前回に続き、Pulse of PBL: Cultivating Equity Through Social Emotional Learningの第5章をレビューしていきます。
書籍はこちら

1. Introduction(イントロダクション)
2. Transformative Social and Emotional Learning(変容的SEL)
3. Components of Project Based Learning(PBLの構成要素)
4. Developing Self-Awareness(自己認識の育成)
5. Building Self-Management(自己管理の構築)
6. Sharpening Social Awareness(社会的認識の向上)
7. Forging Relationship Skills(人間関係スキルの養成)
8. Exercising Responsible Decision-Making(責任ある意思決定のエクササイズ)
9. Assessing SEL Comptetencies(SEL能力の評価)
10. How Will You Revolutionize the World(あなたはどのように世界を変革するか)
第5章は、自己管理を中心テーマに据え、PBLにおける自己管理力の育成方法について以下の4つの観点から論じられています。
1. Norms and Routines(規範と習慣)
2. Need to Knows(知るべきこと)
3. 生徒のためのプロジェクトマネジメント
4. セルフアセスメント
まず、自己管理の重要性について以下のような点が述べられています。
・自己管理とは、目標を設定し達成するために、自身の行動を様々な状況で調整する能力である
・ストレスへの対処は、心身の健康に欠かせない重要なスキルである
・PBLでは、ビジネスツールを用いたプロジェクトマネジメントを通じて、日常的に自己管理スキルを実践する
・現実の問題に取り組むことは、自己管理能力を十分に発達させるための本質的な機会を提供する
・自己管理スキルは、教師のためではなく、学習者自身のために存在する
・従来のようなトップダウンでの行動制御ではなく、PBLは問題解決の機会を通して、生きるための重要なライフスキルを身につける実践となる
では、具体的な4つの視点からPBLにおける自己管理を育む手法について見ていきましょう。
・教室内の規範は、生徒がより責任感を持ち、自己主導的に行動し、自律的に学ぶよう促すものであるべきであり、PBLの教室においても同様
(PBLと規律の誤解)
・PBLは自由放任と思われがちであるが、むしろその逆で、構造化された学習環境である
・「学習者中心の環境を維持する教師は、生徒が自立し、自信をつけ、有能さを育む教室文化を築くために、規範と習慣を設定する時間を取らなければならない」 ―Sara Lev
(学年初期の文化づくりが鍵)
・学年の始まりに、教師が特にグループダイナミクスに関わる規範と習慣を確立することが重要
・PBLの利点の一つは、こうした規範や習慣がプロジェクトのサイクルを通して、生徒の自己管理スキルの育成に特化している点
・グループの時間、課題、チームワークは、自己管理スキルの乏しい生徒によってしばしば妨げられる
・教師の第1目標は、学年初期に「応答性のある教室文化(responsive classroom culture)」の確立
・PBLでは、学年初期にチームビルディングや、生徒と共に社会的な契約を築くことが重要
※「ルールと罰則優先」のアプローチは、教師が子どもたちを信用していないことを示すメッセージとなりうる
・クラスの規範は、生徒により多くの責任を持たせ、自己主導性を育み、自律的な学びを促進することを目的とすべき
・教師が直面する最大の課題の1つ:生徒が学習活動へのモチベーションを持たず、何に対しても無関心
・2020年のギャラップの調査(600万人以上の生徒を対象)では、学年が上がるほど生徒のエンゲージメントが低下することが示された
・無関心は発達段階による影響もあるが、伝統的な学校文化の「強制力と支配」が最大の要因
・授業内容や進度を教師がすべて決定する現在の教育制度は、生徒の自主性を阻害する
「マネジメントはコンプライアンス(服従)を得るには良い。だが、主体性を引き出したいなら…自己主導の方が優れている」 ー ダニエル・ピンク
・ダニエル・ピンクはの著書『Drive』の中で語られている、内発的動機づけの3要素「自律性(autonomy)」「熟達(mastery)」「目的(purpose)」について、PBLの要素と突合して整理したのが以下の表

・3要素導入の順序が重要:強制的な環境に慣れた生徒にいきなり「自律性」だけを与えると混乱が生じる(これこそが、教師がPBLに対して抱く不安の原因)
・PBLはプロジェクトの初期段階から生徒を学びの中心に置き、自律性と動機づけを高める仕組み
【問いのフレーム例(Need to Knowsの導入)】
「導入イベントの経験、話題に関する予備知識、資料に書かれていた要件をふまえて、もし今すぐこのプロジェクトを始めるとしたら、どこでつまずくだろう? どんな助けが必要だろう?」
年少の生徒には、問いの構造をよりシンプルにする必要があるが、本質は同じである。「この課題を達成するために、何を知っておく必要があるのか?」
【Question Formulation Technique(QFT)】
・Right Question Instituteによって提唱されたQFTは、生徒がより良い質問を立てることを学ぶための構造化されたプロトコル
・PBLにおけるQFTバージョンの3ステップ
・ステップ1:「Driving Question(探究の核となる問い)」を出発点
・ステップ2:生徒が通常のN2Kプロセスと同様に、個別に質問を記述
・ステップ3:小グループで問いをOpen/Closed Questionsに分類し、相互に変換する作業を行う
・以降は、通常のNeed to Know ILevaのステップに従う
QFTのスライド(要約)
1. Question Focus(問いの焦点)
2. Produce Your Questions(質問を生み出す)
・ルールに従う
・質問に番号を付ける
3. Improve Your Questions(質問を改善する)
・質問をopen/closedに分類する
・質問のタイプを変換する
4. Prioritize Your Questions(優先順位をつける)
5. Share & Discuss Next Steps(共有し次のステップを話し合う)
6. Reflect(振り返り)
・できるだけ多くの質問を出すこと
・議論・評価・答えることは禁止
・正確に記録する
・陳述を質問に変える
・N2Kリストは「生きたドキュメント」。問いが解決されるとリストから消し、新たな問いが生じたら随時追加する
・生徒がプロジェクトを進めるにつれ、リサーチ、インタビュー、探究を経てより深い背景知識を持つことで、より良い問いが生まれる
・N2Kプロセスにおける「自律性(autonomy)」は、生徒の所有感を育む
・マティンガは、生徒が各自のプロジェクトグループごとにN2Kをポスター紙や付箋に書き出して壁や窓に貼り、自らのリストを管理することを推奨
・N2Kプロセスの後、生徒と教師は共同でプロジェクトの進行方向を決定し、N2Kリストに基づいて「Next Steps(次のステップ)」を策定する
・クラス全体で、どの課題をどの順番で取り組むべきかを決めていく
・PBLの経験年数が長くなるほど、これらのプロセスは生徒自身に委ねられるようになる。生徒が自らの情熱をもとに問いを立て、学びを方向づけることで、自発的な学習者となる
【Need To KnowsのILeva】

・PBLでは、プロジェクトの目的や進行が不明瞭なときに、この傾向が顕著になる
・生徒がストレスを管理し自己調整する方法を明示的に教えることは、彼らの身体的・精神的健康の改善に寄与する
・プロジェクトマネジメントとは、成果物を期限内に完成させるため、始まりから終わりまでを見通す力
・生徒には、三つのT(「タスク」「時間」「チーム」)を適切に管理する方法を教えなければならない
・PBLでは、これらを統合的に扱う複数のツールを活用し、生徒が協働的かつ効率的に質の高い成果物を仕上げることを可能にしている。
プロジェクトマネジメントにおける3つのT
・TASK(課題):Driving Question、Need to Know’s、Next Steps、Scrum Board
・TIME(時間):Scrum Board、Trello、Project Wall
・TEAM(チーム):SEL Group Roles、Group Contracts、KARE GAP
・PBLにおいて重要なのは、生徒に「声」と「選択」を与えることを通して、責任の一部を移譲すること
・教師は入念に計画を立てるべきだが、必要であれば「予定変更の笛(call an audible)」を吹き、生徒の関心に応じてプロジェクトを柔軟に変化させる準備もしておく必要がある
・教師はプロジェクト計画の一部を意図的に空白にし、生徒が自らの知識や経験を用いてその空白を埋められるようにすべき
・言い換えれば、教師がすべての計画を行ってしまうと、生徒が計画や組織化のスキルを練習する機会を奪ってしまうことになる
・生徒が自己管理(Self-Management)を学ぶには、自分たちのプロジェクトを自分たちで管理することが最適
・その方法の1つとして、SELコンピテンシーを直接教えるアプローチがある
・「グループ・ロール」
①各グループ用に、色付きの紙に印刷されたSELグループロールカードを配布
②生徒それぞれに1つのSEL役割を割り当て、毎日自己評価を行い、グループ内でそのコンピテンシーがどの程度実践されているかを評価させる
③各グループのニーズに応じて、カードにさらに責任を追加してカスタマイズすることも可能
初等教育向けSELグループロールカード例
責任ある意思決定デザイナー(Responsible Decision Designer)
・質問をする
・注意深く観察し、細部に気を配る
・新しいアイデアに挑戦する
・リスクを取る
・成長マインドセットを保つ
・前向きな選択をする
※リフレクションの問い: 私たちのグループはどのように問題を解決したか?
中等教育向けSELグループ役割ロールカード例
自己認識サポーター(Self-Awareness Supporter)
・各グループメンバーの気質を把握する
・チームが感情的に安全な場であることを保証する
・仲間を励ます
・メンバーの強みを特定し、プロジェクトのタスクに適合させる
※リフレクションの問い: グループはどのようにしてメンバーの強みを最大限に活かしたか?

【グループ契約(Group Contract)】
・グループ契約を導入し、協働に関するルールと期待を明文化する
①チームに分けた後、各グループに「グループ契約テンプレート」に記入させる
②各生徒は、SEL学習目標リストの中から、自身の強みと目標を1つずつ選択する
③グループは、誰がどのSEL役割を担うかを決定する
④この時点で、生徒は自らの学習スタイルや生産性を高める要因について、グループで議論する必要
※まだ行っていない場合は、性格診断ILevaを導入し、生徒が「自分の特性(how I roll)」と「その特性をどう管理しているか(how I manage how I roll)」を共有するのに適したタイミング
⑤生徒が自分の持つSEL特性を共有し、話し合う時間を十分に取った後、グループで次のことについて合意書を作成する:
・どのように協働するか
・どのような期待をもって仕事を完了させるか
・グループとしてどのような制限を設けるか
※これらすべてのステップが、グループ内のコミュニケーションを活性化し、プロジェクトに取り組む前に現実的なコンフリクト解決の方略を築くことにつながる。

同意事項(Agreements):
・自分に割り当てられたすべてのタスクを、スクラムボード(scrum board:__〈自分のコピーのリンク〉)上で期限内に完了することに同意する。
・グループに100%の努力を注ぎ、課題に関係のないゲームやSNS閲覧などに時間を使わないことに同意する。
・グループのすべてのメンバーを礼儀正しく、敬意をもって扱うことに同意する。
・仲間の話に耳を傾け、支援し、助けることに同意する。
アカウンタビリティ(責任追及):
1. 口頭での警告(教師によって記録される)
2. 度目の警告(教師がグループと介入)
3. 解雇(プロジェクトを自分一人で最初からやり直す必要がある)
署名(Signatures):
グループ契約を初めて導入する際には、グループ契約の目的を非常に丁寧に説明することが重要である。マイクは、契約書を作成したボランティアの生徒についての話をいつもする。この文書は最終的に30ページにもなり、グループ全員が署名した。プロジェクトが完了した後、教師はこのグループに、プロジェクトを予定通り進め、協力して取り組んだことを評価し、追加ポイントを与えることを伝えた。その時、契約作成者の生徒はすぐに「その追加ポイントは全部私のものです。契約書の23ページに書いてあります」と言った。教師はこの「でっち上げの話」をそのまま受け入れた。これは作り話だが、マイクは生徒たちにグループ契約を真剣に扱うことの大切さを伝えるためにこの話を使っている。
グループからの「解雇」プロセス(小学校高学年〜)
・グループ契約に違反した生徒は、チームから「解雇」される可能性がある
・ただし、他のメンバーが直接解雇するのではなく、教師に正式な手続きを通じて訴える形をとる
・最低3ステップの手続きが必要である。
1. 口頭での正式な警告(教師の関与なし)
・重要なタスクの遅れや期日違反があった場合は、チーム内でその生徒に正式な口頭警告を出す
・この際、契約や役割カードの内容を再確認し、再び努力する意思があることを確認する
・この内容はログやスクラムボードに記録される
2. 2回目の正式な警告と教師との面談(教師の関与あり)
・1回目の警告後に改善が見られない場合、チームは記録を教師に提出し、生徒と1対1の面談
・教師は生徒の役割カードと契約内容を確認し、現状と役割の理解について話し合う
・叱責ではなく、現状理解とサポートが目的
3. 解雇(Fired)
・3度目の違反があった場合、チームは全記録を提出し、生徒はチームから外れる
・このとき、教師はプロジェクトの目的と成果を再確認し、その生徒は以降1人で取り組むか、厳重な監督の下で活動することになる
・チームのリソース(資料など)は使えず、最初からやり直す必要がある
・ただし、再雇用のチャンス(例:課題のやり直しや関係修復)を用意している教師もいる
・別のチームに移る選択肢を与える場合もある
・目的は「解雇文化」を作ることではなく、相互の責任と尊重を学ばせること
・実際には「解雇」まで至ることは稀で、最初の警告の後に多くの生徒は生産的にグループに貢献し始めるのが現実である
PBLの教師は、レストランのウェイターのように教室内を回りながら、生徒個人またはグループと日常的に関わる機会を持っている。プロジェクト作業時間中には、非生産的な行動が「解雇プロセス」のステップ1に進む前に、それを見つけたり、あるいは予測したりすることが求められる。ネガティブな行動は、生徒が現在の課題にうまくつながれていないときによく起こることを忘れないでほしい。以下の点を考慮してみよう:
【KARE Gap ILeva】
・学習の妨げになっている要因(GAP)を生徒自身が内省し、改善するプロセスを提供する
・このツールを使うことで、教員は生徒の社会性・情動的スキル(SEL)を伸ばしつつ、学習上の課題への対応も促進できる
・KARE Gap ILevaには、診断的な問いや文の導入部(センテンス・ステム)が含まれており、生徒が自らの「ギャップ(課題)」を内省し、自己評価できるよう導く
・最終的には、このギャップ診断を生徒に自ら使わせ、自己修正の練習に活用させることが可能
・注意すべきは、これらの質問は自由な対話を生み出すためのものであり、生徒を尋問するためのものではないという点である

【スクラムボード(カンバンボードとも呼ばれる)】
・生徒が自分の作業を可視化しながら計画・整理する方法を教えるもの
・これはアジャイル手法で使用される専門的なプロジェクト管理ツール
・基本的な形式では、「To Do(やること)」「Doing(進行中)」「Done(完了)」の3つのカラムを持つ
①Nest Stepからタスクが「To Do」カラムに追加され、グループメンバーに割り当てられ、期日を決める
②生徒がタスクに取り組むと、それを適切なカラムへ移動させて進捗を可視化
・Trelloのようなビジネスツールやオンラインでも作成でき、低学年の生徒には、ポスター用紙や壁に付箋で3つのカラムを作成することもできる
・スクラムボードは生徒が作業と自己管理の両方を学ぶのに適したツール
・目標設定のための明確な構造を提供し、現実的なスケジュールを作ることで、すべてを最後に詰め込んで処理するようなストレスを軽減できる
・スクラムボードの公開性が「集合的エージェンシー(共同体としての主体性)」を育み、すべての生徒がプロジェクト中に軌道を保とうとするモチベーションにつながる
・他者との比較ではなく、自らの進捗をルーブリックと照らし合わせて評価することが、最も説得力のある評価方法
・生徒は、グループ契約やSELロールカードをもとに、チームへの貢献度や日々の進捗をスクラムミーティングで確認しながら学習を進める
(普遍的なスキャフォルディング(足場がけ))
・足場がけは一部の特別支援対象生徒のためだけのものではなく、すべての生徒に必要な支援手段
・教育分野のスキャフォルディングは、特定のスキルや内容を習得するために提供される支援全般を指す
・教師は多様な支援手法(文章構成の枠、アウトライン、音声教材、解説動画、視覚モデル、コンセプトマップ、スケッチノート、ワークショップなど)を提供し、生徒が自ら適切な支援を選び、必要がなくなったら手放すように導く
・足場がけは「自律のための道具」であり、「依存のための杖」ではない
・PBLの足場がけとは、教師が日常的に行っている支援と同様のものであるが、違いは、すべての生徒がさまざまな戦略を教わり、必要に応じて支援を受け、最終的には自分に合ったものを選べるという点
・生徒は、必要な支援(スキャフォルディング)やツールを自ら選んで活用することで、自己主導性(personal agency)を示すことができる
(ラベリングと限定的支援の弊害)
・「学年に遅れている」「障害がある」などのラベルはスティグマとなり、生徒の自己認識や自尊感情に悪影響を与える
・ラベル外の支援が届かない生徒にも支援を行うべきであり、全員に足場がけの方法を教える普遍的支援が公平な学びをつくる
(スキャフォルディングの適切な運用)
・すでに習得している生徒に同じ課題を課すのは無意味であり、柔軟に個別化された支援の提供が必要
・足場がけ自体は評価対象にせず、その使用によって得られた成果を評価する
(自己管理力が学習を左右する)
・自己管理の力が弱いと、生徒がプロジェクトを管理するのではなく、教師が生徒を管理する羽目になる
・自己管理の構造を教えなければ、生徒は集中力を欠き、学習の道筋から逸れ、最悪の場合プロジェクトを放棄することもある
・教師の役割は、生徒が時間・タスク・チームを自らマネジメントできるように、SELグループロールやKARE GAP ILevaなどのツールを使い、時間、タスク、チームを自己管理する方法を教えることができる
・強い自己管理力を持つチームは、全員が自分の責任と成果を理解し、持続的に貢献するチームである
振り返りの問い
・信頼の文化を構築するために、どのような規範やルーティンを活用するか?
・生徒のやる気を引き出すために、N2KやNext StepsなどのPBLプロトコルをどう適応させるか?
・SELのコンピテンシーを教え、実践するために、グループロールをどのように活用するか?
・生徒が目標を設定し、プロジェクトを組織的に進めるために、ビジネスのプロジェクト管理ツールをどのように取り入れるか?
・あらゆる背景、文化、能力の生徒に対応するために、トーキング・サークルなどの先住民の実践をどう活かすか?
・自己評価の力は大きい。目標設定の促進にどのように役立てるか?
ここまで。
第5章は、自己管理スキルの重要性やPBLを通した当スキルの育成方法について論じられていました。
仕事をこなす上では、マネジメントスキルはもちろん重要ですが、「時間を守る」「タスクをこなす」といった行動管理の面だけでなく、情動やストレス、他者のとの関係性に関する自己調整能力も自己管理には含まれています。そして、それらの欠如が、生徒の学校生活における苦労や学業成績の要因ともなっているとも説明されており、自己管理スキルを育むことの重要性を改めて認識させられました。
そして、自己管理スキルを学ぶには、自分たちのプロジェクトを自分たちで管理することが最適であるとして、PBLが非常にマッチしている点も強調されていました。
本章では、具体的な方法論として「規範と習慣」「Need to Knows」「生徒のためのプロジェクトマネジメント」「セルフアセスメント」の4点から説明されており、どの部分からも沢山の学びがありました。
例えば、クラスにおける「規範と習慣」では、以下のMike先生の例が印象的でした。
彼は、"Trust(信頼)"、"Respect(尊重)"、"Responsibility(責任)" という3語を掲示し、「絶対に私に『トイレに行っていいですか?』『水を飲んでいいですか?』と聞いてはならない」と説明するそうです。
「黙って行ってきなさい。君たちは自分の体調くらい自分で管理できる年齢だ」と。
自己規律の文化を築くために、生徒を信頼しているということを、このような形で表現することもできるのだと気づきになりました。
また、プロジェクトマネジメントで紹介されていた、スクラムボードは是非取り入れたいと思いました。これまで、自分の授業では、スプレッドシートを使ったガントチャートを使用したこともあるのですが、思ったほど機能しなかったことがあります。使い勝手が悪いのか、使用する価値が分からないのか、その原因はわかりませんが、その辺りも探りつつ、本章の例を参考に改めて取り入れたいと思います。
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1. Introduction(イントロダクション)
2. Transformative Social and Emotional Learning(変容的SEL)
3. Components of Project Based Learning(PBLの構成要素)
4. Developing Self-Awareness(自己認識の育成)
5. Building Self-Management(自己管理の構築)
6. Sharpening Social Awareness(社会的認識の向上)
7. Forging Relationship Skills(人間関係スキルの養成)
8. Exercising Responsible Decision-Making(責任ある意思決定のエクササイズ)
9. Assessing SEL Comptetencies(SEL能力の評価)
10. How Will You Revolutionize the World(あなたはどのように世界を変革するか)
第5章は、自己管理を中心テーマに据え、PBLにおける自己管理力の育成方法について以下の4つの観点から論じられています。
1. Norms and Routines(規範と習慣)
2. Need to Knows(知るべきこと)
3. 生徒のためのプロジェクトマネジメント
4. セルフアセスメント
まず、自己管理の重要性について以下のような点が述べられています。
・自己管理とは、目標を設定し達成するために、自身の行動を様々な状況で調整する能力である
・ストレスへの対処は、心身の健康に欠かせない重要なスキルである
・PBLでは、ビジネスツールを用いたプロジェクトマネジメントを通じて、日常的に自己管理スキルを実践する
・現実の問題に取り組むことは、自己管理能力を十分に発達させるための本質的な機会を提供する
・自己管理スキルは、教師のためではなく、学習者自身のために存在する
・従来のようなトップダウンでの行動制御ではなく、PBLは問題解決の機会を通して、生きるための重要なライフスキルを身につける実践となる
では、具体的な4つの視点からPBLにおける自己管理を育む手法について見ていきましょう。
1. 規範と習慣(Norms and Routines)
・すべての教室には、円滑に運営されるためのノーム(規範)とルーティン(習慣)が存在する・教室内の規範は、生徒がより責任感を持ち、自己主導的に行動し、自律的に学ぶよう促すものであるべきであり、PBLの教室においても同様
(PBLと規律の誤解)
・PBLは自由放任と思われがちであるが、むしろその逆で、構造化された学習環境である
・「学習者中心の環境を維持する教師は、生徒が自立し、自信をつけ、有能さを育む教室文化を築くために、規範と習慣を設定する時間を取らなければならない」 ―Sara Lev
(学年初期の文化づくりが鍵)
・学年の始まりに、教師が特にグループダイナミクスに関わる規範と習慣を確立することが重要
・PBLの利点の一つは、こうした規範や習慣がプロジェクトのサイクルを通して、生徒の自己管理スキルの育成に特化している点
・グループの時間、課題、チームワークは、自己管理スキルの乏しい生徒によってしばしば妨げられる
・教師の第1目標は、学年初期に「応答性のある教室文化(responsive classroom culture)」の確立
・PBLでは、学年初期にチームビルディングや、生徒と共に社会的な契約を築くことが重要
※「ルールと罰則優先」のアプローチは、教師が子どもたちを信用していないことを示すメッセージとなりうる
・クラスの規範は、生徒により多くの責任を持たせ、自己主導性を育み、自律的な学びを促進することを目的とすべき
2. Need to Knows(知るべきこと)
・Need to Knowsは、学習の動機づけと自律性を引き出す仕組みである・教師が直面する最大の課題の1つ:生徒が学習活動へのモチベーションを持たず、何に対しても無関心
・2020年のギャラップの調査(600万人以上の生徒を対象)では、学年が上がるほど生徒のエンゲージメントが低下することが示された
・無関心は発達段階による影響もあるが、伝統的な学校文化の「強制力と支配」が最大の要因
・授業内容や進度を教師がすべて決定する現在の教育制度は、生徒の自主性を阻害する
「マネジメントはコンプライアンス(服従)を得るには良い。だが、主体性を引き出したいなら…自己主導の方が優れている」 ー ダニエル・ピンク
・ダニエル・ピンクはの著書『Drive』の中で語られている、内発的動機づけの3要素「自律性(autonomy)」「熟達(mastery)」「目的(purpose)」について、PBLの要素と突合して整理したのが以下の表

・3要素導入の順序が重要:強制的な環境に慣れた生徒にいきなり「自律性」だけを与えると混乱が生じる(これこそが、教師がPBLに対して抱く不安の原因)
・PBLはプロジェクトの初期段階から生徒を学びの中心に置き、自律性と動機づけを高める仕組み
【問いのフレーム例(Need to Knowsの導入)】
「導入イベントの経験、話題に関する予備知識、資料に書かれていた要件をふまえて、もし今すぐこのプロジェクトを始めるとしたら、どこでつまずくだろう? どんな助けが必要だろう?」
年少の生徒には、問いの構造をよりシンプルにする必要があるが、本質は同じである。「この課題を達成するために、何を知っておく必要があるのか?」
【Question Formulation Technique(QFT)】
・Right Question Instituteによって提唱されたQFTは、生徒がより良い質問を立てることを学ぶための構造化されたプロトコル
・PBLにおけるQFTバージョンの3ステップ
・ステップ1:「Driving Question(探究の核となる問い)」を出発点
・ステップ2:生徒が通常のN2Kプロセスと同様に、個別に質問を記述
・ステップ3:小グループで問いをOpen/Closed Questionsに分類し、相互に変換する作業を行う
・以降は、通常のNeed to Know ILevaのステップに従う
QFTのスライド(要約)
1. Question Focus(問いの焦点)
2. Produce Your Questions(質問を生み出す)
・ルールに従う
・質問に番号を付ける
3. Improve Your Questions(質問を改善する)
・質問をopen/closedに分類する
・質問のタイプを変換する
4. Prioritize Your Questions(優先順位をつける)
5. Share & Discuss Next Steps(共有し次のステップを話し合う)
6. Reflect(振り返り)
・できるだけ多くの質問を出すこと
・議論・評価・答えることは禁止
・正確に記録する
・陳述を質問に変える
・N2Kリストは「生きたドキュメント」。問いが解決されるとリストから消し、新たな問いが生じたら随時追加する
・生徒がプロジェクトを進めるにつれ、リサーチ、インタビュー、探究を経てより深い背景知識を持つことで、より良い問いが生まれる
・N2Kプロセスにおける「自律性(autonomy)」は、生徒の所有感を育む
・マティンガは、生徒が各自のプロジェクトグループごとにN2Kをポスター紙や付箋に書き出して壁や窓に貼り、自らのリストを管理することを推奨
・N2Kプロセスの後、生徒と教師は共同でプロジェクトの進行方向を決定し、N2Kリストに基づいて「Next Steps(次のステップ)」を策定する
・クラス全体で、どの課題をどの順番で取り組むべきかを決めていく
・PBLの経験年数が長くなるほど、これらのプロセスは生徒自身に委ねられるようになる。生徒が自らの情熱をもとに問いを立て、学びを方向づけることで、自発的な学習者となる
【Need To KnowsのILeva】

3. 生徒のためのプロジェクトマネジメント
・多くの生徒が、整理整頓や時間管理スキルの欠如、先延ばし癖、ストレスの管理不全により学校生活に苦労し、それが学業成績に大きく影響している・PBLでは、プロジェクトの目的や進行が不明瞭なときに、この傾向が顕著になる
・生徒がストレスを管理し自己調整する方法を明示的に教えることは、彼らの身体的・精神的健康の改善に寄与する
・プロジェクトマネジメントとは、成果物を期限内に完成させるため、始まりから終わりまでを見通す力
・生徒には、三つのT(「タスク」「時間」「チーム」)を適切に管理する方法を教えなければならない
・PBLでは、これらを統合的に扱う複数のツールを活用し、生徒が協働的かつ効率的に質の高い成果物を仕上げることを可能にしている。
プロジェクトマネジメントにおける3つのT
・TASK(課題):Driving Question、Need to Know’s、Next Steps、Scrum Board
・TIME(時間):Scrum Board、Trello、Project Wall
・TEAM(チーム):SEL Group Roles、Group Contracts、KARE GAP
・PBLにおいて重要なのは、生徒に「声」と「選択」を与えることを通して、責任の一部を移譲すること
・教師は入念に計画を立てるべきだが、必要であれば「予定変更の笛(call an audible)」を吹き、生徒の関心に応じてプロジェクトを柔軟に変化させる準備もしておく必要がある
・教師はプロジェクト計画の一部を意図的に空白にし、生徒が自らの知識や経験を用いてその空白を埋められるようにすべき
・言い換えれば、教師がすべての計画を行ってしまうと、生徒が計画や組織化のスキルを練習する機会を奪ってしまうことになる
・生徒が自己管理(Self-Management)を学ぶには、自分たちのプロジェクトを自分たちで管理することが最適
・その方法の1つとして、SELコンピテンシーを直接教えるアプローチがある
・「グループ・ロール」
①各グループ用に、色付きの紙に印刷されたSELグループロールカードを配布
②生徒それぞれに1つのSEL役割を割り当て、毎日自己評価を行い、グループ内でそのコンピテンシーがどの程度実践されているかを評価させる
③各グループのニーズに応じて、カードにさらに責任を追加してカスタマイズすることも可能
初等教育向けSELグループロールカード例
責任ある意思決定デザイナー(Responsible Decision Designer)
・質問をする
・注意深く観察し、細部に気を配る
・新しいアイデアに挑戦する
・リスクを取る
・成長マインドセットを保つ
・前向きな選択をする
※リフレクションの問い: 私たちのグループはどのように問題を解決したか?
中等教育向けSELグループ役割ロールカード例
自己認識サポーター(Self-Awareness Supporter)
・各グループメンバーの気質を把握する
・チームが感情的に安全な場であることを保証する
・仲間を励ます
・メンバーの強みを特定し、プロジェクトのタスクに適合させる
※リフレクションの問い: グループはどのようにしてメンバーの強みを最大限に活かしたか?

【グループ契約(Group Contract)】
・グループ契約を導入し、協働に関するルールと期待を明文化する
①チームに分けた後、各グループに「グループ契約テンプレート」に記入させる
②各生徒は、SEL学習目標リストの中から、自身の強みと目標を1つずつ選択する
③グループは、誰がどのSEL役割を担うかを決定する
④この時点で、生徒は自らの学習スタイルや生産性を高める要因について、グループで議論する必要
※まだ行っていない場合は、性格診断ILevaを導入し、生徒が「自分の特性(how I roll)」と「その特性をどう管理しているか(how I manage how I roll)」を共有するのに適したタイミング
⑤生徒が自分の持つSEL特性を共有し、話し合う時間を十分に取った後、グループで次のことについて合意書を作成する:
・どのように協働するか
・どのような期待をもって仕事を完了させるか
・グループとしてどのような制限を設けるか
※これらすべてのステップが、グループ内のコミュニケーションを活性化し、プロジェクトに取り組む前に現実的なコンフリクト解決の方略を築くことにつながる。

同意事項(Agreements):
・自分に割り当てられたすべてのタスクを、スクラムボード(scrum board:__〈自分のコピーのリンク〉)上で期限内に完了することに同意する。
・グループに100%の努力を注ぎ、課題に関係のないゲームやSNS閲覧などに時間を使わないことに同意する。
・グループのすべてのメンバーを礼儀正しく、敬意をもって扱うことに同意する。
・仲間の話に耳を傾け、支援し、助けることに同意する。
アカウンタビリティ(責任追及):
1. 口頭での警告(教師によって記録される)
2. 度目の警告(教師がグループと介入)
3. 解雇(プロジェクトを自分一人で最初からやり直す必要がある)
署名(Signatures):
グループ契約を初めて導入する際には、グループ契約の目的を非常に丁寧に説明することが重要である。マイクは、契約書を作成したボランティアの生徒についての話をいつもする。この文書は最終的に30ページにもなり、グループ全員が署名した。プロジェクトが完了した後、教師はこのグループに、プロジェクトを予定通り進め、協力して取り組んだことを評価し、追加ポイントを与えることを伝えた。その時、契約作成者の生徒はすぐに「その追加ポイントは全部私のものです。契約書の23ページに書いてあります」と言った。教師はこの「でっち上げの話」をそのまま受け入れた。これは作り話だが、マイクは生徒たちにグループ契約を真剣に扱うことの大切さを伝えるためにこの話を使っている。
グループからの「解雇」プロセス(小学校高学年〜)
・グループ契約に違反した生徒は、チームから「解雇」される可能性がある
・ただし、他のメンバーが直接解雇するのではなく、教師に正式な手続きを通じて訴える形をとる
・最低3ステップの手続きが必要である。
1. 口頭での正式な警告(教師の関与なし)
・重要なタスクの遅れや期日違反があった場合は、チーム内でその生徒に正式な口頭警告を出す
・この際、契約や役割カードの内容を再確認し、再び努力する意思があることを確認する
・この内容はログやスクラムボードに記録される
2. 2回目の正式な警告と教師との面談(教師の関与あり)
・1回目の警告後に改善が見られない場合、チームは記録を教師に提出し、生徒と1対1の面談
・教師は生徒の役割カードと契約内容を確認し、現状と役割の理解について話し合う
・叱責ではなく、現状理解とサポートが目的
3. 解雇(Fired)
・3度目の違反があった場合、チームは全記録を提出し、生徒はチームから外れる
・このとき、教師はプロジェクトの目的と成果を再確認し、その生徒は以降1人で取り組むか、厳重な監督の下で活動することになる
・チームのリソース(資料など)は使えず、最初からやり直す必要がある
・ただし、再雇用のチャンス(例:課題のやり直しや関係修復)を用意している教師もいる
・別のチームに移る選択肢を与える場合もある
・目的は「解雇文化」を作ることではなく、相互の責任と尊重を学ばせること
・実際には「解雇」まで至ることは稀で、最初の警告の後に多くの生徒は生産的にグループに貢献し始めるのが現実である
PBLの教師は、レストランのウェイターのように教室内を回りながら、生徒個人またはグループと日常的に関わる機会を持っている。プロジェクト作業時間中には、非生産的な行動が「解雇プロセス」のステップ1に進む前に、それを見つけたり、あるいは予測したりすることが求められる。ネガティブな行動は、生徒が現在の課題にうまくつながれていないときによく起こることを忘れないでほしい。以下の点を考慮してみよう:
【KARE Gap ILeva】
・学習の妨げになっている要因(GAP)を生徒自身が内省し、改善するプロセスを提供する
・このツールを使うことで、教員は生徒の社会性・情動的スキル(SEL)を伸ばしつつ、学習上の課題への対応も促進できる
・KARE Gap ILevaには、診断的な問いや文の導入部(センテンス・ステム)が含まれており、生徒が自らの「ギャップ(課題)」を内省し、自己評価できるよう導く
・最終的には、このギャップ診断を生徒に自ら使わせ、自己修正の練習に活用させることが可能
・注意すべきは、これらの質問は自由な対話を生み出すためのものであり、生徒を尋問するためのものではないという点である

【スクラムボード(カンバンボードとも呼ばれる)】
・生徒が自分の作業を可視化しながら計画・整理する方法を教えるもの
・これはアジャイル手法で使用される専門的なプロジェクト管理ツール
・基本的な形式では、「To Do(やること)」「Doing(進行中)」「Done(完了)」の3つのカラムを持つ
①Nest Stepからタスクが「To Do」カラムに追加され、グループメンバーに割り当てられ、期日を決める
②生徒がタスクに取り組むと、それを適切なカラムへ移動させて進捗を可視化
・Trelloのようなビジネスツールやオンラインでも作成でき、低学年の生徒には、ポスター用紙や壁に付箋で3つのカラムを作成することもできる
・スクラムボードは生徒が作業と自己管理の両方を学ぶのに適したツール
・目標設定のための明確な構造を提供し、現実的なスケジュールを作ることで、すべてを最後に詰め込んで処理するようなストレスを軽減できる
・スクラムボードの公開性が「集合的エージェンシー(共同体としての主体性)」を育み、すべての生徒がプロジェクト中に軌道を保とうとするモチベーションにつながる
4. セルフアセスメント
(セルフアセスメントの意義)・他者との比較ではなく、自らの進捗をルーブリックと照らし合わせて評価することが、最も説得力のある評価方法
・生徒は、グループ契約やSELロールカードをもとに、チームへの貢献度や日々の進捗をスクラムミーティングで確認しながら学習を進める
(普遍的なスキャフォルディング(足場がけ))
・足場がけは一部の特別支援対象生徒のためだけのものではなく、すべての生徒に必要な支援手段
・教育分野のスキャフォルディングは、特定のスキルや内容を習得するために提供される支援全般を指す
・教師は多様な支援手法(文章構成の枠、アウトライン、音声教材、解説動画、視覚モデル、コンセプトマップ、スケッチノート、ワークショップなど)を提供し、生徒が自ら適切な支援を選び、必要がなくなったら手放すように導く
・足場がけは「自律のための道具」であり、「依存のための杖」ではない
・PBLの足場がけとは、教師が日常的に行っている支援と同様のものであるが、違いは、すべての生徒がさまざまな戦略を教わり、必要に応じて支援を受け、最終的には自分に合ったものを選べるという点
・生徒は、必要な支援(スキャフォルディング)やツールを自ら選んで活用することで、自己主導性(personal agency)を示すことができる
(ラベリングと限定的支援の弊害)
・「学年に遅れている」「障害がある」などのラベルはスティグマとなり、生徒の自己認識や自尊感情に悪影響を与える
・ラベル外の支援が届かない生徒にも支援を行うべきであり、全員に足場がけの方法を教える普遍的支援が公平な学びをつくる
(スキャフォルディングの適切な運用)
・すでに習得している生徒に同じ課題を課すのは無意味であり、柔軟に個別化された支援の提供が必要
・足場がけ自体は評価対象にせず、その使用によって得られた成果を評価する
(自己管理力が学習を左右する)
・自己管理の力が弱いと、生徒がプロジェクトを管理するのではなく、教師が生徒を管理する羽目になる
・自己管理の構造を教えなければ、生徒は集中力を欠き、学習の道筋から逸れ、最悪の場合プロジェクトを放棄することもある
・教師の役割は、生徒が時間・タスク・チームを自らマネジメントできるように、SELグループロールやKARE GAP ILevaなどのツールを使い、時間、タスク、チームを自己管理する方法を教えることができる
・強い自己管理力を持つチームは、全員が自分の責任と成果を理解し、持続的に貢献するチームである
振り返りの問い
・信頼の文化を構築するために、どのような規範やルーティンを活用するか?
・生徒のやる気を引き出すために、N2KやNext StepsなどのPBLプロトコルをどう適応させるか?
・SELのコンピテンシーを教え、実践するために、グループロールをどのように活用するか?
・生徒が目標を設定し、プロジェクトを組織的に進めるために、ビジネスのプロジェクト管理ツールをどのように取り入れるか?
・あらゆる背景、文化、能力の生徒に対応するために、トーキング・サークルなどの先住民の実践をどう活かすか?
・自己評価の力は大きい。目標設定の促進にどのように役立てるか?
ここまで。
第5章は、自己管理スキルの重要性やPBLを通した当スキルの育成方法について論じられていました。
仕事をこなす上では、マネジメントスキルはもちろん重要ですが、「時間を守る」「タスクをこなす」といった行動管理の面だけでなく、情動やストレス、他者のとの関係性に関する自己調整能力も自己管理には含まれています。そして、それらの欠如が、生徒の学校生活における苦労や学業成績の要因ともなっているとも説明されており、自己管理スキルを育むことの重要性を改めて認識させられました。
そして、自己管理スキルを学ぶには、自分たちのプロジェクトを自分たちで管理することが最適であるとして、PBLが非常にマッチしている点も強調されていました。
本章では、具体的な方法論として「規範と習慣」「Need to Knows」「生徒のためのプロジェクトマネジメント」「セルフアセスメント」の4点から説明されており、どの部分からも沢山の学びがありました。
例えば、クラスにおける「規範と習慣」では、以下のMike先生の例が印象的でした。
彼は、"Trust(信頼)"、"Respect(尊重)"、"Responsibility(責任)" という3語を掲示し、「絶対に私に『トイレに行っていいですか?』『水を飲んでいいですか?』と聞いてはならない」と説明するそうです。
「黙って行ってきなさい。君たちは自分の体調くらい自分で管理できる年齢だ」と。
自己規律の文化を築くために、生徒を信頼しているということを、このような形で表現することもできるのだと気づきになりました。
また、プロジェクトマネジメントで紹介されていた、スクラムボードは是非取り入れたいと思いました。これまで、自分の授業では、スプレッドシートを使ったガントチャートを使用したこともあるのですが、思ったほど機能しなかったことがあります。使い勝手が悪いのか、使用する価値が分からないのか、その原因はわかりませんが、その辺りも探りつつ、本章の例を参考に改めて取り入れたいと思います。
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