社会情動的学習(SEL)を単なるプログラムを超えて、学校・家庭・地域・政策を含む教育システム全体で実装する「Systemic SEL」モデルとして整理した論文をレビューします。
論文はこちら(被引用数:1,066件 (2026年4月11日時点))
Mahoney, J. L., et al. (2021). Systemic social and emotional learning: Promoting educational success for all preschool to high school students. American Psychologist, 76(7), 1128.
社会情動的スキル(Social and Emotional Skills)やそれを育むための社会情動的学習(Social and Emotional Learning)への注目が年々高まり、研究も蓄積されてきています。
一方、実際の教育現場においては、断片的な導入にとどまることが多く、著者らはこの点を課題として捉え、教育システムである「Systemic SEL」に発展させることを提案しています。
Systemic SELとは、幼稚園前(Pre-K)から高校卒業までのすべての児童生徒が、社会的・情動的・学業的コンピテンシーを学び、実践することに積極的に関与する公平な学習条件を創出するためのアプローチのこと。これらを実現するためには、州および学区レベルにおいて整合的な政策、資源、行動が必要であり、その発展プロセスが以下のFigure 1に描かれています。

まず、左のスタート地点であるHowの部分。重点領域として以下の4点が挙げられています。
①基盤的支援の構築と計画 :SELチームの設置、広範な関係者の参加、認識の醸成、共有ビジョンの形成を通じて実施する。
②大人のSELコンピテンシーと能力の強化:大人自身がSELに取り組み、信頼関係を築き、協働するコミュニティを育成することによって、学校全体でSELを促進し一貫してモデル化する。
③生徒のためのSELの推進:学校、教室、家庭、地域社会にわたる協調的アプローチを構築することによって実施する。
④継続的改善の実践:実施および成果に関するデータを継続的に収集・活用するプロセスを確立し、意思決定と改善を推進する。
真ん中のWHAT & WHEREでは、CASLEの社会情動的スキルのフレームワーク(自己認識、社会に対する認識、自己管理、関係構築、責任ある意思決定)が中心にあり、その外側にそれらを育む環境として(教室→学校→家庭→地域)が描かれています。これらが、社会情動的スキルを育成し持続させるための「場(settings)」として機能するわけです。これらの場において効果的に社会情動的スキルを促進する要素として以下のような「関係性を重視した学習環境」(CASEL, 2020b; Durlak et al., 2010)が紹介されています。
(a) 生徒、教職員、保護者、地域住民の間の信頼関係
(b) 生徒が理解され、尊重され、安全に学べると感じる、配慮的で文化的に応答的なコミュニティ
(c) 人種、文化、民族、社会階層、宗教、ジェンダー、性的指向、能力などの多様性に対する公平性、公正性、尊重を、大人が励まし支援し、効果的にモデル化すること
(d) 学習への関与を促進し、問題行動や不安を減らすための期待と実践の一貫性
(e) 新しい学習内容を生徒の生活、背景、既有知識と結びつけることで、生徒の動機づけを高める大人の支援
(f) 生徒が挑戦的で能動的な学習に取り組み、スキルを練習する機会
(g) ルールや規範の形成、学習内容の選択、リーダーシップの機会において生徒の声を反映させる定期的な機会
(h) 個人の独自性を尊重しつつ、積極的参加を促す雰囲気の中で生徒が自分の考えや感情を表現する機会
(i) 排除や罰に基づく対応ではなく、問題行動が発達上のニーズを反映していることを認識し、学習とスキル発達の機会を提供する修復的アプローチ
最後に、右側のWhy(なぜ実施するのか)では、SELを実施した先にあるアウトカムが書かれています。
短期的成果
・自分自身・他者・課題に対する態度の改善
・教室および学校風土の認知の向上
中期的成果
・社会的行動および人間関係の向上
・学業達成の向上
・問題行動の減少
・情動的ストレスの減少
・薬物使用の減少
長期的成果(Long-Term)
・高校卒業率の向上
・大学・キャリア準備の向上
・安全な性行動
・健全な人間関係
・メンタルヘルスの改善
・犯罪行動の減少
・市民的参加の増加
また、上記のSystemic SELに発展させていくプロセスにおいては、2つのレベルの環境があり、それらを統合する必要があると言われています。
・近接環境(proximal settings)(教室、学校、家庭、地域)※図1の通り
・遠隔環境(distal settings)(学区、州、国家、国際社会)
以下、各環境におけるポイントをメモします。まずは、近接環境の4つから。
教室
・SELは、生徒と教師の間、またクラスメイト同士の間の肯定的で思いやりのある関係によって特徴づけられる、育成的で安全な環境において最も効果的に実施される
・このような環境を創出できるかどうかは、大人が強いSELスキルと文化的能力を持っているかどうかに依存する(Delpit, 2006; Jennings, Minnici, Yoder, 2019)
・教師の社会情動的発達を支援する専門職研修を通じて、教職員がこれらのスキルを発達させるための定期的な機会が提供されなければならない(Greenberg & Weissberg, 2018; Jennings et al., 2019)
・生徒の深い学習は、教師が生徒に対する理解度に依存する(Darling-Hammond et al., 2019)
・効果的なSELは、生徒が理解され、尊重され、評価され、安全に学べると感じる思いやりのある文化的に応答的な学習コミュニティの構築を重視する。 これらの条件が体系的に整備されるほど、公平な学習機会の基盤は強化される(Gregory & Fergus, 2017; Jagers, Rivas-Drake, & Williams, 2019)。
・生徒が教育プロセスにおけるパートナーとして認識され、SELプログラムの開発および改善を含め、発言権を持つことが重要
学校
・教室の教師や校長だけでなく、教師補助員、専門職スタッフ、カウンセラー、心理士、ソーシャルワーカー、食堂職員、用務員、警備員、事務職員など、学校のすべての職員がSEL発達の重要なモデルおよび支援者となり得る
・学校全体での支持を得るためには、専門職開発を含む包括的アプローチが必要であり、学校コミュニティのすべての構成員によって共有される一貫した実践、メッセージ、共通言語を確立する必要がある(Meyers, Domitrovich, Dissi, Trejo, & Greenberg, 2019)
・学校全体のSELプログラムを継続的に改善するためには、教職員が生徒データ(SEC、行動、学業、エンゲージメント、学校風土など)および実施データを定期的に振り返る機会を持つ必要がある(Bryk, Gomez, Grunow, & LeMahieu, 2015)
・学校全体でのシステミックSELの10の主要指標(CASEL, 2020b)も要チェック
・SELプログラムの成功した実施に関する研究は、学校リーダーシップ(管理職)が成功の最も重要な要因である可能性を示している(CASEL, 2020b; Devaney et al., 2006)
家庭
・保護者は子どもにとって最初の教師であり、SELは家庭から始まるため、家庭は極めて重要
・強固な学校と家庭のパートナーシップは重要(Epstein, 2018; Patrikakou, Weissberg, Redding, & Walberg, 2005)
・保護者と学校がビジョン、目標、責任を共有する調整されたアプローチを伴うことで、子どもはさまざまな環境から一貫したメッセージを受け取り、複数の文脈において繰り返し強化されるSELスキルを実践することができる(Albright & Weissberg, 2010)
・このパートナーシップは、学業成績の向上、精神的健康の改善、生徒エンゲージメントの向上、退学率の低下などの成果と関連(Christenson & Reschly, 2010; Garbacz et al., 2015; Sheridan et al., 2019)
・保護者を関与させるためには、学校環境が家庭にとって歓迎的であることが重要
・保護者はSELの計画、意思決定、実施において発言する機会を持つ必要
・生徒が家庭で家族と共にスキルを実践する機会を意図的に設計することも可能
地域社会
・地域社会とは、学校の周囲に存在し、若者と関係を築き、彼らのSECを支援する個人および組織
・多くの研究は、学校外の組織的活動や地域ベースの活動がSELを促進し、若者に利益をもたらすことを示している(Devaney & Moroney, 2018; Durlak et al., 2010; Smith et al., 2016; Mahoney, Vandell, Simpkins, & Zarrett, 2009)
・サービスラーニング、参加型アクションリサーチ、プロジェクト型学習などは、地域社会と連携したプログラムの例(Celio, Durlak, & Dymnicki, 2011; Elias et al., 2015; Jagers et al., 2019)
・これらの機会により、生徒は自分にとって意味のある「現実世界」でSELスキルを活用し一般化することができる
・ホームレス支援、高齢者支援、特別なニーズを持つ子どもへの支援、メンタリング、家庭教師活動、地域清掃活動などの活動は、生徒が教室外の多様な経験や背景を持つ仲間とともにSELスキルを実践する機会を提供する
次に遠隔環境(学区、州、国家、国際社会)。
学区
・SELは学区のすべての活動に統合されるべき(CASELのCollaborating District Initiative, 2017b)
・教育委員会、中央事務局職員、学区レベルの政策および手続きなどから構成(Mart, Weissberg, & Kendziora, 2015)
・戦略計画、予算、人事、専門職研修、日常業務などにSELを組み込む必要
・学区の管理者がSELプログラムの制度化を全面的に支援する必要(CASEL, 2017b)
・学区レベルの成果例(ポジティブな学校風土、SELへの組織的コミットメント、SELに関する役割と責任の明確化)
州
・州レベルの教育部門、教育委員会、知事、立法機関などの関与も重要
・州レベルの政策、ガイドライン、実践は、学区および学校がシステミックSELを実施するための条件を整備し、SELを州全体の優先事項として位置づけることを可能にする
・CASELは2016年にCollaborating States Initiative(CSI)を開始し、州教育機関が、学区レベルの教育者が統合的で公平性に焦点を当てたSELを推進できる州レベルの条件を整備することを支援している(Collaborating States Initiative, 2018)
・これらの州は、州レベルのSELビジョンを共有し、資金構造やコミュニケーション戦略を構築し、基準やガイドラインを策定し、学区および学校における実施戦略を特定し、州および連邦の要件にSELプログラムを整合させている
国家
・連邦および州レベルの政策は、国家レベルでのSEL機会を提供する(National Commission on Social, Emotional, & Academic Development, 2018; Weissberg & Cascarino, 2013)
・議会はSELに対する1億2300万ドルの連邦資金を承認し、米国教育省はCenter to Improve SEL and School Safetyを設立(Yoder et al., 2020)。
世界
・SELに対するグローバルな視点は、国際協力を通じて世界中の子どもや若者の生活機会を改善する教育システムや戦略を開発できることを示す(Cefai, Bartolo, Cavioni, & Downes, 2018; OECD, 2018; Torrente, Alimchandani, & Aber, 2015)
・特に低・中所得国における子どもおよび大人のSECの発達と評価は重要(Smart et al., 2019; The World Bank, 2020)
・技術の進展によりSELに関する知識や資源を世界規模で迅速に共有することが可能になり、学校、学区、大学、社会サービスの間での地域・国家・国際レベルの連携が一般的な支援となっている
最後に、以下のような研究や実践が今後より重要となると述べられていました。
・SELを単なる教育プログラムではなく、教育システム全体の変革(公衆衛生的枠組み)とした研究
・RCT、準実験研究、既存データの活用、質的研究などを組み合わせたマルチメソッド研究
・学校や学区レベルで、エビデンスに基づくプログラム・政策・実践を組み合わせ、家庭や地域と連携した包括的アプローチの効果を検証する研究
・教育の公平性を高めるためには、十分な資源と明確なロジックモデルを用い、どの学業的・社会的・情動的成果が影響を受けるのかを明確にする
・特定の子どもや集団が機会にアクセスできるようにする公平な学習環境を生み出すプログラムや実践を特定する研究
・普遍的SEL(Universal SEL)と、より強い支援を必要とする子ども向けサービス(指示的・治療的支援)を統合する方法の研究
・教師や学校管理職など教育者に対するSELプログラムや組織変革の効果(養成段階・現職段階)を検証する研究
・連邦・州の政策が、地域レベルでのSEL実施の質や生徒の発達成果にどのような影響を与えるかを検討する研究
・SELのシステム変革を進めるためには、研究者・教育者・政策立案者の協働による包括的SELプログラムの設計と検証
ここまで。
社会情動的スキルを高めるための学習機会(SEL)をプログラム単位からより広域な教育システムとして捉えた内容は、授業単位を中心に考えていた自分にとって大きな気づきがありました。
社会情動的スキルを高めるためには、家庭や地域との連携も重要であることは理解していましたが、さらにその先の学区や州(日本で言うと都道府県)、国、世界までをも視野に入れた包括的な取り組みが重要であると。このような広い範囲を巻き込んだシステムを作ることは一朝一夕には難しいかもしれませんが、本気で社会を変えようと思うとここまでのビジョンが必要なのだと再認識させられました。
教育行政などにはほとんど興味がなかったけど、少し出てきたかも。
でも、やっぱりまずは、自分自身が一教員としてできることをもっと磨きたい。教員の社会情動的スキルのレベルが如実にSEL環境に影響を与えるということなので、自分自身がこの分野をもっと学び、成長していく必要があるなとも感じました。
研究のヒントもいくつか見つかったので、良い発見の多い論文でした。
以下、メモ
Box1:システミック社会情動的学習(SEL)の原則
【関係性を重視した学習環境はSELを支援し、いくつかの対人的プロセスおよび実践が、これらの場においてSECを効果的に促進する(CASEL, 2020b; Durlak et al., 2010)】
(a) 生徒、教職員、保護者、地域住民の間の信頼関係
(b) 生徒が理解され、尊重され、安全に学べると感じる、配慮的で文化的に応答的なコミュニティ
(c) 人種、文化、民族、社会階層、宗教、ジェンダー、性的指向、能力などの多様性に対する公平性、公正性、尊重を、大人が励まし支援し、効果的にモデル化すること
(d) 学習への関与を促進し、問題行動や不安を減らすための期待と実践の一貫性
(e) 新しい学習内容を生徒の生活、背景、既有知識と結びつけることで、生徒の動機づけを高める大人の支援
(f) 生徒が挑戦的で能動的な学習に取り組み、スキルを練習する機会
(g) ルールや規範の形成、学習内容の選択、リーダーシップの機会において生徒の声を反映させる定期的な機会
(h) 個人の独自性を尊重しつつ、積極的参加を促す雰囲気の中で生徒が自分の考えや感情を表現する機会
(i) 排除や罰に基づく対応ではなく、問題行動が発達上のニーズを反映していることを認識し、学習とスキル発達の機会を提供する修復的アプローチ
【エビデンスに基づく実施が効果的かつ持続的になる例】
(a) 学年間にわたってSELを統合する
(b) SELを学校の実践および政策に組み込む全校的アプローチをとる
(c) 継続的な研修およびコンサルテーションを提供する
(d) 家庭および地域社会のパートナーを、プログラム選択、改善、家庭におけるスキル発達の強化に関与させる(Brackett, Bailey, Hoffmann, & Simmons, 2019)
【SELを強化するエビデンスに基づく実践(EBPs)方法】
(a) 社会情動的コンピテンシーを明示的に育成する独立した授業
(b) 協同学習やプロジェクト型学習など、SELを促進する指導方法
(c) 国語、数学、社会科、保健などの教科学習へのSELの統合
(d) コミュニティ形成に焦点を当てた文化的に応答的な支援的学習環境
Box 3:学校全体でのシステミックSELの10の主要指標(CASEL, 2020b)
論文はこちら(被引用数:1,066件 (2026年4月11日時点))
Mahoney, J. L., et al. (2021). Systemic social and emotional learning: Promoting educational success for all preschool to high school students. American Psychologist, 76(7), 1128.
社会情動的スキル(Social and Emotional Skills)やそれを育むための社会情動的学習(Social and Emotional Learning)への注目が年々高まり、研究も蓄積されてきています。
一方、実際の教育現場においては、断片的な導入にとどまることが多く、著者らはこの点を課題として捉え、教育システムである「Systemic SEL」に発展させることを提案しています。
Systemic SELとは、幼稚園前(Pre-K)から高校卒業までのすべての児童生徒が、社会的・情動的・学業的コンピテンシーを学び、実践することに積極的に関与する公平な学習条件を創出するためのアプローチのこと。これらを実現するためには、州および学区レベルにおいて整合的な政策、資源、行動が必要であり、その発展プロセスが以下のFigure 1に描かれています。

まず、左のスタート地点であるHowの部分。重点領域として以下の4点が挙げられています。
①基盤的支援の構築と計画 :SELチームの設置、広範な関係者の参加、認識の醸成、共有ビジョンの形成を通じて実施する。
②大人のSELコンピテンシーと能力の強化:大人自身がSELに取り組み、信頼関係を築き、協働するコミュニティを育成することによって、学校全体でSELを促進し一貫してモデル化する。
③生徒のためのSELの推進:学校、教室、家庭、地域社会にわたる協調的アプローチを構築することによって実施する。
④継続的改善の実践:実施および成果に関するデータを継続的に収集・活用するプロセスを確立し、意思決定と改善を推進する。
真ん中のWHAT & WHEREでは、CASLEの社会情動的スキルのフレームワーク(自己認識、社会に対する認識、自己管理、関係構築、責任ある意思決定)が中心にあり、その外側にそれらを育む環境として(教室→学校→家庭→地域)が描かれています。これらが、社会情動的スキルを育成し持続させるための「場(settings)」として機能するわけです。これらの場において効果的に社会情動的スキルを促進する要素として以下のような「関係性を重視した学習環境」(CASEL, 2020b; Durlak et al., 2010)が紹介されています。
(a) 生徒、教職員、保護者、地域住民の間の信頼関係
(b) 生徒が理解され、尊重され、安全に学べると感じる、配慮的で文化的に応答的なコミュニティ
(c) 人種、文化、民族、社会階層、宗教、ジェンダー、性的指向、能力などの多様性に対する公平性、公正性、尊重を、大人が励まし支援し、効果的にモデル化すること
(d) 学習への関与を促進し、問題行動や不安を減らすための期待と実践の一貫性
(e) 新しい学習内容を生徒の生活、背景、既有知識と結びつけることで、生徒の動機づけを高める大人の支援
(f) 生徒が挑戦的で能動的な学習に取り組み、スキルを練習する機会
(g) ルールや規範の形成、学習内容の選択、リーダーシップの機会において生徒の声を反映させる定期的な機会
(h) 個人の独自性を尊重しつつ、積極的参加を促す雰囲気の中で生徒が自分の考えや感情を表現する機会
(i) 排除や罰に基づく対応ではなく、問題行動が発達上のニーズを反映していることを認識し、学習とスキル発達の機会を提供する修復的アプローチ
最後に、右側のWhy(なぜ実施するのか)では、SELを実施した先にあるアウトカムが書かれています。
短期的成果
・自分自身・他者・課題に対する態度の改善
・教室および学校風土の認知の向上
中期的成果
・社会的行動および人間関係の向上
・学業達成の向上
・問題行動の減少
・情動的ストレスの減少
・薬物使用の減少
長期的成果(Long-Term)
・高校卒業率の向上
・大学・キャリア準備の向上
・安全な性行動
・健全な人間関係
・メンタルヘルスの改善
・犯罪行動の減少
・市民的参加の増加
また、上記のSystemic SELに発展させていくプロセスにおいては、2つのレベルの環境があり、それらを統合する必要があると言われています。
・近接環境(proximal settings)(教室、学校、家庭、地域)※図1の通り
・遠隔環境(distal settings)(学区、州、国家、国際社会)
以下、各環境におけるポイントをメモします。まずは、近接環境の4つから。
教室
・SELは、生徒と教師の間、またクラスメイト同士の間の肯定的で思いやりのある関係によって特徴づけられる、育成的で安全な環境において最も効果的に実施される
・このような環境を創出できるかどうかは、大人が強いSELスキルと文化的能力を持っているかどうかに依存する(Delpit, 2006; Jennings, Minnici, Yoder, 2019)
・教師の社会情動的発達を支援する専門職研修を通じて、教職員がこれらのスキルを発達させるための定期的な機会が提供されなければならない(Greenberg & Weissberg, 2018; Jennings et al., 2019)
・生徒の深い学習は、教師が生徒に対する理解度に依存する(Darling-Hammond et al., 2019)
・効果的なSELは、生徒が理解され、尊重され、評価され、安全に学べると感じる思いやりのある文化的に応答的な学習コミュニティの構築を重視する。 これらの条件が体系的に整備されるほど、公平な学習機会の基盤は強化される(Gregory & Fergus, 2017; Jagers, Rivas-Drake, & Williams, 2019)。
・生徒が教育プロセスにおけるパートナーとして認識され、SELプログラムの開発および改善を含め、発言権を持つことが重要
学校
・教室の教師や校長だけでなく、教師補助員、専門職スタッフ、カウンセラー、心理士、ソーシャルワーカー、食堂職員、用務員、警備員、事務職員など、学校のすべての職員がSEL発達の重要なモデルおよび支援者となり得る
・学校全体での支持を得るためには、専門職開発を含む包括的アプローチが必要であり、学校コミュニティのすべての構成員によって共有される一貫した実践、メッセージ、共通言語を確立する必要がある(Meyers, Domitrovich, Dissi, Trejo, & Greenberg, 2019)
・学校全体のSELプログラムを継続的に改善するためには、教職員が生徒データ(SEC、行動、学業、エンゲージメント、学校風土など)および実施データを定期的に振り返る機会を持つ必要がある(Bryk, Gomez, Grunow, & LeMahieu, 2015)
・学校全体でのシステミックSELの10の主要指標(CASEL, 2020b)も要チェック
・SELプログラムの成功した実施に関する研究は、学校リーダーシップ(管理職)が成功の最も重要な要因である可能性を示している(CASEL, 2020b; Devaney et al., 2006)
家庭
・保護者は子どもにとって最初の教師であり、SELは家庭から始まるため、家庭は極めて重要
・強固な学校と家庭のパートナーシップは重要(Epstein, 2018; Patrikakou, Weissberg, Redding, & Walberg, 2005)
・保護者と学校がビジョン、目標、責任を共有する調整されたアプローチを伴うことで、子どもはさまざまな環境から一貫したメッセージを受け取り、複数の文脈において繰り返し強化されるSELスキルを実践することができる(Albright & Weissberg, 2010)
・このパートナーシップは、学業成績の向上、精神的健康の改善、生徒エンゲージメントの向上、退学率の低下などの成果と関連(Christenson & Reschly, 2010; Garbacz et al., 2015; Sheridan et al., 2019)
・保護者を関与させるためには、学校環境が家庭にとって歓迎的であることが重要
・保護者はSELの計画、意思決定、実施において発言する機会を持つ必要
・生徒が家庭で家族と共にスキルを実践する機会を意図的に設計することも可能
地域社会
・地域社会とは、学校の周囲に存在し、若者と関係を築き、彼らのSECを支援する個人および組織
・多くの研究は、学校外の組織的活動や地域ベースの活動がSELを促進し、若者に利益をもたらすことを示している(Devaney & Moroney, 2018; Durlak et al., 2010; Smith et al., 2016; Mahoney, Vandell, Simpkins, & Zarrett, 2009)
・サービスラーニング、参加型アクションリサーチ、プロジェクト型学習などは、地域社会と連携したプログラムの例(Celio, Durlak, & Dymnicki, 2011; Elias et al., 2015; Jagers et al., 2019)
・これらの機会により、生徒は自分にとって意味のある「現実世界」でSELスキルを活用し一般化することができる
・ホームレス支援、高齢者支援、特別なニーズを持つ子どもへの支援、メンタリング、家庭教師活動、地域清掃活動などの活動は、生徒が教室外の多様な経験や背景を持つ仲間とともにSELスキルを実践する機会を提供する
次に遠隔環境(学区、州、国家、国際社会)。
学区
・SELは学区のすべての活動に統合されるべき(CASELのCollaborating District Initiative, 2017b)
・教育委員会、中央事務局職員、学区レベルの政策および手続きなどから構成(Mart, Weissberg, & Kendziora, 2015)
・戦略計画、予算、人事、専門職研修、日常業務などにSELを組み込む必要
・学区の管理者がSELプログラムの制度化を全面的に支援する必要(CASEL, 2017b)
・学区レベルの成果例(ポジティブな学校風土、SELへの組織的コミットメント、SELに関する役割と責任の明確化)
州
・州レベルの教育部門、教育委員会、知事、立法機関などの関与も重要
・州レベルの政策、ガイドライン、実践は、学区および学校がシステミックSELを実施するための条件を整備し、SELを州全体の優先事項として位置づけることを可能にする
・CASELは2016年にCollaborating States Initiative(CSI)を開始し、州教育機関が、学区レベルの教育者が統合的で公平性に焦点を当てたSELを推進できる州レベルの条件を整備することを支援している(Collaborating States Initiative, 2018)
・これらの州は、州レベルのSELビジョンを共有し、資金構造やコミュニケーション戦略を構築し、基準やガイドラインを策定し、学区および学校における実施戦略を特定し、州および連邦の要件にSELプログラムを整合させている
国家
・連邦および州レベルの政策は、国家レベルでのSEL機会を提供する(National Commission on Social, Emotional, & Academic Development, 2018; Weissberg & Cascarino, 2013)
・議会はSELに対する1億2300万ドルの連邦資金を承認し、米国教育省はCenter to Improve SEL and School Safetyを設立(Yoder et al., 2020)。
世界
・SELに対するグローバルな視点は、国際協力を通じて世界中の子どもや若者の生活機会を改善する教育システムや戦略を開発できることを示す(Cefai, Bartolo, Cavioni, & Downes, 2018; OECD, 2018; Torrente, Alimchandani, & Aber, 2015)
・特に低・中所得国における子どもおよび大人のSECの発達と評価は重要(Smart et al., 2019; The World Bank, 2020)
・技術の進展によりSELに関する知識や資源を世界規模で迅速に共有することが可能になり、学校、学区、大学、社会サービスの間での地域・国家・国際レベルの連携が一般的な支援となっている
最後に、以下のような研究や実践が今後より重要となると述べられていました。
・SELを単なる教育プログラムではなく、教育システム全体の変革(公衆衛生的枠組み)とした研究
・RCT、準実験研究、既存データの活用、質的研究などを組み合わせたマルチメソッド研究
・学校や学区レベルで、エビデンスに基づくプログラム・政策・実践を組み合わせ、家庭や地域と連携した包括的アプローチの効果を検証する研究
・教育の公平性を高めるためには、十分な資源と明確なロジックモデルを用い、どの学業的・社会的・情動的成果が影響を受けるのかを明確にする
・特定の子どもや集団が機会にアクセスできるようにする公平な学習環境を生み出すプログラムや実践を特定する研究
・普遍的SEL(Universal SEL)と、より強い支援を必要とする子ども向けサービス(指示的・治療的支援)を統合する方法の研究
・教師や学校管理職など教育者に対するSELプログラムや組織変革の効果(養成段階・現職段階)を検証する研究
・連邦・州の政策が、地域レベルでのSEL実施の質や生徒の発達成果にどのような影響を与えるかを検討する研究
・SELのシステム変革を進めるためには、研究者・教育者・政策立案者の協働による包括的SELプログラムの設計と検証
ここまで。
社会情動的スキルを高めるための学習機会(SEL)をプログラム単位からより広域な教育システムとして捉えた内容は、授業単位を中心に考えていた自分にとって大きな気づきがありました。
社会情動的スキルを高めるためには、家庭や地域との連携も重要であることは理解していましたが、さらにその先の学区や州(日本で言うと都道府県)、国、世界までをも視野に入れた包括的な取り組みが重要であると。このような広い範囲を巻き込んだシステムを作ることは一朝一夕には難しいかもしれませんが、本気で社会を変えようと思うとここまでのビジョンが必要なのだと再認識させられました。
教育行政などにはほとんど興味がなかったけど、少し出てきたかも。
でも、やっぱりまずは、自分自身が一教員としてできることをもっと磨きたい。教員の社会情動的スキルのレベルが如実にSEL環境に影響を与えるということなので、自分自身がこの分野をもっと学び、成長していく必要があるなとも感じました。
研究のヒントもいくつか見つかったので、良い発見の多い論文でした。
以下、メモ
Box1:システミック社会情動的学習(SEL)の原則
- SELは、5つの中核的なSELコンピテンシーの発達を通じて、ポジティブな機能の促進と問題の予防に積極的に焦点を当てることにより、すべての若者が大学、キャリア、そして人生において長期的に成功できるよう準備するものであるべきである。
- SELは、他者への配慮を示し、多文化社会においてSELスキルをどのように活用するかを強調する、大人と子どもの間の思いやりある真摯な関係を通じて、若者が多文化社会における積極的な市民となるよう準備するものであるべきである。
- SELは、就学前から高校までの発達段階に沿った体系的・連続的アプローチに従い、若者が生涯にわたり社会情動的コンピテンシー(SECs)を育むことを目標とするべきである。
- SELプログラムは、個人差と個々のニーズを考慮し、公正で文化的に応答的な学習機会を意図的に設計する必要がある。
- SELの指導は、十分に支援された教師によって、すべての生徒に提供される、よく設計された普遍的でエビデンスに基づくプログラムを含むべきである。
- SELは、安全で支援的かつ学習への関与を促す学習環境を構築するための、学校全体に統合された取り組みの一部として実施されるべきである。
- 家族は、SELの計画および実施に協働的に関わるべきである。
- 地域社会のメンバーおよび組織も、SELの計画および実施に協働的に関わるべきである。
- SELシステムは、州・学区・学校の各レベルで定期的に評価され、データに基づく省察と行動のプロセスを通じて継続的に改善されるべきである。
- SELシステム全体は、州、学区、学校が協働して、エビデンスに基づく政策と実践がシステム全体で公平に促進・支援されるよう、統合され整合されるべきである。
【関係性を重視した学習環境はSELを支援し、いくつかの対人的プロセスおよび実践が、これらの場においてSECを効果的に促進する(CASEL, 2020b; Durlak et al., 2010)】
(a) 生徒、教職員、保護者、地域住民の間の信頼関係
(b) 生徒が理解され、尊重され、安全に学べると感じる、配慮的で文化的に応答的なコミュニティ
(c) 人種、文化、民族、社会階層、宗教、ジェンダー、性的指向、能力などの多様性に対する公平性、公正性、尊重を、大人が励まし支援し、効果的にモデル化すること
(d) 学習への関与を促進し、問題行動や不安を減らすための期待と実践の一貫性
(e) 新しい学習内容を生徒の生活、背景、既有知識と結びつけることで、生徒の動機づけを高める大人の支援
(f) 生徒が挑戦的で能動的な学習に取り組み、スキルを練習する機会
(g) ルールや規範の形成、学習内容の選択、リーダーシップの機会において生徒の声を反映させる定期的な機会
(h) 個人の独自性を尊重しつつ、積極的参加を促す雰囲気の中で生徒が自分の考えや感情を表現する機会
(i) 排除や罰に基づく対応ではなく、問題行動が発達上のニーズを反映していることを認識し、学習とスキル発達の機会を提供する修復的アプローチ
【エビデンスに基づく実施が効果的かつ持続的になる例】
(a) 学年間にわたってSELを統合する
(b) SELを学校の実践および政策に組み込む全校的アプローチをとる
(c) 継続的な研修およびコンサルテーションを提供する
(d) 家庭および地域社会のパートナーを、プログラム選択、改善、家庭におけるスキル発達の強化に関与させる(Brackett, Bailey, Hoffmann, & Simmons, 2019)
【SELを強化するエビデンスに基づく実践(EBPs)方法】
(a) 社会情動的コンピテンシーを明示的に育成する独立した授業
(b) 協同学習やプロジェクト型学習など、SELを促進する指導方法
(c) 国語、数学、社会科、保健などの教科学習へのSELの統合
(d) コミュニティ形成に焦点を当てた文化的に応答的な支援的学習環境
Box 3:学校全体でのシステミックSELの10の主要指標(CASEL, 2020b)
- 明示的なSEL指導(Explicit SEL instruction) 生徒は、発達段階に適合し文化的に応答的な社会情動的コンピテンシー(SECs)を育成し、実践し、振り返るための継続的な機会を持つ。
- 学業指導との統合(SEL integrated with academic instruction) SELの目標は、学習内容および授業戦略の中に統合され、学業科目や学校活動の中で扱われる。
- 生徒の声とエンゲージメント(Youth voice and engagement) 教職員は、生徒をリーダー、問題解決者、意思決定者として関与させることで、多様な生徒の視点や経験を尊重し高める。
- 支援的な学校・教室風土(Supportive school and classroom climates) 学校および教室の環境は支援的で文化的に応答的であり、人間関係とコミュニティの構築に焦点を当てる。
- 大人のSELへの焦点(Focus on adult SEL) 教職員は、自らの社会情動的コンピテンシーを育成し、信頼関係を築き、強いコミュニティを維持するための継続的な機会を持つ。
- 支援的な生徒指導(Supportive discipline) 生徒指導の方針と実践は、指導的で修復的であり、発達段階に適合し、公正に実施される。
- 統合的支援の連続体(A continuum of integrated supports) SELは、学業および行動支援の連続的支援体系の中にシームレスに統合され、すべての生徒のニーズが満たされるようにする。
- 真正な家庭とのパートナーシップ(Authentic family partnerships) 家庭と学校職員は、生徒の社会的・情動的・学業的発達を支援するために、関係を築き協働する有意義な機会を定期的に持つ。
- 整合した地域連携(Aligned community partnerships) 学校職員と地域パートナーは、SELに関わるすべての取り組みや施策について、共通の言語、戦略、コミュニケーションを整合させる。
- 継続的改善のためのシステム(Systems for continuous improvement) 実施データおよび成果データを収集・活用し、公正性に焦点を当てながら、SELに関連するすべての制度、実践、政策を継続的に改善する。
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