前回に引き続き、Case Study Research and Applications: Design and Methods の各章をレビューしていきます。
今回は、Chapter 2:Designing Case Studies: Identifying Your Case(s) and Establishing the Logic of Your Case Study(ケーススタディの設計:ケースの特定とケーススタディの論理の構築)です。
ケースの選定、理論命題、データ収集、分析、一般化、研究の質の保証まで、ケーススタディ研究を成立させる設計全体について説明されています。
以下、ポイントをまとめます。

ケーススタディ設計の基本的アプローチ
・ケーススタディ研究にも、他の研究法と同様に、研究デザインが必要
・しかし、ケーススタディは、 実験研究や調査研究の設計をそのまま利用できるわけではない
・また、ケーススタディを準実験の一種として理解することも誤り
・ケーススタディは、独自の研究デザインを持つ研究法であり、その設計は、ケーススタディ特有の論理に基づいて構築されなければならない

研究デザインの定義
・すべての実証研究には、明示的であるか暗黙的であるかにかかわらず、研究デザインが存在する
・研究デザインとは、最も基本的には、 「実証データを研究課題と結論に論理的につなぐ設計」
・Yinは研究デザインを "a logical plan for getting from here to there" (「ここ(研究開始時点)から、そこ(結論)へ到達するための論理的計画」) と表現している
 ・「here」とは、研究開始時点で研究者が持っている「問題意識」「RQ」である
 ・「there」とは、研究終了時に導かれる「結論」「理論的主張」 である
 ・研究デザインは、その間を埋める「データ収集」「データ分析」「解釈」までを含めた論理を設計する
・研究デザインとは、作業スケジュール(work plan)ではない
 ・重要なのは logistical(実務的)な問題ではなく、logical(論理的)な問題
 ・例:ある企業の競争力を研究する場合、その企業だけからデータを集めても、必要なデータ(競争相手についての情報等)が無ければ、 競争力について適切な結論は導けない。

研究デザインの構成要素5つ
①研究質問(a case study's questions):何を知りたいか
②理論命題(Its propositions):何に注目して研究を進めるか。研究の焦点を決める
 ・理論命題がデータ収集(インタビュー項目)、分析(何を見るか)を導く
 ・理論命題がない探索的研究は例外(その場合でも目的、対象と分析の方向性は必要)
 ・理論命題は、研究者が「何を見るべきか/無視してよいか」「どのデータを収集するか」を決める
 ・ここで求められる理論は、壮大な理論(grand theory)ではなく、「出来事や構造、思考が、なぜ生じるのかを説明するための仮説的なストーリー」(Sutton and Staw, 1995)
③ケース(Its case(s)):ケースとは現実世界に存在する具体的な対象(bounded system)
 ・ケースの定義は途中で考えるものではなく、研究開始時点で定義する
 ・ケースには境界(Boundaries)が存在する(時間、場所、活動等のケースの範囲を明確に)
 ・ケースは様々な単位になり得る(学生、学校、チーム、政策、授業等)
④データと理論命題を結び付ける論理(The logic linking the data to the propositions)
 ・Pattern Matching, Explanation Bulding, Time-Series Analysis, Logic Modelsなどの分析方法がある(Chapter 5で説明)
⑤結果を解釈する基準(The criteria for interpreting the findings)
 ・得られた分析結果をどのような基準で解釈するかを事前に決めておく
※この5要素は互いに関連し、一つでも欠けると、適切なケーススタディ研究デザインとは言えない
※「まずデータを集めて考える」のではなく、研究質問と理論命題を先に明確にする
 →これがGTAとの大きな違い
・ケーススタディにおけるケースの例(FIgure 2.1)
fig2.1

分析的一般化(Analytic Generalization)
・ケーススタディ研究は「ケース数が少なく一般化できない」という批判があるが、それは以下の一般化の2種類を混合していることから生じる
①統計的一般化(Statistical  Generalization)
 ・標本(sample)から母集団(population)へ推論すること
 ・質問紙調査はこの一般化を目的としている
②分析的一般化(Analytic Generalization)
 ・理論への一般化
 ・ケースからより抽象度の高い理論や概念へ推論し、その理論が他のケースにも適用可能かを考える
 ・ケーススタディは、理論を「支持する/修正する/拡張する/否定する」という役割を果たす
 ・ケーススタディ終了後、2つの形を取り得る
  ・①既存理論を支持・修正・発展させる
  ・②新たに生成された理論を提示する

推論の2つのレベル(Figure 2.2)
fig2.2
・レベル1
 ・サーベイ:標本→母集団の特徴(標本から母集団へ推論)
 ・実験:被験者→実験結果
 ・ケーススタディ:ケース→ケーススタディの知見
※ここまでは各研究法固有の成果。さらに抽象度を高めると、理論や政策に繋がる↓
・レベル2
 ・サーベイ:母集団特性→理論→政策への示唆(統計的一般化)
 ・実験:実験結果→理論(分析的一般化)
 ・ケーススタディ:ケーススタディの知見→理論→政策への示唆(分析的一般化)

研究デザインの4つの評価基準とそれを満たすケーススタディの方略(Figure 2.3)
fig2.3
・構成概念妥当性(Construct Validity)
 ・目的:測定したい概念を、適切な方法で正しく測定できているかを確認すること
 ・方略:①複数エビデンスを用いる(インタビュー、観察、文書、アンケート等)
     ②ケースについて詳しい関係者に「事実関係に誤りがないか」を確認してもらう
・内的妥当性(Internal Validity)
 ・目的:なぜその結果が起こったのかという因果関係が妥当かを検討すること
 ・方略:①Pattern Matching:理論で予測されたパターンと実際の結果を比較
     ②Explanation Building:分析を繰り返しながら説明を精緻化
     ③Rival Explanations:他の説明でも説明できないか検討(著者が重視)
     ④Logic Models:原因から結果までのプロセス全体をモデル化する
・External Validity(外的妥当性)
 ・目的:ケーススタディの知見をどこまで一般化できるかを示す
 ・方略:①単一ケース、②複数ケース
・Reliability(信頼性)
 ・目的:同じ方法を使えば別の研究者でも同じ結論に到達できるかを示す
 ・方略:①ケーススタディ・プロトコル:研究手順を詳細に文書化する
     ②ケーススタディ・データベース:集めたデータを整理・保存する
     ③Chain of Evidence:結論に至るまでの流れを追跡可能にする

ケーススタディ研究の基本設計(Figure 2.4)
・ケーススタディ研究の設計を「ケース数」「分析単位」の2軸から整理したもの
fig2.4
・Type1:単一ケース×分析単位1つ(例:1つの大学を1つのケースとして分析)
・Type2:単一ケース×分析単位複数(例:1つのケースだが、学生・教員・チームなど複数の分析単位)
・Type3:複数ケース×分析単位1つ(例:A,B,C大学をそれぞれ1つのケースとして比較)
・Type4:複数ケース×分析単位複数(例:A,B,C大学それぞれで(学生、教員、チーム等)複数単位で分析)

複数ケーススタディの実施手順(Figure 2.5)
fig2.5

①研究設計(Define and Design)
・Yinは、 ケーススタディであっても、 「まず理論ありき」 で研究を始めることを強く推奨
 ・この理論とは、 既存理論でも理論命題(Theoretical Propositions)でもよい
 ・理論が決まることで、 研究全体の方向性が定まる
・その理論をもとに、 Case Selection(ケース選定):どのケースを調査するかを決定する
・複数ケース研究では、 統計的代表性ではなく、Replication Logic(反復論理) に基づきケースを選択
・つまり、理論を検証できるケースを意図的に選ぶ
・データ収集プロトコル作成:全ケースを同じ手順・質問・収集方法で調査するための設計図
②準備、データ収集、分析(Prepare, Collect, and Analyze)
・第1ケースを調査
・ケースレポートを書く:そのケースだけを深く分析する(Within-Case Analysis)
・第2, 3ケース、 残りすべてのケースについても同じ手順を繰り返す
・重要なのは、 各ケースを独立して分析すること
③分析と結論(Analyze and Conclude)
・すべてのケース分析が終わったら、最後にケース間比較を行う
・各ケースを比較し、共通点、相違点、パターン、を抽出(Cross-Case Analysis)
・その結果をもとに、理論を修正
・研究成果から、実務、教育、行政、企業などへの示唆を導く
・最後に、Write Cross-Case Report:複数ケース全体を統合した最終報告書を作成

ここまで。
第2章を読んで、ケーススタディ研究の設計や手順など研究デザイン全体の理解を深めることができました。
ケーススタディ研究=理論命題を起点として研究を設計し、分析的一般化によって理論を発展させることを目的とした研究方法。GTAと違い、理論ありきでスタートできる点がやっぱり印象的。
個人的には複数ケーススタディ研究で次の研究を進めたいと思っていたので、Figure 2.5の複数ケーススタディの実施手順は正に求めていた情報だったので、大変有難い発見でした。(だいたいイメージしていたものと同様で安心しました)
また、研究デザインの4つの評価基準とそれを満たすケーススタディの方略(Figure 2.3)は、査読対応を考える上で非常に重要なポイントだと思いました。論文を書く際にはこの点はしっかり押さえておきたいです。