PBL型のサービス・ラーニング(PjBL-SL)において、ティーチング・アシスタント(TA)が媒介者として学生の社会情動的コンピテンシーの発達をどのように支えるのかを明らかにした台湾の論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:まだなし (2026年8月21日時点))
Liao, S. C., Hung, Y. N., Chen, S. H., Chen, Y. L., Ting, Y. X., & Chang, C. R. (2025). Role of teaching assistants as affective mediators supporting social–emotional project-based service learning. Frontiers in Medicine, 12, 1685566.

PBL×社会情動的スキルでもまだまだ論文は少ない中、本論文では更に一歩踏み込み、TAがどのように媒介者として機能するかについて分析しています。当然、この領域の研究はまだまだ不足しているという背景から、以下の2つのRQに取り組んでいます。
・RQ1:PjBL-SL科目においてTAが採用する役割および方略は、医学生のSELコンピテンシーの発達にどのような影響を及ぼすのか
・RQ2:TAは、学生のSELコンピテンシーの発達の軌跡をどのように解釈しているのか

論文の内容をざっくりまとめます。
・対象科目:台湾・台中市の中国医薬大学医学部が提供する、医学部1年次のPjBL-SL科目(128名の受講生、11グループ(各グループ11~13名))
・プロジェクト:大学が所在する台中市の地域社会において、高齢者の健康を促進する
・TA:各グループには、医学部2年生1名がTAとして配置
・二層構造のTA支援体制(開始前のワークショップ+省察ミーティング)
 ・科目開始前のワークショップ:SAFEの原則に基づくファシリテーションおよび情緒的支援のスキルをTAに身につけさせた
 ・省察ミーワークショップ:専用のLINEグループを通じて実施され、科目中に継続的な情報共有、フィードバック、方略の調整を可能にした
・SAFEの原則
 ・段階的学習(Sequenced learning):認識と計画から現実社会への関与へと進む構造化された進行を通して、コミュニケーション、共感、チームワークのスキルを徐々に発達
 ・能動的学習(Active learning):プロジェクトの共同設計、地域社会との協働、省察的対話への学生の参加を促進し、当事者意識と内発的動機づけを育む
 ・焦点化された指導(Focused instruction):対象を絞ったフィードバックと省察活動を通じて、特定のSELコンピテンシーを重視
 ・明示的な指導(Explicit guidance):TAのファシリテーション上の役割と責任を明確にし、科目全体を通じて、一貫した情緒的および教育的な足場かけを支える
・方法:半構造化インタビュー
・インタビュー対象者:TA11名(医学部5年生)
・インタビューテーマ
①教室およびSL活動において学生と関わったTAの経験
②学生が科目活動およびサービス・プロジェクトを設計・実施する際にTAが提供した支援
③TAが観察した学生の発達上の変化
・分析方法:再帰的テーマ分析 ※Braun and Clarke(2012)が提唱した6段階の枠組みに従った
 ①データへの習熟、②初期コーディング、③テーマ生成、④テーマ検討、⑤テーマの定義、⑥報告
・研究者トライアンギュレーション:教育心理学の専門家2名と医学生2名を含む、多様な専門領域を背景とする研究者間の対話によって解釈の視点が広がり、個人によるバイアスが最小限に抑えた
・理論的トライアンギュレーション:SEL、PjBL、SLという相互補完的な枠組みを通じてデータを解釈することによって、分析を豊かにするとともに、認識論的一貫性を確保
・結果:3つの主要テーマと、それぞれに対応する下位テーマが明らかになった(FIGURE 1)
・テーマ1:TAと学生との関係(2つの下位テーマ)
 平等と尊重に基づく仲間のような役割
 経験を共有するメンターとしての役割

・テーマ2:TAのファシリテーション方略(2つの下位テーマ)
 教えるのではなく導くこと
 情緒的支援と励まし

・テーマ3:学生の学習成果(6つの下位テーマ)
 省察と視点取得:学生が他者の視点に対する多面的な理解を形成する
 市民参加:行動を通じて公共的責任を経験する
 社会問題:認識から行動志向の思考へ
 チームワーク:協働し、役割を分担し、支え合うことを学ぶ
 実践的な計画:サービス・プロジェクトの企画書の作成と修正
 責任と達成感:アカウンタビリティを通じて自信と動機づけを高める
fig1


ここまで。
社会情動的スキルを高めることを目的としたPBL-SLにおいて、TAが媒介者としてどのように機能するのかというのを明らかにした論文。自分の研究領域や実践している授業との関連性が高いので、興味津々で読みました。 社会情動的スキルは5領域に分かれていて、割と広域な概念なのですが、この論文からPBLを通して学生がどのような具体的な社会情動的スキルを高めることができるのかについてイメージを持つことができました。(割と想定通りでした)
また、二層構造でTAの支援体制を構築していることも大変参考になりました。
第1層では、授業開始前のワークショップを通じて、TAがファシリテーションや情緒的支援の考え方と方法を学び、第2層では、授業期間中にTA同士がオンラインで継続的に省察し、経験の共有、フィードバック、支援方略の調整を行う。実際、TA制度を用いてPBLを行なっている授業にも携わっているのですが、割と近いことはできているように思います。事前の打ち込みと授業中の継続的なリフレクションはやっぱり重要ですね。
PBL×社会情動的スキルの論文はまだ数は多くないのですが、さらにこの論文はTAに焦点を当てているという点で非常に希少な内容だと感じました。TA制度を用いたPBLの設計の際には読み直して、参考にしたいです。

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