前回に続き、Pulse of PBL: Cultivating Equity Through Social Emotional Learningの第3章をレビューしていきます。

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Pulse_of_PBL

1. Introduction(イントロダクション)
2. Transformative Social and Emotional Learning(変容的SEL)
3. Components of Project Based Learning(PBLの構成要素)
4. Developing Self-Awareness(自己認識の育成)
5. Building Self-Management(自己管理の構築)
6. Sharpening Social Awareness(社会的認識の向上)
7. Forging Relationship Skills(人間関係スキルの養成)
8. Exercising Responsible Decision-Making(責任ある意思決定のエクササイズ)
9. Assessing SEL Comptetencies(SEL能力の評価)
10. How Will You Revolutionize the World(あなたはどのように世界を変革するか)

3. Components of Project Based Learning(PBLの構成要素)
PBLは、SELコンピテンシーの指導・実践・評価を構造化するための理想的な枠組みであり、以下の10個の要素で構成されていると述べられています。
1. エントリーイベント(Entry Event)
2. ドライビング・クエスチョン(Driving Question)
3. 必要な知識(Need to Knows)
4. 構造化された探究(Structured Inquirey)
5. ベンチマークと形成的評価(Bechmarks and Formative Assessment)
6. コミュニティ・パートナー(Community Partners)
7. 生徒の声と選択(Voice and Choice)
8. 省察(Reflection)
9. フィードバックと改善(Feedback and Refinement)
10. 最終成果物の発表(Final Product Presentation)

10個の構成要素についてそれぞれまとめていきます。

1. エントリーイベント(Entry Event)

・目的:対象となるトピックに関心を集め、好奇心を喚起し、生徒に初期的な背景知識や経験的知識を与える
・効果的なエントリーイベントは、自然とプロジェクトに関する問いを生徒から引き出す
・種類:短いビデオ、シミュレーション、ゲストスピーカー、校外学習、フィールドワーク等
・優れたエントリーイベントには、しばしば驚きや神秘(mystery)といった要素が含まれている
・最良のエントリーイベントは、認知的にも共感的にも魅力的(心と頭の両方を惹きつける)

生徒の心が深く学ぶ前に、その身体がまず内容と能動的に関わらなければならない。

【事例:トリックスター・テイルズ・プロジェクトのエントリーイベント】
・カリフォルニア州サンディエゴにある多様な都市型チャーター校「レオナルド・ダ・ヴィンチ健康科学チャーター校」の3年生で実施
・文学、作文、美術、理科、数学、社会科を統合したプロジェクトで、世界各地の民話を学習
・教師のエリン・ギャノンは、「トリックスター(ずる賢い登場人物)」が機転やユーモアで弱点を乗り越えるという要素を含んだ民話を横断的に取り上げ、このプロジェクトを設計
・プロジェクトは生徒が「Donors Choose」で募金キャンペーンを立ち上げ、「トリックスター物語」の書籍を購入するところから始まる
・生徒は資金の集計を通じて、加算・減算のスキルを実践
・資金が集まり、書籍が届いた後、生徒は箱を開け、本を閲覧し、読みたい本に付箋を貼り後日読むようにした
・ギャノンは教室で数冊の本を音読し、生徒は物語に共通する要素を一覧にまとめた
・生徒は「これはすべてトリックスター物語だ」と理解するようになり、質問や関連づけを積極的に行うようになった
・その後、ギャノンは光と影に関する理科の探究学習を導入し、生徒は様々な電球を使って影のパターンの変化を観察

【事例:公民権プロジェクトのエントリーイベント】
・ミシガン州グランドラピッズの「ケント・イノベーション高校」(包括的PBL校)の2年生を対象に実施
・プロジェクトは複数段階にわたるエントリーイベントから構成
・第1段階:隠しカメラ番組『What Would You Do?』のエピソードを視聴
 ・黒人と白人の若者が街中で車を破壊する様子を演じ、通行人がどう反応するかを記録
 ・白人の若者はほとんど通報されないという違いから無意識のバイアス(implicit bias)を浮き彫りに
・第2段階:ハーバード大学のオンラインテストを受け、自分の無意識のバイアスについて考察
・最終段階:1925年7月4日に開催されたKKKの集会に関する写真を閲覧
 ・自分たちの住む都市でその集会が行われていたことを知るに至る

【エントリーイベントが育むSELコンピテンシー】
・生徒は観察力・好奇心・柔軟な思考を実践し、「責任ある意思決定」のスキルを高める
・生徒は娯楽的に内容を受け取るのではなく、「探偵のような視点」で内容を捉え、積極的に参加する
・ギャノンの教室では、生徒が光や物体、影との関係を考察し、探究心を働かせていた
・公民権プロジェクトのような変容的エントリーイベントは、生徒に他者の視点から考える機会を与え、「社会的認識」や「共感」のスキルを育む

2. ドライビング・クエスチョン(Driving Question)

・ドライビング・クエスチョン(DQ)は、生徒と教師の双方にとってPJの枠組みを形成する役割
・DQは、教師の計画と生徒の探究に対して、目的と焦点を与える
・良いDQの最も重要な点は、魅力的であること(生徒が「答えたい」と思うような問い)
・DQは、州の基準に沿った教科書的な問いであってはならない
・生徒にとって身近な言葉ーたとえば流行語や人気の歌詞のようなーで書かれるべき
・DQは、教師が従来用いる「フック(hook)」とは異なる
・DQは単に話題性を作り出すためではなく、プロジェクト全体を通じて関心を維持するために使用
・さらに重要なのは、DQが生徒に反応し、調査し、解決のための計画を実行することを求める点にある。

フレーミング・クエスチョン(Framing Question)
・FQは、生徒の役割・最終成果物・対象読者・目的を明確にするもの
・これはDQよりも構造がしっかりしており、通常は以下のような形式で記述される
※役割(role)は、高校生などの上級生においては暗黙の了解とされ、省略される場合もある

形式例:
How can we, as ____________(役割)…
Do ____________(課題)…
So that ____________(対象・目的)?

【事例:トリックスター・テイルズ・プロジェクトのDQ・FQ】
DQ:“How do trickster tales teach cultural values?”
「トリックスターの物語は、どのように文化的価値を教えるのか?」
FQ:“How can we, as storytellers, use art and science to share trickster tales in a puppet show for our parents?”
「語り手として、私たちはどのように芸術と科学を使って、親に向けた人形劇でトリックスター物語を共有できるか?」

【事例:公民権ポッドキャスト・プロジェクトのDQ・FQ】
DQ:“How can a social movement effectively cause change?”
「社会運動はどのようにして効果的に変化をもたらすことができるか?」
FQ:“How can we create a podcast walking tour documenting Grand Rapids civil rights events to tell the story of how our city worked toward equity?”
「グランドラピッズの公民権運動の出来事を記録するポッドキャスト付きのウォーキングツアーをどのように作れば、我々の街が公平性に向かってどのように取り組んできたかの物語を伝えられるか?」

【DQに関するSELコンピテンシー】
・トリックスター・テイルズ・プロジェクト
 ・DQ:生徒に多文化的な信念と価値観を理解させ、自らのアイデンティティ形成における影響を考えさせることで、「社会的認識(Social Awareness)」を育成
・光と影を物語に用いる科学的課題が、「責任ある意思決定(Responsible Decision-Making)」を必要とし、情報を分析し、解決策を見出す能力を育成
・公民権ポッドキャスト・プロジェクト
 ・DQ:偏見とバイアスを見抜く「社会的認識」の力を育成しながら、プロジェクト全体に明確な目的意識を付与
 ・FQ:生徒に社会問題を特定させ、歴史的抵抗行動や現代の不正義への対応策を提案させたことにより、自らの視点を広げ、共感・思いやり・変革を表現する声を育てた

3. 必要な知識(Need to Knows:N2Ks)

・エントリーイベントおよびDQ・FQの提示直後に、生徒は「Need to Know(知るべきこと)」のプロセスを開始する。これは、よく知られる「KWLプロトコル(知っている・知りたい・学んだ)」の応用版である:
1. What do you Know about...?(すでに知っていること)
2. What do you Want to know about...?(知りたいこと)
3. What have you Learned about...?(学んだこと)
・PBLにおいては、最初の2つの問いがプロジェクト開始時に特に重視される

【補足】“Don’t Get in Your Own Way”の囲みコラム:
・N2Kでの探究と興味を促進するためには、生徒からの問いにすぐに答えることを避けるべき
・Q&A形式にすると、生徒は教師に依存してしまい、自力での探究や協働的学習が促進されない

【事例:トリックスター・テイルズ・プロジェクトのN2K】
・ギャノンは生徒に、理科ノート内の「ノートキャッチャー」に質問を記録させた
・生徒は観察・質問・解決策を日々記録し、「気づきと疑問(Notice and Wonderings)」の一覧を作成

【事例:公民権ポッドキャスト・プロジェクトでのN2K】
・Googleドキュメントを使って、DQ、FQ、州の社会科基準、共通コアのELA基準を一覧化し、その下に各自の名前を書き、自分のN2Kを記入する形式とした
・多くの質問は、エントリーイベントで見た写真資料に出てきたKKK(クー・クラックス・クラン)に関するものであった

学生が作成した「公民権運動プロジェクト」のN2K(Mikeのクラスより)
▶エントリーイベントに基づく問い:
・1925年7月4日のKKKの行進を引き起こした特定の出来事は何だったのか?
・なぜ人々は他者の権利のために立ち上がらなかったのか? あれほど多くの憎しみが存在していたのはなぜか?
・しかもそれほど昔の話ではないのに。 KKKは、どのようにして人々を勧誘したのか?
・その手法はなぜ効果があったのか?
・なぜKKKは、今も存在が許され、テロ組織として分類されていないのか?
▶学習基準に基づく問い:
・特定の裁判の判決は、公民権運動にどのような影響を与えたのか?
・性別の統合(ジェンダー・インテグレーション)は、公民権運動の中でどのように扱われたのか?
・なぜPlessy v. Ferguson(プレッシー対ファーガソン)事件が重要なのか?
・ハーレム・ルネサンスとは何であり、それは公民権運動にどのような影響を及ぼしたのか?
・Jim Crow法とは何か?
▶一般的トピックに関する問い(General Topic Questions)
・なぜ人は、他人の肌の色素を理由に他者を貶めようとするのか?
・現代の私たちの世代は、過去の世代と比べて異なる人種にどのように接しているか?
・私たちは1950〜60年代の時間枠にばかり注目していないか?
・また、人種に関する市民権だけでなく、ジェンダーやLGBTQに関する市民権についても注目すべきではないか?
・なぜ、人々は「今起きていることがおかしい」と気づくのにそれほど時間がかかったのか?
・差別が世代を超えて受け継がれるのであれば、どうすればそれを完全に止めることができるのか?
・社会に本能的に根づいてしまった問題を、どうすれば取り除くことができるのか?
・体系的な人種差別について、お願いだから話し合ってくれませんか?
生徒たちはこれらすべての質問をGoogleドキュメントに記入したのち、グループで上位3つの問いを選択
これらの質問はクラス全体に共有され、1人の生徒がそれらを模造紙に書き出し、プロジェクト期間中、教室の壁に掲示された。

【N2Kに関するSELコンピテンシー】
・N2K(Need to Know)プロセスの目的は、生徒により良い質問を立てさせ、「責任ある意思決定(Responsible Decision-Making)」を実践する土台をつくること
・生徒が自己の意思決定力にアクセスし、自己管理のもとで自らを組織化するための枠組み
・生徒の質問がプロジェクトの進行を導き、彼ら自身の興味によって目標設定が行われる

4. 構造化された探究(Structured Inquirey)

・PBLにおける探究とは、あらゆる教科領域に埋め込まれた魅力的な問いを追究する技術
・生徒はチームでN2Kに答えるための「次のステップ」を計画、その過程では、リサーチ、インタビュー、実験、アンケート、観察、ディスカッション、教師の指導などを組み合わせて探究を深めていく
・探究はPBLの「核(meat)」であり、最終発表まで継続する
・SELの視点から見ると、構造化された探究は学力だけでなく、最終成果物を成功させるために不可欠な探究スキルにも焦点を当てている。

【事例:トリックスター・テイルズ・プロジェクトの探究】
・生徒は各物語のテーマを特定し、それらが互いにどのように関連しているかを調査
・各物語の「トリックスター的特徴」と、そのキャラクターが他者とどのように関わったかを記録するウォールチャートの活用へと繋がる
・トリックスターの記述と相互作用に関するウォールチャート
 ・Story(国・文化を含めて)
 ・Who is the trickster?(登場人物の特徴)
 ・Who gets tricked?(誰がトリックスターの策略の対象となったか)
 ・Why? / What does the trickster want?(なぜ?/何を求めるか)
 ・Is the trickster a teacher or a fool?(教える者か、愚者か)
 ・What do we learn?(何を学んだか)
・生徒たちが自作の民話を作り始めた頃、マスターストーリーテラー(語り部)が教室を訪れ、物語を自然な流れで聴衆に伝えるためには、内容をチャンクに分けて話すとよいことを伝えた
・別の日にはアーティストがインドネシアの影絵人形を紹介し、色付きの影のアイデアを披露

【事例:公民権ポッドキャスト・プロジェクトの探究】
・生徒は州の学習基準に基づく語彙や歴史的出来事を調べるところから探究を開始
・公立図書館の都市公文書館に出かけ、新聞の切り抜きやマイクロフィルムを調査し、家族や地域住民にインタビューを行い、地域の公民権運動への視点を集めた
・生徒たちはポッドキャストの作り方に慣れていなかったため、既存の番組を分析し、構成や要素を学習
・自分たちで番組スタイルを選ばせることで、学びにスキャフォルディングが生まれ、直接的な指導以上の効果が得られた

【探究の統合とSELスキルの実践】
・探究プロセスは、責任ある意思決定の中核にある生徒中心のデザイン思考を反映
・生徒たちは、調査、実験、アイデアの検証、考察、解決策の模索、そしてコミュニティへの影響を一貫して意識しながら進めた。
・トリックスター・テイルズでは、困難を乗り越えるために、自己管理と責任ある意思決定を用い、生徒が自分の物語の構成や人形の操作方法を解決
・録音した音声を使うことで問題を乗り越え、パートナーとの合意形成やスケジュール管理を行い、自らの進捗に責任を持って取り組んだ

【公民権プロジェクトのSEL焦点:関係スキル】
・このプロジェクトのSELコンピテンシーの焦点は、関係スキル(Relationship Skills)であった
・生徒たちは、チーム契約やスクラムボードを使って、プロジェクトの進捗を共有し、グループ内での関係性や協働について省察
・トーキング・サークルを使って、チームの絆や対話の在り方について話し合った

5. ベンチマークと形成的評価(Benchmarks and Formative Assessments)

・ベンチマーク評価とは、プロジェクトのサイクルにおいて、生徒の内容理解や進捗を確認するための主要なチェックポイントで、以下などが含まれる:
 ・アウトライン
 ・下書き(rough drafts)
 ・プロトタイプ
 ・スクリプト
 ・ストーリーボード
・形成的評価(formative assessment)は、理解度や誤解を日々チェックするための「小さな評価」
・エグジットチケットから観察記録まで形式は様々
・評価は教師だけの役割にとどまらず、PBL教室では生徒間の相互評価や自己評価も頻繁に行われる
・コミュニティの専門家がフィードバックを行う場合もある
・すべての活動が、会話や観察を通じた形成的評価の機会となる
・教師は、何が不足しているかを常にチェックし、小グループのワークショップやスキャフォルディングで補っていく

【事例:トリックスター・テイルズ・プロジェクトの評価】
・主に英語科(ELA)に基づくものであったが、複数の教科をまたいで実施され2つの基準があった
 ・基準①:生徒が物語の主題や教訓を見つけ出すこと
 ・基準②:適切な事実・詳細を用いて、明瞭なペースで物語を語ること
・生徒との対話と観察を通じて形成的評価を行い、各生徒が選んだ物語の中でトリックスターを分析し、クラスのウォールチャートと同様のチャートをノートに記録させ、総括的評価の一部として活用
・生徒たちは、自分の物語の教訓(モラル)をノートに記述し、その後クラス全体で行われるディブリーフ(振り返り)セッションに参加し、理解度を形成的に確認
・音声録音は、話すことと聞くことに関する基準に対する総括的評価として活用
・社会科:生徒たちは物語の起源となった世界各地の場所を地図上に記録する活動を通じて、マッピングスキルを発揮
・理科:異なる素材でできた物体が光線の中でどのように振る舞うかという基準について調査
・数学:プロジェクト開始前に募金額を記録し、プロジェクト中には、物体を光源から異なる距離に置いたときの影の変化を測定する実験
・ギャノンは、生徒の粘り強さ(perseverance)を、チェックリストを持って教室内を巡回しながら観察し、その行動を記録
・彼女は、粘り強さについてのクラス全体の議論を主導し、生徒にスタミナとあきらめない姿勢(stick-to-it-ness)についてノートに振り返りを書かせた

【事例:公民権ポッドキャスト・プロジェクトの評価】
・社会科の2つのベンチマーク:どちらも生徒が口頭で歴史的背景と選択理由を説明することを求めた
 ・①ジム・クロウ時代の出来事や政策に関する図解を作成すること
 ・②公民権運動における重要な10の出来事のタイムラインを作成すること
・社会科の内容は、主に会話と観察を通じて形成的に評価され、一次資料と二次資料が、クラス全体および小グループの議論の基盤となった
・マイクは、エグジットチケットを使用して生徒の理解度のギャップを確認し、スケッチやタイムラインを日々チェックして、生徒がスケジュールに沿っているかを確認
・ELA(英語科)の2つのベンチマーク
 ・①自分たちが読んだ公民権小説のテーマを文学分析の形で掘り下げ説明
 ・②ポッドキャストのスクリプト作成各スクリプトは協働的に執筆され、グループメンバーがそれぞれ異なるフォント色で自分の貢献を明示する形式で行われた
・ELAの内容は、教師の観察と文学サークルでのピア・フィードバックによって形成的に評価
・エグジットチケットを通じて、自らの物語のテーマや登場人物の成長について振り返るよう促された
・ポッドキャストのスクリプトは、複数のピアフィードバック・プロトコルとチェックポイントを経て循環し、正確性を確保し、文章の質を高める取り組みがなされた
・生徒の社会的認識(Social Awareness)のスキルは、アフリカ系アメリカ人がアメリカ合衆国で直面してきた歴史的不正義への共感を通じて向上
・協働によるスクリプト作成や録音活動を通じて、関係スキル(Relationship Skills)を高め、得た知見を地域社会と共有

6. コミュニティパートナー(Community Partners)

・PBLの秘密の材料①(プロジェクトを「味気ないもの」から「スパイスの効いたもの」へと変える)
・地域連携(コミュニティ・パートナーシップ)は、プロジェクトに本物の目的を与える
・教師だけが評価する課題の代わりに、生徒は地域の専門家と協働し、スキルを磨き、成果物を公表
・作品を公表することは健全なストレスを生み出し、生徒にとっての目的意識となる

【事例:トリックスター・テイルズ・プロジェクトのコミュニティパートナー】
パートナー①:元教師かつ語り部(マスター・ストーリーテラー)
・教師に「トリックスター・テイルズをプロジェクトの中心にする」というアイデアを提案
・推薦書を紹介し、ゲスト語り部として、生徒に語りの技術を指導
・彼は簡易録音スタジオを設営し、効果的なイントロとエンディングの音楽選びを支援
パートナー②:地元の影絵人形遣い(パペット・アーティスト)
・彼女はインドネシアの影絵に関するショーを通して、生徒に芸術と科学の概念のつながりを教えた
・生徒に蝶番付き人形の作り方を教え、それが最終発表に使われた

【事例:公民権ポッドキャスト・プロジェクトのコミュニティパートナー】
パートナー①:地域図書館のアーカイブ担当者:地域の公民権運動に関する資料を集めた。
パートナー②:NAACP(全米黒人地位向上協会)の地域支部の講演者
パートナー③:人種隔離に挑戦した活動家:ゲストスピーチ
パートナー④:地域住民や家族:生徒がインタビューを行い、経験談を集めた

・両プロジェクトとも、地域の専門家(community partners)が特定のSELスキルをモデルとして示した
 ・ストーリーテラーと影絵人形師は、効果的なコミュニケーション(Relationship Skill)を教えた
 ・図書館のアーカイブ担当者は、高校生に対して、データや事実、情報をもとに合理的な判断を下す方法(Responsible Decision-Making)を指導
・地域連携のパートナーは、どのSELコンピテンシーでもモデルとなれるが、特に異文化的・社会的視点を持った社会的認識(Social Awareness)の提示において大きな影響を及ぼす

7. 生徒の声と選択(Voice and Choice)

・PBLの秘密の材料②(プロジェクトを「味気ないもの」から「スパイスの効いたもの」へと変える)
・PBLでは、生徒は以下のような面で選択の自由が与えられる
 ・学習内容
 ・学び方のスタイル
 ・学びの成果の示し方
 ・グループ内の役割
 ・誰と学ぶか
これらの選択は、生徒に学びへの主体的関与(buy-in)を促し、より深い学びへの動機づけにつながる

Student choice does NOT mean that PBL is a free-for-all.
(生徒の選択肢があるということは、PBLが無秩序であるという意味ではない)

・選択の自由度は、生徒および教師のPBL経験レベル、年齢に応じて調整されるべき
・PBL初心者に対しては、選択の自由は徐々に増やしていくことが望ましい
・PBLとは、単に生徒に選択肢を与えることではない
・PBLは、生徒が自分の考えや情熱的な視点を世界や地域社会の重要な問題に対して共有できるようにする、変革的な学習体験である

【事例:トリックスター・テイルズ・プロジェクトの声と選択】
・パートナー選択、民話の選定、自らの物語の執筆、カスタムパペットの設計・制作
・ポッドキャストの録音に際しては、ギャノンの助言のもとで使用する音楽を自ら選択
・「選択」と「声」の自由には一部制限があった:全員が「民話を語る」こと、影絵人形を使って演じ、録音・パフォーマンスを行うことを必須とする
 ・若年の学習者に対しては、ある程度の選択肢の制限が、かえって効果的である場合も多い

【事例:公民権ポッドキャスト・プロジェクトの声と選択】
・協働相手、「公民権運動年表」に載せる出来事、インタビュー相手やポッドキャストの主題、スクリプトのスタイルやナレーター、音響効果や音楽などの選定はすべて生徒グループで決定

・PBLにおける生徒の声と選択肢は、生徒に自己効力感(self-efficacy)をもたらす
・生徒たちは、自らの成功のために計画を立て、主体性(エージェンシー)を育んでいく
・生徒たちは、変容的SEL(Transformative SEL)を実践し、制度的人種差別の存在に気づき、それに対処するために必要な力について理解を深めていった。

8. Reflection(省察)

・100年以上前にジョン・デューイが体験的学習における省察の重要性を説いていた「私たちは経験から学ぶのではなく、経験を振り返ることで学ぶのだ」
・省察とは「分析を伴う記憶」であり、「学びの道具」として定義する
・省察は、PBLの中で深い学びを固定化させる重要なプロセスであり、生徒がプロジェクトの終盤だけでなく、定期的に自分の学習を振り返ることが大切である

【事例:トリックスター・テイルズ・プロジェクトの省察】
・①全体討議の中で生徒たちはプロジェクトの進捗を振り返り、その日の学びをノートに書き残した
・②プロジェクト終了前には全体の流れをまとめたタイムラインを作成し、各自の成長や困難の乗り越え、学びの内容を視覚的に表現

【事例:公民権ポッドキャスト・プロジェクトの省察】
・省察はN2K質問から始まり、日々のエグジットチケットやペアでの対話を通して継続
・グループの知識レベルを測ったり、リレーションシップ・スキルの振り返りが行われたりした
・プロジェクト終了時にはGoogleフォームを使って、学習内容、協働経験、そして今後に残る気づきについて最終的な省察を実施
・省察は、すべてのSELレベルにおいて重要:社会の改善方法を省察することで、レベルIIIの変容的SELが実践される

9. フィードバックと改善(Feedback and Refinement)

・プロジェクト中、生徒は仲間、教師、地域の人々からのフィードバックを受け取り、それをもとに絶えず修正を加えていく
【事例:トリックスター・テイルズ・プロジェクトのフィードバックと改善】
・ストーリーテラーの指導のもと、生徒はストーリーを一気に暗記するのではなく、「ブロックごとに語る」方法を学習
・物語とパペット操作の両立に苦戦した生徒には、「録音の事前収録」という選択肢が与えられ、録音技術が教えられた
・緊張や不安を感じていた生徒も、録音された自分の音声を聞いたことで自信を得て、必要であれば再録音を実施
・録音が完了し、パペットショーの練習を終えると、生徒たちはキンダー生に発表を行い、その反応を観察して翌日フィードバックを受けた
・「チューニング・プロトコル」:著者のお気に入りのフィードバックプロトコルの1つ
 ・生徒同士が互いの最終成果物を音読し合い、ルーブリックを使って具体的かつ集中したフィードバックを提供し合う
 ・マイクはクラスを半分に分け、少人数でポッドキャストスクリプトの読み合わせを行わせた
 ・生徒たちはスクリプトのスタイル、スペル、文法についてピアレビューを行い、最終的な修正は録音開始前に完了
【フィードバックと改善が育むSELコンピテンシー】
・フィードバックと改善は、「責任ある意思決定」および「人間関係スキル」の組み合わせ
・フィードバックを受け止め、行動に移すことは、成熟と成長マインドセットを表すSELスキル

10. 最終成果物の発表(Final Product Presentation)

・あらゆるプロジェクトの集大成は、「人前での発表」である
・形式は、保護者・地域を招いた公開日や、ウェブ上での作品共有など多様
・専門家を招いて評価してもらうことで、生徒のモチベーションを高めることができる
・生徒は、自らのリフレクションノートを展示し、学びをどのように乗り越え、どのように成長したかを説明
・理科で扱った光と影の実験材料も展示され、生徒はそれらの原理を来場者に実演して見せた
・生徒たちは、自分たちの物語を語り、学んだことを伝えることに大きな誇りを感じていた

最終成果物の公開とSELコンピテンシーの統合
・ポッドキャスト・プロジェクトの最終的な発表先は、SoundCloud.com のホストページ
・Googleマップのウォーキングツアーと連携し、それぞれのポッドキャストがグランドラピッズ市内の特定の場所とリンクする形で公開された
・生徒たちはこのページを、観光およびホテル業界の地域広告団体であるExperienceGRと共有
・同団体はウェブサイト上にポッドキャストとウォーキングツアーを恒常的に紹介するブログ記事を投稿し、多くの閲覧者をSoundCloudへ誘導
・ExperienceGRはFacebookの公式アカウントでもこのプロジェクトを取り上げ、600を超える「いいね」と100件以上のシェアを記録した。生徒たちは自分たちの活動が地域社会に好意的に受け止められたことを大いに喜んだ
・プロジェクトの集大成では、すべてのSELコンピテンシーが表出される
・責任ある意思決定(Responsible Decision-Making)で導き出した解決策を、人間関係スキル(Relationship Skills)を活用して他者に伝達
・プロジェクト全体を振り返る省察を通じて、自分たちが課題をやり遂げるためにどのように自己管理(Self-Management)を用いたかを明らかにした
・生徒たちは高品質な成果物を共有する中で、自己認識(Self-Awareness)の自信を構築

・PBLは、単なる知識伝達を目的とするものではない。それは、学習者の全体的な成長を支える包括的な視点をもつ教育アプローチである
・PBLは、内容の習得と並行して、明示的にSELスキルの育成を行う

省察の問い(Reflection Questions)
・PBLのうち、すでに自身の実践に取り入れている要素はどれか
・PBLのうち、まだ新しい、または十分に理解できていないため、さらに探求が必要な要素は何か?
・「プロジェクト」としてでなくとも、日常の授業で常に取り入れられるPBLの要素には何があるか?
・コミュニティパートナーや、生徒の声と選択という「秘伝のソース」を、自身のプロジェクトにどのように加えることができるか?
・SELがPBLの枠組みの中でどのように機能しているかを、どのように予測・理解し始めることができるか?

ここまで。
PBLの構成要素やプロセスについては色々読んできたので、概ね見たことがものほとんどでしたが、新たな発見もありました。
その1つが、ドライビング・クエスチョン(Driving Question)と併せて紹介されていたフレーミング・クエスチョン(Framing Question)。DQは、プロジェクト全体のテーマや探究の方向性を示す「何を探求するか」であるのに対して、FQは、学習者の役割・成果物・目的を具体化する「誰が何のために何をするか」を示すもの。双方をセットで使うことで、生徒の理解と主体性を高めることに活用できそうです。
また、10個の構成要素を通して育まれるSELコンピテンシーについて書かれていたのですが、これは正に自分が探究したい内容だったので非常に大きな収穫でした。
PBLのプロセスの説明は、やっぱり事例があるとイメージが湧きやすいですね。(欲を言えば写真などもあればもっとイメージが湧きました)この点は自分が執筆する際にも参考にしたいと思いました。

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