前回に続き、Pulse of PBL: Cultivating Equity Through Social Emotional Learningの第9章をレビューしていきます。

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Pulse_of_PBL

1. Introduction(イントロダクション)
2. Transformative Social and Emotional Learning(変容的SEL)
3. Components of PBL(PBLの構成要素)
4. Developing Self-Awareness(自己認識の育成)
5. Building Self-Management(自己管理の構築
6. Sharpening Social Awareness(社会的認識の向上)
7. Forging Relationship Skills(人間関係スキルの養成)
8. Exercising Responsible Decision-Making(責任ある意思決定のエクササイズ)
9. Assessing SEL Comptetencies(SEL能力の評価)
10. How Will You Revolutionize the World(あなたはどのように世界を変革するか)

第9章は、PBLを通した「SEL能力の評価」として、以下の8点でまとめられています。
・Grading vs Assessment
・チームビルディング
・ルーブリック
・プロトコル
・専門家としての仲間
・面談とコーチング
・教師自身の評価
・計画

では、一つずつまとめていきます。

Grading vs Assessment

・「評価(assessment)」という言葉は、標準化テスト、成績、通知表といった概念を想起させるような形で使われるようになってしまったが、それは、評価という実践のごく一部にすぎない
・K–12の教育現場における「成績」とは、数値データを集め、カットスコアを設け、生徒を分類すること
・A〜Fの成績評価は、最終的には競争的な順位付けに関するもの
 ・成績上位者は、他の誰よりも自分が賢いと誤って思い込み、賞や称賛を得るために争う
 ・一方で、常に低い評価を受ける生徒たちは、学校に幻滅し、自分は他の人よりも劣っていると誤って信じ込むようになる
・成績が学習を促進したり、動機づけたりするというエビデンスはないが、逆に、成績が動機を削ぐというエビデンスは存在している
・実際、現在の成績評価制度は、多くの生徒に「自分は学校で成功できないし、これからもできない」というメッセージを与えてしまっている

成績は現代教育において排除されるべき実践である
・我々は、SELコンピテンシーに成績をつけることは絶対に行うべきではないと強く助言する
・成績をつける代わりに、形成的評価(フォーマティブ・アセスメント)を用いるべき
・オーセンティック(本物の)アセスメントとは、部屋の温度を測り、それに応じて環境を調整するサーモスタットのようなもの
・「誰が素晴らしい質問をしているか?」「誰がクラス全体と共有すべきことを持っているか?」「誰がうまく協働しているか?」教師は常に教室内の「空気」を評価し、それに応じて学習活動を調整する
形成的評価には意味がある。それは「その瞬間の学び」を測定するものであり、教師はそれに応じて授業を調整できる。
・「形成的評価とは作業ではなく、実践である。それは、生徒が教師から“教えられたこと”を理解したかどうかを確認することではなく、学びを進めることを常に目的とするものである」
・教師は、評価のために必ずしもスコアをつける必要はない。質の高いフィードバックこそが、学びの精緻化における燃料となる
・教室で起こるすべてのことが、形成的評価の機会
・教師が教室の入り口で生徒に挨拶するとき、それは生徒の感情状態、気分、学習への準備度を評価していることに他ならない。空腹か満腹か?疲れているか元気か?落ち着いているか怒っているか?授業中、生徒は集中しているか?協働的か孤立しているか?協力的か対立的か?
・教師が使える最も有力な評価ツールのいくつかは、観察と傾聴
・生徒との会話は、彼らの社会的・情動的状態、教科内容の理解度、そしてSELスキルについての重要な気づきをもたらす可能性がある
・Grade less. Assess more. Plan cool stuff for kids. (成績評価を減らし、形成的評価を増やせ。子どもたちのためにクールなことを計画せよ。)

教師と生徒のためのツール
・「社会性と情動の学習(SEL)」が効果的であるためには、生徒の日々の生活習慣に統合されていなければならないという点
・SELコンピテンシー(能力)は、教えられ、練習され、評価されるべき

チームビルディング

・多くの教師は、学年の始まりに何らかのチームビルディング・アクティビティを導入する
・例:「スパゲッティタワー」、「ヒューマンノット(人間結び)」チャレンジからの脱出ゲーム等
・しかし一方で、教師が見逃しがちなのは、チームビルディング活動後の「全体振り返り(whole class debriefing)」という最も重要な機会
・「マシュマロ・チャレンジ」からのリフレクションの例
 ・①マシュマロ・チャレンジを実施
 ・②「幼児は建築家やエンジニアよりもマシュマロチャレンジで成功する」という短いTEDトークを視聴
 ・③CASELが示すSELコンピテンシーのチャートをプロジェクターで表示し、生徒にマシュマロ・チャレンジを乗り越える際に使った具体的なスキルを短く書き出させる
 ・④「トーキング・サークル(話し合いの輪)」を実施し、使用したSELスキルについて語り合う
 ・⑤教師のまとめ「マシュマロは、自分たちが直面しているプロジェクトの問題を象徴している。PBLにおいては、生徒は頻繁に壁にぶつかる。その際、これらのSELスキルを使って問題を乗り越える必要がある。試行錯誤は、学びの自然な一部であることを忘れないように。」

・チームビルディング活動の強み:それらが「共有されたアンカー体験」として機能する点
・教師は年間を通じて、生徒にそれをすばやく思い出させることができる
・困難に直面しているグループには、「直面している課題を乗り越えるために、どのSELスキルを使う必要があるか?」と問いかけて、方向転換を促すと良い
・その後、再度困難に直面する場面があれば、「マシュマロチャレンジ」や他のチームビルディング活動で実践したSELスキルを思い出させるようにする
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・関係スキル(Relationship Skills)のSELコンピテンシーを教えるには、創造性とチームワークを示すYouTube動画を見せるという手段がある(「Bottle Boys」の動画など)

ルーブリック(Rubrics)

・ルーブリックは元来、成績のためではなく「フィードバック」のために作られたもの
・「Poor(不十分)」「Average(普通)」「Exemplary(優れている)」といった複数の段階で評価させる方法は、SELスキルの評価においても同様の使い方が可能
・例:PBLの教室でのインタラクションのシナリオを提示し、そこに登場する生徒が使った、あるいは使わなかったSELスキルをルーブリックを使って評価させる。適切でない例に対しては、より良い対応策を考えるよう促したり、ロールプレイによって問題解決の道筋を再現したりさせる。ルーブリックの導入は、長文の説明文を1枚に詰め込むことが多いため、生徒にとっては退屈になりがちである。
・楽しく導入する方法:映画やテレビ番組のワンシーンを使う
 ・例①『マダガスカル』や『ビッグバン・セオリー』等の映像を観ながら、登場人物の協働スキルを評価
 ・例②リアリティ番組(『Chopped』『Great British Baking Show』『Shark Tank』など)を使って、評価者のコメントが「具体的」「親切」「建設的」であったかを生徒に検討させる
・ルーブリックは教師だけのものではない。生徒自身が自己評価や他者評価に使うことで、行動変容のための有効な評価手段となる
 ・たとえば、健康的な食事や運動が必要だと伝えられても、実際に行動するには、自分で自分を分析し、意思決定する必要がある。
・振り返りは、学びが定着する「マジック的瞬間(Velcro moment)」である
・自己評価や他者評価とルーブリックの併用によって、生徒は自分がどの段階にいるのか「メタ的な理解」を得ることができる。
・このような振り返りは、SeeSawやFlipgrid等のデジタルツールを使って記録し、共有することもできる

プロトコル(Protocols)

・SELを評価する主たる目的は、生徒が一年を通じて徐々により成熟した姿勢を見せるかどうかを測ること
・この最も効果的な手法のひとつが、さまざまな「プロトコル」
・生徒からの即時フィードバックや自己評価に使える、我々のお気に入りのプロトコル
quick-self-assessment
(授業冒頭)
・SELコンピテンシーの説明やルーブリックを提示し、今日どの部分に意識して取り組んでほしいかを伝える
・前日の授業で成功または不足していたSELスキルを振り返りとして活用する
・映画のワンシーンやチームビルディング活動を思い出させ、そのSELスキルの重要性を再確認させる
(授業の終わり)
・生徒に1分間の振り返りタイムを取り、個人またはグループとしてそのスキルをどう実践したかを静かに考えさせる
・「fist to five」や親指を上げ下げする方法で自己評価させ、全体をざっと確認した後、数名にその理由を共有させる

・この評価は点数化や判定のためではなく、成功を祝福し、困難をどう乗り越えるかを考える機会とするためのものであるため、安全な学習環境をつくることが重要
・教師の観察と生徒の自己評価が一致しない場合は必ず確認するようにする
 ・生徒が思いのほか低く自己評価している場合は、その生徒の調子を確かめる
 ・逆に高く評価している場合は、当日または翌日に個別で話をする
・ほとんどすべてのプロトコルは、SELのコアスキルの一つに関する形成的評価データとなる
・ハーバードのProject Zeroの「Visible thinking routines」(Leaderless Discussion, Making Meaning, Story Routine, Beauty and Truthなど)も有効
・NSRF(全米学校改革ファカルティ)やSRI(学校改革イニシアティブ)のプロトコルも推奨
・生徒には、そのプロトコルで扱う知識やスキルに加えて、対象とするSELスキルを明確に伝える
・初回は「練習」として行い、やり方を理解する時間とする
・授業出席表にチェック印などをつけて、SELスキルが使われた場面を記録することもできる
・プロトコルの最後には、その日扱った内容と使われたスキルについて、必ず生徒に振り返らせる。

専門家としての中間(Peers as Experts)
・教室で使える最も優れたツールの一つは、生徒自身
・チームビルディングは、フィードバック、助言、知識の共有において仲間に頼るという学習概念を含んでいる
・生徒たちは多様な背景知識と未発掘のスキルを有しており、それらを活用することで、生産的な生徒主導の協働戦略を展開することができる
・生徒主導のワークショップは、進行役となる生徒と参加者の双方にとって、教科内容の理解を強化する機会となる。
「Huddle In / Huddle Out」プロトコル
・「Huddle In」は、教師の周りに半円を作って生徒が集まり、説明や指示を受けるための合図
 ・生徒が作業スペースから離れ、意識を集中させて話を聞く・質問するモードに切り替える
 ・「Huddle In」の時間は短く(12歳の生徒には12分というように)年齢に応じた時間制限が設定される
 ・「Huddle Out」と呼びかけられたら、その時間は終了し、生徒は個人作業やグループ活動へ戻る
生徒は誰でも、有益なワークショップのトピックを全体に向けて発表することができる。
例:「10分ほどで分数の足し算と引き算のワークショップを行います」
・ワークショップ終了後には、リーダーが参加者ごとに気づいたことや、さらにサポートが必要そうな生徒がいたかどうかを記入するフィードバックフォームを教師に提出することで、リーダーは仲間を助けると同時に、仲間の理解度を評価できる

Conferencing and Coaching(面談とコーチング)

・PBL教室の大きな利点の一つは、「形成的評価のための時間が確保できる」点
・教師が授業全体を通して講義しているわけではないため、観察し、傾聴し、タイムリーなフィードバックを提供する余裕がある
・教師の役割は「知識の伝達者」から「コーチ」へとシフトする。スポーツや舞台芸術におけるコーチと同様に、PBLの教師も生徒がグループで作業する様子を観察し、プロジェクトの進行中にコーチングを行う
・「試合の日」にあたる最終発表では、教師は舞台裏で生徒を支える「サイドラインのコーチ」である
・グループ作業時間は、あらゆる種類の形成的評価の絶好の機会
 ・生徒が「実社会に関係する目標」を中心に協働する中で、SELコンピテンシーを活用し、成長していく姿をリアルに観察できる
 ・教師はこの間に、ルーブリックやグループ契約、スクラムボードなどを用いて、生徒との個別面談やグループ会話を行い、振り返りの対話を展開することができる
 ・毎日何を達成したいかを事前に計画し、スプレッドシートやチェックリストを用いて、生徒ごと・グループごとの進捗を記録しておくことが望ましい
 ・これは生徒の成長を示すエビデンスになるだけでなく、次に教師がどう指導を調整するべきかを決めるための大切なデータにもなる

教師の観察
・教師のその日の役割を事前に知らせることで、生徒たちは集中し、準備を整え、生産的になる
・PBLに慣れてくると、生徒たちは観察中の教師の存在を意識しすぎることなく、プロジェクトタスクに集中するようになる
・教師の役割は「ヒーロー」になることではない。グループ内で生徒が困っているときに、すぐに助け舟を出すのではなく、自己管理(Self-Management)スキルを育むために、生徒自身に解決させるべき

教師自身の評価(Assessing the Teacher)

・生徒の声を聴くことで、生徒は「自分たちの意見が尊重されている」と感じ、尊重と自己主張の文化が育まれる
・生徒が教師や授業を評価する方法:「Tuning Protocol(調整プロトコル)」に基づいたGoogleフォームなどのアンケートを活用し、プロジェクトの終了時に「よかったこと(likes)」と「疑問に思ったこと(wonders)」を提出させる
・以下の質問を加えると効果的
 ・このプロジェクトを通じて、どのSELコンピテンシーが伸びたか?
 ・どうやって?
 ・そのコンピテンシーを伸ばすのに役立った活動やツールは何だったか?
 ・まだ取り組む必要があるSELコンピテンシーはどれか?
 ・それを伸ばすために、どんな戦略が役立ちそうか?

・「トーキング・サークル(話し合いの輪)」と組み合わせるのも効果的(書くことが得意な生徒もいれば、話すことで考えを整理する生徒もいるから)
・Exit Ticket(退出時のひと言メモ)や、普段の会話の中での問いかけなども有効
・評価において、最も過小評価されているスキルはListening(傾聴)
・生徒に教師であるあなたを評価させ、その意見に応答することで、教室において「フィードバックと改善」が当然の文化として根づく。その文化は教師自身にも適用される
・生徒たちは「間違えたら恥ずかしい」「失敗したくない」と感じなくなり、正答にこだわるのではなく、探究心・好奇心・深い学びへと意識が向かうようになる

計画(Planning)

・学習指導案に書かれていることこそが、実際に達成される。すべての生徒のSELニーズに偶然対応することなどなく、「教えること、実践させること、評価すること」を、意図的に計画する必要がある
・計画の第一歩は、SELの学習目標(Learning Targets)のリストを作成すること
・前年までの生徒の傾向や課題から想定し、5つの主要コンピテンシーごとに、学年末までに生徒に到達してほしいスキルを設定(年齢に適した表現を用いて、生徒が自分で理解できる言葉で書くことが重要)
・年間計画を立てる際には、5つのSELのコア・コンピテンシーすべてを取り上げられるように配慮し、各プロジェクトごとに異なるコンピテンシーに焦点を当てることが望ましい
・年間のスコープとシークエンス(展開順)において、それぞれのコンピテンシーがどの教科内容、探究テーマ、成果物、地域パートナーと親和性が高いかを検討する
・異なるSELスキル同士が、プロジェクトごとにどのように連続性を持って積み上がっていくかを考慮する必要がある
・学校が始まったら、生徒一人ひとりをよく理解しながら、自分の指導スタイルや進め方を調整していく
・各プロジェクトごとに、どのように1つのSELコンピテンシーを「教え」「練習させ」「評価する」かを計画するために、事前計画用のフォームを活用するとよい
・クラス全体としては、一度に一つの領域に重点を置く
・もちろん、日々の個別の関わりの中では、生徒が教室内で自然に示す行動に応じて、どのコンピテンシーでもコーチングすることが可能
pre-planning-form
・計画フォームでは、以下のことを検討する:
 ・教室でどのようにそのSELコンピテンシーを導入するか?
 ・どのようなチームビルディング活動、動画、寸劇を例として使うか?
 ・そのSELコンピテンシーに対するルーブリックをすでに持っているか?
 ・それともクラスで新たに作成するか?
 ・生徒の個別の進捗をどうやって追跡・報告するか?
 ・生徒同士による評価、自己評価をどのように行うか?

“私たちの心臓が規則正しく脈打つように、SEL評価もまた、教室でのあらゆる実践に一貫して組み込まれるべきである。”

・教師や仲間からのフィードバックに加え、週ごとの個別振り返りを通じて、SELの具体的なターゲットに対して継続的に取り組むことは、生徒の「自信」と「スキル」の大きな成長につながる。

Reflection Questions(振り返りのための問い)
・形成的評価をどのように活用して、生徒の学習プロセスを導くか?
・シナリオやビデオクリップをどう活用して、SELルーブリックを導入するか?
・生徒に対して、ピア評価や自己評価をどのように教えるか?
・どのプロトコルを教室文化の一部として取り入れ、形成的評価の手段としてどう活用するか?
・コーチングや面談を通じて、個々の生徒の強み・目標・ニーズにどのように深くアプローチするか?
・年間を通じて、すべてのSELコンピテンシーを意図的に「教え・練習させ・評価する」ためにどのような計画を立てるか?

ここまで。
第9章は、PBLを通した「SEL能力の評価」でした。
PBLにおいてリフレクションやアセスメントの重要性は重々理解していたつもりでしたが、改めて強く認識させられたとともに、具体的な方法論についても多くをいただけた内容でした。例えば、Quick Self Assessment Protocolで紹介されていた「Fist to Five」「Thumbs Up/Down」「Exit Ticket」「Turn and Talks」「3-2-1」はすぐにでも実践できる内容なので、授業でもどんどん活用してみたいと思います。その中でも、特に、「マシュマロ・チャレンジ」からのリフレクションの例は秀逸。これまで、どのようにPBLを通して社会情動的スキルを育むのかということについて第1章〜8章で色々学んできましたが、このポイントが1番イメージでき、その効果性を実感できたように思います。
また、「生徒に教師であるあなたを評価させ、その意見に応答することで、教室での”フィードバックと改善”が当然の文化として根づく」という意見にも強く頷きました。これは自然に実践はしていたものの、単に授業改善のためと思ってやっていたので、教室の文化づくりという視点を持ちつつ、今後も継続していきたいと思いました。
最後に、PBLでは、教師の役割のひとつとして「コーチ」があるというのはよく言われますが、本書での比喩がまた秀逸だと感じました。スポーツや演劇のコーチと同様に、生徒を観察しながら適宜改善のためのフィードバックを行い、コーチングしていく。最後の発表会は、いわば「試合」であり、その際は、コー外から見守る「サイドライン」のコーチとなる。
PBLが這い回る敬虔主義とならないように、リフレクションやアセスメントをしっかりと実践していくことが重要ですね。

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