特別支援教育担当教員(special educator)が通常学級教員に対して実施したコーチング・プロジェクトを対象に、教師がコーチングに積極的に関与する(engagement)場合と、消極的になる(disengagement)場合の要因について分析した論文のレビューです。

論文はこちら(被引用数:77件 (2026年6月20日時点))
Marks, S. U., & Gersten, R. (1998). Engagement and disengagement between special and general educators: An application of Miles and Huberman's cross-case analysis. Learning Disability Quarterly, 21(1), 34-56.

教員の指導スキルを高めるための支援には様々ありますが、本論文は、特別支援教育担当教員(special educator)がコーチングを用いて教員を指導し、指導を受けた教員がどのような要因で積極的に関与する(engagement)、あるいは消極的になる(disengagement)のかを分析したものです。
コーチングを実施している人や、大学のFDなど教員指導に従事する人にとっては学びの多い内容かと思います。
以下、論文のポイントを端的にまとめます。

・研究方法
 ・対象者:コーチング・プロジェクトに参加した通常学級教員12名
  ・小学校1〜6年担当教師:12名
  ・中学校教師:5名
  ・特別支援教育コーチ3名と研究チームも分析対象のデータ提供者として関与

・データ収集
 ・インタビュー
 ・フィードバック面談記録
 ・授業観察データ
 ・観察尺度:以下の尺度を用いて生徒の参加度合い、教師フィードバック、学習活動等を評価
  ・ASLE(Assessment of Student Learning Environment)
  ・TIES(Instructional Environment Scale)
 ・その他:研究メモ、教師への助言記録、コーチの記録なども収集

・分析方法
①ケース記述の作成
 ・各教師について、インタビュー、観察、面談記録を統合しケース記述を作成
 ・研究者が現場へ入り、教師や管理職との対話や観察を通して事例理解を深めた
 ・各ケースの特徴を整理したケース内データディスプレイ・マトリックスを作成(Table5)
  ・項目:授業の文脈、コーチング内容・改善提案、教示自身が感じるニーズ、支援・助言の受け方の好み、教育観・教育理念(葛藤の有無)、その他の出来事・専門能力
Table5

②クロスケース・マトリックス作成
 ・個々のケース内マトリックスを統合し、クロスケース・ディスプレイ・マトリックスを作成
 ・エンゲージメントに関係すると考えられる7変数で整理(Table 4)
  ※7つの変数は、協働的コンサルテーション研究(Friend, 1988; Idol, 1988)、教師効力感研究(Gibson & Dembo, 1984; Smylie, 1988)、および教師の専門的成長と授業改善に関する研究(McLaughlin, 1991; Richardson, 1994)から導出
 ・教師をエンゲージメントの高中低に分類し、高い順に並べ、比較可能な形で表示(Case-Ordered Display)
  ・項目:参加・関与の程度、授業への影響、教師の属性・特徴、教育実践の文脈、受けたコーチング・改善提案、教師自身が感じるニーズ、教育観・教育理念、支援・情報提供の好み、その他の研修・専門能力
table4table4-2

③ケース比較
 ・小中高の群を比較し、共通点、相違点、パターンを探索
 ・特に、どのような要因が教師のエンゲージメントやディスエンゲージメントを説明できるか検討
④仮説生成・修正
 ・マトリックスから見出されたパターンに基づき仮説を生成
 ・仮説に合致する事例、仮説に反する事例(例外ケース)を検討しながら仮説を修正
⑤3つの主要テーマ抽出
 ・④の結果、副次的な変数を除外し、以下の3つの変数に焦点を絞る
  ・コーチング活動および提案内容
  ・教師自身が表明したニーズ
  ・教師が抱く授業観、および特別支援教育担当者の授業観との一致・不一致
この結果のまとめがFigure 1に示されています。
Fig1

・Findings
 ①1. コーチングの影響認識(Impact)
 ・教師が「コーチングによって授業が改善した」「生徒が変化した」と感じるほど高エンゲージメント
 ・影響には、概念的影響と実践的影響の2種類があった(Figure 1)
  ・概念的影響:教授観、学習観、生徒理解の変化
  ・実践的影響:授業行動の変化(フィードバック方法、生徒参加促進、指導技術の改善)

 ②教師自身のニーズとの適合
 ・教師が 「今まさに困っていること」 にコーチング内容が合致している場合、高エンゲージメント
 ・ 逆に、 教師が必要性を感じていない内容は受け入れられなかった

 ③教授観の違いと葛藤
 ・教師とコーチの教授観が対立すると、 エンゲージメントは低下
 ・教授観が「異なる」だけの場合はコーチングを継続したが、教授観が「対立」する場合は抵抗を示した(例:「自分のやり方を否定された」「押し付けられている」 と感じるケース等)

 ④中核的変化(Core Change)と周辺的変化(Peripheral Change)
 ・周辺的変化:既存の指導法に追加できる改善は比較的受け入れやすい(例:新しい教材、フィードバック方法等)
 ・中核的変化:教師の根本的な教授観を変える変化は抵抗やストレスを生みやすい(例:教師中心授業 → 協同学習など)

ここまで。
正直、研究内容というよりは研究方法を参考にしたく読みはじめました。
研究方法については、クロスケース・マトリックスからケース順ディスプレイの流れが非常に参考になり、大変ありがたい発見でした。
ところが、研究方法だけでなく、当論文の内容自体も大変興味深いもので、終始頷きながら読み進めました。
ポイントを端的にまとめると、教師に対して教授法などを指導するような場合は、
・教師が必要としている支援を提供する
・教師の授業観を理解する
・コーチ側が変化を押し付けない
・周辺的変化から始めて徐々に中核的変化へ進む
これらの点はしっかり押さえておく必要があると思いました。
自分としても、今後、探究学習の支援やアクティブラーニングのFDなどでこのような場面がより出てくる可能性があるので、頭の片隅にしっかりと保存しておこうと思います。

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