教育効果研究における動的モデルを理論的枠組みとして、教授要因が学生の学業達成に及ぼす影響をメタ分析した論文のレビューです。

論文はこちら(被引用数:483件 (2026年7月29日時点))
Kyriakides, L., Christoforou, C., & Charalambous, C. Y. (2013). What matters for student learning outcomes: A meta-analysis of studies exploring factors of effective teaching. Teaching and teacher education, 36, 143-152.


本論文は、1980年から2010年までに実施された教師の教室内行動が学生の学習成果へ及ぼす影響を検討した167件の研究をメタ分析した論文です。
「教師の教室内行動」とは、本論文の理論的枠組みとして使用した教育効果の動的モデルの一部です。
教育効果の動的モデル(Creemers & Kyrakides, 2008) とは、「文脈、学校、教室・教師、学生レベル」という四つの多層構造があり、学生の学習成果はこの4つのレベルが相互に作用して決まるとされています。
本論文は、その4つのうちの「教室・教師レベル」に焦点を当てて分析している、ということです。
教室・教師レベルは、学生の学習を促進する可能性をもつ以下の8つの教師行動に分類されます。

A) Orientation(方向づけ)
・教師が特定の課題、授業、あるいは一連の授業において達成すべき目標を提示すること、および/または、その授業で特定の活動に取り組む理由を学生自身が理解できるよう促す教師行動
・方向づけの過程は、学生にとって課題や授業を意味のあるものとし、その結果、教室における積極的な参加を促進すると考えられている

B) Structuring(構造化)
・学生の学業達成を最大化するための教材の提示と構造化(Rosenshine and Stevens, 1986)
(a)授業の冒頭で概要を示すこと、および/または目標を振り返ること
(b)授業で扱う内容を示し、授業の各部分の移行を明確にすること
(c)重要な概念に注意を向けさせること
(d)授業の最後に主要な概念を振り返ること
・要約による振り返りも学生の学業達成にとって重要
・要約が主要な内容を統合し、学習を強化する(Brophy & Good, 1986)
・このような構造化の要素は、情報の記憶を促進するとともに、各部分の関連性を認識しながら学習内容全体を統合的に理解することを可能にする
・情報が繰り返し提示され、授業全体の概要や主要概念を繰り返し確認する形で提示される場合、学生の学業達成はより高くなる傾向
・構造化には、教師が授業または一連の授業における課題の難易度を段階的に高めていく能力も含まれる(Creemers & Kyriakides, 2006)。

C) Questioning(発問)
・動的モデルにおける発問の五つの要素
①結果を問う発問と思考過程を問う発問を組み合わせて用いることが求められる
 ・結果を問う発問(product questions):学生に単一の正答を求める発問
 ・思考過程を問う発問(process questions):より詳細な説明を学生に求める発問
②発問後の待ち時間(pause time):発問の難易度に応じて変化することが期待される
③発問の明確さ:教師が学生に何を求めているのか、何を行うことや何を見つけることを期待しているのかを、学生がどの程度理解しているかにより評価される
④発問の難易度の適切性:多くの発問は正答を引き出すことが期待される一方、それ以外の発問については、学生から不正確あるいは不完全であっても、内容のある応答を引き出すことが期待される
⑤教師が学生の回答にどのように対応するか:不完全な回答や誤答についても、妥当な部分を認めた上で、より良い回答へ導くことが重要
※効果的な教師は、単に正解を提示したり、別の学生を指名したりしてやり取りを終えるのではなく、質問を言い換えたり、意味を示す手掛かりを与えたりすることによって、最初の回答者との対話を継続する傾向がある

D) Teaching modeling(モデリング)
・高次思考能力や問題解決能力に関する教授法はこれまでにないほど注目されるようになった
・モデリングは、学生がさまざまな種類の問題を解決するための方略を活用し、さらに自ら方略を形成できるよう支援する
・動的モデルでは、この要因を定義するに当たり、モデリング課題の特性と、学生が問題解決方略を考案できるよう教師が果たす役割の双方を考慮
・教師は、明確な問題解決方略を提示することもあれば、自分であればどのように問題へ取り組み解決するかを学生に説明するよう求め、その内容をモデリングの考え方を促進するために活用することもある

E) Application(応用)
・学生が技能や知識を実際に活用する機会を得られるよう、個人学習や小グループ活動を活用する
・教師が与える応用課題の数だけではなく、それらの課題が、授業で扱った内容を単に繰り返すことを求めるものなのか、それとも授業内容よりも高い水準で設定されているのかについても検討する
・応用課題が、学習の次の段階へ進むための出発点として活用されているかどうかについても検討される

F) The classroom as a learning environment(学習環境としての教室)
・学習環境としての教室とは、教室内において形成される社会的・心理的環境を指す
・教師と学生との相互作用、および学生同士の相互作用の双方に焦点を当てる
・教師は、学生間の相互作用を促進するために、多様な学習活動を組織することが期待される。また、学生が互いの考えを共有し、協力して課題に取り組む機会を提供することも重要である。
・さらに、公平で思いやりのある態度を学生に示すことが求められる
 ・教師がすべての学生を公平に扱い、敬意をもって接する場合、学生は教室を安心して学習できる環境として認識する可能性が高くなる
 ・一方、教師は授業中の問題行動に対しても適切に対応しなければならない(懲罰的であることよりも、学習活動を維持し、良好な人間関係を保つことを目的として行われるべき)
・単に秩序が保たれている教室を意味するのではなく、学生が積極的に学習へ参加し、安心して発言や協働ができる教室環境を形成することを重視

G) Management of time(時間管理)
・授業時間を効果的に活用し、学生が学習活動に従事する時間を最大化するための教師行動
・授業を予定どおり開始・終了すること、活動間の移行時間を最小限に抑えること、および学習と直接関係のない活動に費やされる時間を減らすことを含む
・学生が実際に学習活動へ取り組んでいる時間(engaged time)が長いほど、学業達成は高くなる
・授業全体を円滑に運営し、学生ができる限り多くの時間を学習活動に充てられるよう授業を管理する

H) Assessment(評価)
・教師が学生の学習状況に関する情報を収集し、その情報を教授活動の改善や学生へのフィードバックに活用する一連の活動を指す
・多様な評価方法を用いているかどうかに加え、形成的評価をどの程度活用しているかを重視
・評価によって得られた情報を学生へ適切にフィードバックするとともに、その情報を活用して教授方法そのものを改善する
・評価は授業の最後だけでなく、教授・学習過程全体を通して継続的に行われることが重要
table1

そして、メタ分析の結果がこちら(table 2)
table2
・動的モデルの8要因に加え、それ以外の「自己調整」「コンセプトマッピング」「コンピューターの利用」「対人行動」「教室運営」の5要因を加えた計13要因を分析
・認知・メタ認知的成果を対象とした研究が大半(情意、精神運動、行動的成果を扱う研究は少ない)
・初等中等教育対象が中心で、高等教育を対象とした研究は約6%のみ
・動的モデルの8要因のうちの7要因は中程度の効果量(0.346〜0.457)で、最も小さい応用(0.189)にも有意差が認められた
 →教師・教室レベルにおける動的モデルの妥当性は支持された
・動的モデルに含まれない「自己調整」「コンセプトマッピング」は高い効果量を示したが、後者は3件しか対象がなかったので一般化には慎重な解釈が必要

・効果量が学習成果の種類、教育段階、国、研究デザイン、統計手法によって変化するかをマルチレベル分析で検討(table 3)
table3
・調整要因の全体傾向:効果量と有意な関連を示した調整要因は一部に限られ、すべての教師要因に共通して影響する調整要因は認められなかった
・モデリングと自己調整は、高学年の学生ほど効果量が大きかった
・応用は、低年齢の学生に対してより高い効果を示した
 ・上記3要因は、いずれの教育段階でも有意な効果を示しており、教育段階を超えた一般的な教授要因であると考えらる
・学習成果の種類(認知・情意・精神運動等)は効果量に影響しなかった
・研究デザインは効果量に影響し、縦断研究では「方向づけ」、実験研究では「モデリング」と「自己調整」の効果量が大きくなる傾向が見られた
 ※研究デザインによって変化したのは効果量の大きさで、教師要因の有効性そのものはすべての研究デザインで支持された
・外れ値を除外した感度分析(Sensitivity analysis)では、効果量が低下したのはモデリングのみ
 ・モデリングを含め動的モデルの教師要因は有意な効果量を示し、研究の頑健性が支持された

ここまで。
全体的なまとめとすると、教師要因の効果は教育段階や研究デザインによって効果量は変化するものの、有効性は概ね一貫しており、動的モデルに含まれる教師要因は教育段階や国を超えて高い要因であると言える、というものだと思います。
この8要因「方向づけ」「構造化」「発問」「モデリング」「応用」「学習環境としての教室」「時間管理」「評価」はどれも有意な効果が示されたので、しっかりと自分の授業にも組み込んでいきたいと思います。
※動的モデルには含まれないけど「自己調整」も
今回の分析は動的モデルの「教師・教室レベル」に焦点を当てたものであり、自分自身がすぐに実行できるような気づきが多くその点はありがたかったのですが、それ以外のレベル「文脈」「学校」「学生レベル」についても今後見ていきたいと思いました。

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