前回に引き続き、Case Study Research and Applications: Design and Methods の各章をレビューしていきます。
今回は、Chapter 5:ANALYZING CASE STUDY EVIDENCE: HOW TO START YOUR ANALYSIS, YOUR ANALYTIC CHOICES, AND HOW THEY WORK(ケーススタディのエビデンスを分析する――分析をどう始めるか、どの分析方法を選ぶか、そしてそれらはどのように機能するか)です。
本章では、ケーススタディのエビデンスをどのように分析するかを扱う内容です。
分析はケーススタディ研究の中で最も難しく重要な段階です。
著者のYinは、インタビューや観察などで大量のデータを収集しても、明確な分析戦略がなければ信頼できる結論は導けない。そのため、分析を始める前に理論的枠組みを設定し、データをその枠組みに基づいて整理・解釈することが重要であると述べています。
ちなみに、ケーススタディの分析手続きは、統計分析のように十分に定式化されているわけではなく、自動化されたソフトウェアに完全に組み込まれているわけでもないそうで、これが分析を難しくする一方で、過度に制約的な規則に縛られずに済むというケーススタディ研究の長所でもあるとされています。
以下、ポイントをまとめます。
分析戦略の必要性
・ケーススタディの分析は、ケーススタディ研究の中でも特に発展が遅れている領域の一つ
・多くの研究者は、収集したエビデンスをどのように分析するのかについて明確な考えを持たないまま研究を開始するため、データ収集後の分析段階で作業が停滞する
・統計分析には一定の公式や標準的手順があるが、ケーススタディ分析には、そのまま適用できる定型的なレシピが少なく、分析の質は研究者自身の次の能力に大きく依存する
・厳密に経験的に考える能力
・エビデンスを十分に提示する能力
・別の解釈や競合する説明を慎重に検討する能力
・データのどこに注目すべきかを判断する能力
・分析ツールは役立つが、それ自体が分析結果を生み出すわけではない
・ツールが最も役に立つのは、研究者がすでに「何を探すのか」「何を明らかにしたいのか」という分析戦略を持っている場合
ケーススタディのデータ分析をどのように始めるか
・Yinは、データから始めるよりも、まずRQから始める方法を提示
(基本的な手順)
①ケーススタディ・プロトコルなどに記載した小さなRQを一つ選ぶ
②その問いに関連するエビデンスを特定する
③エビデンスの重みに基づき、暫定的な結論を導く
④その結論を読者が検討できるように、エビデンスの表示方法を考える
⑤次に、より大きなRQへ進む
⑥最終的に主要なRQすべてについて同じ作業を繰り返す
・重要なのは、問いとエビデンスと結論を明示的につなぐこと
・単に逐語録を読みながら印象的な発言を拾うだけではなく、
「RQ→関連するエビデンス→エビデンスの解釈→暫定的結論」
という流れを意識する必要がある。
分析戦略を開始する
・分析の初期段階では、データを「いじってみる」ことも有効。「いじる」とは、無計画にデータを眺めることではなく、データを異なる形で並べたり比較したりしながら、有望なパターン、洞察、概念を探すことを意味する
・Yinは、Miles and Hubermanを参照し、次のような方法を挙げている
①情報を異なる配列に整理する:テーマやサブテーマごとにデータを分類
②対照的なカテゴリーマトリックスを作る:対照的な分類軸を設定し、その中にエビデンスを配置
③視覚的なDisplayを作る:フローチャート、概念図、因果関係図などを作成
④出来事の頻度を表にする:特定の行動や出来事が何度出現したかを数える
⑤時系列または一定の順序で並べる:出来事を時間順に整理する
・分析メモの作成:著者は早い段階から分析メモを作成することを推奨
・例:パターン、共通点、例外、既存理論との関連、エビデンス(理論命題を指示、反する)、コード同士の関係、追加で検討すべき問い
・分析は循環的に進む:分析者は次の要素間を行き来する(RQ↔︎データ↔︎解釈↔︎暫定的知見↔︎結論)
4つの一般的分析戦略(Four Genreral Strategies)
・戦略①:理論命題に依拠する(Relying on theoretical propositions)
・戦略②:データから積み上げる(Working your data from the "ground up")
・戦略③:ケース記述を作成(Developing a case description)
・戦略④:もっともらしい競合説明を検討(Examining plausible rival explanations)
※これらは複数を組み合わせて使用できる
戦略①:理論命題に依拠する
・ケーススタディを開始する際に設定した理論命題に従って分析する方法
・理論命題に依拠するとは、データを既存理論に無理に当てはめることではない
・理論命題は、「どこを見るか」「どのデータを優先するか」「どの関係を検討するか」を示す指針
・データが理論命題と合わない場合には、理論を修正したり、別の説明を考えたりする
戦略②:データから積み上げる
・理論命題から始めるのではなく、データを詳しく検討する中で概念やパターンを発見する帰納的方法
・データの中に現れた有望な概念、関係、カテゴリーを起点に分析
・GTAに近いが、著者はケーススタディ研究でも利用できると主張
・定量データも帰納的発見に利用できる(例:高変化群では◯◯が多い等)
・定量とケース全体の語りや文脈と結びつけて解釈
戦略③:ケース記述を作成する
・一定の記述的枠組みに沿ってケーススタディを整理する方法
・記述的枠組みとは、ケースについて何をどの順序で記述するかを定めた構成
・記述は説明につながり得る(出来事を記述し、整理する中で、説明すべきパターンが見える)
・以下のような場面に役立つ
・事前に明確な理論命題を設定できなかった
・大量のデータを収集したが、分析の焦点が定まらない
・データから有力な概念を十分に見いだせない
・まずケースを体系的に整理する必要がある
戦略④:もっともらしい競合説明を検討
・研究結果に対する別の説明(競合説明)を設定し、それを検討する方法
・上記3つの戦略と組み合わせて使用できる
・理論命題の中に競合仮説を含める
・データから競合する概念を帰納的に見出す
・ケース記述の中で別の解釈を提示する

5つの分析技法
著者は、ケーススタディの分析に用いる主要な技法として、次の5つを挙げています。
・①パターン・マッチング(Pattern Matching)
・②説明構築(Explanation Building)
・③時系列分析(Time-Series Analysis)
・④ロジックモデル(Logic Models)
・⑤クロスケース統合(Cross-Case Synthesis)
①パターン・マッチング(Pattern Matching)
・パターン・マッチングとは、ケーススタディから得られた経験的パターンと、データ収集前に理論や理論命題から予測していた予測パターンを比較する技法
・両者が一致すれば、ケーススタディの説明力が高まり、とりわけ説明的ケーススタディにおける内的妥当性を強化できる
・例:ある分散型コンピュータシステムを導入した組織について、事前に次のようなパターンを予測
・従業員が独自のアプリケーションを開発する
・従来の管理・監督関係が弱まる
・組織内の対立が増える
・従業員の生産性が向上する
・実際の調査結果が、この4つの予測におおむね一致すれば、分散型システムが組織に与える影響についての理論命題は支持される
・一方、結果の一部しか一致しない場合には、当初の理論命題を再検討しなければならない
・著者は、個々の要素をばらばらに確認するだけでなく、全体としてのパターンが一致しているかを重視
プロセスと結果のパターン・マッチング
・ケーススタディでは、結果だけでなく、その結果に至ったプロセスも比較対象となる
・つまり、次のような問いを検討
・どのような出来事が起こったのか
・どのような順序で起こったのか
・なぜその結果に至ったのか
・予測されたプロセスと実際のプロセスは一致したか
・そのため、単に「効果があったか」を確認するのではなく、どのように、なぜ効果が生じたのかを、理論的に予測されたパターンと照合する
直接的追試と理論的追試
・複数ケースを扱う場合、パターン・マッチングは追試の論理と結びつく
直接的追試(Literal replication)
・同じ条件を持つ複数のケースにおいて、同様のパターンが繰り返し確認されること
・例:同じような分散型システムを導入した複数の組織で、同じような結果が得られる場合に該当
理論的追試(Theoretical replication)
・異なる条件を持つケースにおいて、理論上予測されたとおりに異なる結果が生じること
・例:分散型システムを導入した組織と中央集権型システムを導入した組織を比較し、それぞれについて予測どおりに異なるパターンが確認されれば該当
競合説明に対するパターン・マッチング(Pattern matching for rival explanations)
・パターン・マッチングでは、当初の理論だけでなく、競合する別の説明も比較対象にする必要がある
・例:組織変化が新しい情報システムによって生じたのではなく、新任経営者のリーダーシップによって生じた可能性がある。この場合、次の2つのパターンを比較する。
・情報システムによって生じると予測されるパターン
・新任経営者によって生じると予測されるパターン
・実際のデータがどちらのパターンにより適合するかを検討することで、競合説明を支持または棄却する
・複数ケースなら、あるケースでは存在する競合要因が、別のケースには存在しないという比較も可能
・その場合、競合要因だけでは両方のケースを説明できないことを示せる
パターン・マッチングの精度 (Precision of pattern matching )
・パターン・マッチングは、必ずしも統計的検定を伴うものではない
・ケーススタディでは、各ケースの構成要素が単一の観察点となることが多く、統計分析に必要な十分な分散が得られない場合がある
・ただし、あらかじめ明確な基準を設定することは可能(以下、例)
・生産性が10%以上向上する
・予定した4つのプロセスのうち3つ以上が確認される
・特定の出来事が一定の順序で起こる
著者は、精密な基準が設定できない場合には、あまりに微妙なパターンを主張するのではなく、誰が見ても分かりやすい大きな一致または不一致を扱うべきと主張
②説明構築(Explanation Building)
・説明構築は、パターン・マッチングの一種だが、より複雑な技法
・目的は、ケースについての説明を段階的に組み立てること
・政治学などで用いられるプロセス・トレーシングと近い考え方
・説明的ケーススタディに特に適しており、ある現象について、以下を明らかにする
・なぜ起こったのか
・どのように起こったのか
・どのような因果的連鎖が存在したのか
説明の構成要素(Elements of explanations )
・現象を説明するとは、ある結果が生じるまでの推定された因果的な出来事の連鎖を示すことで
例:「政策変更 → 地域組織の形成 → 住民参加の増加 → 行動変容 → 政策成果」というように、複数の出来事がどのようにつながったかを説明
・ケーススタディでは、この因果関係を必ずしも数式や統計モデルだけで表現するわけではなく、詳細な記述やエビデンスに基づく論証によって構築する
説明構築の反復的性質(Iterative nature of explanation building)
・説明構築は、一度で完成するものではない
・著者は、次のような反復過程を示す
①暫定的な理論的説明または説明命題を設定
②ケースのデータと、その説明命題を比較
③当初の説明命題を修正
④ケースの別の証拠を、修正した説明と再度比較する
⑤複数ケース研究であれば、修正した説明を第2、第3のケースと比較
⑥必要な限り、この作業を繰り返す
・当初の理論から出発する演繹的過程と、データから新たな説明を導く帰納的過程の両方を含む
・パターン・マッチングとの違い
・パターン・マッチング:原則として、事前に予測したパターンと実際のパターンを比較
・説明構築:分析の途中で理論命題や説明を修正しながら、より妥当な説明を段階的に形成
・説明構築はより柔軟だが、分析者の判断が入りやすいため、次の問題にも注意する必要がある
・当初の研究課題から逸脱する
・都合のよいエイビデンスだけを選ぶ
・後付けで説明を構築する
・競合説明を無視する
・これを避けるためには、エビデンスの連鎖を明確にし、説明の修正過程を記録し、競合説明も検討する必要がある
③時系列分析(Time-Series Analysis)
・時系列分析とは、時間の経過に伴って変化する事象や指標を追跡し、その変化のパターンを理論的に予測されたパターンと比較する技法
・ケーススタディの強みの一つは、出来事を時間軸に沿って追跡できる点にある
・時系列分析では、「いつ何が起こったか」だけでなく、時間的変化を通して「どのように」「なぜ」結果が生じたかを分析する
単純時系列(Simple time series )
・単純時系列では、1つの主要な指標を複数の時点で測定(以下、例)
・犯罪件数の年次変化 学生の成績の推移
・雇用率の変化
・住宅価格の変化
・政策導入前後の成果指標
・重要:観察された時系列パターンを、あらかじめ予測したパターンまたは競合するパターンと比較する
・例:政策導入後に犯罪が減少すると予測していた場合、以下を確認する
・政策導入前の犯罪率
・導入時点
・導入後の犯罪率
・他の社会的変化
・代替的な説明
・単に政策後に犯罪率が下がっただけでは、政策による因果効果とは断定できない。犯罪率が政策導入以前から低下していた可能性や、別の政策・景気・人口変動の影響も検討しなければならない。
複雑時系列(Complex time series)
・実際の社会現象は、単純な上昇または下降ではなく、より複雑な変化を示す場合がある(以下、例)
・上昇した後に下降する
・一時的に上昇し、その後横ばいになる
・複数の指標が異なる動きをする
・政策効果が一定期間後に現れる
・ケースによって変化の方向が異なる
・複雑な予測パターンと実際のデータが一致すれば、単純なパターンの一致よりも理論命題への強いエビデンスとなる
・また、埋め込み型ケーススタディでは、ケース全体を質的に分析しながら、その内部の分析単位について定量的な時系列分析を行うこともできる
・例:学校区全体をケースとし、生徒の得点推移を埋め込み単位として統計分析する方法がある
時系列的順序(Chronological sequences)
・ケーススタディでは、出来事を年代順に並べること自体が分析技法となる
・重要:理論が予測する因果的な順序と、実際の出来事の順序を比較すること
・例:理論上、「チーム形成 → 役割分担 → 対立 → 対話 → 役割の再調整 → 成果の改善」という順序を想定している場合、この順序が実際に確認されたかを検討
・著者は、時系列的な因果関係について次のような条件を示している
・ある出来事は、別の出来事より先に起こらなければならない
・ある出来事は、特定の出来事の後にのみ起こる
・一定の時間間隔を経た後に起こる出来事がある
・特定の期間には、それ以前とは異なる種類の出来事が起こる
・理論や因果命題を持たずに出来事を時系列で並べるだけでは、説明力を持たない年代記にとどまる
④ロジックモデル(Logic Models)
・ロジックモデルは、一定期間にわたって生じる複雑な出来事の連鎖を、原因と結果の連続として図式化し、実際の出来事と比較する分析技法
・基本的には、次のような連鎖を想定(資源→活動→直接的成果→中間的成果→ 最終的成果)
・ロジックモデルは、政策評価、プログラム評価、組織変革、地域開発などの分析に有用
・通常の実験では、介入と最終結果の関係のみを検討し、その間のプロセスを十分に扱わない場合
・「介入を行った → 成績が向上した」:これだけでは、なぜ成績が向上したかは分からない
・ロジックモデルでは、介入から成果に至る中間段階を明らかにする
・「新しい授業活動→生徒同士の協働時間増加→内容理解と満足度向上→重要概念の習得→成績向上
・結果に至る過程を分析することで、介入と成果の間にある「ブラックボックス」を開くことができる
・ロジックモデルは、理論的に予測された出来事の連鎖と、観察された出来事の連鎖を比較するため、広義にはパターン・マッチングの一種だが、複数段階の因果連鎖を扱うため、独立した分析技法として扱う
個人レベルのロジックモデル(Individual-level logic model)
・個人の行動や発達の経路を分析するモデル
・例:「不利な社会経済的環境→リスク状態→非行集団への参加→薬物使用→犯罪行動」
・この連鎖のどの段階で、どのような介入が進行を防止できるかも分析

Figure 5.2 Youth Behavior and 11 Possible Interventions
・若者が不利な社会経済的条件から、非行や犯罪に至る可能性のある経路(個人レベルのロジックモデル例)
組織レベルのロジックモデル(Organizational-level logic model)
・一つの組織における変革過程を分析
・例:「外部支援→組織能力の向上→業務実践の変化→生産工程の改善→業績の向上」
・ここでは、当初の理論だけでなく、競合する説明もモデルに含めることができる

Figure 5.3 Changes in Performance in a Manufacturing Firm
・製造企業における業績変化(組織レベルのロジックモデル例)
プログラムレベルのロジックモデル(Program-level logic model)
・公共政策や社会プログラムについて、投入された資源がどのような活動や成果につながったかを分析
・例:「資金・技術支援→地域計画の策定→予防活動の実施→行動変容→疾病発生率の低下」

Figure 5.4 Improving Community Planning for HIV/AIDS Prevention
(プログラムレベルのロジックモデル例)
ロジックモデルを精緻化(Sharpening your use of logic models)
・著者は、ロジックモデルを箱の並びだけで理解してはいけないと指摘
・重要:箱そのものよりも、箱と箱を結ぶ矢印。つまり、以下を説明しなければならない。
・どのように次の段階へ移行したのか
・なぜ前段階が後段階を生じさせたのか
・その移行を示す証拠は何か

Figure 5.5 Highlighting Transitions, Not Just Activities
活動だけでなく、トランジションを強調する(箱そのものだけでなく、移行過程が重要な例)
・さらに、ケース外部にある文脈条件や競合介入にも注意する必要がある
・例:組織文化、家庭環境、経済情勢、法制度、他の教育プログラム、教員の経験、学生の既有能力、これらが、対象とする介入以上に結果を左右している可能性がある

Figure 5.6 Attending to Contextual Conditions and Rivals
・文脈条件と競合要因への注目(ケースを取り巻く文脈と別の競合要因を含む例)
⑤クロスケース統合(Cross-Case Synthesis)
・クロスケース統合は、複数ケース研究だけに適用される分析技法
・各ケースを独立したケーススタディとして分析した後、ケース間で結果やプロセスを比較し、共通点、相違点、直接的追試、理論的追試を明らかにする
・ケースを変数に分解しない
・著者が、クロスケース統合を通常の統計的なデータ集約と混同しないよう特に強調
・量的研究では、個人やケースを複数の変数に分解し、変数ごとに集計することが多いが、クロスケース統合でケースを変数に分解してしまうと、各ケースが持つ文脈や全体性が失われる
・そのため、Yinはvariable-based approachではなく、case-based approachを推奨
ケース基盤型アプローチ(case-based approach)
・ケース基盤型アプローチでは、まずそれぞれのケース内部のパターンを明らかにする
①各ケースを個別に分析する
②各ケースの主要な結果、プロセス、文脈をまとめる
③ケース間で共通するパターンを探す
④異なるパターンが生じた理由を検討する
⑤直接的追試または理論的追試として解釈する
・例:7人を7ケースとして読書行動を研究する場合
・最初から年齢・性別・読書時間などの変数を横断的に集計するのではない
・まず、各人がどのように読書方略を選び、実行し、結果に至ったかをケースごとに検討
・その後、ケース間で類似したプロセスや異なるプロセスを比較
クロスケース統合の進め方
①各ケース内分析(Within-case analysis)
・ケースごとに、独立した分析と結論を作成
②ケース間比較(Cross-case comparison)
・各ケースで明らかになったパターンを比較
③ 追試の論理(Replication logic)
・同じ条件下で同様の結果が確認された場合は直接的追試、異なる条件下で予測どおり異なる結果が確認された場合は理論的追試と判断
④上位概念化(Higher-level conceptualization)
・単なる共通点の列挙にとどまらず、ケース間のパターンを説明する、より上位の概念や理論を形成
・著者は、クロスケース統合では個別変数の水準へ「下りる」のではなく、複数ケースの知見から、より高い概念的水準へ「上がる」ことが重要だと主張
ケースの差異への対応
・複数ケースは完全に同一ではないため、ケース間の違いが分析結果を汚染していないかを検討する必要
・例:制度的環境、年齢、組織文化、教員の関与、実施期間、ケースへのアクセス、ケース選定の理由、などの違いが、共通した結論を弱める可能性
・ただし、すべての違いを扱う必要はなく、主要な結論を脅かす可能性のある違いを重点的に検討する
クロスケース統合と一般化
・クロスケース統合は、数値的な集計によって結論を出すのではなく、エビデンスに基づく論証によって分析的一般化を目指す
・したがって、必要なのは以下を明確に示すこと
・ケース間で繰り返し確認されたパターン
・予測された相違
・文脈条件の影響
・競合説明の検討
・理論命題との対応
ここまで。
ケーススタディの分析手法の全体像を理解するのに大変参考になった章でした。特に以下の3つ。
・ケーススタディ分析の基本的な手順(6ステップ)
・4つの一般的分析戦略(理論命題に依拠、データから積み上げ、ケース記述作成、競合説明検討)
・5つの分析技法(パターン・マッチング、説明構築、時系列分析、ロジックモデル、クロスケース統合)
※5つの分析技法は重要だと思ったので、違いを理解できるよう表で簡単にまとめてみました。

これらを踏まえ、自分の研究計画と照らし合わせてみると、3つの分析技法の組み合わせることになりそうだと思いました。
・クロスケース分析(複数ケースの比較)※これがメイン
・説明構築(どのような経験が◯◯の向上につながったのかを説明)
・パターンマッチング(既存理論との共通点・相違点などをチェック)
また、クロスケース分析について、自分なりの比喩ですが、縦横の糸で表現できるなと思いました。
Yinは、量的研究のように変数にしてしまわず、ケースベースで文脈を保持したまま分析することが重要だと述べています。要素毎にぶつ切りにせず、ストーリーとしての繋がりを重視する。これが横糸。
一方、クロスケース分析では、複数ケースを並べ、それぞれのストーリー全体を比較しながら共通点や相違点等を分析する。これが縦糸。
つまり、まず、個々のケースで横糸を編み、次に複数ケースを並べて縦糸を編み、全体像を織り上げていくイメージです。このように考えると、クロスケース分析をかなり鮮明にイメージすることができました。スッキリです。
今回は、Chapter 5:ANALYZING CASE STUDY EVIDENCE: HOW TO START YOUR ANALYSIS, YOUR ANALYTIC CHOICES, AND HOW THEY WORK(ケーススタディのエビデンスを分析する――分析をどう始めるか、どの分析方法を選ぶか、そしてそれらはどのように機能するか)です。
本章では、ケーススタディのエビデンスをどのように分析するかを扱う内容です。
分析はケーススタディ研究の中で最も難しく重要な段階です。
著者のYinは、インタビューや観察などで大量のデータを収集しても、明確な分析戦略がなければ信頼できる結論は導けない。そのため、分析を始める前に理論的枠組みを設定し、データをその枠組みに基づいて整理・解釈することが重要であると述べています。
ちなみに、ケーススタディの分析手続きは、統計分析のように十分に定式化されているわけではなく、自動化されたソフトウェアに完全に組み込まれているわけでもないそうで、これが分析を難しくする一方で、過度に制約的な規則に縛られずに済むというケーススタディ研究の長所でもあるとされています。
以下、ポイントをまとめます。
分析戦略の必要性
・ケーススタディの分析は、ケーススタディ研究の中でも特に発展が遅れている領域の一つ
・多くの研究者は、収集したエビデンスをどのように分析するのかについて明確な考えを持たないまま研究を開始するため、データ収集後の分析段階で作業が停滞する
・統計分析には一定の公式や標準的手順があるが、ケーススタディ分析には、そのまま適用できる定型的なレシピが少なく、分析の質は研究者自身の次の能力に大きく依存する
・厳密に経験的に考える能力
・エビデンスを十分に提示する能力
・別の解釈や競合する説明を慎重に検討する能力
・データのどこに注目すべきかを判断する能力
・分析ツールは役立つが、それ自体が分析結果を生み出すわけではない
・ツールが最も役に立つのは、研究者がすでに「何を探すのか」「何を明らかにしたいのか」という分析戦略を持っている場合
ケーススタディのデータ分析をどのように始めるか
・Yinは、データから始めるよりも、まずRQから始める方法を提示
(基本的な手順)
①ケーススタディ・プロトコルなどに記載した小さなRQを一つ選ぶ
②その問いに関連するエビデンスを特定する
③エビデンスの重みに基づき、暫定的な結論を導く
④その結論を読者が検討できるように、エビデンスの表示方法を考える
⑤次に、より大きなRQへ進む
⑥最終的に主要なRQすべてについて同じ作業を繰り返す
・重要なのは、問いとエビデンスと結論を明示的につなぐこと
・単に逐語録を読みながら印象的な発言を拾うだけではなく、
「RQ→関連するエビデンス→エビデンスの解釈→暫定的結論」
という流れを意識する必要がある。
分析戦略を開始する
・分析の初期段階では、データを「いじってみる」ことも有効。「いじる」とは、無計画にデータを眺めることではなく、データを異なる形で並べたり比較したりしながら、有望なパターン、洞察、概念を探すことを意味する
・Yinは、Miles and Hubermanを参照し、次のような方法を挙げている
①情報を異なる配列に整理する:テーマやサブテーマごとにデータを分類
②対照的なカテゴリーマトリックスを作る:対照的な分類軸を設定し、その中にエビデンスを配置
③視覚的なDisplayを作る:フローチャート、概念図、因果関係図などを作成
④出来事の頻度を表にする:特定の行動や出来事が何度出現したかを数える
⑤時系列または一定の順序で並べる:出来事を時間順に整理する
・分析メモの作成:著者は早い段階から分析メモを作成することを推奨
・例:パターン、共通点、例外、既存理論との関連、エビデンス(理論命題を指示、反する)、コード同士の関係、追加で検討すべき問い
・分析は循環的に進む:分析者は次の要素間を行き来する(RQ↔︎データ↔︎解釈↔︎暫定的知見↔︎結論)
4つの一般的分析戦略(Four Genreral Strategies)
・戦略①:理論命題に依拠する(Relying on theoretical propositions)
・戦略②:データから積み上げる(Working your data from the "ground up")
・戦略③:ケース記述を作成(Developing a case description)
・戦略④:もっともらしい競合説明を検討(Examining plausible rival explanations)
※これらは複数を組み合わせて使用できる
戦略①:理論命題に依拠する
・ケーススタディを開始する際に設定した理論命題に従って分析する方法
・理論命題に依拠するとは、データを既存理論に無理に当てはめることではない
・理論命題は、「どこを見るか」「どのデータを優先するか」「どの関係を検討するか」を示す指針
・データが理論命題と合わない場合には、理論を修正したり、別の説明を考えたりする
戦略②:データから積み上げる
・理論命題から始めるのではなく、データを詳しく検討する中で概念やパターンを発見する帰納的方法
・データの中に現れた有望な概念、関係、カテゴリーを起点に分析
・GTAに近いが、著者はケーススタディ研究でも利用できると主張
・定量データも帰納的発見に利用できる(例:高変化群では◯◯が多い等)
・定量とケース全体の語りや文脈と結びつけて解釈
戦略③:ケース記述を作成する
・一定の記述的枠組みに沿ってケーススタディを整理する方法
・記述的枠組みとは、ケースについて何をどの順序で記述するかを定めた構成
・記述は説明につながり得る(出来事を記述し、整理する中で、説明すべきパターンが見える)
・以下のような場面に役立つ
・事前に明確な理論命題を設定できなかった
・大量のデータを収集したが、分析の焦点が定まらない
・データから有力な概念を十分に見いだせない
・まずケースを体系的に整理する必要がある
戦略④:もっともらしい競合説明を検討
・研究結果に対する別の説明(競合説明)を設定し、それを検討する方法
・上記3つの戦略と組み合わせて使用できる
・理論命題の中に競合仮説を含める
・データから競合する概念を帰納的に見出す
・ケース記述の中で別の解釈を提示する

5つの分析技法
著者は、ケーススタディの分析に用いる主要な技法として、次の5つを挙げています。
・①パターン・マッチング(Pattern Matching)
・②説明構築(Explanation Building)
・③時系列分析(Time-Series Analysis)
・④ロジックモデル(Logic Models)
・⑤クロスケース統合(Cross-Case Synthesis)
①パターン・マッチング(Pattern Matching)
・パターン・マッチングとは、ケーススタディから得られた経験的パターンと、データ収集前に理論や理論命題から予測していた予測パターンを比較する技法
・両者が一致すれば、ケーススタディの説明力が高まり、とりわけ説明的ケーススタディにおける内的妥当性を強化できる
・例:ある分散型コンピュータシステムを導入した組織について、事前に次のようなパターンを予測
・従業員が独自のアプリケーションを開発する
・従来の管理・監督関係が弱まる
・組織内の対立が増える
・従業員の生産性が向上する
・実際の調査結果が、この4つの予測におおむね一致すれば、分散型システムが組織に与える影響についての理論命題は支持される
・一方、結果の一部しか一致しない場合には、当初の理論命題を再検討しなければならない
・著者は、個々の要素をばらばらに確認するだけでなく、全体としてのパターンが一致しているかを重視
プロセスと結果のパターン・マッチング
・ケーススタディでは、結果だけでなく、その結果に至ったプロセスも比較対象となる
・つまり、次のような問いを検討
・どのような出来事が起こったのか
・どのような順序で起こったのか
・なぜその結果に至ったのか
・予測されたプロセスと実際のプロセスは一致したか
・そのため、単に「効果があったか」を確認するのではなく、どのように、なぜ効果が生じたのかを、理論的に予測されたパターンと照合する
直接的追試と理論的追試
・複数ケースを扱う場合、パターン・マッチングは追試の論理と結びつく
直接的追試(Literal replication)
・同じ条件を持つ複数のケースにおいて、同様のパターンが繰り返し確認されること
・例:同じような分散型システムを導入した複数の組織で、同じような結果が得られる場合に該当
理論的追試(Theoretical replication)
・異なる条件を持つケースにおいて、理論上予測されたとおりに異なる結果が生じること
・例:分散型システムを導入した組織と中央集権型システムを導入した組織を比較し、それぞれについて予測どおりに異なるパターンが確認されれば該当
競合説明に対するパターン・マッチング(Pattern matching for rival explanations)
・パターン・マッチングでは、当初の理論だけでなく、競合する別の説明も比較対象にする必要がある
・例:組織変化が新しい情報システムによって生じたのではなく、新任経営者のリーダーシップによって生じた可能性がある。この場合、次の2つのパターンを比較する。
・情報システムによって生じると予測されるパターン
・新任経営者によって生じると予測されるパターン
・実際のデータがどちらのパターンにより適合するかを検討することで、競合説明を支持または棄却する
・複数ケースなら、あるケースでは存在する競合要因が、別のケースには存在しないという比較も可能
・その場合、競合要因だけでは両方のケースを説明できないことを示せる
パターン・マッチングの精度 (Precision of pattern matching )
・パターン・マッチングは、必ずしも統計的検定を伴うものではない
・ケーススタディでは、各ケースの構成要素が単一の観察点となることが多く、統計分析に必要な十分な分散が得られない場合がある
・ただし、あらかじめ明確な基準を設定することは可能(以下、例)
・生産性が10%以上向上する
・予定した4つのプロセスのうち3つ以上が確認される
・特定の出来事が一定の順序で起こる
著者は、精密な基準が設定できない場合には、あまりに微妙なパターンを主張するのではなく、誰が見ても分かりやすい大きな一致または不一致を扱うべきと主張
②説明構築(Explanation Building)
・説明構築は、パターン・マッチングの一種だが、より複雑な技法
・目的は、ケースについての説明を段階的に組み立てること
・政治学などで用いられるプロセス・トレーシングと近い考え方
・説明的ケーススタディに特に適しており、ある現象について、以下を明らかにする
・なぜ起こったのか
・どのように起こったのか
・どのような因果的連鎖が存在したのか
説明の構成要素(Elements of explanations )
・現象を説明するとは、ある結果が生じるまでの推定された因果的な出来事の連鎖を示すことで
例:「政策変更 → 地域組織の形成 → 住民参加の増加 → 行動変容 → 政策成果」というように、複数の出来事がどのようにつながったかを説明
・ケーススタディでは、この因果関係を必ずしも数式や統計モデルだけで表現するわけではなく、詳細な記述やエビデンスに基づく論証によって構築する
説明構築の反復的性質(Iterative nature of explanation building)
・説明構築は、一度で完成するものではない
・著者は、次のような反復過程を示す
①暫定的な理論的説明または説明命題を設定
②ケースのデータと、その説明命題を比較
③当初の説明命題を修正
④ケースの別の証拠を、修正した説明と再度比較する
⑤複数ケース研究であれば、修正した説明を第2、第3のケースと比較
⑥必要な限り、この作業を繰り返す
・当初の理論から出発する演繹的過程と、データから新たな説明を導く帰納的過程の両方を含む
・パターン・マッチングとの違い
・パターン・マッチング:原則として、事前に予測したパターンと実際のパターンを比較
・説明構築:分析の途中で理論命題や説明を修正しながら、より妥当な説明を段階的に形成
・説明構築はより柔軟だが、分析者の判断が入りやすいため、次の問題にも注意する必要がある
・当初の研究課題から逸脱する
・都合のよいエイビデンスだけを選ぶ
・後付けで説明を構築する
・競合説明を無視する
・これを避けるためには、エビデンスの連鎖を明確にし、説明の修正過程を記録し、競合説明も検討する必要がある
③時系列分析(Time-Series Analysis)
・時系列分析とは、時間の経過に伴って変化する事象や指標を追跡し、その変化のパターンを理論的に予測されたパターンと比較する技法
・ケーススタディの強みの一つは、出来事を時間軸に沿って追跡できる点にある
・時系列分析では、「いつ何が起こったか」だけでなく、時間的変化を通して「どのように」「なぜ」結果が生じたかを分析する
単純時系列(Simple time series )
・単純時系列では、1つの主要な指標を複数の時点で測定(以下、例)
・犯罪件数の年次変化 学生の成績の推移
・雇用率の変化
・住宅価格の変化
・政策導入前後の成果指標
・重要:観察された時系列パターンを、あらかじめ予測したパターンまたは競合するパターンと比較する
・例:政策導入後に犯罪が減少すると予測していた場合、以下を確認する
・政策導入前の犯罪率
・導入時点
・導入後の犯罪率
・他の社会的変化
・代替的な説明
・単に政策後に犯罪率が下がっただけでは、政策による因果効果とは断定できない。犯罪率が政策導入以前から低下していた可能性や、別の政策・景気・人口変動の影響も検討しなければならない。
複雑時系列(Complex time series)
・実際の社会現象は、単純な上昇または下降ではなく、より複雑な変化を示す場合がある(以下、例)
・上昇した後に下降する
・一時的に上昇し、その後横ばいになる
・複数の指標が異なる動きをする
・政策効果が一定期間後に現れる
・ケースによって変化の方向が異なる
・複雑な予測パターンと実際のデータが一致すれば、単純なパターンの一致よりも理論命題への強いエビデンスとなる
・また、埋め込み型ケーススタディでは、ケース全体を質的に分析しながら、その内部の分析単位について定量的な時系列分析を行うこともできる
・例:学校区全体をケースとし、生徒の得点推移を埋め込み単位として統計分析する方法がある
時系列的順序(Chronological sequences)
・ケーススタディでは、出来事を年代順に並べること自体が分析技法となる
・重要:理論が予測する因果的な順序と、実際の出来事の順序を比較すること
・例:理論上、「チーム形成 → 役割分担 → 対立 → 対話 → 役割の再調整 → 成果の改善」という順序を想定している場合、この順序が実際に確認されたかを検討
・著者は、時系列的な因果関係について次のような条件を示している
・ある出来事は、別の出来事より先に起こらなければならない
・ある出来事は、特定の出来事の後にのみ起こる
・一定の時間間隔を経た後に起こる出来事がある
・特定の期間には、それ以前とは異なる種類の出来事が起こる
・理論や因果命題を持たずに出来事を時系列で並べるだけでは、説明力を持たない年代記にとどまる
④ロジックモデル(Logic Models)
・ロジックモデルは、一定期間にわたって生じる複雑な出来事の連鎖を、原因と結果の連続として図式化し、実際の出来事と比較する分析技法
・基本的には、次のような連鎖を想定(資源→活動→直接的成果→中間的成果→ 最終的成果)
・ロジックモデルは、政策評価、プログラム評価、組織変革、地域開発などの分析に有用
・通常の実験では、介入と最終結果の関係のみを検討し、その間のプロセスを十分に扱わない場合
・「介入を行った → 成績が向上した」:これだけでは、なぜ成績が向上したかは分からない
・ロジックモデルでは、介入から成果に至る中間段階を明らかにする
・「新しい授業活動→生徒同士の協働時間増加→内容理解と満足度向上→重要概念の習得→成績向上
・結果に至る過程を分析することで、介入と成果の間にある「ブラックボックス」を開くことができる
・ロジックモデルは、理論的に予測された出来事の連鎖と、観察された出来事の連鎖を比較するため、広義にはパターン・マッチングの一種だが、複数段階の因果連鎖を扱うため、独立した分析技法として扱う
個人レベルのロジックモデル(Individual-level logic model)
・個人の行動や発達の経路を分析するモデル
・例:「不利な社会経済的環境→リスク状態→非行集団への参加→薬物使用→犯罪行動」
・この連鎖のどの段階で、どのような介入が進行を防止できるかも分析

Figure 5.2 Youth Behavior and 11 Possible Interventions
・若者が不利な社会経済的条件から、非行や犯罪に至る可能性のある経路(個人レベルのロジックモデル例)
組織レベルのロジックモデル(Organizational-level logic model)
・一つの組織における変革過程を分析
・例:「外部支援→組織能力の向上→業務実践の変化→生産工程の改善→業績の向上」
・ここでは、当初の理論だけでなく、競合する説明もモデルに含めることができる

Figure 5.3 Changes in Performance in a Manufacturing Firm
・製造企業における業績変化(組織レベルのロジックモデル例)
プログラムレベルのロジックモデル(Program-level logic model)
・公共政策や社会プログラムについて、投入された資源がどのような活動や成果につながったかを分析
・例:「資金・技術支援→地域計画の策定→予防活動の実施→行動変容→疾病発生率の低下」

Figure 5.4 Improving Community Planning for HIV/AIDS Prevention
(プログラムレベルのロジックモデル例)
ロジックモデルを精緻化(Sharpening your use of logic models)
・著者は、ロジックモデルを箱の並びだけで理解してはいけないと指摘
・重要:箱そのものよりも、箱と箱を結ぶ矢印。つまり、以下を説明しなければならない。
・どのように次の段階へ移行したのか
・なぜ前段階が後段階を生じさせたのか
・その移行を示す証拠は何か

Figure 5.5 Highlighting Transitions, Not Just Activities
活動だけでなく、トランジションを強調する(箱そのものだけでなく、移行過程が重要な例)
・さらに、ケース外部にある文脈条件や競合介入にも注意する必要がある
・例:組織文化、家庭環境、経済情勢、法制度、他の教育プログラム、教員の経験、学生の既有能力、これらが、対象とする介入以上に結果を左右している可能性がある

Figure 5.6 Attending to Contextual Conditions and Rivals
・文脈条件と競合要因への注目(ケースを取り巻く文脈と別の競合要因を含む例)
⑤クロスケース統合(Cross-Case Synthesis)
・クロスケース統合は、複数ケース研究だけに適用される分析技法
・各ケースを独立したケーススタディとして分析した後、ケース間で結果やプロセスを比較し、共通点、相違点、直接的追試、理論的追試を明らかにする
・ケースを変数に分解しない
・著者が、クロスケース統合を通常の統計的なデータ集約と混同しないよう特に強調
・量的研究では、個人やケースを複数の変数に分解し、変数ごとに集計することが多いが、クロスケース統合でケースを変数に分解してしまうと、各ケースが持つ文脈や全体性が失われる
・そのため、Yinはvariable-based approachではなく、case-based approachを推奨
ケース基盤型アプローチ(case-based approach)
・ケース基盤型アプローチでは、まずそれぞれのケース内部のパターンを明らかにする
①各ケースを個別に分析する
②各ケースの主要な結果、プロセス、文脈をまとめる
③ケース間で共通するパターンを探す
④異なるパターンが生じた理由を検討する
⑤直接的追試または理論的追試として解釈する
・例:7人を7ケースとして読書行動を研究する場合
・最初から年齢・性別・読書時間などの変数を横断的に集計するのではない
・まず、各人がどのように読書方略を選び、実行し、結果に至ったかをケースごとに検討
・その後、ケース間で類似したプロセスや異なるプロセスを比較
クロスケース統合の進め方
①各ケース内分析(Within-case analysis)
・ケースごとに、独立した分析と結論を作成
②ケース間比較(Cross-case comparison)
・各ケースで明らかになったパターンを比較
③ 追試の論理(Replication logic)
・同じ条件下で同様の結果が確認された場合は直接的追試、異なる条件下で予測どおり異なる結果が確認された場合は理論的追試と判断
④上位概念化(Higher-level conceptualization)
・単なる共通点の列挙にとどまらず、ケース間のパターンを説明する、より上位の概念や理論を形成
・著者は、クロスケース統合では個別変数の水準へ「下りる」のではなく、複数ケースの知見から、より高い概念的水準へ「上がる」ことが重要だと主張
ケースの差異への対応
・複数ケースは完全に同一ではないため、ケース間の違いが分析結果を汚染していないかを検討する必要
・例:制度的環境、年齢、組織文化、教員の関与、実施期間、ケースへのアクセス、ケース選定の理由、などの違いが、共通した結論を弱める可能性
・ただし、すべての違いを扱う必要はなく、主要な結論を脅かす可能性のある違いを重点的に検討する
クロスケース統合と一般化
・クロスケース統合は、数値的な集計によって結論を出すのではなく、エビデンスに基づく論証によって分析的一般化を目指す
・したがって、必要なのは以下を明確に示すこと
・ケース間で繰り返し確認されたパターン
・予測された相違
・文脈条件の影響
・競合説明の検討
・理論命題との対応
ここまで。
ケーススタディの分析手法の全体像を理解するのに大変参考になった章でした。特に以下の3つ。
・ケーススタディ分析の基本的な手順(6ステップ)
・4つの一般的分析戦略(理論命題に依拠、データから積み上げ、ケース記述作成、競合説明検討)
・5つの分析技法(パターン・マッチング、説明構築、時系列分析、ロジックモデル、クロスケース統合)
※5つの分析技法は重要だと思ったので、違いを理解できるよう表で簡単にまとめてみました。

これらを踏まえ、自分の研究計画と照らし合わせてみると、3つの分析技法の組み合わせることになりそうだと思いました。
・クロスケース分析(複数ケースの比較)※これがメイン
・説明構築(どのような経験が◯◯の向上につながったのかを説明)
・パターンマッチング(既存理論との共通点・相違点などをチェック)
また、クロスケース分析について、自分なりの比喩ですが、縦横の糸で表現できるなと思いました。
Yinは、量的研究のように変数にしてしまわず、ケースベースで文脈を保持したまま分析することが重要だと述べています。要素毎にぶつ切りにせず、ストーリーとしての繋がりを重視する。これが横糸。
一方、クロスケース分析では、複数ケースを並べ、それぞれのストーリー全体を比較しながら共通点や相違点等を分析する。これが縦糸。
つまり、まず、個々のケースで横糸を編み、次に複数ケースを並べて縦糸を編み、全体像を織り上げていくイメージです。このように考えると、クロスケース分析をかなり鮮明にイメージすることができました。スッキリです。
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