社会情動的スキル(Social and Emotional Skills)を育むために、プロジェクト型学習(PBL)と社会情動学習(SEL)を融合したモデルを提唱した実践的なガイドブックをレビューします。
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先日読んだ論文からヒントを得てこちらの書籍に辿り着きました。
CASELが提唱した社会情動的スキルの5つの主要なコンピテンシー(自己認識、自己管理、社会的認識、人間関係スキル、責任ある意思決定)をPBLの枠組みに組み込む方法について具体的な事例やリソースを提供することを目的とされています。尚、想定する読者はある程度PBLの基本的な知識が備わっている人ということですので、PBLについて一定の理解を得てから本書を読む方が良いかもしれません。
ちなみに、タイトルのPulseとは( 直訳すると「鼓動」)、PBLの本質的な鼓動=SELと公平性に根ざした教育実践を象徴しており、「ただの手法ではなく、教育の心臓部としてPBLを再定義しよう」というメッセージが込められたものだと理解しました。
内容は、以下の10章で構成され、トータル350ページと長いので、各章毎にまとめていきたいと思います。
1. Introduction(イントロダクション)
2. Transformative Scoai and Emotional Learning(変容型SEL)
3. Components of Project Based Learning(PBLの構成要素)
4. Developing Self-Awareness(自己認識の育成)
5. Building Self-Management(自己管理の構築)
6. Sharpening Social Awareness(社会的認識の向上)
7. Forging Relationship Skills(人間関係スキルの養成)
8. Exercising Responsible Decision-Making(責任ある意思決定のエクササイズ)
9. Assessing SEL Comptetencies(SEL能力の評価)
10. How Will You Revolutionize the World(あなたはどのように世界を変革するか)
著者のマイクとマティンガがPBLワークショップを行う際、その学校の文化、地域の状況、学年構成を踏まえて、「卒業生のプロフィール(Profile of a Graduate)」を言語化するためのプロトコルを用いて開始するようにしているそうです。そこで、教師達から出てくる生徒達に学んで欲しい内容は、「協働的」「強い意志をもつ」「優しい」「批判的思考ができる」「共感的」「粘り強い」といった、教科内容に現れない重要なライフスキル。そこで、教師達は、自分たちが本当に教えたいものは何かということに気づき始めるのだそうです。
これらのスキルセット(ビジネスの世界ではSoft Skillsと呼ばれる)は、以前はあまり注目されず、重要とも思われていなかったという歴史があります。
しかし近年、職場においてこうしたスキルの需要が非常に高まっていることから、ソフトスキルに対する認識が大きく変わってきました。実際、2019年に雇用主が求めるスキルの上位5つは、「創造性」「説得力」「協働」「適応力」「タイムマネジメント」であり、学問的な認知スキルではなく、非認知スキルに分類される内容となっています。これらの多くのスキルは、進学や就職以上に、家庭や地域社会、そして社会全体で生産的な人間になるための力として求められているのです。
SEL & PBL
ここでは、SEL(社会情動学習)とPBL(プロジェクト型学習)について言及されています。
結論として、「PBLこそが、教室でSELを自然に統合するための理想的な枠組みである」という主旨が述べられていますが、そのポイントとなるのが以下の記述です。
・プロジェクト型学習(PBL)と社会情動学習(SEL)は、今やアメリカおよび世界中でバズワードとなっている
・その人気の高まりは、2000年代初頭に見られた標準化テストや統一カリキュラムへの極端な偏重からの揺り戻しに起因している
・ますます多くの学校制度が、学習者中心の環境へとシフトしている
・伝統的な授業スタイルでは、従順さや服従、受動性が重視され、生徒の自律性や創造的思考は、脅威や混乱として受け取られがちである
・このような状況では、生徒が自己管理(Self-Management)や責任ある意思決定(Responsible Decision-Making)を実践する余地はほとんどない
・なぜなら、すべての重要な決定は教師かカリキュラムディレクターによって既になされているから
・2019年に行われたギャロップ社の調査によれば、「学校の内容は relevant(現実世界に役立つ)だ」と回答した教師は52%だったのに対し、生徒ではその割合は26%に過ぎなかった。
・生徒たちは、「自分たちが relevant なテーマを選ぶことができない」「学校で authentic(本物の)プロジェクトに取り組む機会がない」と感じている
・PBLとは、生徒が個人またはグループで本質的な問題に取り組み、解決策を見出していく、生徒中心の枠組み
・PBLは、SELのいかなるスキルも教え、実践し、評価するための十分な機会を提供するインタラクティブな構造
・PBLは、SELとの相性が非常に良く、まさに手袋の中の手のようにぴったりとはまる
・SELはPBLにとって不可欠なパートナーであるだけでなく、最終的な到達点でもある
・この教育的アプローチの根幹を成すのがSELである。SELがなければ、PBLは意味のある学びや持続可能なスキルを欠いた、単なる人工的な活動の羅列にすぎなくなる。
What Makes a Weak Pulse?(弱い鼓動とは何か?)
・SEL要素のないプロジェクトは、表面的には「本格的なプロジェクト」に見えるが、SELスキルの意図的な育成が欠如していたため、学習は深まりきらず、発表も単なる「情報の提示」にとどまる
筆者らはこれを「Weak Pulse(鼓動が弱い)」と表現しています。
What Makes a Strong Pulse?(強い鼓動とは何か?)
では、「Strong Pulse(強い鼓動)」を持つプロジェクトにするためには何が必要となるのか。
ポイントは、上述の通り、SEL(社会情動的スキル)の統合です。
失敗した事例として以下のような内容が紹介されています。
・失敗したプロジェクトには、支配を最初に受けた植民地の人々に生徒が共感するための社会的認識(Social Awareness)レッスンがなかった。また、責任ある意思決定(Responsible Decision-Making)の機会も欠けていた。プロジェクトには、現実の目的も、観客もいなかったため、生徒たちは効果的なコミュニケーションスキルを育てる動機も欠いた。
・つまり、これは“プロジェクト”ではあったが、“PBL(Project Based Learning)”ではなかった。
・PBLも同じで、鼓動=SELがなければ、学びも育成も起きない。SELなしのPBLは、方向性を失った空虚な活動である。両者が融合してこそ、生徒の内面に橋をかけることができる。SELスキルは、プロジェクトの中でこそ意味を持ち、身につくのだ。
SELは、すべてのプロジェクトの中心であるべきだ。なぜならSELこそが、PBLの鼓動そのものだからである。
ILevas:変革的な教室を実現するための対策
・本書の重要なツールの1つが「ILevas(イレヴァス)」である(発音:イー・レイ・ヴァズ)
・これは、教師のための実践的な方法を示したもの(学生向けバージョンもオンラインで入手可能)
・歴史的に、人々は身体や心の不調を「立ち止まるべきサイン」として受け止め、ヒーラーのもとで静かな対話や自然療法を通じて調和を取り戻してきた。頭痛に対しても薬ではなく「お茶を飲みながら語り合う」ことが大切とされた。Matingaはこの実践を「ティー・ヨガ」と呼んだ
・本書に登場するILevasもまた、ティー・ヨガのように、長年の教室実践に基づいて培われた、ゆるやかで統合的なアプローチ
・ SELは、才能ある一部の生徒だけに必要なものではなく、すべての子どもに必要な“生きる力”である
Reflection Questions(振り返りの問い)
・教科内容以外で、生徒にとって最も重要なスキルとは何か?
・SELとPBLをあなたはどのように定義するか?
・あなたの教室で、SELとPBLのどのような要素をすでに実践してきたか?
ここまで。
初っ端から自分が得たい情報の核心を突かれたような内容でした。
「SELはPBLにとって不可欠なパートナーであるだけでなく、最終的な到達点でもある」
これは、学術的な知見から考えると、SELがPBLの手段にも目的にもなるということなのかもしれないと思いました。研究のイメージを色々膨らみそうです。
続いて第2章へ。
書籍はこちら

先日読んだ論文からヒントを得てこちらの書籍に辿り着きました。
CASELが提唱した社会情動的スキルの5つの主要なコンピテンシー(自己認識、自己管理、社会的認識、人間関係スキル、責任ある意思決定)をPBLの枠組みに組み込む方法について具体的な事例やリソースを提供することを目的とされています。尚、想定する読者はある程度PBLの基本的な知識が備わっている人ということですので、PBLについて一定の理解を得てから本書を読む方が良いかもしれません。
ちなみに、タイトルのPulseとは( 直訳すると「鼓動」)、PBLの本質的な鼓動=SELと公平性に根ざした教育実践を象徴しており、「ただの手法ではなく、教育の心臓部としてPBLを再定義しよう」というメッセージが込められたものだと理解しました。
内容は、以下の10章で構成され、トータル350ページと長いので、各章毎にまとめていきたいと思います。
1. Introduction(イントロダクション)
2. Transformative Scoai and Emotional Learning(変容型SEL)
3. Components of Project Based Learning(PBLの構成要素)
4. Developing Self-Awareness(自己認識の育成)
5. Building Self-Management(自己管理の構築)
6. Sharpening Social Awareness(社会的認識の向上)
7. Forging Relationship Skills(人間関係スキルの養成)
8. Exercising Responsible Decision-Making(責任ある意思決定のエクササイズ)
9. Assessing SEL Comptetencies(SEL能力の評価)
10. How Will You Revolutionize the World(あなたはどのように世界を変革するか)
1. Introduction(イントロダクション)
第1章はイントロダクションで、本書の全体像について説明されています。PBLを通じて彼らは、学問的内容にとどまらないスキル──共感的かつ創造的な問題解決、意図的な協働、そして他者のための行動──を身につけた。これらのスキルは、単に思いつきで生徒が身につけたわけではなく、PBL設計の中で意図的に育まれたものである。この一文に書かれているように、本書で紹介されている教育実践法は、社会情動的スキルを育むためのポイントをPBLの中で意図的に組み込んだ内容となっています。正に自分が知りたかった内容。
著者のマイクとマティンガがPBLワークショップを行う際、その学校の文化、地域の状況、学年構成を踏まえて、「卒業生のプロフィール(Profile of a Graduate)」を言語化するためのプロトコルを用いて開始するようにしているそうです。そこで、教師達から出てくる生徒達に学んで欲しい内容は、「協働的」「強い意志をもつ」「優しい」「批判的思考ができる」「共感的」「粘り強い」といった、教科内容に現れない重要なライフスキル。そこで、教師達は、自分たちが本当に教えたいものは何かということに気づき始めるのだそうです。
これらのスキルセット(ビジネスの世界ではSoft Skillsと呼ばれる)は、以前はあまり注目されず、重要とも思われていなかったという歴史があります。
しかし近年、職場においてこうしたスキルの需要が非常に高まっていることから、ソフトスキルに対する認識が大きく変わってきました。実際、2019年に雇用主が求めるスキルの上位5つは、「創造性」「説得力」「協働」「適応力」「タイムマネジメント」であり、学問的な認知スキルではなく、非認知スキルに分類される内容となっています。これらの多くのスキルは、進学や就職以上に、家庭や地域社会、そして社会全体で生産的な人間になるための力として求められているのです。
SEL & PBL
ここでは、SEL(社会情動学習)とPBL(プロジェクト型学習)について言及されています。
結論として、「PBLこそが、教室でSELを自然に統合するための理想的な枠組みである」という主旨が述べられていますが、そのポイントとなるのが以下の記述です。
・プロジェクト型学習(PBL)と社会情動学習(SEL)は、今やアメリカおよび世界中でバズワードとなっている
・その人気の高まりは、2000年代初頭に見られた標準化テストや統一カリキュラムへの極端な偏重からの揺り戻しに起因している
・ますます多くの学校制度が、学習者中心の環境へとシフトしている
・伝統的な授業スタイルでは、従順さや服従、受動性が重視され、生徒の自律性や創造的思考は、脅威や混乱として受け取られがちである
・このような状況では、生徒が自己管理(Self-Management)や責任ある意思決定(Responsible Decision-Making)を実践する余地はほとんどない
・なぜなら、すべての重要な決定は教師かカリキュラムディレクターによって既になされているから
・2019年に行われたギャロップ社の調査によれば、「学校の内容は relevant(現実世界に役立つ)だ」と回答した教師は52%だったのに対し、生徒ではその割合は26%に過ぎなかった。
・生徒たちは、「自分たちが relevant なテーマを選ぶことができない」「学校で authentic(本物の)プロジェクトに取り組む機会がない」と感じている
・PBLとは、生徒が個人またはグループで本質的な問題に取り組み、解決策を見出していく、生徒中心の枠組み
・PBLは、SELのいかなるスキルも教え、実践し、評価するための十分な機会を提供するインタラクティブな構造
・PBLは、SELとの相性が非常に良く、まさに手袋の中の手のようにぴったりとはまる
・SELはPBLにとって不可欠なパートナーであるだけでなく、最終的な到達点でもある
・この教育的アプローチの根幹を成すのがSELである。SELがなければ、PBLは意味のある学びや持続可能なスキルを欠いた、単なる人工的な活動の羅列にすぎなくなる。
What Makes a Weak Pulse?(弱い鼓動とは何か?)
・SEL要素のないプロジェクトは、表面的には「本格的なプロジェクト」に見えるが、SELスキルの意図的な育成が欠如していたため、学習は深まりきらず、発表も単なる「情報の提示」にとどまる
筆者らはこれを「Weak Pulse(鼓動が弱い)」と表現しています。
What Makes a Strong Pulse?(強い鼓動とは何か?)
では、「Strong Pulse(強い鼓動)」を持つプロジェクトにするためには何が必要となるのか。
ポイントは、上述の通り、SEL(社会情動的スキル)の統合です。
失敗した事例として以下のような内容が紹介されています。
・失敗したプロジェクトには、支配を最初に受けた植民地の人々に生徒が共感するための社会的認識(Social Awareness)レッスンがなかった。また、責任ある意思決定(Responsible Decision-Making)の機会も欠けていた。プロジェクトには、現実の目的も、観客もいなかったため、生徒たちは効果的なコミュニケーションスキルを育てる動機も欠いた。
・つまり、これは“プロジェクト”ではあったが、“PBL(Project Based Learning)”ではなかった。
・PBLも同じで、鼓動=SELがなければ、学びも育成も起きない。SELなしのPBLは、方向性を失った空虚な活動である。両者が融合してこそ、生徒の内面に橋をかけることができる。SELスキルは、プロジェクトの中でこそ意味を持ち、身につくのだ。
SELは、すべてのプロジェクトの中心であるべきだ。なぜならSELこそが、PBLの鼓動そのものだからである。
ILevas:変革的な教室を実現するための対策
・本書の重要なツールの1つが「ILevas(イレヴァス)」である(発音:イー・レイ・ヴァズ)
・これは、教師のための実践的な方法を示したもの(学生向けバージョンもオンラインで入手可能)
・歴史的に、人々は身体や心の不調を「立ち止まるべきサイン」として受け止め、ヒーラーのもとで静かな対話や自然療法を通じて調和を取り戻してきた。頭痛に対しても薬ではなく「お茶を飲みながら語り合う」ことが大切とされた。Matingaはこの実践を「ティー・ヨガ」と呼んだ
・本書に登場するILevasもまた、ティー・ヨガのように、長年の教室実践に基づいて培われた、ゆるやかで統合的なアプローチ
私たちは、かつて「難しい」と思っていた生徒たちが、学びに対して驚くほどの集中力と関与を見せるようになる場面を、何度も見てきた。 彼らは、学んだことの実用性や、自分の感情との関連性を理解したとき、SELの価値に気づくのだ。「学力だけに集中し、子どものSEL育成を無視することは、“教育的過失”とみなすべきである。」
・ SELは、才能ある一部の生徒だけに必要なものではなく、すべての子どもに必要な“生きる力”である
Reflection Questions(振り返りの問い)
・教科内容以外で、生徒にとって最も重要なスキルとは何か?
・SELとPBLをあなたはどのように定義するか?
・あなたの教室で、SELとPBLのどのような要素をすでに実践してきたか?
ここまで。
初っ端から自分が得たい情報の核心を突かれたような内容でした。
「SELはPBLにとって不可欠なパートナーであるだけでなく、最終的な到達点でもある」
これは、学術的な知見から考えると、SELがPBLの手段にも目的にもなるということなのかもしれないと思いました。研究のイメージを色々膨らみそうです。
続いて第2章へ。
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