企業幹部が新入社員に求めるソフトスキルの重要性を明らかにし、そのトップ10を特定した論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:3,309件 (2025年6月8日時点))

Robles, M. M. (2012). Executive perceptions of the top 10 soft skills needed in today’s workplace. Business communication quarterly, 75(4), 453-465.

企業が新入社員に求めるソフトスキルは何か?また、その上位10個は何か?をエグゼクティブへのアンケートを通して調査した論文です。
上位10個を把握できたこともそうですが、ソフトスキルの定義について眺めることができたのも収穫でした。
いかにポイントをまとめます。

研究目的と問題提起(Purpose and Problem Statement)
本研究の目的は、企業が従業員に求める「重要なソフトスキル」を特定し、ビジネス教育者がそれらのスキルを大学のカリキュラムで育成できるようにすることで、卒業生の「エンプロイアビリティ(employability)」を高めること

・かつては「ハードスキル(技術的スキル)」だけが職業上必要とされていたが、今日の職場ではそれだけでは不十分であり、組織がリストラや人員整理を行う際にも、雇用を維持するにはソフトスキルが必要だという実態が示されている(James & James, 2004)
・生産性向上のためにソフトスキルは不可欠であるため、現役・次世代のビジネスリーダーはその開発を重視している(Nealy, 2005)
・技術的スキルが優れた教育カリキュラムの一部であるとしても、大学教育ではソフトスキルのさらなる重視が必要である。これは、学生がビジネスキャリアを始める前に、ソフトスキルの重要性を学ぶことが重要だからである(Wellington, 2005)
・長期的な職業成功の75%が「対人スキル(people skills)」に依存し、「技術的知識(technical knowledge)」は25%に過ぎない(Klaus, 2010)
・別の研究では、成功におけるハードスキルの寄与は15%で、残り85%はソフトスキルに依存していると報告されている(Watts & Watts, 2008, as cited in John, 2009)
・Wilhelm(2004)は、成熟していて社会的スキルに優れた人材を雇用したいと考える企業は、ソフトスキルを新卒採用時の最重要要素と評価

方法と手続き(Method and Procedures)
(第1フェーズ:2011年春学期)
・学生45名がビジネスエグゼクティブ2名にインタビューを実施(合計90名)
・インタビュー後、感謝状とともに教授からの評価アンケート(返信用封筒付き)を送付
・アンケート内容: 「学生のインタビュー時のパフォーマンス」「卒業生が学ぶべきトピック」「 新入社員に求められるソフトスキル上位10項目」
・アンケート回答数:49名(回答率54%)
・得られたスキル項目:517件(重複含む)
・重複を整理・分類し、26のソフトスキルに集約、頻出の10項目を抽出し、次の調査で使用

(第2フェーズ:2011年秋〜2012年春)
・学生:91名(3クラス)が  エグゼクティブ182名に調査票送付
・回答数:57名(回答率62.6%)
・調査内容:10のソフトスキル属性の重要度評価
・評価尺度:5段階リッカート(5=非常に重要、1=重要でない)
fig1

データの発見と分析(Data Findings and Analysis)
・Table 1:各ソフトスキルの重要度の回答頻度と割合
・Table 2:各ソフトスキルの重要度の平均値および標準偏差
・すべてのソフトスキルは、5点満点の尺度において平均値が4.12 以上
・いずれのソフトスキル属性も「重要でない(not important)」という評価は一切なかった
table1_2
1位:Integrity(誠実さ・真摯さ)
2位:Communication(コミュニケーション)
3位:Courtesy(礼儀正しさ)
4位:Responsibility(責任感)
5位:Interpersonal skills(対人スキル)
6位:Positive attitude(前向きな態度)
6位:Professionalism(プロ意識)
8位:Flexibility(柔軟性)
9位:Teamwork skills(チームワークスキル)
9位:Work ethic(勤労意欲)

ハードスキルおよびソフトスキルの定義
ハードスキルが特定の課題や活動におけるスキルセットと遂行能力に関するものであるのに対して、ソフトスキルは対人的であり、かつ広く応用可能なスキルである(Parsons, 2008)

(ハードスキル)
・一般的に hard skills という用語を用いる際には、Random House Dictionary によって定義されたスキルの意味、すなわち「知識、実践、適性に基づき何かを上手に行う能力; パフォーマンスにおける熟練した卓越性; および手作業の器用さまたは特殊な訓練を必要とする職業、技術、作業において、その人が能力と経験を有すること」を指す
・ハードスキルとは、履歴書に記載されるような成果、すなわち学歴、職歴、知識、専門性のレベルを含むものである。例:タイピング、文章作成、数学、読解、ソフトウェア使用スキル等(Investopedia, 2012)

(ソフトスキル)
一方で、本質的な soft skills の定義は、従来型のスキルの意味とは異なる。
・Collins English Dictionary によれば、「習得された知識に依存しない雇用形態にとって望ましい特性」と定義され、「常識、人との接し方、前向きで柔軟な態度」などが含まれる(http://dictionary.reference.com/browse/softskills)。
・ソフトスキルは、技術的な適性や知識ではなく、性格特性、態度、行動で構成される
・ソフトスキルとは、リーダー、ファシリテーター、仲裁者(mediator)、交渉者としての強みを決定づけるような、無形で技術に依存しない、個人特有のスキル
・ソフトスキルは、人との関係、仕事のパフォーマンス、将来のキャリア展望を高める性格特性(Parsons, 2008)
・ソフトスキルの最大の特徴は、職業に限定されるものではなく、その応用範囲が広いという点
・ソフトスキルは、日常生活や職場における実践的な適用を通じて継続的に発達する(Arkansas Department of Education, 2007;Magazine, 2003)

ソフトスキルはピープルスキル以上のものである
・ソフトスキルは、対人(ピープル)スキル個人的(キャリア)資質の組み合わせで構成
 Soft Skills = Interpersonal (Poeple) Skills + Personal (Career) Attributes

対人(ピープル)スキル
・多くの著者は、対人スキルとソフトスキルを同義として扱っているが(James & James, 2004;Perreault, 2004)、対人スキルはソフトスキルの一側面にすぎない
・対人スキルはソフトスキルの中核をなす要素(Cafasso, 1996;Klaus, 2010)
・対人スキルとは、他者との関係性を特徴づける対人属性
・対人スキルがあらゆる職務レベルにおいて最も重要なスキル(Sheikh, 2009;Smith, 2007)
・対人スキルは良好な顧客対応の基盤であり、カスタマーサービスにおけるスキルは、ほぼすべての職業における専門的成功にとって重要(Evenson, 1999;Zehr, 1998)
・対人スキルは、前向きな態度、効果的なコミュニケーション、敬意をもった相互作用、および困難な状況でも冷静さを保つ能力を促進する(Evenson, 1999)

個人的(キャリア)資質
・対人スキルに加えて、ソフトスキルには、個人的資質およびキャリア資質が含まれる(James & James, 2004;Nieragden, 2000;Perreault, 2004)
・個人的資質には、性格、好感度、時間管理能力、組織能力などが含まれる可能性がある(Parsons, 2008)
・キャリア資質には、コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップ、カスタマーサービスなどが含まれうる(James & James, 2004)
・コミュニケーションの欠如は、金融業界、医療、近年の広範な環境において発生した多くの悲劇や災害の要因となってきた(Jelphs, 2006)。

・企業は、あらゆるレベルでソフトスキルを備えた創造的な従業員を求めており(“Employers Value Communication,” 2004;John, 2009)、その中には協働、動機づけ、共感といった対人的資質が含まれている(Rodas, 2007;Klaus, 2010)
・企業のリーダーは、卒業生がワークエシック(勤勉さ)、言語および非言語のコミュニケーション、出勤態度、面接スキル、前向きな態度といったソフトスキルを持ち合わせていないことを嘆いている
・ある雇用主は次のように述べている。「時間通りに来て、よく働いて、学ぶ意欲のある人が欲しい」(Arkansas Department of Education, 2007, p.13)
・ビジネス教育者に、今日の職場において成功するために必要なソフトスキルに関する意見を尋ねたところ、Mitchellら(2010)は、倫理観および一般的なコミュニケーションスキルを非常に重要とみなしていることを発見し、57%が文章でのコミュニケーション、56%が時間管理と組織スキルを「非常に重要」と考えていることが明らかとなった
・ソフトスキルとは、多くの職種において転移可能なエンプロイアビリティスキル
・Cleary, Flynn, Thomasson(2006)は、一般的なエンプロイアビリティスキルを以下のように定義:
 ・基本/基礎的スキル:技術的能力、職務知識、実技能力
 ・概念的/思考スキル:計画、情報の収集・整理、問題解決
 ・ビジネススキル:イノベーションおよび起業力
 ・コミュニティスキル:市民的および市民権に関する知識
 ・ピープル関連スキル:対人資質(例:コミュニケーション、チームワーク)
 ・パーソナルスキル:責任感、創意工夫、自信などの特性

・上記の「ピープル関連スキル」と「パーソナルスキル(属性)」は、ソフトスキルの定義に適合
・ソフトスキルは「応用スキル」や「21世紀型スキル」(Gewertz, 2007)とも呼ばれることがある
・ソフトスキルは、私たちが「何を知っているか」以上に、「私たちが誰であるか」に関係する。すなわち、ソフトスキルは、他者との関わり方を決定づける性格特性を含み、多くの場合、個人の人格の明確な一部である。
・ハードスキルは学習と修練によって習得・向上させることができるのに対し、ソフトスキルは習得・変容がより困難である

今日の職場における重要性
・ソフトスキルは認知スキルと同じくらい重要(John, 2009; Zehr, 1998)
・ソフトスキルが欠如していることが、技術的能力や専門知識はあるが対人関係能力が欠けている者の有望なキャリアを潰すことがある(Klaus, 2010)
・Wellington(2005)は、自身の人事関連の管理職での経験に基づき、成功するためのソフトスキルを記述:昇進したマネージャーは、優れた技術的スキルとソフトスキルの両方を持っていたが、特に他者と前向きに協力して働く意欲と能力が重要であった
・「The research for the 21st century」によれば、潜在的な雇用主は、強い対人スキルを持つ応募者を雇いたいと考えている("Employers Value Communication," 2004; Glenn, 2008; Mitchell et al., 2010; Perreault, 2004; Sutton, 2002; Wilhelm, 2004)が、新卒者はその期待に応えられていない(National Union of Students, 2011)
・雇用主は、教育者が学生に職場で他者と協力し、顧客サービススキルを効果的に習得するよう教えるべきだと強調(Evenson, 1999)
・実際、ソフトスキルは非常に重要視されており、多くの職種や業界で、将来の雇用において最も重要で不可欠な要素として1位にランク付けされている(Sutton, 2002)
・対人スキルを持つ応募者を採用することは、組織が競争優位を維持する上で極めて重要(Glenn, 2008)
・ソフト・スキルは、技術的な職場において非常に重要であり(James & James, 2004)、ビジネス・プロフェッショナルは、雇用主が評価するこれらのスキルを必要としている(John, 2009)
・一部の資金がマネージャーに職場規則の順守や財務基礎の指導に充てられているにもかかわらず、ソフトスキルに対する関心はしばしば低い(White, 2005)
・多くの上級管理職は、ソフトスキル研修を、従業員のやる気を引き出すが、実際の職務申請や企業への貢献にはほとんど役に立たない、単なるモチベーションセミナーと見なしている(Onisk, 2011)
・一部では、建設、プログラミング、会計といった分野のハードスキルの方が、気難しい顧客への対応方法や効果的なチームメンバーとしての振る舞いといった知識よりも優先されると言われている(Evenson, 1999)
・対照的に、上級管理職がしばしば、新入社員にビジネス社会で成功するために必要な対人スキルが欠如していると不満を漏らしていると指摘(Klaus, 2010)
・ソフトスキルは、測定可能であり、成果として定量的に評価できるべきであり、その利益は最終的な収益に反映される(Onisk, 2011)
・ハードスキルは具体的で、定義され測定可能な教えられる能力である。それに対して、ソフトスキルはより抽象的で測定が困難である(Bronson, 2007)
・投資利益率(ROI)に対するソフトスキル研修の影響を測定することは、ハードスキル研修の影響を測定するよりも難しい(Georges, 1996; Redford, 2007)
・コミュニケーション研修、倫理、チームワークスキル、その他のソフトスキルの効果をROIで測定するのは非常に困難であるため、多くの企業の研修部門はソフトスキル研修の提供に消極的だが、Moad(1995)は、ソフトスキルのROIへの影響は、研修に費やしたコストを大きく上回ると指摘
・ハードスキルだけでは意味をなさない場合もある。たとえば、ソフトウェアテスターには、業務を遂行するための技術的スキルと、前向きな態度で業務に取り組むためのソフトスキルの2種類のスキルが必要である(soft skills; Magazine, 2003)。
・企業トレーナーは、他者の心理を読み取り、顧客を引き出し、人間関係を構築する方法を教える社内研修を導入しており、このようなスキル重視の幹部研修は、従業員の正式な教育の不足を補い、「人間性と個性を教育に融合させる」(Klaus, 2010, p.9)
・組織内でソフトスキルを促進するもう一つの方法は、新入社員を、20年から35年の業界経験を持つ専門家のメンターとペアにすること
・このメンター関係を通して、新入社員はメンターから、協力的に働く能力といった技術的スキルとソフトスキルの両方を学ぶ(Riley, 2006)。

Implications for Business Educators(ビジネス教育者への示唆)
(ソフトスキル欠如に対する懸念)
・アメリカの教育者や企業経営者は、多くの高校卒業生が大学や職場で成功するために必要なソフトスキルを身につけていないことに懸念を抱いている(Gewertz, 2007)
・Bronson(2007)によれば、米国企業経営者の70%が、高校卒業生にはプロフェッショナリズムや勤労倫理が欠けていると考えている
・Mangan(2007)は、雇用主が新入社員に最も期待するのは「対人スキル」であると述べているが、多くのビジネス学位取得者がその指導を受けていない

(ソフトスキルの定義と分類の困難性)
・ソフトスキルは定義づけや評価が困難であり、教育者にとって教えることも難しいとされている(Evenson, 1999)
・Klaus(2010)は、ハードスキルによって面接の機会は得られるが、仕事を得て維持するにはソフトスキルが必要であると述べている
・Magazine(2003)は、ソフトスキルの必要性が認識されているにもかかわらず、教育機関の多くがテクニカルスキルに重点を置き続けていると報告している

(評価と指導の工夫)
・米国およびイギリスの一部の学校では、電子ポートフォリオ、プロジェクト、生徒の自己内省を通じてソフトスキルの評価が行われ始めている(Mansell, 2006;Gewertz, 2007)
・たとえばサクラメントの高校では、「協働」や「口頭でのコミュニケーション」などのスキルが、数学の成績評価に部分的に含まれている

(教育現場での実践例と工夫)
・教員がソフトスキルを効果的に教えるための実践例(Rainsbury et al., 2002):
 1. ヒューマンスキルの明示的な導入
 2. 接客に必要な行動スキルの教授
 3. 実生活での問題を取り上げての議論
 4. ロールプレイの活用
また、ケーススタディは多様な学習スタイルに適応でき、ソフトスキルの育成に寄与する教授法とされている(Boyce et al., 2001)

(教員支援とカリキュラム設計への提言)
・教師がソフトスキル教育を効果的に実施するには、適切な訓練とリソースの提供が必要である(Kilday, 1996)
・Mitchell et al.(2010)は、対人スキルをビジネス教育カリキュラムに組み込む際には、教員向けの職能開発が必要であると提言している

(今後の課題)
・ソフトスキルは学習成果として測定が難しく、その教育的効果を評価する方法が限られている
・実際の教育現場では、カリキュラム設計や評価方法の面で依然として統一された基準が不足している
・教育効果が見えにくいため、教育関係者や管理者がソフトスキル教育の重要性を軽視する傾向も見られる

Summary
・研究によれば、ソフトスキルは、伝統的な職務要件(ハードスキル)と同様に、職務遂行能力の良好な指標であることが示唆されている
 ・ハードスキルとは、個人が持つ技術的能力および知識
 ・ソフトスキルとは、個人の特性や対人関係的な資質といった無形の要素

結論と提言
・本研究では、ビジネス幹部によって重要であると見なされたトップ10のソフトスキルが特定された
・ソフトスキルは今日の職場において極めて重要であり、投資と見なされるべき
・対人スキルが雇用者にとって重要であるにもかかわらず、多くの求職者および現職の従業員は、十分な対人スキルを持っていないため、ソフトスキルを高めるための研修を行う必要がある・ビジネス教育者は、自身の学生にとって対人スキルの重要性を理解し、ソフトスキルをカリキュラムに組み込む必要がある
・ソフトスキルとハードスキルは統合され、バランスの取れたビジネス系卒業生の育成に貢献すべき
ここまで。
何よりもまず、企業が求めるソフトスキルの上位10個を把握できたことが大きな学びでした。
1位:Integrity(誠実さ・真摯さ)
2位:Communication(コミュニケーション)
3位:Courtesy(礼儀正しさ)
4位:Responsibility(責任感)
5位:Interpersonal skills(対人スキル)
6位:Positive attitude(前向きな態度)
6位:Professionalism(プロ意識)
8位:Flexibility(柔軟性)
9位:Teamwork skills(チームワークスキル)
9位:Work ethic(勤労意欲)

1位のIntegrityを見た時、ドラッカーの書籍マネジメントを思い出しました。
「マネージャには真摯さという資質が必要:弱みでなく強みに目を向ける、誰が正しいかではなく、何が正しいかを見る、頭の良さではなく、真摯さを重視する、自分より優秀な部下を歓迎する、自らに高い基準を設定する」
実際のビジネスパーソンのアンケートでも、数あるソフトスキルの中でもIntegrityがトップという事実を見てなかなかに感慨深いものがありました。
企業でも教育でも、ソフトスキルの重要性は年々高まってきているようです。企業からの要請に応えるためにも、生徒や学生の将来の活躍のためにも、学校でもっとソフトスキルを育む機会が必要なんだと改めて感じました。

以下、メモ
・あとで読む:ソフトスキルの職場での重要性についての研究(Klaus, 2010; Maes, Weldy, & Icenogel, 1997; Mitchell et al., 2010; Nealy, 2005; Smith, 2007)。

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