前回に続き、Pulse of PBL: Cultivating Equity Through Social Emotional Learningの第6章をレビューしていきます。
書籍はこちら

1. Introduction(イントロダクション)
2. Transformative Social and Emotional Learning(変容的SEL)
3. Components of PBL(PBLの構成要素)
4. Developing Self-Awareness(自己認識の育成)
5. Building Self-Management(自己管理の構築)
6. Sharpening Social Awareness(社会的認識の向上)
7. Forging Relationship Skills(人間関係スキルの養成)
8. Exercising Responsible Decision-Making(責任ある意思決定のエクササイズ)
9. Assessing SEL Comptetencies(SEL能力の評価)
10. How Will You Revolutionize the World(あなたはどのように世界を変革するか)
第6章は、社会的認識の向上をテーマに、以下の6つの項目でまとめられています。
・発話能力(Oracy)
・ディスカッションのプロトコル(Discussion Protocols)
・議論より対話(Dialogue Over Debate)
・多面的なドライビング・クエスチョン(Multi-faceted Driving Questions)
・地域社会とのつながり(Connections with the Community)
・PBLにおける共感(Empathy in PBL)
それぞれ見ていきます。
・発話力とは、話し言葉によって自分の考えを明確に伝え、他者にとって意味を成すように構成する能力
・発話力の指導とは、生徒が効果的にコミュニケーションし、協働するために必要な、言語的な行動と話し方の習慣を意図的に育てること
・発話力を強化することは、生徒が民主的なプロセスに完全に参加する機会をより平等に得るために必要
【PBLの中で発話力を実践することで、生徒ができるようになること】
・地域のステークホルダーと流暢にコミュニケーションを取る
・ゲスト専門家に対してより深い質問を投げかける
・相手の主張を意図を持って傾聴する
・実践的なフィードバックを提供する
・専門的な態度で自己を表現する
・より具体的な語彙を使用する
・意義ある議論に参加する
・プレゼンテーションの説得力を高める
・自らの声がもたらす影響を実感する
口頭でのコミュニケーションに関する規範を確立することは、外向的で自己主張の強い生徒、内向的で控えめな生徒、その中間に位置する生徒の誰にとっても、公平な発言の場を保証する助けとなる。発話における規範の目的は、あらゆる背景を持つ生徒にとって認識可能なものでなければならない。 そのためには、生徒に明確に発話のスキルを教え、定期的に発話を実践する機会を与える必要がある。本章後半では、対話とディスカッションのプロトコルを深く扱うが、それに先立って、基本的な初心者向けガイドとして、効果的かつ基本的な発話スキルを育てるための指針を示す。
・発話スキルを構成する要素(ストランド)を使えば、生徒は自らの話し方を評価し、改善点を明確にすることができる
・プロジェクト設計の中で、こうしたプロトコルを日常的に練習する機会を生徒に提供すべき
・ソクラテス式セミナー、ピアレビュー、批評プロトコル、少人数および全体でのディスカッション、専門家インタビュー、簡易的な学術的議論などの活動は、生徒が発話表現を以下の4つのストランドから見直すことで強化される
【発話力を構成する4つのストランド(構成要素)】※出典:Oracy Cambridge frameworkに基づく
Voice and Body Language(身体的表現)
・聞き手が理解するための時間を持てるような速度で話す
・意味を強調するために、声の大きさや音の高さを変化させて話す
・意味を伝え、聞き手を引きつけるために、顔の表情や身振りを使う
・公の場での発表時には、文化的・地域的な規範に合った表情、アイコンタクト、ジェスチャーを用いる
・口ごもったり、言葉を濁したりせずに明瞭に話す(アクセントや方言、俗語の使用に関係なく)
Oral Language(言語的表現)
・社会的状況や聞き手に合わせて言語を調整する(コードスイッチング)
・内容を整理し、聞き手にとって関連性があり明確に伝わるように構成する
Thinking Language(認知的言語)
・他者の発言を傾聴し、それに基づいて自らの貢献を豊かにする
・情報を求めたり明確にしたりするために質問を使う
・発言の前に思考を整理し、発言内容のコントロールを保つ
・利用可能な時間を管理し、議論を独占しないようにする
・明確な言葉で意見を説明し、効果的に正当化する
・建設的かつ非攻撃的な方法で、考えや意見を試す言葉を用いる
・聞き手の理解度を把握しながら話す
Pathos Language(情動的言語)
・他者の参加を促すことで会話や議論を広げる
・他者が発言できる機会を十分に得られるように、交代で話す
・積極的に傾聴し、適切に反応する
・学ぶ姿勢で聴く
・他者の視点を理解しようとして聴く
・他者が「自分の声が届いた」と感じられるように聴く
・質問、詰問、ヤジ、感情的対立、非協力的態度などに直面した際に、冷静に対応する
・熱意を示し、想像力を働かせて、議論やプレゼンテーションのメッセージ性を高める
Code Switching(コードスイッチング)
・コードスイッチングとは、他者の快適さを最適化するために、言語や行動を調整する一般的な方法
・誰もが無意識のうちにコードスイッチングをしている(祖母と、友人と話すときは話し方が異なる)
・学術的文脈におけるコードスイッチングは、同化を意味するのではなく、共感的な敬意(empathetic deference)(他者への理解、敬意、謙虚さを表現する態度)を示す行動
・中高生は、自分が示したいアイデンティティを探しながら「社会的探り(Social waters)」を行っている
・「無礼」とされる表現は、社会的認識(Social Awareness)を十分に理解していない兆候
・発話力の指導においてコードスイッチングを明示的に教えることは、尊敬を教えることや、生徒の自己表現を奪うことではなく、無礼という言葉を、"empathetic deference(共感的敬意)" という語で置き換えることにより、生徒が多様で変化の激しい世界を生き抜くために不可欠なスキルを洗練させる手助けとなる
・教室内の発話スキルチートシートは、壁や机に設置することで生徒に日々意識づけを促す道具となる

・PBLの協働的な環境では、これらは「お互いを認め合い、尊重すること」に焦点を置いて設計される
・すべての教師は、学年初めに教室内の規範を定めることから始めるべき
・これらの規範は、教師と生徒が共同で構築し、明確なディスカッション・プロトコルを用いて、時間をかけて強化・定着させていく必要がある
・まず、敬意、安全性、開かれた姿勢を重視した文化を築くことから始め、そのために明確なディスカッション・プロトコルを導入する
・選んだプロトコルを始める際には、クラス全体に明確な目標(goal)と練習すべきスキル(skill)を提示する
・ソクラテス式セミナー、フィッシュボウル、トーキング・サークル、ハークネス・ディスカッションなどは、次のような発話スキルを教える手法(傾聴、言い換え、発言前の間の取り方、会話空間の共有、そして全員の参加を促すこと等)
【ハークネス・デイスカッション】
・ハークネス・ディスカッションとは、教師を介さず、生徒自身が議論の進行と構成を担う円卓形式のディスカッション・プロトコル
・目的:誰かに恥をかかせることではなく、自己主張と自己認識の両方を育むこと。つまり、生徒が自分がどれだけ話しているか、あるいはどれだけ話していないかを意識できるようにすること
・目標例:「すべての生徒が等しく会話に貢献すること」
・議論の進行状況を可視化するために、モデレーター(進行役)が発言者をマッピングし、会話の流れを図式化して示す
・生徒が学ぶべきスキル:「誰が発言していないかに気づき、その人を会話に巻き込むこと」
・教師は、生徒が会話を広げやすくするための文の出だし(センテンス・ステム)を提供し、全員が参加できるよう支援する
・質の高いPBLは、大きな声を出す生徒だけでなく、すべての生徒の声を尊重する

・Harkness Discussion Conversation Map

【トーキング・サークル(Talking Circles)】
・PBLの本質は、生徒中心の学びであり、トーキング・サークルの目的(「コミュニティを築くこと」「規範を確立すること」「問題が発生したときに生徒が自分たちで解決できる場を提供すること」)と相性が良い
・生徒たちがトーキング・サークルに慣れてきたら、成熟度に応じて適切なバリエーションを追加可能
・PBLの中では、トーキング・サークルは以下のように多様な形で活用可能
・教科内容の話し合い
・グループ内でのやり取りの振り返り
・衝突や対立の解決
・教室内の行動の評価 など
・こうしたプロトコルを初めて使うときに、完璧な成果を期待してはダメで、特定のスキルを練習するためのセッションと捉えるべき
・初回の導入時には、面白かったり、少し刺激的な話題を選択することで、生徒はまずプロトコルの「仕組み」を学ぶことに集中できる(「プロトコルの理解」と「新しい学習内容」の両方を同時に処理するのは難しいため)
・理想的流れ:楽しい話題で生徒がプロトコルの流れを学ぶ→そのスキルを使って、本来の学術的な内容を話し合えるようにする
・プロトコルの目的は、生徒に予測可能な体験と、安全に練習できる場を提供すること
・こうしたプロトコルは、SEL(社会・情動的学習)における重要な構成要素となり、生徒が尊重される空間の中で練習を積むことを可能にする

・多くの教師は、炎上しかねない話題を避けるがちだが、対立を避ける代わりに、複雑な問題を掘り下げ、より建設的な結論に導くように生徒を導くべきである
・サンアントニオの教育者ライアン・スプロットは、ディベートによって、生徒たちが「問題には2つの立場しかない」と考えてしまい、「私たち vs 彼ら」という対立的なメンタリティを生む危険があると警告する。論争的な話題を扱うときはディベートよりも対話の方が効果的である
・対話とは、互いの声を尊重することを基盤とする
・問いを対話的にする技術の1つ:「To what extent ~(どの程度まで~)」という言い回しで始める
「遺伝子組み換え食品は安全か?」→「遺伝子組み換え食品はどの程度安全か?」
・教師は、対話の目的は、できるだけ多くの視点を集めることであり、自分の意見を勝たせることではないと明確に枠づけなければならない
【対話的問いの導入例】
生徒が自分の意見を最初に述べることを控えさせ、代わりに、他者の視点を共有するように促す
以下のようなセンテンス・ステム(文の出だし)を活用する:
・「このトピックについて、これまでにどんな話を聞いたことがある?」
・「他の人はこう言うかもしれない……」
・「反対意見の人はどう言うだろう?」
・「別の立場からの最も強力な反論は何だろう?」
【対話後の振り返りで使える問い】
・「誰かの発言で、自分の理解が深まったものはあったか?」
・「反対意見の中で、印象に残った強い主張はあったか?」
・複雑な話題の中にあるニュアンスを読み取る力を育てる訓練である
・たとえ全く反対の意見に出会っても、すべての視点に正当性があると考えることで、感情的な反応よりも「その人が何者か」に焦点を当てることができるようになる
・異なる視点を言語化することは、アイデンティティをめぐる対話を日常化するきっかけともなる
【アイデンティティの視点を補助する文例】
生徒には、自分の発言を始める前に、「どんなレンズ(視点)を通して世界を見ているのか」を明示するよう促すべき:
・「白人、シスジェンダー男性の視点から」
・「郊外に住む人の視点から」
・「LGBTQ+の視点から」
・「貧困を経験したことがない人の視点から」
・「BIPOC(有色人種)の視点から」
【小学生などへの導入例】
・「小学校3年生の視点から」
・「学校が簡単だと感じる人の視点から」
・「白人の視点から」
・「いじめを受けたことがある人の視点から」
・生徒がトピックに関して経験や根拠がある場合にのみ意見を述べるように指導すべきで、そうでない場合は、聞き役に回り、質問を投げかける役割に徹するべきである
・それによって協働的な解決策が生まれ、すべての視点が尊重される
・重要なのは、生徒たちが互いに異なる視点に耳を傾け、それらを尊重できるようになること
・PBLで実践される社会的認識のスキルの結果として、このような「礼節」が育まれる
【生徒が誰かに対して無礼・不適切・侮辱的・攻撃的な発言をした場合】
・即座にその発言を止め、教室の合意に立ち返るように指導すべき
・もしその主張が単に物議を醸すものであったり、根拠に欠ける場合には、トーキング・サークルの今後のテーマとして改めて扱う
【教師が注意すべき点】
・「意見を述べること」に集中しすぎて、対話の本質である「聴くこと」「理解すること」が疎かにならないようにする
・取り組む価値がある問題:複数の解決策を持ち、未だ探究されていないアプローチを含む
・年齢に適した真正のトピックは豊富にあり、時事問題、地域資源、生徒の観察や関心、あるいは特定の学習指導要領に基づいて選定できる
・小学校:数学、理科、言語芸術を統合しながら校庭に動物園を設計する等
・中学校:カフェテリアの食品経済をテーマとし、金融数学、環境への影響、食品科学、調査およびデータ分析、ライティングを組み合わせる活動等
・高校:幾何学クラスは技術クラスと連携して、災害後に大量輸送できる緊急用タイニーハウスを設計・建設するような課題等
・ドライビング・クエスチョンは、解決に至る明確な1つの経路ではなく、複数の方向からアプローチできるように問題を構成する役割を担う
・ドライビング・クエスチョンは、生徒の社会的認識(Social Awareness)を高めるためにも重要
・生徒は、対立する立場、異なる資源へのアクセス、影響力の範囲の違いなどを理解しようとする中で、他者の視点を尊重することを学ぶ
・最良のドライビング・クエスチョンは、哲学的な性質を持ち、生徒に対して複雑な問題を複数の視点から考えることを求める
・目的は、調査、インタビュー、分析、観察に基づいて結論を導く技法を教えること
・このアプローチにおいて、生徒は自らの限られた知識(N2Ks)を自覚し、次のような学びの旅に出る(専門家に話を聞き、観察し、証拠を集め、想像力を働かせて世界を再構築する旅)
・PBLの教師にとってのやりがいの一つは、生徒と共に学び続ける存在となり、生涯学習の姿勢を示すこと
・生徒は問いを投げかけ、理解するために耳を傾け、観察し、調査し、実験を重ねた後に結論へと至る
・生徒はこの調査的アプローチを、科学者やエンジニアが用いる科学的方法やデザイン思考の中に見出す
・もし教師が「失敗を前進として捉える文化(failing forward)」を教室内に築くことができれば、生徒は「正解」を焦って選ぶ必要がなくなり、失敗を成功への一歩として肯定的に捉えるようになる

・教師がドライビング・クエスチョンについてよく抱く懸念は、生徒がそれに答えるための十分な背景知識を持っていないのではないかという感覚
・ドライビング・クエスチョンの目的、そしてPBL全体の目的は、生徒が学習基準を学びたいと思い、その意義を理解するよう動機づけることにある
・もし開かれたドライビング・クエスチョンでプロジェクトを始める前に必要な内容を教えてしまえば、生徒は「なぜこれを学ぶのか?」という状態に留まってしまう
・内容を先に教えるべきだという誤った考えは、ブルームのタキソノミーのピラミッド型図を誤解したことに由来する
【ブルームのタキソノミーの誤解】
ブルームのタキソノミーは、生徒の学習のための階層構造であることを意図されていなかった
・ブルーム自身は、彼のタキソノミーにしばしば付随するピラミッド型の図を作成していないし、それは彼の考えを正確に表してもいない
・ブルームのタキソノミーは幾度も改訂され、上下が逆転されたが、それでも多くの教育者はこの図の意図を誤解している
・この図の本来の意図は、教師が生徒が何をしているかを振り返り、自分たちの授業が基礎知識レベルにとどまっていないかを確認するためのものであった(授業計画のための反映ツールであり、学習のためのものではない)
・階層的でも段階的でもあるべきではなく、「分析や創造の前に基礎知識を覚えていなければならない」というわけではない
・ブルームのタキソノミーを例えるなら、生徒が同時に複数の段を使って上っていく「はしご」のようなものだと考えるべき
・教師は、あるテーマについての基本的な知識と理解を得る前に、生徒に分析、評価、創造を促すことができ、それこそが、優れたドライビング・クエスチョンが果たすことのできる役割
(序盤)
・PBLは、はしごの上部にある段を生徒にワクワクさせることから始まる
・生徒は、ウェブで調べ、本を読み、動画を観たり、専門家にインタビューしたりして、自分の知識と理解を深めようとする
・「知るべきこと(Need to Know)」の過程で、自分たちが知らないことについて問いを立て、それによりプロジェクトを完成させ、ドライビング・クエスチョンに答えることができるようになる
・彼らははしごの下の段で欠けている部分を特定し、それを補うためにそこへ向かう
(中盤)
・生徒ははしごを上下に動きながら、問題を評価・分析し、自分たちの問いに答えるために必要なことを調べていく
(終盤)
・学んだことを示す成果物を提出(アート作品、プロトタイプ、模型のような物理的な成果物であることもあれば、問題を分析し、解決策を提示する計画書やエッセイであることもある)
・こうした成果物は、生徒がはしごの上部に到達したことの証拠となる
・はしごは、高い場所へ登っていくための道具であり、重要な仕事をする場所にたどり着くためのもの
・ブルームのタキソノミーの上位の段を、生徒が主に活動すべき場所だと考えるなら、この比喩は有効
・人は、登るべき理由と目的がなければ、はしごをつかもうとはしない
・PBLは、はしごの上に何が待っているかを生徒に見せることで始まる
・関心、動機、学習の目的があれば、生徒ははしごに手をかけ、上下に移動し、必要なスキルを習得しながら、創造的な解決に向かって進んでいく
・Voice and choice(PBLの秘密の調味料のひとつ)は、開かれたドライビング・クエスチョンから生まれる
・すべての生徒が同じ経路でゴールに向かうのではなく、ドライビング・クエスチョンは生徒が自分自身の経路を選びながらトピックを探究することを可能にする
・その過程で、生徒は専門家に話を聞いたり、観察したり、証拠を集めたり、想像力を働かせて世界を再構築したりする
・ドライビング・クエスチョンは、プロジェクト全体を通じて生徒に「変容的社会的認識(Transformative Social Awareness)」を実践させる
・生徒は、共感や思いやりを持った姿勢で、他者と共に課題を調査していく
・生徒はあらゆる立場の視点を検討し、関係者すべてにとって受容可能な解決策に至るために思考を重ねていく
・コミュニティとのつながりはPBLの秘密の調味料のひとつである
・校外の多様な視点を持つ人々と関わることを通じて、生徒は社会的認識を深め、複雑な問題には多面的な解決策の組み合わせが必要であることを学ぶ
・学校とその周囲の地域社会との間に存在する現在の断絶は、単に損失であるだけでなく、生徒たちが地域社会の貴重な一員としての自分の役割を理解する機会を失わせている
・地域の住民と有意義で生産的な関係を築くことは、重要な社会的・情動的学習スキルであり、生徒が地域社会に入っていく準備をすることにつながる
・社会人になるための準備だけでなく、子ども時代に地域社会とのつながりを理解することが重要
・地域住民は、人生経験を豊富に持ち、困難な状況に対処するために自らのスキルをどのように使っているかを共有することができる
・ゲストスピーカーは、生徒を想像を超えた世界へと連れていき、背景知識の補完に役立つ
・もし生徒が周囲の地域社会に無関心であるように見えるなら、それは共感力の欠如ではなく、単に人々や場所、出来事といった自分の生活と結びつく接点がないから
・地域社会に根ざしたプロジェクトは、生徒の取り組みに命を吹き込む、PBLの鼓動のような存在
・地域社会からゲストを迎える前に、彼らの役割について明確な期待を設定することが重要
・子どもたちと接する前に、ゲストを審査し、適切な関わり方のルールを明確にしておくべき
・PBLでは、その考え方を覆し、プロジェクトの初期段階でフィールドワークを実施し、これを導入活動や、プロジェクトの途中における調査機会として活用する
・我々は「fieldwork(実地調査)」という言葉を使い、「field trip(遠足)」という言葉を避けている
・生徒は受動的な見学者ではなく、初期段階から主体的に関わる存在であるべき
・フィールドワークであれゲストスピーカーであれ、コミュニティとのつながりはPBLプロセスの重要な一部であり、社会的認識を高める
・PBLは、こうした外部との関わりを単なる「楽しい補足活動」から、学習プロセスの中核に変える
・生徒のプロジェクト解決において、コミュニティの視点を組み込むことが求められる
・SELの文脈における共感とは、他者の感情を理解し共有することであり、「誰かとともに感じる」能力
【共感の構成要素(ゴールマン & エクマン)】
1. 認知的共感:他者の立場に自分を置き、その視点を理解する能力
2. 感情的共感:他者の感情を自分もともに感じる能力
3. 思いやりのある共感:他者の痛みを感じ、行動に駆り立てられる能力
・PBLは、生徒がさまざまなレベルで共感し、提示された課題に対して解決策を設計するよう求める
・共感の種類に具体性を持たせることで、教師は共感を取り入れた問題解決活動を設計しやすくなる
【例:学校の規則についての考察】
・各チームは、学校の決まりや規則、管理上の判断のうち、不公平だと感じるもの、無意味だと思うもの、あるいは抑圧的だと感じるもののリストを作成
・各項目について、根拠、証拠、影響、解決策を考え、その後、クラス全体にリストを説明
・すべてのグループが共有した後、生徒は変更すべきだと思う上位3つのルールまたは要件に投票
・生徒が学校のルールや要件がなぜ作られたのか、そして誰が作ったのかを調べる絶好の機会
・管理職、教師、コミュニティのメンバーからなるパネルを招いて、生徒の論拠と解決策を聞いてもらうことを検討してもらう
SEL演習の理想的な成果
・これらのSEL演習における理想的な成果は、管理職が生徒たちの立場を考慮し、もっともらしい生徒の提案を採用すること
・もし生徒が、自分たちの学校から不人気な規則を取り除く活動に参加したとしたら、どれほど力を得たと感じることだろうか
・もっとも、どのような結果であれ、生徒との深い「社会的認識(Social Awareness)」に関する振り返りを生み、管理職にとっての思考材料となる
感情的共感(Emotional Empathy)
・他者の感情を感じ取る能力は、人間が生まれつき実践している特性
・赤ん坊は母親の笑顔に応え、大人は公式な場で伝染するような笑いに巻き込まれる
・感情的共感は、「社会的認識」のスキルとして洗練させることができ、生徒がプロジェクトのテーマとその背後にある人間性とを結びつける感覚を研ぎ澄ます
・このような共感を教えるには、生徒の思考をより深い結びつきへと導く必要があり、他人の苦しみに共感するだけでは不十分で、生徒は、誰かや何かを判断することを控えること、助言や提案をする衝動を抑えること、自分の経験を語ることを控えることを学ばねばならない
思いやりのある共感(Compassionate Empathy)
・共感の表れとして行動を起こすことが、「思いやりのある共感(compassionate empathy)」
・生徒は、自分が勝手に行動するのではなく、他者に「何をすれば助けになるか」を尋ねることを教わることができる
・このような共感文化を築く第一歩として、「アイデンティティILeva」が活用される
・生徒が誠実な共有を通して相互に深い関係を築くことで、互いを言葉や行動で傷つける可能性は低くなる
・PBLにおいて思いやりのある共感を教える素晴らしい方法の一つは、最終成果物としてのナラティブ・ライティング(物語的な文章)である
・変容的社会的認識(Transformative Social Awareness)がなければ、プロジェクトは冷たく無情なものになりかねない
・社会的認識を研ぎ澄ますための基盤は、プロジェクトを選び、複雑な問題を多角的に探求することを生徒に促す「探究課題(Driving Question)」を設定することにある
・プロトコルは、異なる視点を尊重し受け入れる文化を築き、対話は、問題の多くは単純に二極化されるものではなく、ニュアンスに満ちていることを生徒に教える
・ゲストやフィールドワークを通じて地域社会とつながることで、生徒はこれまで考慮してこなかった視点に触れることができる
・文学は、多様な背景を持つ登場人物との豊かな出会いを提供する
・変容的な社会的認識の最終的な成果は、他者に対する真の共感であり、影響を受けるすべての人を尊重する解決策を模索する市民を育むこと
振り返りの問い(Reflection Questions)
・社会的文脈の違いに応じた「話す力(oracy)」のスキルを、どのように明確に教えるか?
・すべての生徒に対する相互の敬意を育む学校/学級文化をどのように築くか?
・公正な対話を実践するために、どのようなプロトコルを用いるか?
・生徒が多様な視点を考慮せざるを得ないようなプロジェクトと探究課題を、どのように設計するか? 特定のテーマについて生徒の視野を広げるために、どのようなフィールドワークを計画するか?
・生徒のプロジェクトに多様な視点を加えるために、どのような組織や地域の人々と連携するか?
・プロジェクトテーマに関連して、生徒の共感を育むために、どのような文学作品を読ませるか?
・生徒の社会的認識を「変容的SEL(Transformative SEL)」へと高めるために、どのような支援をするか?
ここまで。
第6章は、PBLを通した社会的認識の向上について「発話能力」「ディスカッションのプロトコル」「議論より対話」「多面的なドライビング・クエスチョン」「地域社会とのつながり」「PBLにおける共感」という6つの柱で書かれていました。
特に印象に残ったのが3点あります。
1点目は、会話の視える化について。グループの中の誰が誰とどれだけ会話をしていたのかということを視える化するツールとして、Harkness Discussion Comversation Mapが紹介されていました。大学院でも対話の様子を視える化し、そのデータを元にリフレクションをしたことがあり、その効果性を実感していただけにこのツールは使えるなと思いました。いつか自分の授業でも使ってみたいと思います。
2点目は、ブルームのタキソノミーに関する誤解について。ブルームのタキソノミーについては以前まとめたことがあったのですが(まとめ記事)、多くの教師がこの意味を誤解しているというのです。その誤解とは、高次の認知スキルを学ぶ前に、基礎的な部分から積み上げていかなければいけないということです。※以前、マズローの欲求5段階説についても同じような記事を見たことがありました。
ブルームのタキソノミーは、あくまで授業を振り返るためのツールであり、生徒は「はしご」のように自由に行き来しながら学びを深めていくという視点が提示されていました。このイメージを持ちながら、自分の授業にも生かしていきたいと思いました。
最後に、PBLにおける共感について。共感の構成要素(ゴールマン & エクマン)として、以下の3つがあり、
1. 認知的共感:他者の立場に自分を置き、その視点を理解する能力
2. 感情的共感:他者の感情を自分もともに感じる能力
3. 思いやりのある共感:他者の痛みを感じ、行動に駆り立てられる能力
PBLのプロセスの中に、これらの共感の要素をつなげることで、「他者理解と社会変革力を育む」というPBLの可能性について述べられていました。つまり、共感が単なる感情の共有にとどまらず、具体的な行動に繋がるとき、生徒は単に「よくできた発表」を超え、「社会に何かを届ける存在」へと昇華させ、変容的社会的認識(Transformative Social Awareness)を育む。これはOECDの言う「Transformative Competencies:変革を起こす力(コンピテンシー)」や「エージェンシー」、キーガンの言う「自己変容型知性(Self-Transforming Mind)」とも通じるものがあると思いました。
社会との接続を重視するPBLは、社会的認識を育むために非常に相性が良さそうです。
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1. Introduction(イントロダクション)
2. Transformative Social and Emotional Learning(変容的SEL)
3. Components of PBL(PBLの構成要素)
4. Developing Self-Awareness(自己認識の育成)
5. Building Self-Management(自己管理の構築)
6. Sharpening Social Awareness(社会的認識の向上)
7. Forging Relationship Skills(人間関係スキルの養成)
8. Exercising Responsible Decision-Making(責任ある意思決定のエクササイズ)
9. Assessing SEL Comptetencies(SEL能力の評価)
10. How Will You Revolutionize the World(あなたはどのように世界を変革するか)
第6章は、社会的認識の向上をテーマに、以下の6つの項目でまとめられています。
・発話能力(Oracy)
・ディスカッションのプロトコル(Discussion Protocols)
・議論より対話(Dialogue Over Debate)
・多面的なドライビング・クエスチョン(Multi-faceted Driving Questions)
・地域社会とのつながり(Connections with the Community)
・PBLにおける共感(Empathy in PBL)
それぞれ見ていきます。
発話能力(Oracy)
・特にアメリカでは、教育者は「読む」「書く」「話す」という三つの柱のうち三つ目にほとんど時間を割いていない。実際、「発話力(oracy)」は試験対象にもならない。・発話力とは、話し言葉によって自分の考えを明確に伝え、他者にとって意味を成すように構成する能力
・発話力の指導とは、生徒が効果的にコミュニケーションし、協働するために必要な、言語的な行動と話し方の習慣を意図的に育てること
・発話力を強化することは、生徒が民主的なプロセスに完全に参加する機会をより平等に得るために必要
【PBLの中で発話力を実践することで、生徒ができるようになること】
・地域のステークホルダーと流暢にコミュニケーションを取る
・ゲスト専門家に対してより深い質問を投げかける
・相手の主張を意図を持って傾聴する
・実践的なフィードバックを提供する
・専門的な態度で自己を表現する
・より具体的な語彙を使用する
・意義ある議論に参加する
・プレゼンテーションの説得力を高める
・自らの声がもたらす影響を実感する
口頭でのコミュニケーションに関する規範を確立することは、外向的で自己主張の強い生徒、内向的で控えめな生徒、その中間に位置する生徒の誰にとっても、公平な発言の場を保証する助けとなる。発話における規範の目的は、あらゆる背景を持つ生徒にとって認識可能なものでなければならない。 そのためには、生徒に明確に発話のスキルを教え、定期的に発話を実践する機会を与える必要がある。本章後半では、対話とディスカッションのプロトコルを深く扱うが、それに先立って、基本的な初心者向けガイドとして、効果的かつ基本的な発話スキルを育てるための指針を示す。
・発話スキルを構成する要素(ストランド)を使えば、生徒は自らの話し方を評価し、改善点を明確にすることができる
・プロジェクト設計の中で、こうしたプロトコルを日常的に練習する機会を生徒に提供すべき
・ソクラテス式セミナー、ピアレビュー、批評プロトコル、少人数および全体でのディスカッション、専門家インタビュー、簡易的な学術的議論などの活動は、生徒が発話表現を以下の4つのストランドから見直すことで強化される
【発話力を構成する4つのストランド(構成要素)】※出典:Oracy Cambridge frameworkに基づく
Voice and Body Language(身体的表現)
・聞き手が理解するための時間を持てるような速度で話す
・意味を強調するために、声の大きさや音の高さを変化させて話す
・意味を伝え、聞き手を引きつけるために、顔の表情や身振りを使う
・公の場での発表時には、文化的・地域的な規範に合った表情、アイコンタクト、ジェスチャーを用いる
・口ごもったり、言葉を濁したりせずに明瞭に話す(アクセントや方言、俗語の使用に関係なく)
Oral Language(言語的表現)
・社会的状況や聞き手に合わせて言語を調整する(コードスイッチング)
・内容を整理し、聞き手にとって関連性があり明確に伝わるように構成する
Thinking Language(認知的言語)
・他者の発言を傾聴し、それに基づいて自らの貢献を豊かにする
・情報を求めたり明確にしたりするために質問を使う
・発言の前に思考を整理し、発言内容のコントロールを保つ
・利用可能な時間を管理し、議論を独占しないようにする
・明確な言葉で意見を説明し、効果的に正当化する
・建設的かつ非攻撃的な方法で、考えや意見を試す言葉を用いる
・聞き手の理解度を把握しながら話す
Pathos Language(情動的言語)
・他者の参加を促すことで会話や議論を広げる
・他者が発言できる機会を十分に得られるように、交代で話す
・積極的に傾聴し、適切に反応する
・学ぶ姿勢で聴く
・他者の視点を理解しようとして聴く
・他者が「自分の声が届いた」と感じられるように聴く
・質問、詰問、ヤジ、感情的対立、非協力的態度などに直面した際に、冷静に対応する
・熱意を示し、想像力を働かせて、議論やプレゼンテーションのメッセージ性を高める
Code Switching(コードスイッチング)
・コードスイッチングとは、他者の快適さを最適化するために、言語や行動を調整する一般的な方法
・誰もが無意識のうちにコードスイッチングをしている(祖母と、友人と話すときは話し方が異なる)
・学術的文脈におけるコードスイッチングは、同化を意味するのではなく、共感的な敬意(empathetic deference)(他者への理解、敬意、謙虚さを表現する態度)を示す行動
・中高生は、自分が示したいアイデンティティを探しながら「社会的探り(Social waters)」を行っている
・「無礼」とされる表現は、社会的認識(Social Awareness)を十分に理解していない兆候
・発話力の指導においてコードスイッチングを明示的に教えることは、尊敬を教えることや、生徒の自己表現を奪うことではなく、無礼という言葉を、"empathetic deference(共感的敬意)" という語で置き換えることにより、生徒が多様で変化の激しい世界を生き抜くために不可欠なスキルを洗練させる手助けとなる
・教室内の発話スキルチートシートは、壁や机に設置することで生徒に日々意識づけを促す道具となる

ディスカッションのプロトコル(Discussion Protocols)
社会的認識(Social Awareness)を育成するのに効果的なディスカッション・プロトコルとして、「ハークネスディスカッション」と「トーキングサークル」が紹介されています。・PBLの協働的な環境では、これらは「お互いを認め合い、尊重すること」に焦点を置いて設計される
・すべての教師は、学年初めに教室内の規範を定めることから始めるべき
・これらの規範は、教師と生徒が共同で構築し、明確なディスカッション・プロトコルを用いて、時間をかけて強化・定着させていく必要がある
・まず、敬意、安全性、開かれた姿勢を重視した文化を築くことから始め、そのために明確なディスカッション・プロトコルを導入する
・選んだプロトコルを始める際には、クラス全体に明確な目標(goal)と練習すべきスキル(skill)を提示する
・ソクラテス式セミナー、フィッシュボウル、トーキング・サークル、ハークネス・ディスカッションなどは、次のような発話スキルを教える手法(傾聴、言い換え、発言前の間の取り方、会話空間の共有、そして全員の参加を促すこと等)
【ハークネス・デイスカッション】
・ハークネス・ディスカッションとは、教師を介さず、生徒自身が議論の進行と構成を担う円卓形式のディスカッション・プロトコル
・目的:誰かに恥をかかせることではなく、自己主張と自己認識の両方を育むこと。つまり、生徒が自分がどれだけ話しているか、あるいはどれだけ話していないかを意識できるようにすること
・目標例:「すべての生徒が等しく会話に貢献すること」
・議論の進行状況を可視化するために、モデレーター(進行役)が発言者をマッピングし、会話の流れを図式化して示す
・生徒が学ぶべきスキル:「誰が発言していないかに気づき、その人を会話に巻き込むこと」
・教師は、生徒が会話を広げやすくするための文の出だし(センテンス・ステム)を提供し、全員が参加できるよう支援する
・質の高いPBLは、大きな声を出す生徒だけでなく、すべての生徒の声を尊重する

・Harkness Discussion Conversation Map

【トーキング・サークル(Talking Circles)】
・PBLの本質は、生徒中心の学びであり、トーキング・サークルの目的(「コミュニティを築くこと」「規範を確立すること」「問題が発生したときに生徒が自分たちで解決できる場を提供すること」)と相性が良い
・生徒たちがトーキング・サークルに慣れてきたら、成熟度に応じて適切なバリエーションを追加可能
・PBLの中では、トーキング・サークルは以下のように多様な形で活用可能
・教科内容の話し合い
・グループ内でのやり取りの振り返り
・衝突や対立の解決
・教室内の行動の評価 など
・こうしたプロトコルを初めて使うときに、完璧な成果を期待してはダメで、特定のスキルを練習するためのセッションと捉えるべき
・初回の導入時には、面白かったり、少し刺激的な話題を選択することで、生徒はまずプロトコルの「仕組み」を学ぶことに集中できる(「プロトコルの理解」と「新しい学習内容」の両方を同時に処理するのは難しいため)
・理想的流れ:楽しい話題で生徒がプロトコルの流れを学ぶ→そのスキルを使って、本来の学術的な内容を話し合えるようにする
・プロトコルの目的は、生徒に予測可能な体験と、安全に練習できる場を提供すること
・こうしたプロトコルは、SEL(社会・情動的学習)における重要な構成要素となり、生徒が尊重される空間の中で練習を積むことを可能にする

議論より対話(Dialogue Over Debate)
・生徒同士のディベートは、高次の思考を促す魅力的な方法となり得るが、ときに強い感情を引き起こし、傷ついた気持ちを残すこともある・多くの教師は、炎上しかねない話題を避けるがちだが、対立を避ける代わりに、複雑な問題を掘り下げ、より建設的な結論に導くように生徒を導くべきである
・サンアントニオの教育者ライアン・スプロットは、ディベートによって、生徒たちが「問題には2つの立場しかない」と考えてしまい、「私たち vs 彼ら」という対立的なメンタリティを生む危険があると警告する。論争的な話題を扱うときはディベートよりも対話の方が効果的である
・対話とは、互いの声を尊重することを基盤とする
・問いを対話的にする技術の1つ:「To what extent ~(どの程度まで~)」という言い回しで始める
「遺伝子組み換え食品は安全か?」→「遺伝子組み換え食品はどの程度安全か?」
・教師は、対話の目的は、できるだけ多くの視点を集めることであり、自分の意見を勝たせることではないと明確に枠づけなければならない
【対話的問いの導入例】
生徒が自分の意見を最初に述べることを控えさせ、代わりに、他者の視点を共有するように促す
以下のようなセンテンス・ステム(文の出だし)を活用する:
・「このトピックについて、これまでにどんな話を聞いたことがある?」
・「他の人はこう言うかもしれない……」
・「反対意見の人はどう言うだろう?」
・「別の立場からの最も強力な反論は何だろう?」
【対話後の振り返りで使える問い】
・「誰かの発言で、自分の理解が深まったものはあったか?」
・「反対意見の中で、印象に残った強い主張はあったか?」
・複雑な話題の中にあるニュアンスを読み取る力を育てる訓練である
・たとえ全く反対の意見に出会っても、すべての視点に正当性があると考えることで、感情的な反応よりも「その人が何者か」に焦点を当てることができるようになる
・異なる視点を言語化することは、アイデンティティをめぐる対話を日常化するきっかけともなる
【アイデンティティの視点を補助する文例】
生徒には、自分の発言を始める前に、「どんなレンズ(視点)を通して世界を見ているのか」を明示するよう促すべき:
・「白人、シスジェンダー男性の視点から」
・「郊外に住む人の視点から」
・「LGBTQ+の視点から」
・「貧困を経験したことがない人の視点から」
・「BIPOC(有色人種)の視点から」
【小学生などへの導入例】
・「小学校3年生の視点から」
・「学校が簡単だと感じる人の視点から」
・「白人の視点から」
・「いじめを受けたことがある人の視点から」
・生徒がトピックに関して経験や根拠がある場合にのみ意見を述べるように指導すべきで、そうでない場合は、聞き役に回り、質問を投げかける役割に徹するべきである
・それによって協働的な解決策が生まれ、すべての視点が尊重される
・重要なのは、生徒たちが互いに異なる視点に耳を傾け、それらを尊重できるようになること
・PBLで実践される社会的認識のスキルの結果として、このような「礼節」が育まれる
【生徒が誰かに対して無礼・不適切・侮辱的・攻撃的な発言をした場合】
・即座にその発言を止め、教室の合意に立ち返るように指導すべき
・もしその主張が単に物議を醸すものであったり、根拠に欠ける場合には、トーキング・サークルの今後のテーマとして改めて扱う
【教師が注意すべき点】
・「意見を述べること」に集中しすぎて、対話の本質である「聴くこと」「理解すること」が疎かにならないようにする
多面的なドライビング・クエスチョン(Multi-faceted Driving Questions)
・高度な質のPBLは、地域的または地球規模の、混沌として複雑な問題に焦点を当てる・取り組む価値がある問題:複数の解決策を持ち、未だ探究されていないアプローチを含む
・年齢に適した真正のトピックは豊富にあり、時事問題、地域資源、生徒の観察や関心、あるいは特定の学習指導要領に基づいて選定できる
・小学校:数学、理科、言語芸術を統合しながら校庭に動物園を設計する等
・中学校:カフェテリアの食品経済をテーマとし、金融数学、環境への影響、食品科学、調査およびデータ分析、ライティングを組み合わせる活動等
・高校:幾何学クラスは技術クラスと連携して、災害後に大量輸送できる緊急用タイニーハウスを設計・建設するような課題等
・ドライビング・クエスチョンは、解決に至る明確な1つの経路ではなく、複数の方向からアプローチできるように問題を構成する役割を担う
・ドライビング・クエスチョンは、生徒の社会的認識(Social Awareness)を高めるためにも重要
・生徒は、対立する立場、異なる資源へのアクセス、影響力の範囲の違いなどを理解しようとする中で、他者の視点を尊重することを学ぶ
・最良のドライビング・クエスチョンは、哲学的な性質を持ち、生徒に対して複雑な問題を複数の視点から考えることを求める
・目的は、調査、インタビュー、分析、観察に基づいて結論を導く技法を教えること
・このアプローチにおいて、生徒は自らの限られた知識(N2Ks)を自覚し、次のような学びの旅に出る(専門家に話を聞き、観察し、証拠を集め、想像力を働かせて世界を再構築する旅)
・PBLの教師にとってのやりがいの一つは、生徒と共に学び続ける存在となり、生涯学習の姿勢を示すこと
・生徒は問いを投げかけ、理解するために耳を傾け、観察し、調査し、実験を重ねた後に結論へと至る
・生徒はこの調査的アプローチを、科学者やエンジニアが用いる科学的方法やデザイン思考の中に見出す
・もし教師が「失敗を前進として捉える文化(failing forward)」を教室内に築くことができれば、生徒は「正解」を焦って選ぶ必要がなくなり、失敗を成功への一歩として肯定的に捉えるようになる

・教師がドライビング・クエスチョンについてよく抱く懸念は、生徒がそれに答えるための十分な背景知識を持っていないのではないかという感覚
・ドライビング・クエスチョンの目的、そしてPBL全体の目的は、生徒が学習基準を学びたいと思い、その意義を理解するよう動機づけることにある
・もし開かれたドライビング・クエスチョンでプロジェクトを始める前に必要な内容を教えてしまえば、生徒は「なぜこれを学ぶのか?」という状態に留まってしまう
・内容を先に教えるべきだという誤った考えは、ブルームのタキソノミーのピラミッド型図を誤解したことに由来する
【ブルームのタキソノミーの誤解】
ブルームのタキソノミーは、生徒の学習のための階層構造であることを意図されていなかった
・ブルーム自身は、彼のタキソノミーにしばしば付随するピラミッド型の図を作成していないし、それは彼の考えを正確に表してもいない
・ブルームのタキソノミーは幾度も改訂され、上下が逆転されたが、それでも多くの教育者はこの図の意図を誤解している
・この図の本来の意図は、教師が生徒が何をしているかを振り返り、自分たちの授業が基礎知識レベルにとどまっていないかを確認するためのものであった(授業計画のための反映ツールであり、学習のためのものではない)
・階層的でも段階的でもあるべきではなく、「分析や創造の前に基礎知識を覚えていなければならない」というわけではない
・ブルームのタキソノミーを例えるなら、生徒が同時に複数の段を使って上っていく「はしご」のようなものだと考えるべき
・教師は、あるテーマについての基本的な知識と理解を得る前に、生徒に分析、評価、創造を促すことができ、それこそが、優れたドライビング・クエスチョンが果たすことのできる役割
(序盤)
・PBLは、はしごの上部にある段を生徒にワクワクさせることから始まる
・生徒は、ウェブで調べ、本を読み、動画を観たり、専門家にインタビューしたりして、自分の知識と理解を深めようとする
・「知るべきこと(Need to Know)」の過程で、自分たちが知らないことについて問いを立て、それによりプロジェクトを完成させ、ドライビング・クエスチョンに答えることができるようになる
・彼らははしごの下の段で欠けている部分を特定し、それを補うためにそこへ向かう
(中盤)
・生徒ははしごを上下に動きながら、問題を評価・分析し、自分たちの問いに答えるために必要なことを調べていく
(終盤)
・学んだことを示す成果物を提出(アート作品、プロトタイプ、模型のような物理的な成果物であることもあれば、問題を分析し、解決策を提示する計画書やエッセイであることもある)
・こうした成果物は、生徒がはしごの上部に到達したことの証拠となる
・はしごは、高い場所へ登っていくための道具であり、重要な仕事をする場所にたどり着くためのもの
・ブルームのタキソノミーの上位の段を、生徒が主に活動すべき場所だと考えるなら、この比喩は有効
・人は、登るべき理由と目的がなければ、はしごをつかもうとはしない
・PBLは、はしごの上に何が待っているかを生徒に見せることで始まる
・関心、動機、学習の目的があれば、生徒ははしごに手をかけ、上下に移動し、必要なスキルを習得しながら、創造的な解決に向かって進んでいく
・Voice and choice(PBLの秘密の調味料のひとつ)は、開かれたドライビング・クエスチョンから生まれる
・すべての生徒が同じ経路でゴールに向かうのではなく、ドライビング・クエスチョンは生徒が自分自身の経路を選びながらトピックを探究することを可能にする
・その過程で、生徒は専門家に話を聞いたり、観察したり、証拠を集めたり、想像力を働かせて世界を再構築したりする
・ドライビング・クエスチョンは、プロジェクト全体を通じて生徒に「変容的社会的認識(Transformative Social Awareness)」を実践させる
・生徒は、共感や思いやりを持った姿勢で、他者と共に課題を調査していく
・生徒はあらゆる立場の視点を検討し、関係者すべてにとって受容可能な解決策に至るために思考を重ねていく
地域社会とのつながり(Connections with the Community)
・PBLは、生徒を伝統的な教室の枠を越えて、地域社会やその先へと導く・コミュニティとのつながりはPBLの秘密の調味料のひとつである
・校外の多様な視点を持つ人々と関わることを通じて、生徒は社会的認識を深め、複雑な問題には多面的な解決策の組み合わせが必要であることを学ぶ
・学校とその周囲の地域社会との間に存在する現在の断絶は、単に損失であるだけでなく、生徒たちが地域社会の貴重な一員としての自分の役割を理解する機会を失わせている
・地域の住民と有意義で生産的な関係を築くことは、重要な社会的・情動的学習スキルであり、生徒が地域社会に入っていく準備をすることにつながる
・社会人になるための準備だけでなく、子ども時代に地域社会とのつながりを理解することが重要
・地域住民は、人生経験を豊富に持ち、困難な状況に対処するために自らのスキルをどのように使っているかを共有することができる
・ゲストスピーカーは、生徒を想像を超えた世界へと連れていき、背景知識の補完に役立つ
・もし生徒が周囲の地域社会に無関心であるように見えるなら、それは共感力の欠如ではなく、単に人々や場所、出来事といった自分の生活と結びつく接点がないから
・地域社会に根ざしたプロジェクトは、生徒の取り組みに命を吹き込む、PBLの鼓動のような存在
・地域社会からゲストを迎える前に、彼らの役割について明確な期待を設定することが重要
・子どもたちと接する前に、ゲストを審査し、適切な関わり方のルールを明確にしておくべき
・PBLでは、その考え方を覆し、プロジェクトの初期段階でフィールドワークを実施し、これを導入活動や、プロジェクトの途中における調査機会として活用する
・我々は「fieldwork(実地調査)」という言葉を使い、「field trip(遠足)」という言葉を避けている
・生徒は受動的な見学者ではなく、初期段階から主体的に関わる存在であるべき
・フィールドワークであれゲストスピーカーであれ、コミュニティとのつながりはPBLプロセスの重要な一部であり、社会的認識を高める
・PBLは、こうした外部との関わりを単なる「楽しい補足活動」から、学習プロセスの中核に変える
・生徒のプロジェクト解決において、コミュニティの視点を組み込むことが求められる
PBLにおける共感(Empathy in PBL)
・社会的認識の最も高いレベルは、生徒が他者と自然に共感するようになったときに達成される・SELの文脈における共感とは、他者の感情を理解し共有することであり、「誰かとともに感じる」能力
【共感の構成要素(ゴールマン & エクマン)】
1. 認知的共感:他者の立場に自分を置き、その視点を理解する能力
2. 感情的共感:他者の感情を自分もともに感じる能力
3. 思いやりのある共感:他者の痛みを感じ、行動に駆り立てられる能力
・PBLは、生徒がさまざまなレベルで共感し、提示された課題に対して解決策を設計するよう求める
・共感の種類に具体性を持たせることで、教師は共感を取り入れた問題解決活動を設計しやすくなる
【例:学校の規則についての考察】
・各チームは、学校の決まりや規則、管理上の判断のうち、不公平だと感じるもの、無意味だと思うもの、あるいは抑圧的だと感じるもののリストを作成
・各項目について、根拠、証拠、影響、解決策を考え、その後、クラス全体にリストを説明
・すべてのグループが共有した後、生徒は変更すべきだと思う上位3つのルールまたは要件に投票
・生徒が学校のルールや要件がなぜ作られたのか、そして誰が作ったのかを調べる絶好の機会
・管理職、教師、コミュニティのメンバーからなるパネルを招いて、生徒の論拠と解決策を聞いてもらうことを検討してもらう
SEL演習の理想的な成果
・これらのSEL演習における理想的な成果は、管理職が生徒たちの立場を考慮し、もっともらしい生徒の提案を採用すること
・もし生徒が、自分たちの学校から不人気な規則を取り除く活動に参加したとしたら、どれほど力を得たと感じることだろうか
・もっとも、どのような結果であれ、生徒との深い「社会的認識(Social Awareness)」に関する振り返りを生み、管理職にとっての思考材料となる
感情的共感(Emotional Empathy)
・他者の感情を感じ取る能力は、人間が生まれつき実践している特性
・赤ん坊は母親の笑顔に応え、大人は公式な場で伝染するような笑いに巻き込まれる
・感情的共感は、「社会的認識」のスキルとして洗練させることができ、生徒がプロジェクトのテーマとその背後にある人間性とを結びつける感覚を研ぎ澄ます
・このような共感を教えるには、生徒の思考をより深い結びつきへと導く必要があり、他人の苦しみに共感するだけでは不十分で、生徒は、誰かや何かを判断することを控えること、助言や提案をする衝動を抑えること、自分の経験を語ることを控えることを学ばねばならない
思いやりのある共感(Compassionate Empathy)
・共感の表れとして行動を起こすことが、「思いやりのある共感(compassionate empathy)」
・生徒は、自分が勝手に行動するのではなく、他者に「何をすれば助けになるか」を尋ねることを教わることができる
・このような共感文化を築く第一歩として、「アイデンティティILeva」が活用される
・生徒が誠実な共有を通して相互に深い関係を築くことで、互いを言葉や行動で傷つける可能性は低くなる
・PBLにおいて思いやりのある共感を教える素晴らしい方法の一つは、最終成果物としてのナラティブ・ライティング(物語的な文章)である
・変容的社会的認識(Transformative Social Awareness)がなければ、プロジェクトは冷たく無情なものになりかねない
・社会的認識を研ぎ澄ますための基盤は、プロジェクトを選び、複雑な問題を多角的に探求することを生徒に促す「探究課題(Driving Question)」を設定することにある
・プロトコルは、異なる視点を尊重し受け入れる文化を築き、対話は、問題の多くは単純に二極化されるものではなく、ニュアンスに満ちていることを生徒に教える
・ゲストやフィールドワークを通じて地域社会とつながることで、生徒はこれまで考慮してこなかった視点に触れることができる
・文学は、多様な背景を持つ登場人物との豊かな出会いを提供する
・変容的な社会的認識の最終的な成果は、他者に対する真の共感であり、影響を受けるすべての人を尊重する解決策を模索する市民を育むこと
振り返りの問い(Reflection Questions)
・社会的文脈の違いに応じた「話す力(oracy)」のスキルを、どのように明確に教えるか?
・すべての生徒に対する相互の敬意を育む学校/学級文化をどのように築くか?
・公正な対話を実践するために、どのようなプロトコルを用いるか?
・生徒が多様な視点を考慮せざるを得ないようなプロジェクトと探究課題を、どのように設計するか? 特定のテーマについて生徒の視野を広げるために、どのようなフィールドワークを計画するか?
・生徒のプロジェクトに多様な視点を加えるために、どのような組織や地域の人々と連携するか?
・プロジェクトテーマに関連して、生徒の共感を育むために、どのような文学作品を読ませるか?
・生徒の社会的認識を「変容的SEL(Transformative SEL)」へと高めるために、どのような支援をするか?
ここまで。
第6章は、PBLを通した社会的認識の向上について「発話能力」「ディスカッションのプロトコル」「議論より対話」「多面的なドライビング・クエスチョン」「地域社会とのつながり」「PBLにおける共感」という6つの柱で書かれていました。
特に印象に残ったのが3点あります。
1点目は、会話の視える化について。グループの中の誰が誰とどれだけ会話をしていたのかということを視える化するツールとして、Harkness Discussion Comversation Mapが紹介されていました。大学院でも対話の様子を視える化し、そのデータを元にリフレクションをしたことがあり、その効果性を実感していただけにこのツールは使えるなと思いました。いつか自分の授業でも使ってみたいと思います。
2点目は、ブルームのタキソノミーに関する誤解について。ブルームのタキソノミーについては以前まとめたことがあったのですが(まとめ記事)、多くの教師がこの意味を誤解しているというのです。その誤解とは、高次の認知スキルを学ぶ前に、基礎的な部分から積み上げていかなければいけないということです。※以前、マズローの欲求5段階説についても同じような記事を見たことがありました。
ブルームのタキソノミーは、あくまで授業を振り返るためのツールであり、生徒は「はしご」のように自由に行き来しながら学びを深めていくという視点が提示されていました。このイメージを持ちながら、自分の授業にも生かしていきたいと思いました。
最後に、PBLにおける共感について。共感の構成要素(ゴールマン & エクマン)として、以下の3つがあり、
1. 認知的共感:他者の立場に自分を置き、その視点を理解する能力
2. 感情的共感:他者の感情を自分もともに感じる能力
3. 思いやりのある共感:他者の痛みを感じ、行動に駆り立てられる能力
PBLのプロセスの中に、これらの共感の要素をつなげることで、「他者理解と社会変革力を育む」というPBLの可能性について述べられていました。つまり、共感が単なる感情の共有にとどまらず、具体的な行動に繋がるとき、生徒は単に「よくできた発表」を超え、「社会に何かを届ける存在」へと昇華させ、変容的社会的認識(Transformative Social Awareness)を育む。これはOECDの言う「Transformative Competencies:変革を起こす力(コンピテンシー)」や「エージェンシー」、キーガンの言う「自己変容型知性(Self-Transforming Mind)」とも通じるものがあると思いました。
社会との接続を重視するPBLは、社会的認識を育むために非常に相性が良さそうです。
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