複雑な意思決定を要するCDM(Complex Decision-Making)チームのパフォーマンスとメンタルヘルスを、チーム内省性(reflexivity)とチーム気風(team climate)という2つの要因で予測可能かを検証した論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:507件 (2025年6月27日時点))
Carter, S. M., & West, M. A. (1998). Reflexivity, effectiveness, and mental health in BBC-TV production teams. Small group research, 29(5), 583-601.

当論文は、BBCのテレビ制作チームを対象に、 「どんなチームがうまくいくのか?」を探った研究です。
結果として、 パフォーマンスが高いチームには「内省性(チームで振り返り・改善をする力)」が最も重要であり、 メンタルヘルスが良好なチームには「心理的安全性などの良い雰囲気(チーム気風)」が鍵であることが示唆されました。
以下、ポイントをまとめます。

仮説
1. チームの内省性(reflexivity)は、チームのパフォーマンスにおける分散の有意な割合を予測する
2. チームの内省性は、チームメンバーのメンタルヘルスにおける分散の有意な割合を予測する
3. ビジョン、参加的安全性(participative safety)、タスク志向性(task orientation)、およびイノベーションへの支援は、チームの効果性における分散の有意な割合を合わせて予測する
4. ビジョン、参加的安全性、タスク志向性、イノベーションへの支援は、チームメンバーのメンタルヘルスにおける分散の有意な割合を合わせて予測する

研究対象・期間
・対象:BBCの27チーム(主にテレビ番組制作チーム)、最終的に19チーム・89件の回答を分析
・調査期間:18か月
※BBCのテレビ番組制作チームは、CDMに当てはまると言われています
【複雑な意思決定を要する:CDM(Complex Decision-Making)チームの7つの基準】(West, 1996)
1. 不確実で予測不可能な環境で活動している
2. 不確実で予測不可能な技術を扱っている
3. 業務を日々どう遂行すべきかが明確でない
4. チームに与えられる自律性と管理権限が比較的高い
5. 遂行すべき業務は複雑である
6. 有効性には複数の構成要素がある
7. 有効性は多様な基準で判断されうる

方法
合計で27チーム、119名(チームサイズは2名から13名まで)に質問紙調査を依頼

質問紙の内容
参加者に送付された質問紙には、以下の内容が含まれていた
・バイオグラフィカルデータ(性別、年齢、学歴、職位、勤務年数、組織内での在職期間、継続教育部門および現在の番組での勤務期間など)
・パフォーマンス:視聴者好感度(AI:Audience Appreciation Index)+マネージャー評価(9指標)
・メンタルヘルス:以下の3種類の尺度が用いられている
 ・ Job-Related Feelings(Warr, 1990):16項目
  ・Job Competence(仕事能力)に関する項目:6問
  ・Job Aspirations(仕事への意欲)に関する項目:6問
  ・Negative Job Carryover(仕事の悪影響)に関する項目:4問
 ・General Health Questionnaire (GHQ: Banks et al., 1980)
  ・一般的な精神的健康状態を測定
 ・職務関連メンタルヘルス指標(Wall et al., 1997)
・チーム内省性(Team Reflexivity Scale):新たに開発された16項目の尺度
 ・チームの目標・戦略・プロセスに関する継続的な見直しの程度
 ・環境変化への適応力
 ・コンフリクト(対立)の対処
 ・社会的サポートの確認
 ・メンバーのウェルビーイングや成長促進
・チーム気風(Team Climate Inventory)(Anderson & West, 1994)
 ・Vision(ビジョン):チームの目的や方向性の明確さ
 ・Participative Safety(参加的安全):安心して意見を言える環境
 ・Task Orientation(課題志向):高いパフォーマンスを目指す姿勢
 ・Support for Innovation(イノベーション支援):新しいアイデアや方法への支援

結果
・24チームの70人の個人が質問票に記入し、返送(回答率:57%)
・13人は2つの異なるチームに関する質問票に記入し、2人は3つの異なるチームに関する質問票に記入
・合計89の質問票が返送され、すべてが個人レベルの分析に含まれた
・チームレベルの分析対象基準:チームサイズが3人以上&メンバーの50%以上が回答
 →19のチームのデータがチームレベルの分析に使用された

リフレクティビティ尺度の心理測定特性
・因子分析の結果、2因子構造を特定
 ・因子1:社会的リフレクティビティ
 ・因子2:課題リフレクティビティ
table1

・記述統計と心理測定特性まとめ(Table 2)
 ・信頼性:クロンバックのαは.78〜.94の範囲で高い
 ・チーム内の認識(RWG(J))(James, Demaree, and Wolf, 1984)も0.7以上と高く、チームレベルでの集計が妥当
 ・F値は一部の変数で高く、チーム間で差があることを示唆
table2

・変数間の相関関係(Table 3)
 ・チーム機能同士の強い正の相関:多くのチーム関連変数間に強い正の相関
  ・Task Orientation と Team Objectives(r = .85、p < .01)
  ・Task Reflexivity と Task Orientation(r = .71、p < .01)
  ・Participation と Social Functioning(r = .88、p < .01)
  →効果的なチーム気風の要素は互いに連動して高くなる傾向
 ・メンタルヘルスとの関連:一般的なウェルビーイング(GHQ)は逆相関(GHQは逆尺度)
  ・Task Orientation と GHQ(r = -0.82、p < .01)
  ・Affective Well-Being と GHQ(r = -0.81、p < .01)
  →チームの良好な気風や内省性は、メンタルヘルスの良好さ(低いGHQスコア)と関連
 ・マネージャーの評価や視聴者の評価との相関は弱い
  ・Audience Appreciation(視聴者評価)や Managers' Ratings(マネージャー評価)との相関は、ほとんどの変数で弱いまたは非有意
   ・Team Objectives と Audience Appreciation(r = 0.28、非有意)
   ・Task Orientation と Managers' Ratings(r = 0.34、非有意)
   →チーム内部の認識と外部からの評価との関連は弱いことを示唆
table3

独立変数間の相関関係(チーム気風・内省性)
・4つのチーム気風要因(例:目的意識、課題志向、革新支援)はすべて正の有意な相関を示し、相関係数は .59〜.85 の範囲
 ・課題志向と課題内省性の相関は .82(非常に高い)
 ・課題内省性と社会的内省性も有意な相関(.53)
 ・これらの結果は、共通の基盤的要因(例:フィードバック志向)を共有している可能性を示唆
・チーム構造的要因との関係
 ・チームサイズが大きいほど、以下の傾向が見られた
  ・参加度が低下(−.69)
  ・目的の不明確さ(−.54)
  ・革新支援が低い(−.55)
  ・卓越志向の低下(−.56)
 ・契約職員は正職員よりも「参加」および「革新支援」が有意に低い
・従属変数間の相関関係(精神的健康・番組評価)
 ・3つの精神的健康尺度(例:職務感情、情動的ウェルビーイング、GHQ)間には、高い正の相関
 ・番組の観客評価と管理者評価には相関がほとんど見られず(−.07)
  ・娯楽性や教育価値など一部項目を抽出しても、弱い正の相関(.29)に留まり、有意性なし
・独立変数と従属変数の相関関係
 ・職務感情はすべての気風尺度と正の相関を示すが、有意だったのは「チームの目的」のみ(.54)
 ・情動的ウェルビーイングは、「革新支援」以外のすべての気風要因・両内省性尺度と有意な正の相関
 ・一般的ウェルビーイング(GHQ)は、全ての気風・内省性尺度と有意な負の相関
  ・※GHQはスコアが高いほど状態が悪いため、逆方向の相関が好ましい
・回帰分析の結果(仮説検証)
 ・重回帰分析により仮説を検証
  ・ステップ1:チームサイズ → ステップ2:気風 → ステップ3:内省性の順で投入
table4
・主な結果
 ・チームのパフォーマンス(番組評価)に最も影響したのは:
  ・内省性(約50%の分散を説明)→ 第1仮説を支持
  ・チームサイズ:約25%
  ・気風要因:約9% → 第3仮説を否定
 ・精神的健康に最も影響したのは:
  ・気風要因(約40〜45%の分散を説明)→ 第4仮説を支持
  ・チームサイズ:4〜20%
  ・内省性:約4% → 第2仮説を否定
 ・総合的示唆
  ・チームの内省性はパフォーマンスに大きく影響
  ・一方、チーム気風はメンタルヘルスを左右する主要因で、ウェルビーイングと組織文化の関係性を示唆

主な発見
・チーム内省性(Team Reflexivity)は、チームの有効性(観客の反応・マネージャー評価)を最も良く予測
・チーム気風(Team Climate)や構造的要因(チームサイズなど)よりも影響が大きかった
 → 第1仮説が支持された
・一方、チーム内省性はメンタルヘルスを有意に予測しなかった
 → 第2仮説は否定された
・チーム気風はチームの有効性を予測しなかった
 → 第3仮説も否定
・チーム気風はメンバーのメンタルヘルスに影響していた
 → 第4仮説は支持された

理論的・実務的示唆
・高いチーム内省性はパフォーマンス向上に貢献
 ・創造的な成果が求められるチームには、内省的な活動(目標や戦略の見直し、環境への適応など)を促すことが有効
 ・チーム気風モデルをパフォーマンス予測にそのまま用いるのは不適切な可能性あり
・チーム気風はメンタルヘルスの維持に重要
 ・良好なビジョンや参加的安全性は、メンバーの精神的健康を支える

制約と今後の課題
・本研究は横断的・小規模な調査であり、因果関係は不明
 ・より適応的な人が良い気風を作っている可能性もあり
・チームサイズの問題
 ・チームサイズが大きくなると(10人超)、気風・メンタルヘルスに悪影響を及ぼす傾向がある
 ・他の分野(例:プライマリケアチーム)でも同様の傾向が確認されている

ここまで。
チームの内省に関する尺度を調べたくて読んだ論文でしたが、それ以外にも色々と面白い発見がありました。
まず、4つの仮説に対する結論をまとめます。
1. チームの内省性(reflexivity)は、チームのパフォーマンスにおける分散の有意な割合を予測する
→支持:チームパフォーマンスの約50%の分散をチームの内省性が説明

2. チームの内省性は、チームメンバーのメンタルヘルスにおける分散の有意な割合を予測する
→支持されなかった:分散のわずか4%

3. ビジョン、参加的安全性(participative safety)、タスク志向性(task orientation)、およびイノベーションへの支援は、チームの効果性における分散の有意な割合を合わせて予測する
→支持されなかった:どれも有意に予測しなかった

4. ビジョン、参加的安全性、タスク志向性、イノベーションへの支援は、チームメンバーのメンタルヘルスにおける分散の有意な割合を合わせて予測する
→支持:チームの気風は、メンタルヘルスに対して40〜45%の分散を説明(最も強力な予測因子)

今回の研究対象となったBBCのテレビ制作チーム(複雑な意思決定を要する:CDM)では、チームの生産性に最も強く影響を与えていたのが、チームの気風(心理的安全性含む)ではなく、チームの内省性だったということに驚きました。心理的安全性が、チームの生産性を高めるために最も重要だというのが一般的な言説(Googleのプロジェクトアリストテレスで有名になりましたね)だと思いますが、当論文ではこれとは異なる結果となっていました。
でもよくよく考えると、この結果は、企業研修の仕事をしている際に感じる感覚と近いように思います。1日に4,5個のプロジェクトを通して学ぶPBL型の研修のファシリテーションをよく行うのですが、多くのプロジェクトを達成できるチームは、心理的安全性が高いチームというよりも(これも大事ですが)、プロジェクト終了後、チームで深い内省ができていて、次のプロジェクトに向けて着実に改善ができているチームという印象が強いからです。
また、「複雑な意思決定を要する:CDM(Complex Decision-Making)チーム」を対象としている点も興味深っかったです。VUCAと呼ばれる時代。これから仕事上でより多くの複雑な意思決定が求められるようになっていくのだと思います。そう考えると、職場においてチームで内省する、このトレーニングをしていくことがより重要となっていくのだと思いました。

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