ソフトスキルとエンプロイアビリティに関する論文をシステマティック・レビューを行った論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:まだなし (2025年6月8日時点))
Villegas, C. (2024). A SYSTEMATIC REVIEW OF RESEARCH ON SOFT SKILLS FOR EMPLOYABILITY. Advanced Education, 200-212.

「今日の厳しい経済環境では、学問的知識だけではもはや十分ではなく、学生は良いキャリア展望を得るためにエンプロイアビリティスキルを学ばなければならない」(Ibrahim and Mistree, 2017)
時代の流れとともに、エンプロイアビリティスキルにも変化が見られ、その中で特に注目されているのがソフトスキルです。
本論文は、エンプロイアビリティに繋がるソフトスキルに関する研究をシステマティックレビューした論文になります。昨年掲載されたばかりなので被引用数はまだありませんが、ソフトスキルは年々注目度が上がっているので、今後、たくさん引用されるように思います。
以下、簡単に内容をまとめます。

1. はじめに(ソフトスキルについて)
・ソフトスキルとは、対人交流を強化する個人的特性(Anggiani, 2017)
・ソフトスキルとは、特定の活動に明確に関連しているわけではないが、主に組織の他の従業員との相互作用に関わるため、どのような立場においても極めて重要であるすべての適性(Cimatti, 2016)
・ソフトスキルは仕事の成果の達成に大きな影響を与えるため、組織の成功と幸福にとって極めて重要(Seetha, 2014)
・ハードスキルとソフトスキルの両方が従業員のパフォーマンスに大きな影響を与える(Anggiani, 2017)
・ソフトスキルは、今日の労働市場で不可欠であり、個人のエンプロイアビリティを高めるためにも必要(Clarke, 2017; Crossman and Clarke, 2010)
雇用主は、学生が現代の労働市場に対して十分な準備をしていないとして高等教育を批判し、その責任を問うており、一貫して学生のソフトスキルの欠如を強調(Hurrell, 2015)
・企業の30%が特定のソフトスキルを持つ新卒者の採用は難しいと回答しており、ソフトスキルの不足は今に始まったことではないことがさらに明らかになっている(Tarallo, 2019)
・4社に1社の企業が、伝統的な教育機関では現代の雇用市場で競争するために必要なスキルを学生に身につけさせることはできないと考えている(McKinsey Global Institute, 2019)

リサーチ・クエスチョン
・RQ1. エンプロイアビリティのためのソフトスキルに関する研究の量、発展率、地理的分布にはどのような傾向があるか?
・RQ2. エンプロイアビリティのためのソフトスキル分野で最も影響力のある著者や出版物は何か?
・RQ3. エンプロイアビリティのためのソフトスキル研究の知的構造はどのように構成されているのか?

2. 方法及び分析
・Scopusデータベースから2010〜2023年の査読付き論文を条件に基づいて抽出(45本が対象)
・内訳:ジャーナル論文(35)、会議論文(6)、レビュー論文(3)、ショートサーベイ(1)
・論文発表数:2015年〜2021年までは増加傾向、その後、若干減少(Figure 2)
fig2

・論文の対象地:マレーシア(8)、スペイン(6)、イギリス(6)などが多い(Figure 3)
fig3

・研究論文の種類:「論文(Articles)」(77.8%)、「学会論文(Conference Papers)」(13.3%)、「レビュー(Review)」(6.7%)、「短報(Short survery)」(2.2%)
fig4


引用分析
・総被引用数は307
・どの文書も被引用数が比較的少ない→まだ広く影響を及ぼしていないことを示している
・上位10文書はすべてジャーナル論文
・非常に強力な影響力のある著者はいないが、被引用数はTable1の通り(RQ2)
table1

45文書の年間引用率(2023年7月まで)(Table 2)
・年を追うごとに被引用数が徐々に増加
・2023年の第2四半期は終わったばかりで、被引用回数はすでに106回に到達
table2

エンプロイアビリティのためのソフトスキル理論と研究の知的構造
・関連文献の中で、最も「共引用」されている13人の著者を、VOSviewerが2共引用を閾値として共引用マップを作成(Figure 5)
・文献は、互いに関連しながらも多様な4つの「学派(schools of thought)」が存在(Figure 4)
 ・「学生のソフトスキル育成」(赤):本テーマ内で最大の学派
 ・「卒業生に対する雇用主の期待」(緑)
 ・「就職市場で必要な主要なソフトスキル」(青)
 ・「エンプロイアビリティの測定」(中心):ソフトスキルとエンプロイアビリティに関する文献の概念的基盤
figure5
キーワード:45の論文からは、合計217のキーワードを抽出
・共起率が最も高い8語をFigure 6に示す
 ・higher education
 ・employability
 ・graduate employability
 ・employability skills
 ・Soft Skills
 ・labour market
 ・employment
 ・students
fig6

結果の解釈
・世界中でソフトスキルに関心を持つ研究者が増えている
・労働力のニーズが進化していることと、効果的で活気ある職場を育む上でソフトスキルが極めて重要であることが認識されていることに起因している
・Scopusのデータベースにおけるエンプロイアビリティのためのソフトスキルに関する文献は、ヨーロッパ諸国とアジア諸国に集中している
・エンプロイアビリティのためのソフトスキルに関する文献において最も影響力のある著者は以下の通り
Bennett(2016)、Clarke(2018)、Dacre and Sewell(2007)、Jackson(2017)、Mason et al.(2009)、Andrews and Higson(2008)、Azevedo et al.(2012)、Cranmer(2006)、Emery et al.(2012)、Jackling and De Lange(2009)、Shakir(2009)、Harvey(2001)
・特に、エンプロイアビリティの定義と測定に焦点を当てたHarvey(2001)の論文は、他の関連するエンプロイアビリティのためのソフトスキルに関する文献の土台の役割を果たしている
・エンプロイアビリティのためのソフトスキルに関する文献の「知的構造」として4つの学派が特定された
 ・学生のソフトスキル開発に集中してきた学者グループが、最大かつ最も影響力のある学派を構成
・高等教育におけるエンプロイアビリティの育成には、インターンシップなどの実践的な経験と起業家的思考やビジネス感覚を統合した多面的なアプローチが必要
・Bennett(2016)は、キャリア開発、メンターシップ、ポートフォリオ・キャリアを効果的に管理するために調整されたリソースを通じて、複雑な労働市場をナビゲートする卒業生のサポートの重要性を強調
・Masonら(2009)は、人的資本、社会資本、個人の属性、行動、エンプロイアビリティの認識、労働市場要因を含む、卒業生のエンプロイアビリティに関する包括的な枠組みの重要性を強調し、一般的なスキルに基づく学習成果からの転換を促している
・雇用主・卒業生双方が会計のテクニカルスキルの重要性を認める一方、雇用主は、技術的な会計スキルに加えて、チームでの協働、リーダーシップの潜在性、口頭でのコミュニケーション能力、対人スキルなどのより幅広いジェネリックスキル(汎用的スキル)を求めている(Jackling and De Lange, 2009)
・これらの分野は、卒業生が大学のプログラムで十分に扱われていなかったと感じているもの
・こうした研究は一貫して、実践経験、ソフトスキルトレーニング、リーダーシップ育成をカリキュラムに統合する必要性を強調しており、それによって競争の激しい労働市場に備えて学生を育成できるとする

結論
・エンプロイアビリティやキャリア準備とは、単純に定義したり、数値化したり、実践したりすることができない難しい概念である
・雇用主は現在、ソフトスキルを重視しており、効果的なコミュニケーション、チームワーク、問題解決能力、適応能力、感情的知性などに不可欠なソフトスキルを高等教育が卒業生に身につけさせることを期待している
・ソフトスキルは、技術的な知識を補完するものであり、卒業生が専門的な環境をうまく操り、同僚と協力し、キャリアで生じるさまざまな課題に対処するのに役立つため、職場で成功するために極めて重要
・実際の社会で必要とされていることと、私たちの教育システムとの間には、大きなギャップがある
大学は、インタラクティブな学習方法を取り入れ、プロジェクトにおけるチームワークやコラボレーションを促進し、インターンシップや実社会での体験の機会を提供し、コミュニケーションやリーダーシップのワークショップを提供し、ソフトスキルのトレーニングをカリキュラム全体に統合すべきである
・これらの方法は、学生のコミュニケーション能力、批判的思考力、柔軟性、感情的知性の成長と向上を助け、仕事で成功するための準備を整える
・ソフトスキルを確実にカリキュラムで教えるため、「シラバスのスキル化(skillfying the syllabus)」または「スキル化(skillification)」を推奨
・このアプローチは、学生に実践的な経験、問題解決の機会、チームワークの練習、業界に関連したプロジェクトに触れる機会を提供することで、即戦力となり、エンプロイアビリティを高めるのに役立つ
・Skillfiedのシラバスは、ソフトスキルやテクニカルコンピテンシーを含む実践的スキルをアカデミックなカリキュラムに統合することで、アカデミックな知識と実践的な専門知識の両方を兼ね備えた総合的なスキルを持つ卒業生を輩出することを目的としている

ここまで。
本論文はレビュー論文ですので、社会で求められるスキル、その中でもソフトスキル研究の全体観を掴みたいと思っていた自分にとって、クリーンヒットとなる論文でした。
ソフトスキルに関する研究は年々注目が高まっており、それは、論文数や論文の被引用数の観点からも明らかです。多くの企業は、従業員にもソフトスキルを求めるようになっていますが、企業から見た大卒者にはそれらが欠如していると思われています。これは、大学でソフトスキルを育む教育が十分できていないことの表れであり、筆者は、ソフトスキルを育成する要素をカリキュラムに組み込むべきであるとして、「skillfying the syllabus」と「Skillfication」が必要だと提言しています。
これには自分も強く賛成します。まだまだ知識伝達型のカリキュラム中心の大学が多いと思うので、この分野はもっとテコ入れが必要なのだと思います。

・skillfying the syllabus:従来の学問中心のシラバスに、実践的なスキルを組み込むこと
(例)
 ・法学の授業→法的知識+交渉力や倫理的判断力
 ・会計の授業→会計原則+チームワークやクライアントとの対話力
・Skillfication:教育制度・カリキュラムを、知識伝達だけでなく、スキルの習得を中心に再構成すること
(例)
・クリティカルシンキングやリーダーシップなどを正式な学習目標に加える

本論文で紹介されている影響力の高い論文も続いて読んでいこうと思います。

これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。