オムロンの創業者 立石一真氏と中央研究所のメンバーによって1970年に提唱された未来予測理論、『SINIC理論』。
本書では、そのSINIC理論を中心に、オムロン社がどのように過去・現在・未来を見据えているのかについてまとめられています。
SINICとは、Seed-Innovation and Need-Impetus Cyclic Evolution of thechnological innovationの頭文字をとったもので、「科学、技術、社会が、相互に影響し合って、社会発展が進むということを、人類史全体を俯瞰しつつ、未来を展望」という意味。
この名の通り、この理論には、科学、技術、社会の変化を含む3つの特徴があります。

①科学技術社会論:科学は技術の種、技術は社会を豊かに発展(科学→技術→社会)

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②社会発展指標とプロセスの理論:経済発展を軸に、人類社会の進化段階と未来を予測
「単一の経済指標を尺度として測る社会発展」から、「一人ひとりの価値基準に基づく、一人ひとりの豊かさと満足の社会総和」へ
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③社会進化と価値観の理論:「心と集団中心」↔︎「物と個人中心」の往還
「物中心」から「心中心」に向かうと共に、行きすぎた「個」の価値観の重視を是正しながら「集団」の価値観側に進み始めている
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上記の複数の側面から、これまでの社会の変化、そして今後の予測について以下のようにまとめられています。
【10段階の社会発展区分】
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SINIC理論

現在は、最適化社会から自律社会への移行期。そして、その先には自然社会が待っているとのこと。
過去も大事ですが、特にこれからの未来については理解しておいた方が良いと思うので、「最適化社会」「自律社会」「自然社会」について簡単にメモしておきます。

「最適化社会」(2005年〜2025年)
・すべてがネットワークにつながる「情報最適化」の時代
・大量生産による最大効率の実現だけでなく、オーダーメイドに近い「マス・カスタマイゼーション」という新たな最適化生産の姿
・個人が主体者となり、情報の全体に直接つながることによって、これまで気づかなかった、個々人にとって最適な選択が可能に

※自律社会に向かうためのポイント=社会課題最適化
・自律社会の入り口に到達するためには、積み残してきた社会課題(工業社会の負の遺産)の解決も重要(SDGs、ESG投資など)
・これ以上負の遺産を増やさず、解消しながら暮らしの質、生き方の質を上げていくための「成熟経済」への大転換が動き始めている

「自律社会」(2025年〜2033年)
・個々人が自らの価値基準で生き方を選び、精神的な豊かさを追求する社会
・新しいものを創造することにのみ存在するようになる
・個人と個人のコミュニケーションは、テレパシー化されていく
・個々人が、好きなように楽しく生きれば、その結果としての社会全体は最適化される

(SINIC理論発表当時の「自律社会」のコンセプト)
①意識的なコントロールがなくなっていく社会
②真の変容を遂げた自律した人間が生きていける社会
③苦労することがなくなって暇になっている社会
④騒動の必要がなくなって暇になっている社会
⑤創造性が価値を持つ社会
⑥環境に埋め込まれた技術が人間の自律を支える社会
⑦不老長寿に近づいていく社会
⑧音や画像だけでなく、心も含めた遠隔コミュニケーションが実現する社会

・新たな生き方(働き方、暮らし方)のスタイルを創り出していたのは、未来世代の若い人たち
・自立と自律、中央集権から自律分散へ
・所有から利用へ(多拠点生活、カーシェア等)
・人間の弱体化の予兆
 ・3つの闘争(自然、社会、自己)がなくなった社会では突破力が削ぎ落とされるという懸念
 ・人間には、野性、感性、知性が備わって、充実されていてこそ、人間としての能力を発揮できる
・「不良老人問題」:自律的に自らの人生を通じて、スキル、健康、人間関係といった「見えない資産」を育み、生涯を通じて自らの「変身」を続けていく生き方が重要になる

(自律社会を生きる人、自律社会を支えるテクノロジー)
・自律社会のOS「コンビビアリティ」(Convivial(con(共に)+vivere(生きる))
・豊かさの獲得ステップ
 ・第1ステージ:利便性(手間を省く)
 ・第2ステージ:快適性(気持ちの悪さを除去する)
 ・第3ステージ:安心・安全性(不安や心配を減らせる)
 ・第4ステージ:快楽性(自分が楽しめる)
 ・第5ステージ:共愉性(他者と共に、歓び楽しめる)
・ティール組織:SINIC理論の自律社会の組織論
・自律社会=マズローの欲求5段階説における「自己実現欲求」レベルに対応する社会
 ・自己だけでなく他者の繁栄や幸福を願う「共感」の価値が高まることが特徴
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・3つのキャピタル
 ①エコノミックキャピタル(カネ)
 ②ヒューマン・ファンダメンタルズ・キャピタル(人間の幸福、人間の心の成長度)
 ③ソーシャルキャピタル(仲間からの共感の質・量)
 →②と③も可視化され、これらが自律社会の豊かさ指標となる

・Z世代は、欠乏欲求「足りないものを埋めたい(to have)」よりも、存在欲求「ありのままで幸せを得たい(to be)」の傾向が強い
・自律社会は、周縁の農山村から立ち現れる(人間関係の豊かさ、ヒューマン・スケールが大きな価値に)
・サイバネティックス:各々が生命体の機能のように、自律的に自らを制御する
 →システムがシステムを管理する(System of Systems)

・自立社会における制御技術
①自動制御技術:自動生成技術の向上や3D技術の発展による製造の自動化
 ・CASE(Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)、スマートハウジング、スマートグリッド等
②電子制御技術:センサーで読み取った状態(入力)に応じて、コンピューターが瞬時に最適な動作(出力)を計算し、モーターやバルブなどの駆動装置を自動でコントロールする技術
 ・クラウド(XaaS)、VR、AR(拡張現実)、MR(複合現実)への活用、量子コンピュータ、ブロックチェーン、Web3、NFT等
③生体制御技術:身体や社会の現状を捉え、生体全体や環境との最適な適応を促し支援する制御技術
 ・生体情報の継続的取得による予防医療、バイオチップや簡易検査キット、生体機能の物理的回復措置、再生医療技術等
④精神生体技術:人間の心と身体の自律性のしくみに働きかけ、活かすことで、生きる喜びを向上させる技術
 ・「人間の心」は最後の未踏領域(制御という言葉は付かない)

・自律社会においては、個々のメンバーの成長段階に応じて、興味や意識の置き所が異なることに着目して、所属する組織を変えながら生活していくことが一般的に
 ・学びたい欲求のために、その師となる相手を探すようになる

自然社会(2033年〜)
・意識的なコントロールのなくなる、制御フリーの社会
・円錐状を循環しながら螺旋状に登っていいき、1周回り終えた時点
・原始社会の特徴を備えつつ、進化した社会
・キーワード
 ・利他的な相互信頼コミュニティ
 ・遊動生活・狩猟採集生活
 ・動的平衡
 ・人工生命(生命らしさのエンジニアリング)
 ・以心伝心
 ・アンビエント化(生態系に埋め込まれたテクノロジーによる環世界)
 ・色即是空・マインドフルネス
 ・メタバース

ここまで。
本書は、大学の授業でオムロン様にご協力いただく機会があり、それがきっかけで手にとりました。
オムロン経営の背景に、研究所と共にこのような未来予測を緻密にされていることには驚きました。
これまでの社会変化もそうですが、今後の未来予測についても結構な精度で当たっているような気がします。
物中心から心中心に人々の関心が移り変わっていっているのは肌で感じますし、心や精神の可視化や、それに連動した商品・サービスが徐々に普及してくるのは非常にイメージできました。
経営学やキャリア論などの研究の観点から見ても、個人中心から集団中心へと移行していく考え方は、リーダーシップ理論におけるシェアド・リーダーシップや、OECDが提唱するエージェンシーの考え方とも重なる部分があるように感じました。また、個人の働き方については、組織の枠を越えてキャリアを形成するバウンダリーレス・キャリアの方向性が今後ますます加速していくように思います。加えて、組織のあり方についても、従来の階層型組織からティール組織に代表されるような自律分散型組織へと変化していくことが容易に想像できます。
これら全てが50年以上も前に書かれた理論で提唱されていたことには本当に驚きました。

社会変化の螺旋を1周回った最後にやってくる「自然社会」はどんな未来になっているんだろう。
創造の前には大きな破壊が待っているのが世の常。ちょっと怖さはありつつも、きっと素晴らしい未来が待っているんだろう。

以下、メモ

・アップデートされたポイント
①科学技術社会論:進歩志向意欲(拡大志向)→共生志向意欲(持続欲求)
②社会発展指標とプロセスの理論:単一発展軸(GNP)→個人の価値基準による多元軸
③社会深化と価値観の理論:2つの価値観の往還→2軸の価値観座表面上の収斂(心・物×集団・個)