昨日に続き、Pulse of PBL: Cultivating Equity Through Social Emotional Learningの第2章をレビューしていきます。

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Pulse_of_PBL

1. Introduction(イントロダクション)
2. Transformative Social and Emotional Learning(変容的SEL)
3. Components of Project Based Learning(PBLの構成要素)
4. Developing Self-Awareness(自己認識の育成)
5. Building Self-Management(自己管理の構築)
6. Sharpening Social Awareness(社会的認識の向上)
7. Forging Relationship Skills(人間関係スキルの養成)
8. Exercising Responsible Decision-Making(責任ある意思決定のエクササイズ)
9. Assessing SEL Comptetencies(SEL能力の評価)
10. How Will You Revolutionize the World(あなたはどのように世界を変革するか)

2. Transformative Scoai and Emotional Learning(変容的SEL)

第2章は、変容的SEL(Transformative Social and Emotional Learning)として、以下のテーマでまとめられています。
・SELの3つのレベル
・CASELの5つのコンピテンシー
・SELに関する6つの誤解
・教師におけるSELの自己実践

SELの3つのレベル
筆者らは、CASELの枠組みを説明の基盤として採用し、SELを以下の3つのレベルに分類しています。
・レベルI:個人:自己認識、自己制御、対処スキルに焦点を当て、自身のアイデンティティを理解し、個人のウェルビーイングを追求する
・レベルII:協働:個人スキルと協働スキルのバランスをとりながら、対処スキルや強みが他者にどう影響するかを学ぶ
・レベルIII:変容:批判的な自己分析、協働的な問題解決、社会正義のためのリーダーシップに焦点を当てる

個人レベルのSEL(Individual SEL)
・個人のSELは、市販されている多くのSELプログラムに共通して見られる「性格形成」的な側面
・これらのプログラムでは、生徒は感情の特定や表現方法を学び、校則遵守や適切な教室行動に重点
・生徒は問題行動を減らすための自己調整や、規範的な価値観、孤立回避を学ぶ
・個人SELは、生徒が自分自身への理解を深め、ウェルビーイングを高める助けとなる

協働的SEL(Collaborative SEL)
・自分の感情や対処スキルが他者にどう影響するかという視点を通じて、SESコンピテンシーを学ぶ
・チームビルディング、集団による問題解決、明確なコミュニケーションスキルが強調される
・生徒は、建設的な集団の相乗効果を体験する

変容的SEL(Transformative SEL)
・CASELの研究者Jagers、Rivas-Drake、Williamsが、第3レベルの「Transformative SEL(変容的SEL)」を提唱
・これは、全ての生徒、特に社会的に不利な立場にある生徒のために、民主的な解決策を追求する制度や構造を吟味するもの
・変容的SELは、個人SELで重視される対処スキルと、協働的SELで育まれるCASELコンピテンシーに基づき、権力、特権、差別、社会正義、エンパワーメント、自己決定といった具体的な不正義に取り組むよう生徒に求める
・変容的SELは、不平等を認識し、不正義の根本的原因に対する解決策を模索するよう生徒に促す
・それは文化的に応答的で公平であり、全ての生徒の社会文化的背景を強みとみなす。

実践における3レベルのSELの活用
・SELの3つのレベルは、必ずしも順序立てて教えるべきものではなく、年齢や成熟度も関係ない
・変容的SELスキルは初めから育むことができる

続いて、CASELの5つのコンピテンシー(The Five CASEL Competencies)です。
・CASELによるSELの定義:「人々が知識、態度、スキルを獲得し、効果的に適用するプロセスであり、それによって感情を理解・管理し、ポジティブな目標を設定して達成し、他者への共感を抱き、良好な人間関係を築いて維持し、責任ある意思決定を行うことができるようになる」
・多くのSEL指導法の弱点は、主に学術的環境(教室や学校)に焦点を当てるあまり、家庭や地域社会へのスキルの移行を軽視する点にある
・コミュニティとの本物のパートナーシップを通じて、PBLは、CASEL枠組みで示された4つの環境すべてにおいてSELを統合するための最適なアプローチである

5つのコンピテンシーと、下位スキル、上記の3レベルのSELについては、翻訳・要約して表でまとめました。
casael_SEL

続いて、教育者が誤解しがちなSELに関する誤認(misconceptions)について書かれています。

誤解①:SELはマインドフルネス、ヨガ、呼吸法、瞑想と同義である
・これらの活動はSELコンピテンシーを育成するための「手段(ツール)」であって、SELスキルそのものではない
・マインドフルネス、瞑想、ヨガといったツールは、SELコンピテンシーの一部を発達させる助けとなる(自己調整はSELコンピテンシーの重要な要素)
・しかし、SELの中で共同的な側面、つまり社会的な側面が抜けている
・特定の技法(マインドフルネス等)にのみ焦点を当てることで生じる危険性
 ①SELが追加的な活動、つまり「付け足し」のように扱われる危険
 ②「レベル1」の個人レベルのSELに留まり、「協働的」「変容的」なレベルに到達できなくなる

誤解②:SELは学問的時間の無駄である
・特に中等教育レベルの教員の中には、マインドフルネスやそれに類する実践を、学習内容を教える貴重な時間を奪う非学術的な活動と見なす者がいる
・その結果、SELは一日を通じて注入されるのではなく、マインドフルネスのような孤立した実践が、授業や教科内容とほとんど関係のない追加的な活動として扱われてしまう
・研究によれば、SELコンピテンシーを発達させることは学業成果を向上させる
 ・自己認識における忍耐力と成長志向の考え方は、生徒が学業上の困難を乗り越える助けとなる
 ・自己管理の組織的スキルは、期限内に質の高い成果を出す力へとつながる
 ・社会的認識は、生徒がさまざまな視点から状況を分析する力を育てる
 ・対人関係スキルにおけるコミュニケーションと協働は、生徒が書面や口頭で複雑なアイデアをやりとりする助けとなる
 ・責任ある意思決定における問題解決力は、学術内容の深い理解と、それを現実世界に応用する力を育てる
・このように、SELの5つのコンピテンシーは学術的成功の土台となる
・本書では、PBLを通じて、SELを授業全体の文化や構造に統合された本質的要素として位置づけ、SELが「おまけ」ではないことを示している

誤解③:SELとは、人間関係を築くことや、生徒の感情状態を確認することである
・SELは単なる心の準備やつながりづくりではなく、意図的に育成すべき一連のスキル群である
・トラウマ・インフォームド教育(生徒の苦難に配慮した教育)はSELと重なる部分はあるが、SEL全体を代表するものではない
・生徒の感情に気を配るだけでは、自己認識、自己管理、対人関係スキル、社会的認識、責任ある意思決定といった5つのSELコンピテンシーは育たない
・学年の始めだけに関係性を重視し、すぐに講義型授業やテスト中心の授業に戻ってしまうと、SELは表面的な取り組みに終わる
・SELの育成は年間を通じて継続的に行うべきであり、教科と切り離してはならない。

誤解④:SELは教室のマネジメント問題を解決してくれる
・教育者の中には、SELを生徒の行動を管理する手段として導入するケースがあるが、それは本来の目的ではない
・SELは教師の都合のためではなく、生徒自身の成長とライフスキルの育成のためにある
・従来の「従順さと規律重視」の教育文化では、生徒は受動的な存在とされ、SELの本質的な実践は困難だった
・SELを「行動をコントロールするためのツール」として使うと、自己コントロールに偏った「最悪の形の個人向けSEL」になってしまい、協働的スキルや社会性といった、より広いSELの目標が無視される
・真のSELとは、子どもに自由と責任を与え、自律的に学ぶ力を育てることに他ならない

誤解⑤:SELは有色人種の生徒を「救う」ものである
・SELを、有色人種(BIPOC)の生徒を「矯正」または「救済」する手段として使うことは危険
・特に「自己管理」などのスキルを通じて、BIPOCの生徒を白人中心の規範に同化させようとする使い方は、「武器化されたSEL(Weaponized SEL)」である
・SELの本来の目的は、すべての生徒が自らの文化的価値を尊重されながら成長できるようにすることであり、文化的同調や自己責任の押しつけではない
・変容的SELは、生徒が社会構造の不平等に気づき、それに対応するスキルを身につけることを重視する
・公平性(Equity)は、教育の周縁的要素ではなく、根幹(主菜)であるべき
・BIPOC(黒人・先住民・有色人種)の生徒を「特別枠」として扱うことで、無意識のうちに他者化が生まれ、教育における分断が強化されてしまう
・SELやPBLにおける「変容的アプローチ」では、すべての生徒の文化的背景が尊重され、日常的な学びの中で公平性が体現される必要がある
・SELをBIPOC生徒の「行動管理のための仕組み」として使うのではなく、生徒自身のアイデンティティを認め、強みを育てる手段として使わなければならない
・「武器化されたSEL(Weaponized SEL)」の危険性は、制度的な不正義を見過ごし、個人の責任にすり替える点にある
・教師自身も、自己のバイアスや信念を省察し、強みベースで生徒を見る視点に切り替える努力が求められる

暗黙のバイアス省察質問(10 Implicit Bias Reflection Questions)
1. 私が関心を持っている現在の社会課題は何か?
2. 私にはどのような社会的・経済的・宗教的・身体的・人種的な利得があるか?
3. 私の暗黙のバイアスを形成した経験は何か?
4. 異なる人生経験を持つ人々と私は積極的に関わっているか?
5. 私は、交差性(ジェンダー、人種、年齢、階級、性的指向などの社会的区分が人々の経験にどう影響するか)をどの程度理解しているか?
6. 社会的課題についての困難な対話に、私は快く参加できるか?
7. 議論が起こりやすい社会問題についての会話において、私は人の話を聴いているか、それとも判断してしまっているか?
8. 私のバイアスは、私の教え方や生徒との接し方にどのように現れているか?
9. 暗黙のバイアスについてもっと学び、理解を深めるために、私はどのような行動を取っているか?
10. 構造的な暗黙のバイアスが特定されたとき、それを解体するために私はどのような行動を取っているか?

誤解⑥:学校はSELを市販の教材として買えばいい
・市販のスタンドアロン型教材では、SELが「切り離された抽象的な活動」となり、実生活とつながらないまま終わってしまうリスクがある
・特に「一斉導入型」「ワンサイズ・フィッツ・オール」のカリキュラムは、文化的・社会的多様性に応答できず、学習が断片化されてしまう
・SELは、教室文化の基盤(ファブリック)や魂として、日常的・実践的に統合される必要がある
・そのための最適な枠組みがPBLである
PBLでは、生徒は以下のようにして5つのSELコンピテンシーを自然に実践できる:
 ・責任ある意思決定:現実世界の問題に取り組む中で行う
 ・対人関係スキル:グループ活動や協働を通じて磨かれる
 ・社会的認識:地域や他者と関わることで育まれる
 ・自己認識・自己管理:プロジェクトを進める中で自らの強みや限界に気づき、改善する

・多くの教材ではSELスキルを順番に導入する傾向があるが、SELは階層構造ではなく、5つのスキルを同時に実践すべき
・PBLではこれが可能であり、「本物の学びの中で育まれる人格・自信・自尊感情」が真のSELの育成につながる
・最後に、SELの本質的な実践には以下が不可欠: 生徒の強みとニーズに応じた形成的評価と指導の調整 明確な目標設定、日常授業への統合、そして定期的な評価 単なる教材購入ではなく、継続的な実践と文化的配慮

リフレクション・クエスチョン(省察の問い)
・これまでに自身の実践の中で使用したことのあるSELコンピテンシーはどれか?
・あなたにとって新しい、または不明確で、さらに探究が必要なSELコンピテンシーはどれか?
・これまでに見聞きしたSELの実例は、「個人レベル」「協働レベル」「変容的レベル」のうちどれに該当するか?
・あなたの生徒に教えるうえで、最も重要だと感じるSELコンピテンシーはどれか?
・SELに関して、どのような文脈で誤解が生じているのを見聞きしたか?
・あなたのSELが、すべての生徒にとって「変容的(Transformative)」であると確信するには、何が必要か?
・授業を始める前に、あなた自身が取り組むべき「自己実践(Self-work)」とは何か?

ここまで。
第2章は、変容的SEL(Transformative Social and Emotional Learning)と題して、「SELの3つのレベル」や「CASELの5つのコンピテンシー」、「SELに関する6つの誤解」等についての内容でした。特に以下のような点が印象的でした。
・SELには3つのレベル(個人、協働、変容)があるが、多くは個人レベル止まりである
・これは、多くのSELが教室や学校に閉じており、家庭や地域社会へのスキルの移行を軽視しているから
・実社会と接続するPBLは、この弱点を補う最適な枠組みである
・PBLでは、生徒は以下のようにして5つのSELコンピテンシーを自然に実践できる
 ・責任ある意思決定:現実世界の問題に取り組む中で行う
 ・対人関係スキル:グループ活動や協働を通じて磨かれる
 ・社会的認識:地域や他者と関わることで育まれる
 ・自己認識・自己管理:プロジェクトを進める中で自らの強みや限界に気づき、改善する

SELのレベル3は、ロバート・キーガンの「自己変容型知性」とも重なる部分もあるなと思いました。

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