスタンブール(N = 5869)、コロンビアのマニサレス(N = 6757)、ロシア連邦のモスクワ(N = 6792)、カナダのオタワ(N = 5440)、ポルトガルのシントラ(N = 3860)、および中国の蘇州(N = 7246)。詳細は表1に示されている。
table1

2.2. 測定
・すべての変数の測定および計算はOECDから取得(詳細情報は、OECD公式ウェブサイトおよび技術報告書)(Eva, 2021)
・社会情動的スキルは、Social and Emotional Skills(SSES)調査を用いて評価
・15のスキルについて、8つの異なる質問で評価され、合計120項目(その他、自己効力感と達成動機)
・回答は5件法リッカート尺度(強く反対〜強く賛成まで)で記録
・肯定的な文には0〜4のスコアが割り当てられ、否定的な文には逆符号が適用
・重み付けは人口統計に基づき計算され、最終的なスコアはOECDによって算出
・スコアが高いほど、より発達した社会情動的スキルであることを意味する
・尺度の信頼性:Cronbachのαは0.71を超えている

(テスト不安)
・SSESのSTQM04201〜STQM04203項目
 ・「テストを受けるのが難しいのではないかとよく心配する」
 ・「テストの準備ができていても、非常に不安になる」
 ・「テスト勉強をすると非常に緊張する」
・最終スコアはテスト不安の強度を示しており、スコアが高いほど強い不安を意味する
・サイト全体でのCronbachのαは0.81であり、信頼性があることを示している
・測定尺度の一貫性を確保するため、テスト不安のスコアには標準化が適用

(学校外でのスポーツ参加)
・SSESのSTQM04301項目
 ・「Participate outside school: sports」より判断
・回答は、1が「不参加」、2が「参加」としてコード化

2.3. 統計分析
(データの初期状況と前処理)0
・初期データセット:61,010件
・社会情動的スキルおよびテスト不安に関する記述統計分析:有意な歪度と外れ値の存在が確認
・外れ値の除外:各群において1パーセンタイルおよび99パーセンタイルの閾値を超えたデータが対象
・Predictive Mean Matching(PMM)法:50回の反復を伴う20回の多重代入により処理
・最終的なデータ:60,985件
・スポーツ参加および人口統計に関してはダミー変数が作成(欠損データは「不在」として分析)

(分析手順)
・基本統計:記述統計分析とピアソンの相関分析
・媒介分析
 ・PROCESSのモデル4(Hayes, 2017)を使用
 ・人口統計変数:共変量(コントロール変数)として統制
 ・ブートストラップ法(5000回の反復)を用いて評価
  ・有意性は95%信頼区間にゼロが含まれないことにより示された
・調整効果
 ・PROCESSモデル1(Hayes, 2017)を使用
 ・スポーツ参加とテスト不安との関係における社会情動的スキルの調整効果を検討
 ・モデレータである社会情動的スキルを中心化
 ・社会情動的スキルとスポーツ参加との交互作用が検討され、有意な交互作用は妥当な調整効果を示すものとされた
・単純傾き分析
 ・スポーツ参加は「参加あり」と「参加なし」の2群に分類
 ・社会情動的スキルは、平均値から標準偏差を引いた値(M−SD)、平均(M)、および平均に標準偏差を加えた値(M+SD)に基づいて、「低」「中」「高」の3群に分類

(使用ツールと分析条件)
・使用ソフトウェア:SPSS 26.0およびProcess 4.3
・有意水準(α):95%

3. 結果
3.1. 記述統計および相関

・Table2:テスト不安、社会情動的スキル、スポーツ参加に関する平均値、標準偏差、相関係数を示す
・すべての相関係数は統計的に有意(p < 0.001)
・スポーツ参加は社会情動的スキルと正の相関、テスト不安とは負の相関
・社会情動的スキルはテスト不安と負の相関
table2

3.2. 媒介効果の検定
・人口統計変数を統制した上で、スポーツ参加がテスト不安に与える総効果が検討され、有意なパス係数(β = −0.081, t = −8.803, p < 0.001, 95%信頼区間 = [−0.099, −0.063])が示された
・社会情動的スキルを媒介変数として加えた後、新たなパス係数およびブートストラップによる95%信頼区間が得られた(Figure 2).
・すべてのパス係数は統計的に有意(p < 0.001)
・間接効果の信頼区間 [−0.056, −0.048] はゼロを含まず、社会情動的スキルによる媒介効果の存在を示した(全体効果の64.20%を占める)(table3)
fig2
table3

3.3. 調整効果の検定
・社会情動的スキルの調整効果は、スポーツ参加とテスト不安の関係においてさらに検討(table4)
_社会情動的スキルとスポーツ参加(X × W)の交互作用がテスト不安に与える影響は有意(β = −0.002, t = 2.649, p = 0.008, 95%信頼区間 = [0.0005, 0.004])
・社会情動的スキルがスポーツ参加とテスト不安との関係を調整していることを示している
table4

・単純傾き分析(simple slope analysis)を実施
・スポーツ参加がテスト不安に及ぼす予測効果は、社会情動的スキルが高い(M+SD)、中程度(M)、低い(M−SD)水準で分析され、調整効果の存在が示された
・スポーツ参加とテスト不安との負の相関が、社会情動的スキルの水準によって変化することが明らかに
 ・社会情動的スキル(低):スポーツへの参加とテスト不安の低下との間に有意な関連(b_simple = −0.050、t = −4.134、p < 0.001)
 ・社会情動的スキル(中):同様の傾向で、スポーツ参加はテスト不安の低下と有意に関連(b_simple = −0.027、t = −2.934、p = 0.003)
 ・社会情動的スキル(高):スポーツ参加とテスト不安の低下との間に関連が認められたが、統計的有意水準には達しなかった(b_simple = −0.004、t = −0.277、p = 0.782)
・この結果は、スポーツ参加とテスト不安との負の相関が、社会情動的スキルの水準が低〜中程度の場合には有意に弱まることを示し、高い社会情動的スキルの水準では有意な効果は観察されなかったことを示している
table5
fig3

4. 考察
(媒介効果)
・社会情動的スキルがスポーツ参加とテスト不安の関係における媒介変数として機能する
・スポーツへの参加が社会情動的スキルを高めることで、テスト不安を緩和する(先行研究と一致)
・先行研究と一致して、スポーツ参加は社会情動的スキルの向上と関連[42–44]
・ただし、社会情動的スキル以外にも、他の寄与要因が存在する可能性がある

(調整効果)
・社会情動的スキルはスポーツ参加とテスト不安との関係を調整する
・社会情動的スキルの水準によって、スポーツ参加のテスト不安軽減効果が異なる
 ・低スキルの学生:スポーツの効果が大きい
 ・中スキルの学生:スポーツの効果はあるがやや小さい
 ・高スキルの学生:スポーツの効果は小さく、統計的優位差はなし
・社会情動的スキルの高い学生は、すでにテスト不安に対する情動調整スキルや対処戦略を十分に備えていることが多く、スポーツは主たる対処手段というよりも、他の目的を果たす手段として機能する傾向
・社会情動的スキルが低い学生は、情動調整や不安管理スキルが不十分なことが多い。スポーツや運動は、エンドルフィンやその他の神経伝達物質の分泌を促進し、気分を高揚させ、不安を軽減し、チームワーク、目標設定、失敗への対処といったテスト不安の管理スキルを学び、実践する機会を提供する

(理論的意義)
・本研究は、社会情動的スキルがスポーツ参加、社会情動的スキル、テスト不安という複雑な関係性において部分的な媒介および調整要因の両方として機能することを明らかにし、非認知的能力が認知的プロセスとどのように相互作用し、情動経験に影響を与えるかについての理解を広げる
・当知見は、情動調整および心理的ウェルビーイングに関するより精緻な理論の構築に貢献する可能性

(実践的示唆)
・スポーツおよび社会情動的スキルが思春期のメンタルヘルス促進、特にテスト不安の緩和において果たす役割を強調
・社会情動的スキルは、スポーツ参加とテスト不安の関係を媒介・調整することは、教育的文脈においてスポーツ参加と社会情動的スキルの発達の重要性が浮き彫りにした
・スポーツは、社会情動的スキルを高め、テスト不安を軽減する効果を持つため、学校は包括的な教育課程の重要な構成要素として、スポーツの頻度を高めることを検討すべき
・教育者およびメンタルヘルス専門家は、異なる社会情動的スキルの水準に応じた個別化された介入戦略を検討すべき
・社会情動的スキルが低い学生は、スポーツ参加を通じて基礎的な社会情動的スキルを高めることができ、社会情動的スキルが高い学生には、他の側面でさらなる支援が必要となる可能性
・社会情動的スキルの育成を身体活動に統合することが極めて重要であり、このアプローチは教育的効果をもたらす可能性

(研究の限界)
①文化的背景の違い:将来的な研究ではこの点により注意を払った詳細な検討が求められる
②横断的データによる因果推論の限界:横断データで、パス分析を行ったとはいえ、因果関係の確証には限界がある。今後の研究では、縦断的研究を通じたより詳細な因果関係の検証が必要
③社会情動的スキルの多面性:社会情動的スキルは多次元的かつ複雑な概念であり、様々なスキルを包含。多重共線性を防ぐため、本研究では社会情動的スキルを総合的・標準化的に捉え、包括的能力として分析を行ったが、今後は各スキルの個別的役割を詳しく探る必要がある

5. 結論
・社会情動的スキルは、スポーツ参加とテスト不安の関係において有意な媒介効果を持ち、調整変数としても機能していた
・社会情動的スキルの水準が低〜中程度の学生において、スポーツ参加とテスト不安の間の負の相関が有意に弱まっていた一方、社会情動的スキルが高水準の学生では有意な効果は観察されなかった

ここまで。
研究モデルについても非常に参考になりましたし、何より内容も面白い論文でした。
・スポーツ参加はテスト不安を軽減する
・社会情動的スキルは、その関係性において媒介・調整の両方の効果がある
 ・媒介:スポーツ参加が社会情動的スキルを高め、それがテスト不安軽減に繋がる
 ・調整:社会情動的スキルの水準によって、スポーツ参加とテスト不安の関係の強さが変わる
  ・低スキル群:スポーツ参加の効果が大きい
  ・中スキル群:効果はあるが低スキル群より小さい
  ・高スキル群:効果は統計的に有意ではない
これまで自分は、社会情動的スキルを主に結果変数として考えていましたが、媒介・調整効果の観点から考察するという視点を与えてくれました。
この分析モデルで、社会情動的スキルと様々な概念の関係性を検証してみると面白い発見がありそうです。

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