Qualitative data analysis a methods sourcebookのChapter 2のまとめです。
第2章は研究デザインとデータマネジメントです。

書籍はこちら(被引用数:2,705件 (2026年6月28日時点))
Miles, M. B., Huberman, A. M., & Saldaña, J. (2020). Qualitative data analysis: A methods sourcebook. 4th ed., International student ed. SAGE.

この章では、質的研究における研究デザイン上の意思決定(概念枠組み、リサーチクエスチョン、ケースの定義、データ収集方法)が、その後のデータ分析にどのような影響を及ぼすかについて論じられています。
後半部分では、質的データと量的データの統合、コンピュータソフトウェアの利用、データ管理、良好な共同研究関係、タイムマネジメントについても語られていますが、この部分は割愛し、前半部分のポイントをまとめます。

・概念的枠組み、研究方法論、研究課題、データ収集方法、参加者のサンプリングなどの研究デザイン上の選択は、それ自体が分析的行為である
・これらは、一種の予期的データ凝縮(anticipatory data condensation)である(データの取捨選択)
・データをどのように保存・整理・処理するか、どのようなコンピュータソフトウェアを使用するかといった技術的管理の問題も、分析を支援すると同時に、その分析へ影響を及ぼす

緩やかな研究デザインと厳密な研究デザイン (Loose Versus Tight Research Designs)
緩やかな研究デザイン
・あらかじめ構造化された研究デザインを最小限に抑える
・社会的プロセスはあまりにも複雑であり、文脈依存的であり、とらえどころがなく流動的であるため、明示的な概念的枠組みや標準化されたデータ収集手法によって接近すべきではないと考える
・より柔軟で、創発的かつ帰納的なデータ収集方法を重視
・概念的枠組みは研究の進行とともに形成され、重要なRQも徐々に明らかになる
・調査対象や参加者も、フィールドに入って現場を理解した後になって初めて選定される
(有効な場面)
・経験豊富な研究者が、未知の文化、十分研究されていない現象、あるいは非常に複雑な社会過程を十分な時間をかけて探究する場合
(問題点)
・質的研究の初心者には時間の浪費となる可能性がある
・長期のフィールドワークや膨大なデータを収集しても、ごく平凡な分析結果しか得られないこともある
・複数事例研究では、膨大なデータ量と事例間比較の困難という二重の問題に直面する

厳密な研究デザイン
・調査手順やデータ過多を心配する初心者研究者に対して明確な方向性と焦点を与える
・RQが明確で、仮説を検証あるいは精緻化したい研究に適している
・複数地点・複数調査者による標準化されたデータ収集手順は、事例間比較と分析をより容易にする
(問題点)
・多事例研究では、初期の枠組みが緩やかであればあるほど、事例間比較は困難となり、分析に要する情報量とコストは莫大になる
・高度に統制された研究デザインでは、より経済的で比較可能かつ一般化可能な知見が得られるが、個別事例への感受性は低くなり、事例横断的な分析課題に答えるために、データが本来の文脈から切り離される危険も伴う

多事例研究におけるトレードオフ
(初期の枠組みが緩やかな場合)
・地域固有の特徴を捉えやすい
・事例間比較は困難
・分析に要する情報量とコストは膨大に

(高度に統制された場合)
・より経済的で比較可能な知見が得られる
・一般化可能な知見が得られる
・個別事例への感受性は低くなる

筆者の考え
・厳密な研究デザインにも緩やかな研究デザインにも妥当性がある
・どちらを選択するかは、研究者自身が個々の研究目的に応じて判断すべき
・両極端の中間に位置する立場こそが、おそらく多くの質的研究者が実際に採用している立場

概念的枠組みの提示
説明と意義

・概念的枠組みとは、研究対象となる主要な事柄――例えば主要な要因、変数、現象、概念、参加者――および、それらの間に想定される相互関係を、図式または文章によって説明したもの(一種のネットワーク)
・概念的枠組みとは、研究者が調査対象となる質的世界について持つ「地図」の、その時点における最新版であり、なお進化し続けるもの(研究開始時に構築され、その後研究の進行とともに発展していく)
・概念的枠組みは、単純なものにも複雑なものにも、記述的なものにも因果的なものにもなり得る
・常識に基づくものにも理論主導のものにもなり得る
・理論とは、多数の個別事象を少数の一般概念によって包含するもの(例:「文化」「社会的知能」「コーピング」「アイデンティティ」といった概念は、行動、経験、変数、カテゴリー、プロセス、出来事などをまとめる「箱(bins)」のラベル)
・この箱は、理論から生まれることもあれば、研究者自身の経験や研究目的から生まれることもある
・こうした箱を設定し、それらに名前を与え、相互関係を明確にすることが、概念的枠組みの構築へとつながる。
・概念的枠組みは、分析的思考の過程であると同時に、その成果でもある
・「概念的枠組み(conceptual framework)」と「理論的枠組み(theoretical framework)」を同義に用いる研究者もいるが、一部の方法論研究者は両者を区別している
 ・理論的枠組み:理論および理論を構成する要素を利用し、社会現象の探究・分析を導く作業モデル
  ・文献に基づいて研究内容を抽象化したもの
 ・概念的枠組み:より帰納的かつ発展的なモデルで、理論的要素を含むこともあるが、基本的には、研究対象となる事例や調査場所に固有の変数、概念、文脈、参加者などを取り込んだもの
  ・その研究固有の地域的・文脈的要素に根ざしたもの

研究が進むにつれて、概念的枠組みが変化する例が以下のように示されています。
初期:Display 2.1:事例研究における教師とその実践に影響を与える要因についての初期概念的枠組み
2.1
↓観察とインタビューを実施した後、2.2のように変化しています。
Display 2.2:言語芸術担当教師の実践に影響を与える主要要因
2.2
・概念的枠組みは何らかの物語(story)を語るものである。それは研究途中の状況を一枚にまとめた進化する表現であり、映画監督が最終的な映像作品を制作する前に描くストーリーボードに相当する

概念的枠組みに関するアドバイス
1. 概念的枠組みは、まず図式化して作成するのが望ましい。枠組み全体を一枚に収めようとすることで、対象となるカテゴリーを明確にし、関係性を整理し、概念的・機能的に異なる変数を区別し、すべての情報を同時に扱えるようになる。
2. 最初から複数のバージョンを作成することを想定すべきである。表現方法は数多くあり、後になって作成したものの方が洗練されることが多い。
3. 複数研究者による研究では、それぞれが独自に概念的枠組みを作成し、その後比較することが望ましい。この作業によって、各研究者の考え方の違いが可視化され、後になって問題となる曖昧な点や意見の対立を早期に明らかにできる。
4.「安全すぎる」概念的枠組みは避けるべきである。すべてを大まかに定義し、至る所に双方向矢印を引いた枠組みでは、焦点を定める助けにならず、現場へ無計画に入ってしまうことと大差ない。ただし、一般的な枠組みから始め、それを徐々に具体化していく方法は有効である。
5. 既存理論や先行研究をあらかじめ検討することは重要である。それらを自分の概念的枠組みに対応づけることで、一致点、矛盾点、修正点、精緻化すべき点が明らかになる。

ケースの定義(DEFINING THE CASE)
説明とその根拠(Description and Rationale)

・ケース(case)とは、ある境界づけられた文脈の中で生起する何らかの現象
・ケースとは、実質的には分析単位(unit of analysis)である
・研究には焦点、「中心(heart)」が存在し、やや曖昧ではあるものの境界(boundary)がケースの範囲、すなわち何を研究対象にしないかを定める
・境界設定は時間によっても決まる

【ケースとして設定可能な例】
1. 役割(role):校長、CEO、看護師長など
2. 小集団(small group):都市部のアフリカ系アメリカ人男性グループ、大学のロックバンド、乳がんサバイバー支援グループなど)
3. 組織(organization):保育園、ソフトウェア会社、アメリカ社会学会など)
4. 場所・環境(space and environment):若者が集まるショッピングモール、ワシントンDCのベトナム戦争戦没者慰霊碑、ラスベガスの夜のストリップ通りなど
5. コミュニティ・居住地域(community or settlement):ニューオーリンズのフレンチクォーター、タンザニアの村、サンフランシスコのテンダーロイン地区など
6. 出来事・経験(episodes or encounters):初めての投票、一夜限りの関係、小学校でのいじめ事件など)
7. イベント(event):採用委員会、高校卒業式、ニューヨーク・タイムズスクエアの大晦日など
8. 一定期間(period of time):消防士の一日、春休み、注文から料理が届くまでの顧客体験など
9. プロセス(process):買い物から料理まで、国際会議の企画運営、教育改革プログラムの導入など)
10. 文化・サブカルチャー(culture or subculture):大学におけるアフリカ系アメリカ人女性、ロサンゼルスのドラァグクイーン、スケーターカルチャーなど
11. 国家(nation):経済危機下のギリシャ、2018年中間選挙期のアメリカなど

・ケースの内部にはサブケース(subcases)が存在することもある
 ・学校のケーススタディには、個々の教室というケースが含まれる
 ・病棟のケーススタディには、医療従事者と患者との関係というケースが含まれる
・複数ケース研究(multiple-case study)の方が、以下のようなメリットがある
 ・ケースのプロセスや結果をより深く理解できる
 ・仮説を構築するだけでなく検証する機会が得られる
 ・現場に根ざした因果関係をより明確に把握できる

ケース設定に関するアドバイス
1. 研究のできるだけ早い段階でケースを定義すること。 概念枠組みと研究課題が定まっているなら、「誰を」「何を」ケースとするのかを明確に決めることが重要である。 そうすることで、概念枠組みも研究課題もより明確になる。
2. 最初は直感的に始めてもよいが、研究しない対象も同時に考えること。 「何を研究しないか」を決めることが、ケースの境界を明確にする。
3. ケースは複数の側面から考える。
・概念的性質(conceptual nature)
・社会的規模(social size)
・物理的な場所(physical location)
・時間的範囲(temporal extent)
これらすべてを検討する必要がある。
4. ケースの最終的な姿はサンプリングによってさらに具体化されることを忘れてはならない。

サンプリング:データ収集の境界を定める (Sampling: Bounding the Collection of Data)
説明とその根拠(Description and Rationale)

・サンプリングとは、誰を観察・面接するかだけでなく、どのような場(settings)、出来事(events)、社会的プロセスを対象とするかについても意思決定を行うこと
・質的研究では、フィールドワークの進行に伴って研究の焦点や研究範囲を継続的に描き直すことが求められる
・ サンプリングの選択は、研究から導かれる結論や、その結論への信頼性を左右するため、後の分析にとって極めて重要

質的サンプリングの鍵 (Key Features of Qualitative Sampling)
・ 質的研究のサンプリングには、時として異なる方向へ働く二つの役割がある
・①境界(boundaries)の設定:時間や予算の範囲内で研究できるケースの側面を決め、それをRQと直接結び付けること
・②プロセスや概念を発見・確認・修正するための概念的枠組みの構築:
 ・質的サンプルは、無作為抽出(random)ではなく、目的抽出(purposive)であることが多い
 ・概念に基づく逐次的サンプリング(conceptually driven sequential sampling):一つの出来事を観察すると、別の出来事との比較が必要となり、一つの重要な関係を理解すると、他の関係についても調べる必要が生じるといった考え方
 ・質的サンプリングは、あらかじめ理論に基づく場合もあれば、GTAのように研究の進行とともに理論的になっていく場合もある

一般的なサンプリング戦略 (General Sampling Strategies)
・Erickson(1986)が提案したサンプリング手順「funneling」:研究対象の外側から徐々に中心へと焦点を絞っていく方法(学校研究の場合、 学校全体や地域社会→ 学校→教室→特定の出来事へと焦点化)
・ 質的研究には非常に多様なサンプリング戦略がある
 ・研究開始前に決めるものもあれば、データ収集の初期段階で発展するものもある
 ・重要なのは、なぜそのサンプリング法を選択したのかを読者に説明できること
  ・便宜的サンプリング(convenience sampling):単に地理的・時間的にアクセスしやすいから

・最大変異サンプリング(maximum variation sampling):主要なパターンが例外的なケースでも成り立つかを確かめるために、意図的に大きく異なるケースを探す方法
・同質的サンプリング(homogeneous sampling):人口統計学的あるいは社会的特徴が似ている人々に焦点を当てる
・クリティカルケース(critical case):研究の主要な知見を最もよく支持・例証するケース
・以下のケースを意図的に探すことで、分析結果への信頼性を高めることができる 
 ・仮説を支持するケース(confirming cases)
 ・仮説に反するケース(disconfirming cases)
 ・極端なケース(extreme cases)
 ・逸脱したケース(deviant cases)
 ・典型的なケース(typical cases)
・機会的サンプリング(opportunistic sampling)や雪だるま式サンプリング(snowball sampling)戦略は、帰納的に理論構築を目指す分析に役立つ

【データ収集前の参加者選定(Goetz と LeCompte, 1984)】
・包括的サンプリング(comprehensive sampling):対象集団内のすべてのケース・事例・要素を調査する
・割当サンプリング(quota selection):主要な下位集団を特定し、それぞれから任意数を抽出する
・評判ケース選定(reputational case selection):専門家やキーパーソンの推薦によってケースを選ぶ
・比較ケース選定(comparable case selection):時間を通じて同じ重要な特徴をもつ個人・場所・集団を選ぶ(レプリケーション戦略)

ケース内サンプリング(Within-Case Sampling)
・たとえケースが一人の個人であっても、ケース内部で多くのサンプリング判断を行わなければならない
 ・どの活動、どのプロセスを見る、どの出来事を扱う、どの時点を調べる、誰との関係を調べるか等
・ケース内サンプリングは、ほとんどの場合入れ子構造(nested)
 ・例:学校の中の教室、 教室の中の児童という階層構造
・このようなサンプリングは理論主導(theoretically driven)であるべき
 ・理論はあらかじめ存在していてもよいし、GTAのように研究の進行とともに形成されてもよい
・参加者や出来事を選ぶ基準は、「代表性」ではなく、「概念的な問い」
 ・例「交渉(negotiation)」という概念を理解したければ、異なる時間・場所・人々の間で、その概念がどのように現れるかを見る必要がある(その概念がどのような条件で成立するかが重要で、母集団全体への一般化ではない)
・ケース内サンプリングには反復的(iterative)な性質がある
 ・研究が進むにつれて、観察し、話を聞き、文書を調べ、新たな参加者や新たな出来事、新たな資料へと対象が広がっていく

複数ケース・サンプリング(Multiple-Case Sampling)
・複数ケースのサンプリングは、研究結果への信頼性(confidence)を高める
・類似したケースや対照的なケースを比較することで、一つのケースで見つかった知見が、どのような条件で、どこで、なぜ成立するのかを理解できる( Yin(2018)が言うreplication strategy)
・筆者らは、複数ケース研究では一般化可能性は本質的には変わらないと述べている
・私たちが一般化するのは、母集団ではなく、理論(ケースの選択は代表性ではなく、概念的根拠)
・複数ケース研究で必要なケースの数は、統計学的な答えは存在しない(ケース内部の複雑さにも依存)
 ・具体的な目安を挙げるなら、5〜6ケース程度が、複数ケース研究として十分である
 ・ケースが非常に複雑なら、10ケース以上になると管理が難しくなる

【有用なデータ】
・新しい重要な手がかりを与えるもの
・情報を広げるもの
・既存情報を結びつけるもの
・主な傾向を補強するもの
・新たな証拠を加えるもの
・重要テーマを具体化するもの
・既存情報を修正・反証するもの

サンプリングに関するアドバイス
・質的研究が初めてなら、最初は「暫定的なサンプル」を設定して始めるとよい。その後、研究の進展に応じて修正すればよい。
・サンプリングの枠組みを常に意識すること。他に誰を観察・面接すべきかを考え続ける。
・複雑なケースでは、人だけでなく、出来事・場・プロセスもサンプリングすること。参加者へのインタビューだけに偏らない。
・サンプリングを狭くしすぎないこと。中心人物だけでなく周辺人物や反対者、離脱者などからも情報を得ることで、現象をより深く理解できる。
・サンプリング計画が実現可能かを早めに確認する。時間・資源・アクセスが十分かを確認し、少し余裕を残した計画にする。
・特に重要なのは3種類のケース
 ・典型的(typical)なケース
 ・否定・反証(negative / disconfirming)ケース
 ・例外・逸脱(exceptional / discrepant)ケース
これらを意図的に調査することで、概念がより明確になり、サンプリングが狭すぎた場合にも気付くことができる。

データ収集手段(Instrumentation)
説明とその根拠(Description and Rationale)

・データ収集手段(instrumentation):データを収集するための具体的な方法
・質的情報にも量的情報にも対応でき、構造化の程度も、緩やかなものから厳密なものまで様々
・データ収集手段は、出来事を観察・記録するための簡単な記録用具以上の意味を持つ
・Kvale & Brinkmann(2015)は、自由回答型インタビューでは、分析と解釈がインタビューの最中から始まっていると指摘している。 自らの「生活世界(life world)」について語る参加者は、話している最中に新たな関係性やパターンを発見することがある。 一方、インタビュアーも、途中で内容を要約したり、聞いたことを確認したり、省察したりする。 その時点で、意味の流れはすでに凝縮され、解釈されている。 つまり、データは単に収集されるのではなく、共同で構築(coauthored)されるのである。
これまで述べてきたように、「概念的枠組み」「RQ」「サンプリング」はいずれも研究の焦点を定める役割を果たす。
それらは、フィールドワークの前後を通して研究者に方向性を与え、「何を、誰から、なぜ明らかにしたいのか」を明確にする。
・最初に「何を知りたいのか」が定まれば、「どのようにその情報を得るか」 という問いが生じ、その問いが後に分析方法を決定する

【事前データ収集計画における3つの立場】
・事前準備については「ほとんど不要」「大量に必要」「研究によって異なる」という三つの立場がある
2.7

最小限にすべきだという立場 

1. 事前に細かく設計され、構造化されたデータ収集手段は、研究者の視野を現場に対して狭めてしまう
2. 事前に設計されたデータ収集手段は、普遍性、一貫性、比較可能性を重視するあまり、文脈(context)が失われやすい
3. 多くの質的研究は、少人数を対象とした単一ケース研究であり、 そのような研究において、大規模サンプルから効率的で比較可能なデータや統計的分析(パラメトリック解析)のために作られた標準化質問紙、観察チェックリスト、テストは、本当に必要か?_
4. 研究開始時に必要なのは、観察を始めるためのいくつかの方向づけとなる質問(orienting questions)だけで十分な場合もある

ケースによる(It Depends)という立場
・探索的な研究では、研究対象となる社会的状況の構造や力学について、研究開始時点では十分に把握できていないため、最初から詳細な調査票やクローズド形式の調査手法を準備することは適切ではない
・確認的(confirmatory)研究を行う場合には、RQが比較的明確であり、対象となる人・出来事・プロセスの範囲も十分に限定されているため、あらかじめ構造化された調査方法を設計しておける
・一つの研究の中でも、探索的な側面と確認的な側面が共存することは珍しくなく、研究の初期段階では探索的なアプローチが求められ、終盤では確認的なアプローチへと移行していくことも多い
・単一ケース研究では、複数ケース研究ほど事前準備は必要ないが、複数ケース研究では、分析時にケース間比較を行うため、複数のケースを横並びで比較できるよう、ある程度標準化された調査方法が求められる
・純粋な質的研究(freestanding study)は、混合研究法(multimethod study)よりも制約が少ない
・基礎研究(basic study)は、評価研究や政策研究ほど厳密な事前設計を必要としない
・後者では研究の焦点がより限定されるため、データ収集方法も研究対象となる変数により密接に対応させる必要がある。
・ケースをどのように定義するか、そしてどのレベルで分析を行うかにも大きく左右される
 ・例:小学校における教室文化の研究の場合(35教室のうち3教室を集中的に調査するのであれば、比較的柔軟な質問項目から始める方が適切。しかし、教室文化が学校全体の組織文化の中でどのように位置づけられるかまで明らかにしたいのであれば、教師への質問紙調査やグループインタビューのような、より標準化・妥当性の確認された調査手法が必要)
・どのような場合であっても、データ収集方法の種類や量は、概念枠組み・研究課題・サンプリング基準によって決定されるべきで、そうでなければ、本来従うべき研究目的ではなく、調査手法そのものが研究を支配してしまい、その後の分析にも悪影響を及ぼすことになる

データ収集方法に関する助言
1. 研究開始時から、「このRQに答えるには、どのようなデータを集めればよいのか」と考え続けることは、データ収集をより充実したものにする。この問いを常に意識することで、サンプリングの判断が明確になり、概念が整理され、限られた時間の中で何を優先すべきかが見えてくる。また、新たな研究課題や新しい参加者、新しい探究の方向性が見つかった際には、それに応じてデータ収集方法を柔軟に見直す力も身につくだろう。
2. フィールド研究では、人や現場を一度だけ観察するとは限らない。質的研究では、ほとんどの場合、二度目、三度目の機会がある。そのため、事前に準備した調査方法は見直されるべきであり、実際に見直されることが多い。最初の訪問で見えてきた新たな現象に対して、新しい視点から質問し、観察を行うことが重要である。データ収集方法は、新たな発見や修正された研究課題、新たな参加者へのインタビューなどに応じて、継続的に改善していくべきである。
3. 質的研究において、データ収集方法の信頼性は、最終的には研究者自身の力量に大きく依存する。
本質的には、研究者という「人」が観察し、インタビューを行い、記録を取る存在であり、さらにフィールドワークを重ねるごとに、観察方法・インタビュー方法・記録方法そのものも改善・修正していく。
そのため、研究者は自分自身や共同研究者に対して、次のような問いを投げかける必要がある。
 「この人(研究者)は、情報収集のための『調査手段(instrument)』として、どれほど信頼できるのだろうか。」
【優れた「研究者=調査手段(researcher-as-instrument)」であるための指標】
・研究対象となる現象や調査現場について十分な知識と理解を有している
・単一の学問分野や研究方法に偏ることなく、学際的(multidisciplinary)な視点を持ち研究に取り組める
・優れた調査能力を備え、参加者から自然に話を引き出す力があり、細部にまで注意深く目を配ることができる
・調査現場にいる参加者に安心感を与え、困難な状況にも柔軟に対応でき、偏見や先入観をもたずに接する姿勢を持っている
・高い共感力(empathic engagement)を備えつつ、それと同時に高い客観性(objective awareness)とのバランスを保てる
4. 著者らは、優れた質的研究者には次のような特徴があると考えている。研究対象となる現象や現場について十分な知識をもち、一つの学問分野に偏らない学際的な視点をもち、優れた調査技術と人から話を引き出す能力、細部まで注意を払う姿勢を備えていること。また、参加者に対して安心感を与え、困難にも柔軟に対応し、偏見をもたず接する姿勢をもちながら、高い共感性と客観性を両立できることである。

ここまで。
第2章を読んで、質的研究における研究デザインとデータ分析との関係について理解を深めることができました。
特に、「概念的枠組み(conceptual framework)」と「理論的枠組み(theoretical framework)」の違いが整理できたことは大きな収穫でした。これまでは両者をほぼ同義に捉えていましたが、理論的枠組みが既存理論を基盤とした分析の枠組みであるのに対し、概念的枠組みは研究の進行に伴って発展・修正されるものであり、その研究固有の文脈や概念を反映する「進化する地図」であるという考え方を理解することができました。 
また、緩やかな研究デザイン(Loose Research Design)と厳密な研究デザイン(Tight Research Design)、さらには事前データ収集計画(instrumentation)の準備度合いについても、それぞれにメリット・デメリットがあり、特定の立場を絶対視するのではなく、それぞれの特徴を理解した上で、自らの研究目的に最も適した方法を選択することの重要性を改めて認識できました。片方ではなく、両者を理解した上で、統合できるのが理想な気がします。
最後に、質的研究におけるサンプリングに関する考え方が特に印象的でした。これまで自分は、質的研究を行う際、M-GTAを前提に考えていたこともあり、「質的研究では既存理論を前提として研究を進めるべきではない」と理解していました。しかし、本書では、質的サンプリングにはあらかじめ理論に基づいて参加者や事例を選定する場合と、GTAのように研究の進行とともに理論的になっていく場合の両方があることが示されており、質的研究においても一律に理論を排除するのではなく、研究方法や段階に応じて理論を適切に活用するという考え方があると気づけたのが大きな収穫でした。
今後は、研究方法論ごとの前提や目的を十分に理解した上で、自身の研究に最も適したサンプリングや研究デザインを選択していきたいです。

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