人材開発(Human Resource Development: HRD)の「Development」という概念を体系的に整理し、4つの類型を提案している論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:101件(2025年12月21日時点)) 
Garavan, T. N., McGuire, D., & Lee, M. (2015). Reclaiming the “D” in HRD: A typology of development conceptualizations, antecedents, and outcomes. Human Resource Development Review, 14(4), 359-388.

Human Resource Developmentの「Development」とは何か?
Developmentという言葉・概念は、心理学、経営学、組織論など、多様な分野で学際的に用いられるようになった一方、意味がバラバラで曖昧になっているという問題点があります。
筆者らは、この点に着目し、"Development"に関する広範な文献を整理し、「類型論(typology)」 を提示し、各タイプに対応する理論・先行要因・成果を整理しています。
これがタイトルにある「 HRD におけるD(Development)の再構築」の意味です。

2. 方法
・1964〜2015年の文献から、 business, management, adult education, HRM, HRD, psychology, organizational behavior などを対象に検索。
・156本の文献から、次の基準で採択: development 概念そのものを扱う(training や learning だけではない) 個人・チーム・組織・社会など複数レベルを含む 査読誌または専門ハンドブック 発達の前提・相関・成果を扱う 分析には constant comparative method(継続比較法) を用い、 文献間の類似点・相違点を比較しながら、最終的に 4つの発達タイプを抽出

3. 類型論の基本枠組み
著者は、発達概念の多様な使われ方の背後にある 2つの上位次元を設定しています。
・プロセス次元:計画された発達(planned)vs 偶発的な発達(emergent)
・構造次元:独立的単位内で進行(個人レベル中心)vs相互依存的単位内で進行(チーム・組織・社会等)
上記の2軸の組み合わせから、4タイプの分類が導出されています。
①Acquisitive Development(取得志向型)
②Autonomous Development(自律的発達)
③Dialogic Development(対話的発達)
④Networked Development(ネットワーク型発達)
fig1

Developmentの定義:複数の軌道に沿って生起し、複数レベル(個人〜社会)で展開し、肯定的成果に至る展開的成長過程

4つの発達タイプの概要
4タイプをまとめた表がありましたので、日本語訳しました。
table1

Acquisitive Development(取得志向型)
・位置づけ:計画的 × 個人内(独立)
・定義
 ・個人が新たな知識・スキル・行動を獲得し、自身や組織の「資源」を増やすことに焦点を当てた発達
 ・典型的にはプロフェッショナル・ディベロップメント、能力開発、戦略的HRDで扱われる
・理論的基盤
 ・認知発達理論、熟達化理論、行動主義、スキル獲得理論、社会的学習理論
 ・Kolbの経験学習、Piagetの調節・同化、PBL(PjBL&PbBL)、Schönのreflection、Mezirowの変容学習等
・先行要因(例)
 ・個人:自己効力感、学習動機づけ、組織コミットメント、職務満足、キャリア満足
 ・職務:責任・裁量、フィードバック、挑戦的タスク、学習機会
 ・組織:支援的な気候(上司・同僚の支援)、時間・資源、発達機会へのアクセス
・成果
 ・専門性・熟達化、職務・役割パフォーマンスの向上
 ・コンピテンシー、自己信頼感、キャリア進展
 ・結果として組織パフォーマンス向上に結びつく可能性

Autonomous Development(自律的発達)
・位置づけ:偶発的 × 個人内(独立)
・定義
 ・個人自身が「自らの成長の作者」として、 自分の人生目標・価値・興味に沿って行う発達
 ・仕事や組織への貢献よりも、「個人としてどう成長するか」に焦点
・理論的基盤
 ・人間性心理学:自己主導型学習、アンドラゴジー、変容学習
 ・人生発達理論、心理社会的発達、ライフストラクチャー/ライフトランジション理論
 ・自己決定理論(内発的動機づけ、自己調整、普遍的心理欲求)
・先行要因
 ・人生の願望・目標、内発的/外発的志向
 ・批判的省察能力(Mezirow)、自己調整学習能力
 ・マインドフルネス、内面への気づきと開かれた関心
・成果
 ・持続的な目標志向行動、自己主導的・自律的な発達への関与意図
 ・「自分の価値・興味と整合的な成果」(self-concordant outcomes)
 ・内発的に動機づけられた自己改善

Dialogic Development(対話的発達)
・位置づけ:偶発的 × 相互依存
・定義
 ・個人と文脈が絡み合い、 対話・協働・意味の共創 を通じて生じる発達
 ・発達は常に「特定の文脈」に埋め込まれ、 実践共同体や社会的相互作用の中で進行
・理論的基盤
 ・解釈的アプローチ・社会構成主義
 ・状況的学習、実践共同体(Wenger)
 ・社会文化的理論、複雑性理論、文化歴史活動理論(活動システムの矛盾と拡張学習)
 ・アクターネットワーク理論(人とモノを含むネットワーク)
・先行要因
 ・リーダーの傾聴・尊重・発言促進などの態度
 ・コラボレーション、知識共有、従業員参加、組織学習
 ・参与(participation)としての行為・関係性・実践への関わり
 ・社会的相互作用、サポート、内省能力
・成果
 ・アイデンティティ形成(「どんなリーダー/メンバーとして生きるか」をめぐる自己像の変化)
 ・組織との境界が揺らぐ経験、重層的で矛盾を含んだ自己の構築
 ・ただしパフォーマンス成果との関係は実証研究が少なく、まだ不明瞭

Networked Development(ネットワーク型発達)
・位置づけ:計画的 × 相互依存
・定義
 ・チーム・組織・組織間ネットワークなど、 相互依存的な単位 において計画的に設計される発達プロセス
 ・「組織有効性・イノベーション・業績向上」のためのシステム志向・チーム志向の発達
・理論的基盤
 ・チーム発達理論、社会的比較理論、社会的アイデンティティ理論
 ・組織学習、単一ループ/二重ループ学習
 ・探索/活用理論(exploration & exploitation) オープンシステム理論、アクションリサーチ、システム志向HRD
・先行要因
 ・マクロ環境:社会的・制度的文脈
 ・組織内部:戦略的意図・ビジョン、変革型リーダーシップ、 学習文化、信頼・ネットワーク・リスクテーキング、分散型構造
 ・HRD 実践:協働・柔軟性・チームワークを促す制度、 吸収能力(知識取得・統合・実験への投資)
・成果
 ・組織パフォーマンス、イノベーション、財務パフォーマンスとの関連が示唆されるが、プロセス〜成果のメカニズムについては体系的研究が不足

ここまで。
これまで何気なく使用してたDevelopmentという概念。まさかこれほど奥が深く複雑だったとは。
Developmentという概念には、その裏に非常に広域に渡る理論的基盤や先行要因、それに繋がる成果がある。人材開発・組織開発に関わる身として、全体を俯瞰でき、4分類のフレームワークを頭に入れれたことはとても大きな収穫だったように思います。
「誰(何)を対象に」「何を開発するのか」そして、その打ち手として「どのような施策が適切か」
この組み合わせを適切に実施するにあたり、当論文のフレームワークはかなり役立つと感じました。
そして、組織においては、おそらく取得志向型の開発施策が最も多く、アイデンティティの再構築といった自律的・対話的な施策や、チーム、組織を対象としたネットワーク型発達はまだまだ少ない気がします。
HRDは、単なる施策設計や研修運営としてではなく、Developmentという複雑で長期的なプロセスに伴走する専門家である。自分もその一人として、人や組織の状態を適切に診断・把握し、その問題を解決するための打ち手を効果的に実施できるようもっとスキルアップしたいと改めて感じました。

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